第12話 報復のちょっとした“ひと刺し”
女の子の努力にはキチンとお応えしましょう(笑)
このラーメン、美味しくない。
元々、味に期待するほどのものではないのだろうけど、目の前の桜井くんが、なんかイヤだ。
いったい私がそれほど嫌な事をした?
そりゃあカレのベッドは取りましたよ。
寝落ちしてしまいましたよ。
でもね、だったら起こしてくれればいいじゃん!
私だって恥ずかしいし、気まずいんだから。
さっきからずーっと! 私が場を取り繕ってさ!
私だって別に並んで歩きたいわけじゃないのよ
誰に会うか分からないしさ
いっそスウェットの上下とかで歩いた方がいいわけ?
「こんなダサダサな女と歩きたくねえよ」的雰囲気をなんで私が作らなきゃいけないの?!
カリカリしながら食べていたら
早食い女になってる!
のんびりカレーなんか食いやがって!
あ~ぁ! マイペースな男子って、ホント“害毒”
何かというとすぐ謝るし
謝ればいいってもんじゃないわよ
また不愉快を繰り返すんだから
ラーメン、スープなんか飲みたくないし
手持ち無沙汰!
早く食え!
「今日の夕飯どうしようか?」
お昼ご飯食べながら晩ご飯の心配するな!!
「カレー」
「カレー?」桜井くんは手元のスプーンを止める。
「だって目の前でカレー食べるんだもん! 食べたくもなるわ」
イジワルを言ってやる
「うん、分かった そうしよう」
この事なかれ主義的なところも、イヤ!
「へぇ~昼、夜、カレーでもいいんだぁ」
「うん、カレー好きだから」
なんか、だんだん疲れて来た。頭来るけど
この人、草食系というより無食系?、無色系?
まあ 女子ウケはしない人ね
思わずため息をついた。
何だか悲しくなってくる。
「ん~私が作るよ。カレー。言い出しっぺだからね。ただ、今日は帰ってから洗濯もしなきゃだから時短バージョンで作る。スーパーで材料買いたい」
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桜井くんにカートを押させて、私はポンポンと食材をかごに入れる。
来たことのないスーパーはやはり新鮮で、自然とテンションが上がる。
「焼肉のたれを使うの?」
と桜井くんが聞くから
「“美咲ちゃんカレー”の時短バージョンには必須なの」なんて機嫌よく答えてしまう。
ちょうど鮮魚売り場を横切ろうとしたらバケツにエアーポンプが繋いであるのが見える。
ふたりして「なんだろう」と覗いてみると
たくさんのドジョウが泳ぎ回っている。
「かわいい!でも、どうするんだろう」
「どうって…食べるんだけど」
「ええ!!? 食べるの?」
「うん…ほら!柳川鍋ってやつ」
「卵とじの?」
「そうそう 元々はドジョウが使われていたんだって」
「えーっ!!残酷!」
狭いバケツの中を上へ下へ泳ぎ回るドジョウの行く末が鍋なんて…かわいそうだ。
「ねえねえ飼おうよ」
「残酷って言っておいて料理するの?」
「違うよ!“飼育”の“飼う”!!」
「さすがに水槽はないよ」
「なんだぁ~やっぱりつまんないの。じゃあ今度、水槽買おう」
「そのころにはドジョウ売ってないよ」
「じゃあ、金魚!金魚飼おう。縁日の金魚すくいで金魚とって」
桜井くんはちょっと困った顔だが、かまうものか
ドジョウを飼うのは断念した私は、代わりにスーパーの買い物も桜井くんに持たせてやった。
おかげで桜井くんはトートバッグを両手いっぱいに提げている。
私はと言えば両手フリーでリュックも軽々だ!
お気に入りのリュックにお肉の臭いとかがつくのイヤだからね。
でもちょうどいいじゃん!
間違っても“手をつなぐ”ってことはできなくなったのだから。
春だし、気持ちは風船みたいなもの
風が吹けば流れるし、部屋の壁あたりにひっかかったままなら、しぼんでしまいます。
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