第10話 学校
のんびりしすぎました
投稿は不定期になると思います
さて、無事初等部に入学したわけだが、いきなり問題にぶつかった。
魔法の使用禁止。
普通の生徒は使用できないのだから、考えてみれば当然なのだが、大きなアドバンテージを失った。
ただでさえ兄との差を痛感したばかり。
不安が募る。
学校初日、登校は馬車だ。
持ち物はなし、と言われたのだが、本当だろうか。
勝手に小学校を想像していたから、まっさらなノートと新品の筆箱をランドセルに入れて、とかするのかと思っていたのだが、そもそもノートを見かけない。
あるとしても、ただの紙束。
なんでも、紙はそこまで安くないらしい。
学生が文字を書き込むのは、石版が一般的だそうだ。リーファ先生も使っていた、小さい黒板のようなもの。
また、教科書等もない。
どうやら印刷技術が未発達らしく、ほとんどの書物は手で書き写しているのが現状だ。
となると、エルヴィンのあの蔵書の量は異常なのではないか。
ということで、アリエルに見送られながら、ヒルメスと手ぶらで馬車に乗り込む。
ヒルメスも先日入学式を終え、今日から中等部。校舎は隣なので、一緒に通学する。
外を覗くと、登校中の学生が沢山。
歩く人を抜かすのを見ると、少し申し訳無く感じるが、これも慣れなければ。
校門前はバスロータリーのようになっていて、貴族のものと思われる馬車が何台も停まっている。
俺達が乗っている馬車もその一角に停車し、御者をしていた使用人がドアを開けてくれる。
「行ってらっしゃいませ、ヒルメス様、アルス様」
「ありがとう、行ってきます」
ここまで他人に畏まられるのは、やはり慣れない。学校はこうでないといいのだが。
そう言えば、俺はこの人の名前も知らない。
今度聞いてみよう。
すぐにヒルメスと別れ、初等部校舎に向かう。
教室に入ると、半分くらいの生徒が揃っていた。
知人同士で話したり、勇気を出して話しかけたりしている。なんとも微笑ましい。
しかし、そうも言っていられない。
俺もこのクラスで上手くやっていかなければいけないのだ。
たが、俺には知り合いが一人もいない。このクラスだけでなく、初等部に。
ヒルメスは中等部だからさすがに会いに行けないし、貴族の子供達とも面識はない。
1から関係を築かなければならない。
どうしたものか。
友達をつくる、という行為。前世で、小・中・高・大と少なくとも4回はやっているはずなのに、勝手が思い出せない。
最初はどうやってたのだろうか。
これが俗に言う経験値リセットというやつか。
とりあえず声をかけるところから始める。
席に着き、後ろのイルマさんに話しかける。
「おはよう、イルマさん。今日からよろしく」
第一印象は大事だ。気負わず、気さくに。
「あ、お、おはようございます、アルス、様! き、今日はお日柄も─」
「ち、ちょっと待って!」
ガチガチである。なんなら今にも泣き出しそうだ。
曰く、貴族様には無礼のないように、と親御さんに普段から厳命されているらしい。
彼女はイルマ・ビッツさん。綺麗な水色の髪の女の子である。
たしか、彼女の実家はビッツ商会。入学式のあとに調べてみたら、王都有数の大商会だった。
貴族相手の取引も多いのだろう、こういう身分関係には厳しそうだ。
しかし、ここシーディア学園内では、生徒間の身分格差は考慮されない。
「そんなに畏まらないでよ。学園内は身分とか関係ないからさ。気軽にアルスって呼んでよ」
「う、うんっ! アルス君、これからよろしくお願いします」
まあ、これくらいが限界か。日頃からの習慣はそう簡単には抜けないだろう。
そうこうしているうちに、生徒が揃い、朝のチャイムが鳴る。遅刻はいない。
チャイムと同時に先生が入ってきて、授業が始まる。
学校は午前中だけの4時間授業。
この世界では子供も貴重な労働力。そんなに長時間は拘束しない。
冒険者は今まで通り続けられそうだ。
時間割りは固定。
このクラスは国語、算数、歴史、体育の順。
国語は、最初は文字の読み書きから。
先生は優しそうな女性の先生。
各自に石版が配られ、先生が黒板に書いた文字を写していく。
文字を不自由無く読み書きできるようになることが初等部の目標らしい。
ちなみに、石版は個人のものになり、すべての授業で今配られたものを使う。
数学は、簡単な四則演算。最初は足し算から。
先生はメガネをかけた男性の先生。
こちらも、それ以上のことはやらない。
進度はゆっくりで、3年間で四則演算をマスターすることが目標。
歴史は、この世界のことについて。
先生は長い髭を生やしたおじいさん。
シーディア王国の歴史や、他の国、種族について大まかには説明してくれる。
この授業は基本聞くだけ。
それぞれの教科で簡単なテストが時々あるらしいが、問題ないだろう。
国語と算数は言わずもがな、歴史もリーファ先生の授業で既に学んでいる。
そして4時間目、お待ちかねの体育。
こう言うと勉強嫌いの脳筋みたいに聞こえるがもしれないが、正直他の教科は退屈なのだ。
先生は我らが担任ベルツ先生。
運動用のジャージのようなものに着替え、校庭に集まる。
「今日は、お前達の運動能力を測るために、体力テストを行う。まずは持久走からだ」
鬼教官然とした仁王立ちで指示を出す。
軽く準備運動をし、一斉に走り出した。最初から全力で。ペース配分を知らないらしい。
抜き気味に走って後ろから見ていると、早速ペースが落ちてきた生徒がいる。
貴族家の子供達だ。
箱入りで育ってきたのだろう、勉強は他の子よりできるが、絶望的に体力がない。
続いて商会出身の子供達。イルマも混じっている。
彼らは、商会の手伝いでそこそこ体力がある。
そしてその他、既にバリバリ働いている平民の子達や、俺のように早くから鍛えられ始めていた一部の貴族の子達。
さすがに彼らはかなり体力があったが、全力で走っているのだ。そんなに長くは持たない。
結局、最後まで走っていたのは俺だった。
限界まで走らされ、歩いてスタート位置まで戻ると、イルマが声をかけてきた。
「すごいね、アルス君! なんでそんなに走れるの?」
興奮からか、疲れからか、敬語が抜けている。
ずっとこのままでいいのだけど。
「鍛えてるからね。それに、全力で走らなくてもいいんだよ。長い時間走るだけなんだから。ゆっくりでいいんだ」
「そっか!」
納得したようで何より。
同様の質問を他の子からも受けつつ、今日の授業は終わった。




