第16話 “彼女”の名前
前回今回と、ようやく他の登場人物が出始めます。
校門の入学式の立て看板の横。順番を待って写真を撮った。
黒歴史になるのは嫌なので、笑顔を作った。
とにかく今はその笑顔を崩さないようにと、写真を撮った後も努めた。
母さんの方をなるだけ見ないようにはしたけど…
そんなわけでずんずん校内を歩いて行くと、背の高い女子に目が留まった。
「シオン?」
声をかけると振り向いてくれた。
「あぁ佐藤か… 東高だったんだ」
「うん、そうだけど…」
私の言いよどみに、シオンは『なるほど』と言った風に頷いて言葉を返した。
「似合わないだろ?スカート。今日は仕方ないからさぁ。着た」
「学校ではいつもジャージがユニフォームだったもんね」
シオンは中学の時、同じバスケ部だった。
私は補欠だったけど、彼女はバリバリのレギュラー
短髪で背が高く、コートの中ではまさに美少年で、密かにファンクラブがあったくらいだ。
こんな私達がお互い何となくいい感じだったのは、二人とも入部動機が不純だったから。
私は雑賀先輩が居たからだし、シオンは制服でなくても登校できるから…
彼女は制服、特にスカートが嫌いだった…
そんな彼女だから、今日の制服姿は違和感があり過ぎで、私もちょっと戸惑ったのだ。
「雑賀先輩、向こうの中庭のところに居たよ」
「何か話したの?!」
「特には…『女子バスケ部に入らないの?』って聞かれたくらいかな」
「入るの?」
「バスケはもういいや。佐藤は?」
「私は… 中学でさえ補欠だったから…どうかなぁ」
気もそぞろな私の態度に気付いたのか、シオンは母さんに一礼して、さっさと行ってしまった。
私はどこかでちょっとホッとしながら中庭を目指した。
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「佐藤さん」
雑賀先輩が気付いてくれた。
すぐにそばへ寄りたいのに、2回も深々お辞儀してようやく少し近付けた。
「ご無沙汰しています」
「無事合格したんだね。入学おめでとう。頑張ったね」と優しく優しく微笑んでくれる。
「いえ、いや、あの、先輩が『すごくいい学校だよ』と仰ってらしたので、その、入りたいなぁって」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
ホントに優しいお顔!!
「中学校では娘がいつもお世話戴きまして」との母さんの挨拶にも
「いえいえ、佐藤さんが大変気配りをしてくれて、僕たちこそ、いろいろ助けていただきました」と卒なく応えて私を見つめ
「佐藤さんはバスケ続けるの?」と聞いて下さる。
私はきっと顔、真っ赤だと思う。
しどろもどろで何とか答えた。
「自分を見つめて、色々考えてみます」
「そう… 何をするにも君は一所懸命だから、きっと有意義な高校生活になるよ」
ますます素敵な笑顔で「じゃ!」と手を振ってくれた。
至福!!!
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「雑賀先輩ってカッコイイね」
「もう!いいから、母さんは!」
実はもういいどころではなく、まだまだ収まらない胸のドキドキを抱えながら、私はクラス分けの掲示版を見上げた。
桜井くんは1組だった。
で同じ1組の掲示の中に見つけた。
「母さん!あの『藤野詩音』って、さっきのシオンだよ」
「へえ~きれいな名前ね」
「本人は大嫌いらしいよ。中二の時、ゼッケンに生き死にの『死』の字に怨念の『怨』の字を書いて大問題! しかもその下の名前より苗字の『藤野』の方がもっと嫌いって言ってた」
「う~ん! 何故かしら…」
「分からないけどね」
私の名前は3組に有った。知ってる名前は無かったけど、桜井くんと同じクラスでなくて、とにかく良かった。
今回はサブタイトルに躓いてしまいました(^^;)
美咲ちゃんの温度差もエグいです(^^;)
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