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元殺し屋の騎士生活  作者: 倉千 恵
第1章 幼少期編
1/12

プロローグ

 

「ぐっ……、くそ…」


 目の前で中年の男性が顔を歪ませ、胸を押さえて倒れる。

 真っ赤に染まった絨毯から、びちゃりと気持ち悪い音がして、男性の着ているYシャツを赤く染める。

 俺はフラフラとした足取りで部屋の壁に寄りかかり、そのまま床にずり落ちるように座った。


「はぁ…はぁ、はぁ………」


 都心のマンションの一室。

 部屋いっぱいに血生臭いにおいが充満していた。

 目の前には5人の男の死体が転がっている。

 意識が朦朧とする。

 体の至るところを焼かれるような痛みが襲い、傷口からは血が流れている。

 まぶたが重い。


(こんなところで死ぬのか…)



 雨月 柊、22歳。

 殺し屋稼業17年目にして初の失態である。

 同じく殺し屋の両親に幼い頃から殺しの技術を叩き込まれた。

 小学校に入る前からナイフを握らされ、入ってからは放課後を全て鍛練に費やした。

 中学生の時、初めて人を殺した。父が半殺しにしたターゲットの胸に、震える手でナイフを突き立てた。

 高校に入ってすぐに、最初の個人での仕事を受け、地元の国立大学に入り、今に至る。


 ナイフや拳銃だけでなく、長・短剣、槍、弓や爆弾などの多彩な武器。

 空手や合気道などの日本武術や、太極拳や少林寺拳法といった中国拳法。

 さらには、馬術や投擲術といったものまで。

 殺しに役立つものはほとんど教わった。

 殺しに人生を捧げてきた


 とは言っても、他の部分では普通に生きてきたと思う。

 友達がいなかったわけではないし、異性と付き合っていたこともある。

 勉強をおろそかにしたこともない。

 高校からはある程度の自由が認められていたから、部活には入らなかったが、殺人以外では普通の学生生活を送っていたと思う。

 普通、普通と言っても、殺し屋だって自分にとっては普通のことだ。

 もちろん世間的には犯罪だし、異常なことだってことは分かってた。

 しかし、産まれた時から周りは当然の様に殺しで溢れていて。

 いつしか殺しへの抵抗も無くなっていて。


 人を殺すことは好きでも嫌いでもなかった。

 殺しに快感を感じたこともない。

 それでも任務には真剣に取り組んでいたし、失敗したこともなかった。

 最近は特に苦労することなくターゲットを殺せていた。

 思えば、そこに慢心があったのかもしれない。


 今回の目標は4人のボディガードを雇っていた。

 何とか全員殺せたが、こちらもたくさん銃弾を受けた。

 急所にも数ヶ所当たった。

 油断はするなと何度も言われていたのにこの様である。

 応急処置の方法も教わったが多分間に合わない。

 する程の体力も気力も残っていなかった。


(死にたくないな…)


 自分で言ってて笑えてくる。

 今まで何人も殺しておいて今更そんなことを思うとは。

 それでも震えが止まらない。

 何度も覚悟してきた死が怖い。


 立ち上がろうにも力が入らない。

 夏になったばかりだというのに、寒気が止まらない。

 既に腰から下は感覚がなかった。

 涙が頬を伝う。

 後悔があるわけじゃない。

 両親に怒りを感じているわけじゃない。

 でも、ろくでもない人生だったとは思う。

 ろくでもない人間だったとは思う。

 殺し屋として働き始めてすぐは、罪悪感に苛まれ、目標の顔が脳裏に焼き付いて眠れないこともあった。

 しかし、いつしか必要悪だと割り切っていた。

 人としての倫理観など、とっくにを持ち合わせていなかった。


(もし生まれ変われたら…)


 そんなことを考えてしまう。

 もし生まれ変われたら、そのときはやり直せるだろうか。


 人殺しの俺が、“人”として……

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