第24話 ぎこちなカレー
久しぶりの更新です。美咲ちゃんが千景ちゃんの家に行った翌日のお話です。
放課後、人の引けるのを少し待ってオレは3組へ向かう。
頼んでいた『怪人8号』のコミックスを借りに行く為だ。
窓の外から覗くと、和田は自分の席と思われる机の上に座っている。
と、すぐ近くに佐藤さんが居るのが見えて、オレは思わず身を引こうとした。
が、和田に気づかれてしまった。
仕方なく教室に入ると和田はニコニコとバッグを開け、中から『怪人8号』のコミックスを5巻積み置いた。
「今、出てる最新刊まで全5巻持ってきたよ」
本当に和田は気のいいヤツだ。こんなオレの唯一の友達と言えるかもしれない。
「あれ?! 『怪人8号』じゃん!!」
目ざとく見つけたのは佐藤さんと話をしている女子、名前は確か…
「うぉう! 田中さん!『怪人8号』知ってるの?」
明らかに和田は食い付いている。
「知ってるよ!ウェブコミで読んでるモン!。でも紙では読んだことがないんだよね」
そう! 3組で和田と学級委員をやってる田中さんだ。この間の会合で、和田が『やっぱり学級委員に立候補する女子って気が強いのかなあ』って言ってた人だ。
その田中さんは「ちょっと見せて」と1巻を摘まみ上げると佐藤さんに手渡した。
「美咲! コレコレ!こないだ言ってたの!」
それから和田の方を振り向いて
「アンタ! 中のページに“変なモノ”挟んで無いよね!」と睨めつける。
「無い無い! オレ、本は大切に読む派だもん」
その言葉に田中さんは笑いながら返す。
「あのね和田くん! 『本は大切に読む』って、コミックスだとなんか違わない? まあいいけどさ、あっ!」
ようやくこちらに気付いたようだ。それこそ「まあ、いいけどさ」なんだけど…
「ああ、コイツ知ってるよね。オレと同中の1組の桜井」
オレは今更ながらの頭を下げる。
「田中さんですよね。よろしくお願いします。」
田中さんの少し微妙な反応に何故か和田も反応していた。
オレ、人の気持ちは分からないのに、こんなヒヤッとするような空気を感じ取る事があって、自分自身の陰キャを掘り進んでしまうのが常だ。今日は更に最大の難関がある。
「で、こちらは佐藤さん」
和田から紹介された佐藤さんに、オレはわざとらしく挨拶する。
「桜井です。よろしくお願いします。」
「佐藤です。よろしくお願いいたします。」
ぶつぶつとバカ丁寧な挨拶を返された。
「ね、和田くん!」
田中さんは、オレの顔と和田の顔を交互に見ながら言葉を継ぐ。
「私たちにも貸してもらえるかな? 桜井くんが読んだ後で」
この願ったり叶ったりの申し出にオレは慌てて自分のオーダーの辞退をした
「オレ、借りるの後でいいから、クラスメイトに先に貸してやってよ!」
「いや、でも…」と言い掛けた和田の首根っこを抱えて引き寄せ、オレは耳打ちした。
「田中さんって“気になるコ”なんだろ? だったら優先させなきゃ」
「桜井、ワリイ! ちょっと待ってて」
と耳打ちを返して、和田は田中さんの方へ向き直った。
「田中さんたちが先でいいよ」
「ゴメンね桜井くん、なるだけ早く返すから…」
佐藤さんは無言で頭を下げるだけだった。
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オレがカレーの為の玉ねぎを刻んでいると、佐藤さんが帰って来た。
カバンから『怪人8号』のコミックスを5冊取り出すと、リビングのテーブルにドサリと置く。
「ねえ!桜井くん!」
オレはカノジョの方を見れない…
「私の趣味に立ち入らないでもらえるかな! 私、あなたのギターの事、ウルサイとか言わないよね?! 同じように、放っておいてくれないかな!!」
オレは背中を向けたまま返事をする。
「そうだな…悪かった…」
その言葉に佐藤さんは吐き捨てた。
「それがあなたの謝り方なんだ! コミュニケーション以前の事として問題じゃない?」
オレは『藤次郎の三徳包丁』を握り締めたまま佐藤さんの方へ振り返り、黙って頭を下げた。
「ホント! 物騒な人!」
と冷たい言葉が跳ね返る。
オレはまな板へ向き直ってひたすら玉ねぎをみじん切りする。
佐藤さんはそれ以上追及せずに、トストスと階段を上がっていった。
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着替えて、階段を下りて来た佐藤さんは掛けてあったエプロンを着け、シンク水栓で手とまた板を洗って、オレを肘でコンロの方へ押しのけた。
「佐藤くんはそっちで飴色玉ねぎを作ってて」
それからカノジョは野菜室からニンジン、ジャガイモを取り出し、シンクにゴロゴロと転がした。
ぎこちない二人のぎこちないカレー作りが始まった。
書きながら黒楓は「美咲ちゃんらしい」と面白がってますが、“しろかえで”は涙ぐんでいました。 まったく!! 洋輔はどんどん重症化しております(^^;)
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