第8話 シャンパンは何の曲を奏でたのだろう
一部の記述が薄くR15かもしれません。お知らせいたします。
ピンポ~ン!
ドアチャイムが鳴る。きっとピザ屋だ。
ふきんで手を拭いて玄関に行こうとする桜井くんを母さんが制した。
「私が出るから」
「お願いします」
言いながら桜井くんは取り皿だの、作り終えた料理などをテーブルへ並べ始める。
と、すかさず桜井さんが指示出しする。
「お前、チョチョロ無駄な動きが多い!効率よく動け! それからシャンパン用のグラスも出せ!」
言われた桜井くんは棚を覗き込む。
「シャンパン用のは、ないよ。ワイングラスのスリムなやつなら…」
示されたグラスを見た桜井さんは
「お前!食器とか処分し過ぎなんだ! まあ、それでいい。そいつを私と志乃さんのところへ置け! それからそこの上に黒い箱があるだろ?中を開けてみろ」
桜井くんは食器棚の上に置いてある黒い箱を易々と取った。背の高い彼らにとってはデフォな会話のようだ。
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桜井くんから任された黒い箱のふたを開けると中央のシャンパンボトルの抜け殻の両脇に2個のシャンパングラスが収まっている。
「美咲ちゃん!洋輔とひとつずつ取りな」
私はもうキッチンに立っている桜井くんを見やって尋ねた。
「私達も?ですか?」
「まあ、ちょっとくらいなら大丈夫でしょ」
ピザの箱を抱えて戻ってきた母さんが私の顔をみてニコッとする。
まるっきりいたずらっ子だ。
そういえば遠い昔の武勇伝?で聞いたことがある『酒、ビール、酎ハイ、ウイスキー、わさび、しょうゆ、刺身のツマ、ソース、ラー油などなどの特製カクテルを作って、笑顔で後輩の男の子に飲ませた』と
珍しく自分で冷蔵庫を開けた桜井さんは、中からクリーム色の王冠みたいな形のラベルの深い色のボトルを取り出し、「まあ、社会勉強という事で…」とキャップに巻かれたフィルムを剝がしにかかった。
ポンッ!という大きな音とともに優雅な花のような果実香が勢いよく拡がった。
これは!すごい!
お酒の事は全然わからないけど
これは ちょっと味見してみたい
「ホラホラ」桜井さんからボトルを受け取った母さんが私のグラスに注ぐ。
私は顔の周りをシャンパンの香りに包まれてふんわりした。
桜井くんもようやく甘酢漬けを作り終えたようだ。
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母さんが桜井さんの隣に座ったので、桜井くんは私の隣ということになった。
桜井くんはボトルを手に取ってラベルなどを見ながらテイスティングをしている。
やはり味とかに興味がある人らしい。
あんまり話をしないのもアレなので話し掛けようとしたら母さんに先を越された。
「洋ちゃん! おつまみ、どれも美味しい! 実はお酒、飲んだことあるでしょ?!」
「シャンパンは飲んだことないので、カンで作りましたけど、ワインやビールは飲んだことがなんとなくあります」
「なんとなくねえ」母さんのグラスの中身が笑いで揺れている。
タイミングを失った私はそれこそ、“なんとなく”視線を外した。
視線の先のローキャビネットの扉がまるで鏡の様にテーブルの下を写している。
母さんの手だ。
桜井さんの内ももに置かれていて
指は内ももの上を撫でたり歩いたりしている。
「!!」
私は一瞬固まって、慌ててグラスを飲み干した。
桜井くんが怪訝そうにこちらを見ている。
私は場を取り繕ってしまう。
「これ、美味しいね! 桜井くんも気に入った? 私はもう1杯もらおっかな。もう無くなっちゃった」
「これ、アルコール度数12%だけど…大丈夫?」
私は笑顔を作ってピースサインをする しか、なかった。
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コンッ! 誰か壁をノックした?
目が覚めた。
暗闇の天井
どうやってベッドまで来たのか覚えていない…
のどかわいた
あたま…いたい
寝返りを打とうとする
気持ち悪い
☆「????!!!!!」☆
その時、私は聞いたことのない母の声を聞いた。
無理やりに布団をかぶってみたけれど
波のように声が追いかけてくる 気がする のかもしれない
やっぱり無理!!
スライムのようにベッドを這い出て、そっとドアを開け閉めする。
階段、辛いのでジリジリと下りる。
やっとたどり着いたいくつかのLEDが点いているだけの暗闇のリビング。
ソファーの上で丸くなる。
きっと吐き気を我慢しているせいだ。つむった目尻から一筋流れた涙は。
まだ4月の初めで、エアコンを切った部屋のソファーの上で丸くなるのは寒い(:_;)
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