第11話 スペアキー
絶好のお出かけ日和なのに、ふたりは曇りがちです。
佐藤さんは薄い紫のトーンでまとめて来た。
自分は、『春っぽいものってこれしか持ってないよな』グリーンだ。
“新米家族のお姉さん”と出かけることは、今までにもあった。
だけど、今回はおざなりにはできない。
事実婚とはいえ、親父の新しい奥さんの娘で同い年の女の子、しかもセンスが良い。
並んで歩いたりはしないけれど、あまりみっともない恰好は申し訳ない。
なので、服を選ぶなんて“あり得ねえ事”をしてしまった。
外は春の陽気。
絶好のお出かけ日和というやつか。
春休みの学生達はきっと啓蟄のごとく、這い出しているに違いない。
佐藤さんの憧れの先輩はこの辺りに住んでいるのだろうか?
同じ高校通うのだから、あまり遠くではないだろう。
まさかとは思うが、バッタリ会ってしまったら…
彼女は困るだろうな…
「桜井くん!」
呼ばれて後ろを振り向くと、
春の香りをはらんだ風が彼女の髪にいたずらして
俺の顔を撫でていった。
今日はおろしている彼女の髪が着ているブルゾンの上で遊んでいて、眩しい。
「先に行き過ぎだよ。キミは女子に配慮がない!」
俺は答えあぐねて少し斜めに目を伏せる。
「なに!それ! 私の事、無視なんだ!」
「いや! 違う! ごめん! 今の風でほこりが目に入った」
佐藤さんは少しため息まじりに俺に追いつく。
「あ~ぁ!キミがそういう態度だと、つまんないなあ~」
「つまんない奴ってのは自覚してる。まあ、どっちかというと俺、陰キャだから…」
「そういう“自覚”なんだ」
「買い物に付き合ってもらうことは心苦しく思っているよ」
「そんなこと言ったって何も変える気ないんでしょ?! 桜井くんって自分の中で“完結”させるタイプ?」
「つまらない言い争いをする必要はないと思う」
「ほらっ! やっぱり! 桜井くんが先だからね!『つまらない!!』って態度を取ったのは」
俺もため息をついた。 そういう意味じゃない。
仕方ないから無言になる。
『MAY』という歌の中の人は言葉を百も思いつくらしいけど、
俺は思いつかない。
そもそもふたりでいるわけではないのだ。
それは今までと同じ。
佐藤さんを付き合わせて申し訳ないけど、それは今までもこれからも同じなんだ。きっと…
いや間違いなく。
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100均に居る。
佐藤さんに洗濯ネットを選んでもらっている間に、トイレブラシと小さなゴミ箱をかごに入れた。最後の掃除の後、捨ててしまったからだ。
「不器用だよなあ」と独りごっちってみる。
店にはもうアウトドア用品のコーナーが作られていて、佐藤さんは何となくそれを見ているようだ。
「アウトドアするの?」
「別に… 今、流行ってるらしいじゃん!」
と彼女は手に取っていた「コンパクト薪ストーブ」を元に戻す。
「アウトドアやってみる?」
「そうねえ~」
気のない返事。やっぱり俺が言うとチグハグだ。
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合鍵を2本作りに行っている間、佐藤さんにはフードコートで待ってもらっていた。
フードコートに戻ると、ちょうど彼女がトレイにラーメンを載せて戻って来るところだった。
彼女は席に着くと、左手に付けていたシュシュをクルン!と髪に留めてポニーテールにした。うなじにかかっている後れ髪が彼女の動きに合わせてそよそよ揺れる。
女の子は怖いけど不思議… いや、不思議なのが怖いのか…
触れられない別世界を垣間見ることがある。
今だって透明な仮面の笑顔を向けて来るのだ。
「鍵!できた?」って
頭でっかちで不器用、大して面白くもない のかもしれないし、誰にも愛されてはいないと思っている…
だけど、本当はたくさんの愛情を持っていてそれを真っすぐに一所懸命注いでくれる。
そんな洋輔くんは私の理想の王子様です。
なので、設定上必要だった髪の色と背の高さ以外は、私の中の個人的なイメージには囚われないようにしています。取りあえず今は…
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