表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/29

第4話 キャリアウーマンと新米JK

「洋輔く~ん」


引っ越し屋を送り出し、行き来したところの掃除をしている俺を階段越しに覗き込んで、親父のお嫁さんは呼びかける。

ブルーのケミカルデニムパンツにクリームイエローのロンT、その上に明るいコバルトグリーンのチェックのシャツを羽織って袖まくりという彼女のスタイルはボンキュッボンしていてカッコイイ。


「ちょっと上がって来てもらえるかな 手伝って欲しいの」


余り意識しないようにトントンと階段を上がって行くと、お嫁さんは彼女の部屋の中から手招きする。


「カーテン付けるの 手伝って」


ふたりしてカーテンを窓に付け始めたけど、身長差があるのでその内に俺に任せきりになった。


「?」

気配がしたので振り返ってみると、お嫁さんはなぜか壁に手をやってこっちを見ている。


「壁の張り替えをするようにお父さんに言ってくれたんだって?私と娘の部屋の」

「えっ?! う、うん」予想していない話を振られて何だかザワッとする。


「私なんかはさ!真新しいのが却ってむず痒いっていうか、そんな感じがあるんだけど…ホラッ!初婚じゃないしさ。 だけど、娘はね。嬉しいと感じるんじゃないかと思う。『この空間を自分の色にして自分の居場所なんだ!』ってね。ホッとすると思うんだ。 

だから、ありがとう」

と、俺の腰の上あたりにそっともう片方の手を置いた。


何と答えていいかわからない。幸い、窓の方を向いているのでカーテンライナーにフックを取り付けるのに集中しているフリをする。


「ごめん! 言い方を間違えた」

お嫁さんは背中に手を置いたまま俺の横に立って、斜め下から俺の顔を見上げた。

「気を悪くした?」

「いえいえいえいえ そんなんじゃないです。そんなこと言ってもらって 嬉しいです。…照れますけど」

「そう! 安心した」

お嫁さんは壁から手を放して俺の腰に手を掛け、グイッ!と彼女の方へ振り向かせた。

「キミも!」

そう言ってお嫁さんは一息吸い込んだ。 

「私の子供になってくれたら、本当に嬉しい」


目を丸くして彼女を覗き込むと、お嫁さんは花が咲いたように笑った。


これが、 わが子に向ける母親の笑顔ってものなのだろうか?

分からないけど自分の顔が熱くなったのは 分かった。



「そお言えば!」 お嫁さんはいたって楽しそうだ。

「用意してくれたタオル。きれいな色ね。娘用とわたし用で色分けしてくれたんだと思うけど、あの色二色は何か理由があるの? キミの好きな色?とか、既にあるタオルとの区分けの為とか…」


赤くなっているであろう顔をあんまり見られたくないので、俺はちょっと目をそらせて

何気ない風に答えた。

「オーダーしたカーペットの地の色に近いかなと思って選んでみた。お二人が好きな色味なのかなと…」

「えっ?!」

お嫁さんは一瞬小さく驚いてからプーッ!と吹き出し、俺の頭に両手を伸ばしてタオルごとワシワシと撫でた。「こいつ~!禿げるぞー!」



固まった俺を尻目に、お嫁さんはァハハハと笑いながらTシャツの襟ぐりをパタパタさせて廊下に出て行った。


「は~い! 皆さん~ リビングに集合してくださ~い  交歓会しま~す」




お嫁さんの仕切りで皆は1階のリビングに集合した。


最初に口火を切ったのは親父だ。

娘さんに一礼する。

「桜井 大介と言います。後、息子の洋輔。私と息子では“すけ”の字が違います。私は介入の介の字で息子は“車辺”の輔です。 桜井家へようこそ」

「洋輔です。改めましてよろしくお願いします。」と俺はお嫁さんと娘さんに頭を下げる。


次はお嫁さんが返した。

「佐藤志乃です。“こころざし”に乃木坂の乃。娘は美咲 美しく咲くと書きます。」

娘さんがマスクを外して頭を下げる。

「美咲です。よろしくお願いします。」


ちょうど俺の前で頭を下げた彼女は

トップで結わえたふんわりしたお団子ヘア

ボーダー柄のロンTにベージュ色のオーバーオール

ロールアップした裾からはボーダー柄のソックスが見える。



「どう呼びましょうか?」

再びお嫁さんが仕切る。


お嫁さんは俺たちを指して

「大ちゃん、と洋ちゃん」

親父は俺を見てそれに返す。

「じゃ、我々は志乃さんで」


志乃さんはちょっといたずらっぽく俺を見る。

「なんだ お母さんって呼んでくれないんだ」

娘さんの前で、俺は少し冷や汗が出る。


「いや、まあ その…おいおいと言う事で…」


「その おいおいと言うのは止めろ!」と親父がねめつける。


「私は!」といきなり娘さんが割って入って来た。

「“桜井さん” “桜井くん” でいいですか?」


「いいよ 美咲ちゃん」こういうタイミングで親父は“自分”を入れるのだ。


ちょっと苦い思いで俺は娘さんに頭を下げた。

「佐藤さんと呼ばせてもらいます。」


「それって距離100mでしょ~」と志乃さんは不満げだ。


「お互い同じ高校に通うので、“外でうっかり”が無いように家でも苗字で呼んで置いた方がよいと思うんです」


「そうねえ 残念だけど… おいおいと言う事だね」

志乃さんの言葉に、娘の佐藤さんはクスッと笑った。


特別大きいというわけではないけれど丸く黒目がちの瞳。少し鉤鼻かもだけど笑った口元が優しいので、正直、俺はホッとしていた。


やっぱり女性は怖い存在に感じてしまうのだ。


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ