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元殺し屋の騎士生活  作者: 倉千 恵
第1章 幼少期編
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第1話 異世界転生

 

 目が覚める。

 熟睡したあとの、眠気のないさっぱりとした目覚め。

 ただ、どうにも目が開きにくい。


(ん? 生きてる?)


「――――――!――――、―――――――?」


 近くから元気な男の声が聞こえる。

 日本語ではない。聞いたことのない言語だ。


(誰だ?)


 どうにか目を開くと、がたいのいい茶髪の男が目に入る。

 髪は違和感のない自然な色で、染めたものには見えない。

 顔は欧米人のそれに近い。

 嬉しそうに何かを言って、怪訝な顔でこちらを覗き込んでくる。


 俺は生き延びたのか?

 こいつらが助けてくれた?


 とりあえず起き上がって…


(動きにくいな…)


 うまく体を起こせず、ベッドの上と思われる場所でもぞもぞしていると、男が俺の顔に手を伸ばして、俺の頬をつついた。


 大の大人相手になにしてんだ、こいつは。


 男は楽しそうにぷにぷにしてくる。


 止めさせようと手を伸ばす。

 すると、信じられないものが見えた。


 指が短く、脂肪で関節も曖昧なぶくぶくした手。

 いくら俺が未婚で子供がいなくてもわかる。


 これは赤ん坊の手だ。


 これが、俺の手…?


 軽く動かしてみると、動かしにくいながらも、意思通りに動く。


 え…?


 状況を把握できずにいると、男が俺の背中に手をまわし、ひょいと持ち上げた。


「うーあぁ」


 思わず声を出すと、聞こえたのは聞き慣れた自分の声ではなく、うめき声のようなものだった。


「あぅ?」


 疑問は絶えない。


 この男、俺を軽々持ち上げやがった。

 太ってはいなかったとしても、60キロはあったはずだが…。


 男はそのまま隣のベッドに向かう。


 ベッドには手術着のような服を着た女が横になっていた。

 男よりも淡い色の茶髪の女性である。

 やはり欧米人に近い顔をしていて、美少女というよりは美人といった感じだ。

 肩で息をしながらこっちに微笑みかけている。

 頬は少し紅潮していて、大分汗をかいているようだ。

 まるで出産後のような………


 出産…?


 男が俺を手渡すと、女も男同様、軽々と優しく俺を抱き上げる。


 首を支えられると、自分のからだを確認できた。

 やはりそれは俺のものではない、赤ん坊のものだった。


 信じられずにかなり混乱したが、さすがに察した。


 どうやら俺は本当に生まれ変わってしまったらしい。



 ~・~・~・



 1年程の時が経った。

 やはり俺は生まれ変わっていた。

 何故記憶を持ったままなのかは謎ではあるが。

 そして、やはりここは日本ではないらしい。

 言語も違っていれば、服装なども日本のものではない。

 さらに、部屋が現代のものっぽくない。

 電気器具があるようには見えないし、コンセントも見当たらない。

 この家が貧乏なだけというのも考えられるが、その可能性は低いように思う。

 家具は庶民のものではなく、高級ホテルにあるようなものがそろっている。

 少なくとも金のない家が買うような質のものではないだろう。

 どちらかというと中世の貴族のような部屋だ。


 ここ半年くらいで立つことはできないが、ハイハイで移動できるようになった。

 暇なので歩き回っていろいろ話を聞いていると、少しずつ言語も理解できるようになり、いろいろなことがわかった。


 まず、俺の名前はアルスというらしい。

 両親は最初に見た男女だった。

 父のエルヴィンと母のアリエル。

 恐らく2人共20代で、日本的にはまだ若い夫婦である。

 そして、3歳年上の兄ヒルメス。

 彼は時々じっとこっちを見つめて、俺の頭を撫でては走って逃げていく。

 まだ俺との距離感がわからないらしい。

 元気にドタドタ走り回っているのを見ると、早く俺も走りたくなってくる。


 そして、どうやらエルヴィンはこの国の貴族であるらしい。

 家名をローズスハイトといい、外部から来た人から「ローズスハイト侯爵様」呼ばれていた。

 確か侯爵って貴族の中でもかなり位の高い方だったと思う。

 そのせいか、俺達が住んでいる家は豪邸というよりもお屋敷といった方がふさわしく、広大な敷地と数人の使用人を抱えていた。

 メイドのハネルは部屋の外に出ている俺を見つけると部屋に連れ戻すので、最近は殺し屋時代の要領で撒いている。

 逃げ足は遅いので大体すぐに見つかるのだが。



 今日で俺は1歳の誕生日を迎えたらしい。


 部屋にあったカレンダーを見るに、暦は地球とあまり変わらず、1ヶ月30日で、12ヶ月360日。

 実に単純で覚えやすい。

 多分暦とかは関係ないんだろう。


 この世界には誕生日にプレゼントを送る習慣はないらしく(1歳児にはあまり関係ないことではあるが)、いつもよりも豪華な料理を振る舞って祝うようだ(これも1歳児には関係のなあことである)。


 今日はエルヴィンと一緒に王城に行き、国王陛下に俺を見せるらしい。

 王国に仕える貴族は、子供の1歳の誕生日に国王に出産の報告をすることがしきたりなのだとか。


 エルヴィンに抱っこされて、アリエル達に見送られながら家を出る。

 屋敷には広い庭があり、1メートル程の壁で囲まれている。

 俺は庭の外に出たことがないため、外の景色を見るのは初めてだ。

 王城だけは家のすぐ近くにあり、壁の上からでもその大部分が覗けたのだが。

 ただ、すぐ近くとはいっても、王城を囲う広大な庭があるようで、歩くとそこそこ時間がかかりそうである。


 今回は馬車で向かうらしく、家の前には立派な馬車が停まっていた。

 乗り込むとすぐに出発する。

 周りにも数台の馬車が走っている。

 この国のメインの移動手段は馬車のようだ。

 自動車はもちろん、自転車なども見当たらない。


 5分程揺らされて止まる。

 もう着いたようだ。

 エルヴィンは毎日馬車で家を出ていくが、この距離で馬車を使う必要はあるのだろうか。


 馬車が止まったのはちょうど王城の真正面、正門前のロータリーのような場所だった。

 他の貴族のものと思われる馬車が何台も停まっている。


 馬車から出て、俺は王城の大きさに圧倒されてしまった。

 現代日本の都会に住んでいたので、高層ビルに囲まれて生活していたのだが、それらとはまた違う、荘厳さがあった。


「すごいだろう、これがシーディア城だ」


 口をあんぐりと開けて城を見上げる俺を撫でながら父が言う。


 庭から見ていた時はあまり分からなかったが、来訪者に威圧感を感じさせるには十分な大きさである。

 王城は小高い丘の上に立っていて、王城を見上げるように同心円状に城下町が形成されている。

 ローズスハイト家の屋敷は最も王城に近い位置にあった。


 正門をくぐり、城内に入る。

 門前にいた警備兵にエルヴィンが会釈すると、あわてて深いお辞儀をしていた。

 顔パスである。


 城内は豪華だった。

 イメージ通りといえばイメージ通りなのだが、門や柱の細部まで細かく施されたレリーフや装飾は、その手のものに関心のない俺でも見蕩れてしまう程見事だった。

 廊下には金色の細かい刺繍の入った赤い絨毯が敷かれ、脇には大小様々な芸術品が置かれていた。


 さらに進み、1階の最奥。

 重厚な扉の前でエルヴィンは止まった。

 2匹の龍が金で装飾された扉と、その両脇に明らかに着ることを考慮していない大きな鎧が立っている。

 ひときわ豪華な扉の装飾をみるに、この奥が謁見の間なのだろう。

 別に赤ん坊の俺が何かするわけではないと思うが、少し緊張する。

 エルヴィンは謁見の間の隣の部屋に入った。

 準備室のようなものだろうか。

 部屋に入ると、執事のような男性の使用人が、待ってましたと声をかけてくる。


「ローズスハイト卿、お待ちしておりました。既に準備はできております。陛下がお待ちですので、謁見の間へどうぞ」

「わかった」


 エルヴィンは軽く服を整えると、再び豪華な大扉の前に移動した。


「ローズスハイト卿がいらっしゃいました」

「入れ」


 扉の中から声がすると、重厚な音を響かせて、大扉が開かれた。

 エルヴィンは慣れた様子で進んで行き、膝を着いて跪いた。


 厳かな雰囲気に構わず、俺は周りを見回す。

 まあ赤ちゃんだし。


 謁見の間は広かった。

 王国の見栄を最大限に詰め込んだような空間で、壁の隅々まで精緻な模様が書き込まれ、天井には大きなシャンデリアが吊るされていた。

 正面、3段程高くなった場所に置かれた王座には、初老の男性が座っていた。

 この方が国王陛下なのだろう。

 朗らかな笑みを浮かべている。


 謁見の間には俺と父、陛下、それと数人の使用人しかいない。

 護衛などいなくていいのだろうか。

 父が信頼されているとか?


「面を上げよ、エルヴィン。その子が産まれたというお主の息子か」

「はい。次男のアルス・ローズスハイトです。今日でちょうど1歳になります」

「元気そうな男の子だな」

「はい。最近はハイハイができるようになり、目を離すとすぐにどこか行ってしまうそうで、使用人がよく探し回っています。

 ただ、産まれてこのかた泣いているのをみたことがありません。

 最初は産声もあげず、肝を冷やしました」


 自分でも不自然だとは思うが、さすがに赤ん坊のように泣くことはできなかった。


「ははは、強いのはいいことではないか。して、その子も王家に仕えさせるのか?」


 陛下が鷹揚に笑い、父に尋ねる。


 俺は次男だけど、王国に仕えなければいけないのだろうか?

 別にいいけど。


 すぐに父が答える。


「はい、勿論。ローズスハイト家は王国の剣。長男のヒルメスと共にこの国を護らせるつもりです」


 へぇ、うちは騎士家なのか。

 また人を殺すことになるのだろうか。


「頼もしい限りだな。ローズスハイト家は代々優秀な騎士が多いからな」

「光栄です。まだわかりませんが、魔法の才能があるかもしれませんし」


 ん? 待て待て、魔法?

 魔法があるのか?


 少しして謁見が終わり、再び馬車に乗って屋敷に帰る。

 あの後の会話はよく覚えていない。

 頭の中は他の事でいっぱいだった。 

 馬車の中で思考を巡らす。

 聞いたことのない言語、中世並の文明、騎士制度、そして魔法。

 ここは地球じゃない…?

 これが所謂異世界転生なのだろうか。

 地球の小説で読んだことはあるし、1度は考えたことがあった。

 勿論ただの妄想の範疇であったし、本気で望んだことはなかった。


 それにしても


 “魔法”


 年甲斐もなくワクワクする。

 いや、まだ1歳か。


 これは願ってもないチャンスだ。

 やり直してやろうじゃないか。


 この世界で、新たな人生を。

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