第19話 exercise
辛いお話なので、短くなってしまいました。
“下手”なギターの練習をしている。
1弦を1フレットずつ、人差し指、中指、薬指、小指
2弦に上がって人差し指、中指、薬指、小指
3弦に上がって人差し指、中指、薬指、小指
6弦まで行ったら今度は薬指、中指、人差し指
5弦に下りて小指、薬指、中指、人差し指
1弦まで下りたら、また人差し指、中指、薬指、小指と上がっての繰り返し。
毎日やっている事なので頭の中ではぼんやり別のことを考えてしまう。
ダメだ! リズムが、拍をちゃんと刻んでいない
スマホを出して
メトロノームアプリを立ち上げる。
拍を感じて弾く、拍を感じて弾く
と意識を傾けて練習する。
と、“様子を見に行かなけなければ”と言う様な物音がした。
部屋を出て、リビングからキッチンを覗いてみると
佐藤さんが鍋だのまな板だのを引っ張り出している。
手を出そうかどうか逡巡していると、彼女がキッ!と振り向く。
「見ているんなら手伝ってよ」
壁にかかったエプロンを取ろうとすると
「言われて手伝うような手はいらないから」と言われて
エプロンを取るのを諦める。
「明日の朝、オレやるから」
佐藤さんはもう無言で、まな板など洗い始めていた。
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夕食は、オヤジ抜きの3人で食べた。
「桜井さんが遅くなるって知っていたなら教えておいてよ!」と佐藤さんに非難された以外は殆ど無言の食卓だった。
食事を済ませ食器を下げているオレは志乃さんに声を掛けられた。
「洋ちゃん! ちょっと私の部屋に来て!」
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「今日、と言うか最近、美咲と何かあった?」
志乃さんに尋ねられて、自分の心当たりのある、買い出しの時から今日の夕方まで、の事をかいつまんで話した。
「そう… 私も今日、美咲とちょっと、あったんだけど… あの子『いっぱいいっぱい』なんだって」
「すみません。自分が余計な事をして…」
「それよ!」と志乃さんに指をさされた。
「あなたが人に何かしてあげる時はいつも自分の価値観だけ。で、間違えたら簡単に謝るけれど、考える努力も自分を振り返る努力もしていない。 だからウザがられるの」
「あなたの謝罪の言葉なんて無意味だわ。あなた自身にとってもね。 いい!! 良く良く考えなさい。そして、もっと他人を知る努力をするの! そうでなければ、あなたの人生はひどく無味乾燥なものになってしまう」
オレは黙って聞いていた。
「死んだ魚のような眼はしないで!」
と言われてしまった。
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毎朝ランニングをしている。
段々と距離が延びて、今はかなり遠くまで来ている。
住宅街を走っていると手に手にゴミ袋や箒などを持った年配の集団に出くわした。
早朝の町内の掃除ボランティアなのだろうか?
そのうちの一人が「路子ちゃ~ん!」と呼びかけると
「は~い!」と声がして
ゴミ袋と箒を抱えた上下ジャージのおさげの女の子が駆け寄って来た。
亀井さん?…亀井さんだ。
亀井さんはボランティアの人たちと談笑しながら、かいがいしく掃除の世話を焼いている。
あぁ やっぱりキチンとした人なんだ…
オレはいたたまれなくて
その場をそそくさと走り去った。
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ランニングから戻り、さっとシャワーを浴びて
朝食の準備を始める。
手に持った『藤三郎の三徳包丁』が重く、冷たかった。
愛されている実感がないと、ひとは悲しくさまよってしまうものなのでしょうか…
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