第9話 入学
2章スタート。
のんびりやっていきます。
シーディア国立学園は初等部から中等部、高等部まで3段階あり、それぞれ3年の在学期間を設けている。
順調に行けば、成人となる15歳までに全行程を終えることができる。
校舎は居住区にある。
これは、平民が貴族区には立ち入れないからで、貴族は馬車での登校が多くなっている。
王都シーディアでは、初等部までの義務教育を課しているので、王族から平民まで様々な身分の生徒が学園ち通っているが、学園内では、生徒間での身分の差は考慮されない。
義務教育の初等部までは全員が同じ授業を受けることになる。
中等部からは学科が別れていて、それぞれ入試があり、レベル別に授業を受ける。
王国内には他にも多くの学校があるが、シーディア国立学園はその中でも最も規模が大きく、歴史のある学校だ。
国の中枢で働く役人や軍の幹部はほぼ全員がシーディア国立学園の出身という、超エリート校であり、ファスシード王国の教育の中心である。
今日はシーディア国立学園初等部の入学式。
俺は新品の制服を着て、馬車ち乗り、家族4人で学校に向かった。
隣に座る兄ヒルメスは、先月、無事初等部を主席卒業した。
中等部の入学式は明日行われるので、今日は俺の入学式に付いてきていた。
ヒルメスの卒業式には俺も参加したが、ヒルメスはエルヴィンと共に連れ回され、引っ張りだこの状態だった。
中等部での活躍も期待されていて、早くも軍部から声をかけられていた。
「アルスは俺よりもずっと優秀だから、大丈夫だよ」
こんなことを言っているが、ヒルメスは、先日行われた中等部騎士学科の試験でも主席合格。
特に、実技試験は他を圧倒してのぶっちぎりの1位。
試験官との模擬戦に勝利してみせ、入学前から注目の的となった。
家族としてなんとも誇らしいことだが、弟としては重圧が大きい。
エルヴィンもアリエルも、優秀だと言ってくれるが、自信など微塵もない。
兄の稽古にすらついていけないのだ。
いくら前世の知識があり、魔法も使えるとはいえ、主席となると……
不安だ。
式が始まった。
学園長の“ありがたいおはなし”があり、担任の紹介と続いて、式自体は終わる。
その後、担任に連れられホームルール教室に行く。
俺は1年1組で、“ア”ルスだから出席番号は1番だった。
王都全体の子供を集めているため、1学年は1組から20組まで、1クラス30人程と、生徒数はかなり多い。
1組の教室に入り、各自の席を見つけると、興奮と緊張が入り混じった表情で着席していく。
保護者は後ろの方に並んでいる。授業参観みたいだ。
俺は窓側の1番前の席。
エルヴィンとアリエルは嬉しそうにこっちを見ているが、自分としては、特に感慨深いものはない。
強いて言うなら、懐かさくらいだ。
全員が座ったのを確認して、担任が口を開いた。
「このクラスの担任を務めるベルツ・バーズだ」
ベルツ先生は、一言で言うなら「熊」だ。
ガタイのいい巨漢で、教員用の制服がキツそうである。
正直、初等部の担任としてはどうかと思う。
ほら、隣の席の女の子とか、泣きそうな顔してるよ。
「学校に慣れるためにも、楽しくやっていこうと思うから、1年間よろしく。
じゃあ、自己紹介していこう。1番のアルスから」
ベルツ先生が笑顔で振ってくる。
本人は気付いてないだろうが、完全にヤクザのソレである。
「アルス・ローズスハイトです。これから、一緒に頑張っていきましょう。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、パラパラと拍手が起こる。
まあこんなもんだろ、小学生だし。
席について一息つくと、後ろの席の女の子が自己紹介を始めた。
「ビッツ商会会頭の長女、イルマ・ビッツです。1年間よろしくお願いします」
あ、家のこととか言った方が良かったかな。
ローズスハイトって言ったから大丈夫だと思うけど。
後で、貴族風の挨拶でも教えてもらおう。
自己紹介は滞りなく進んでいく。
大半は平民だが、貴族の子供も何人かいるみたいだ。
この数言だけで、その人の人柄がかなり見えてくる。
中には随分と高慢なやつもいた。
さっき、男爵かなんかの長男が、「仲良くしてやってもいいぞ」とか言っていたが、本気で言っているのだろうか。
学園内では身分は関係ないと聞いていたが。
最後に、ヨードホルム商会という商会の次男が話して、全員の自己紹介が終わる。
これで、今日の行程も終わりだ。
「明日から、皆でいいクラスにしていこう。楽しみにしている。では、解散」
ベルツ先生の野太い声が響き、解散となる。
生徒が親と帰路につく。
俺も家族の元に向かった。
「アルス、お疲れ様。これから頑張ってね」
「ヒルメス兄さん、ありがとうございます。兄さんのようになれるように、精進します」
「はは、やっぱりアルスは子供っぽくないな」
うーん、ヒルメス兄さんは俺に優しくしてくれるんだけど、いまいち適切な距離感が掴めないんだよな。
貴族の家族の距離感ってどんな感じなんだろうか。
さすがに今のは堅すぎたかな。
家族で話していると、ベルツ先生が近付いてきた。
「ローズスハイト侯爵様、このクラスの担任となりました、ベルツと申します。少しよろしいでしょうか」
「ああ、先生。アルスをよろしくお願いします。それと、学園内ですから、そんなに畏まらないで、一保護者として扱ってください。」
「ありがとうございます。それでですが、学園長がお呼びですので、アルス君と一緒に学園長室までお越しください」
「家族は一緒でも?」
「大丈夫です」
「わかった。すぐ行こう」
早速呼び出しを食らってしまった。
何だろうか。
家族4人とベルツ先生で学園長室に向かう。
学園は初・中・高と3つの校舎が並んでいて、それぞれ渡り廊下で繋がっている。
義務教育の関係で初等部の校舎が1番大きく、学園長室もかの校舎にある。
ちなみに職員室は各校舎にある。
最上階の4階まで階段を登る。
各階は学年ごとの教室になっていて、1年が1階、2年が2階、3年が3階、そして職員室などが4階に入っている。
4階の廊下の最奥。
大きめの扉の前に立つ。
標識には「学園長室」と書いてある。着いたようだ。
ベルツ先生が扉をノックして開いた。
「ローズスハイト侯爵のご家族をお連れしました」
「ご苦労」
大きなデスクの奥、高そうな椅子に、学園長は座っていた。
入学式の時に挨拶していた、立派なひげをたくわえたおじいさんだ。
「ベールモンド学園長、ご無沙汰しております。いつも妻がお世話になっております」
エルヴィンが挨拶する。
そうか、アリエルはここの高等部て教師をしているのだった。
いずれ教わることになるのだろうか。
「いやいや、アリエル君はとても優秀ですから。生徒からの評判も良いですし、こちらとしても助かってますよ」
ベールモンド学園長はにこやかに笑う。
どこにでもいる、優しいおじいさんみたいだ。
俺達は、中央のソファに対面で座った。
「それで、今回はどういったご用件で?」
「そうそう、アルス君は魔法が使えるらしいですね」
「ええ」
「初等部では、魔法が使える子にはこれをつけてもらっているのです」
学園長はそう言って、銀色の腕輪を取り出す。
すると、エルヴィンの顔が少しゆがんだ。
「“封魔の腕輪”ですか」
俺も本で見たことがある。
確か、これを着けると、魔法を使っても全て霧散ししてしまう、というものだ。
魔法使いの囚人などた使うと、本には書いてあった。
「はい。通常、9歳の“検定の儀”まで、子供が、魔法を使うことはありません。なので、初等部では平等を期すため、魔法を使える生徒にはこれを着けさせています」
なるほど。身体強化を使ったら、そこらの大人にも負けなくなるからな。
「そういうことですか。わかりました。アルスもいいな」
「はい。しかし、校外の日常生活でも着けなければいけませんか? それだと鍛錬ができないのですが」
俺にとって、それは大問題だった。
冒険者稼業も難しくなる。
「いや、着けるのは校内だけで結構です。いやはや、鍛錬とは。これはヒルメス君に引き続き、期待できそうですね」
学園長が笑う。
顔は優しいのに何か不気味なものを感じた。
それにしても、魔法禁止か……
余計に厳しくなったな。頑張らないと。




