第3話 肉食オヤジと草食男子
ウチの母さんは地図が読める。
初めて行くところには一応、ナビアプリを立ち上げるのだけどナビの声に従順ではない。
今も突然、公園の中を突っ切って行って、出た先の角の路地を右折したら、目の前に後ろを開けた配送のトラックが停車していた。中に人が居て大きな荷物を降ろそうとしている。
それを迎え入れようと、道に面した一部洋風の塀の中から、男の人が二人出てきた。
二人を見つけた母さんは私を振り返って微笑む。
ああ この人たちなんだ。
ひとりはガッシリ分厚いオジさんで、首にかけたタオルで顔を拭っている。
もうひとりは、タオルを頭に巻いて格好はまるきりおっさんだけど、タオルに押されて目の辺りにかかっている髪は少し明るい色をしている。
二人とも随分背は高いが “息子”の方が少し低くて、ひょろっと男子だ。
「ごめんなさい 遅れちゃって」と母さんがオジサンに声を掛ける。
「ベッドの方が予定時間より早く来たんだ。 でも良かった 置き場所を二人に決めてもらおう さっ!中 入って!!」
私たちは挨拶も無しに玄関の中に引っ立てられる。
ちょっと! 私 まだスニーカー半脱ぎなんだけど!
お構い無しのオジサンの勢いに、ひょろっと男子くんは横を向いて頭のタオルを掻き、それから私を目で追って急いで頭を下げた。
オジサンと母さんは既に階段の途中だ。
「注文してたカーペットはもう敷いてあるよ。志乃さん、いい見立てしている」
「洋輔くんが床から窓からサイズを測ってくれて、リモートで部屋の画像も送ってくれたからよ」全くもって上機嫌なのかそれとも仕事モードなのか、母さんの声は階段のところで響いている。
そういう時の私は 気が引けてしまうのだ。
私たちはみんなして2階へ上がった。
話の内容からすると母さんの部屋は階段の前で、私の部屋はその隣らしい。
納品業者さんがベッドを絶妙な距離感で階段を通してきた。
「それ、セミダブルの方ですよね? そのままこの部屋に入れて下さい」
母さんが誘導する。
「そちらの壁際に… そう!その位置で 有難う」
「次、上げますね」と納品業者さんは階段を下りて行った。
私のベッドは頭が窓際に来るように置いてもらった。
日差しが強くなっても遮光カーテンだから大丈夫なはずた。エアコンも近くだし。
引っ越し屋さんも来てどんどん物が置かれて行くと、新しい自分の部屋を作りこんで行く感じで、やっぱり気持ちが弾む。
んー!私はゲンキンなやつだ。
「は~い! 皆さん~ リビングに集合してくださ~い 交歓会しま~す」
と廊下から母さんの声が聞こえた。