田舎貴族と罵られ婚約を拒否された男爵家三男は悪魔を倒して王女に溺愛される~やっぱり婚約したいと言ってももう遅い! 王女殿下と婚約して将来は王配になります
【あらすじを読まれていない方にご注意】本作品には人類の敵であるGが登場します。読まれる方によっては汚い(気持ち悪い)と感じる場面がありますので食前及び食後直ぐの閲覧にはご注意下さい。責任はとれません。
「貴方がわたくしに求婚? 田舎貴族はお呼びじゃなくってよ!」
王立学院のパーティー会場の片隅。
一組の男女が向かい合っている。
一人は茶色の髪を優雅に結い上げ、真っ赤なドレスを身に纏う女性。
釣り目がちなその目は意思の強さと自信に溢れている。
そんな彼女は目の前にいる男性を見上げているにもかかわらず、そのまなざしにはゴミ屑を見るような見下げた侮蔑の色が浮かんでいた。
そんな侮蔑の視線を受けるのはこのサレナ王国の辺境に領地を持つコルボー男爵家の三男ガイルという若者だ。
今日は王立学院の卒業パーティー。
そんな晴れの日に、彼は目の前の女性マッティーニ男爵家の長女にして時期男爵であるケイトにたった今求婚し、そしてこっぴどく振られたところだ。
このサレナ王国は隣にあるガルム帝国から力づくで独立したという歴史がある。
その独立に貢献した王の家臣が今の貴族となったこともありこの国では貴族とはいえ武門を尊ぶという伝統があった。
その一方、この国は男女同権で女子の家督相続も認められている。
これはこの国が独立して直ぐに王家の子供が女子ばかりであった時代があったからだ。王の地位を狙う高位貴族を排すために王家が率先して女子の家督相続を認めることになった。
そういうわけでこのサレナ王国ではこれまで女王も多く即位しており、女性が当主となっている貴族家もかなりの数存在する。
(はー、どうしたらいいんだろうか……)
たった今振られたばかりのガイルは途方に暮れていた。
彼はコルボー男爵家の三男。
実家の家督は兄である長男が継ぐことになっていて、二男が補佐兼長男の保険として家に残ることになっている。
三男の彼は実家から出ることが決まっているが、養子の誘いもない。
彼は貴族家の時期当主となる予定の女性と婚姻しなければ貴族社会を追われ平民になるしかない崖っぷちにあった。
彼と同じように実家の貴族家を継げない男たちは他にも多くいる。
しかし、そんな彼らは彼らの実家とのつながりが欲しいそれなりの貴族の家の養子となったり当主となる女性と婚姻するなどして労せず貴族の地位を維持できていた。
「ローランド様とアレン様よ」
「あのお二人のどちらかがシルヴィア第一王女殿下と婚約されるのではという噂ね」
このパーティーで多くの人の目を引いているのがマクリーン公爵家の五男であるローランドとダンパー侯爵家の四男であるアレンだ。
二人とも容姿が優れ、背も高く、しかも学院での剣術の成績はトップを争っていた。
この二人は未だ婚約相手がいなかったが、同年代であるこの国の第一王女、次期女王となるシルヴィアの婚約者になるのではないかともっぱらの噂だった。
この国は、武門を尊ぶ。
辺境の男爵家のガイルであっても剣術が優れていれば高位貴族の家からの誘いの一つもあっただろう。
しかし、ガイルの学院での剣術の成績は良くも悪くも普通であった。
もう少し腕が良ければ騎士団に入団して自分の力で騎士爵を得ることもできたであろうが、残念ながらあと一歩届かなかった。
ガイルはこのパーティーの中心にいる二人の男性を羨ましそうに眺めていた。
「シルヴィア第一王女殿下、ご入場!」
パーティーが始まってしばらくしてパーティー最後の参加者の入場が告げられた。
眩いばかりの金色の髪がシャンデリアの光を反射して神々しく輝く。
エメラルドグリーンの瞳にぷっくりとした桜色の唇。
色白の肌に映えるのは胸元に輝く大粒のエメラルドをトップにしたネックレス。
ドレスは落ち着いた色ながら、その艶と光沢は質の良い最高級品であることを示していた。
第一王女の入場を後目にガイルは幾人かの貴族令嬢に声を掛けた。
いずれも爵位を継ぐ嫡子であったが、そのいずれも既に婚約者がいるかガイルを冴えない田舎貴族と馬鹿にして袖にした。
(もう帰ろう。俺の居場所はこの世界にはなかった)
元々、辺境の田舎領地の野山を駆け回って育ってきた。
辺境の実家にいても低位の田舎貴族に婚姻の話なぞくるはずがなく親に言われて人脈作りと結婚相手探しのため王都の学院に行けと言われていただけだ。
結局は無駄に終わったが、学院の3年間で同性の友人もできたし、辺境の田舎では学べなかったことも学べた。
何よりも今日、自分には華やかな貴族の世界は合わないということがよくわかっただけでも収穫だろう。
学院での剣術の成績は並みではあったが元々彼は対人戦は得意ではなかった。
実家にいたときは魔物や魔獣といった人外を相手にすることの方が多く、そういった敵を相手にするのであればこの学院の誰よりも引けをとらないつもりだ。
自分の得意なことを生かして冒険者になって自由に生きる、もしくは狩猟を生業にするのもいいかもしれない。
そうと決まれば途中ではあるがこの場からとっとと帰ってしまおう。
ガイルはそう決意すると、最後に見納めと思い、第一王女の近くへスルスルと近寄った。次期女王となる彼女を今後こんなに近くで見ることはないだろうと彼女の姿を目に焼き付けておこうと彼女のすぐ側へとやってきた。
――きゃー
――誰かっ、誰かー
不意にパーティー会場の入り口付近から女性の甲高い叫び声と助けを求める声が聞こえた。
「賊かっ!」
この会場に配備されていた警護の衛兵だけでなく参加者の貴族の子弟たちも色めき立ちそう声を上げた。
武門を尊ぶお国柄だけあってか賊の侵入を聞いても怯む者は誰一人としていない。
この国の貴族はパーティーでも腰に帯剣していたため、参加者たちは賊に備えてその剣の束に手を掛ける。
――きゃー、助けてっ
――うわっ、来るなっ、こっちに来るなー
当初会場の入り口で聞こえてきた悲鳴のさざ波が徐々に会場の奥へと押し寄せてくる。
女性のものだけではない。
男性の狼狽える声も聞こえてくる。
「いったい何だ! 賊は何人だ!」
マクリーン公爵家五男のローランドがそう大きな声を張り上げた。
「殿下、危のうございます。私の後ろへ」
ダンパー侯爵家四男のアレンが第一王女シルヴィアにそう言ってその前へと進み出た。
婚約者レースでライバルから抜きん出ようとしているのが誰の目からも明らかだった。
そうこうしているうちに会場の中は更に混乱の渦に包まれていく。
尻もちをつく者、逃げようとして転び腰を抜かした者、悲鳴を上げて会場の奥へと逃げて来る者、まさに阿鼻叫喚といった状態だ。
「衛兵っ、衛兵はどうしたのですっ!」
第一王女シルヴィアが声を張り上げる。
会場警備は衛兵の仕事だ。
しかし、訓練されているはずの衛兵たちも混乱の極致にあってその組織はもはや瓦解しつつあった。
その刹那、王女殿下を遠巻きに眺めていた人垣が悲鳴を上げながら左右に割れる。
その割れた人垣の間から何かが現れる。
それは一匹な虫だった。
黒光りする艶のある茶黒のボディーに流線型のフォルム。
揺れる長い2つの触覚。
カサカサと地を這う六本の脚。
その姿を見た者は本能的に恐怖に陥った。
理屈ではない。
本能が告げるのだ。
――怖い
――汚い
――気持ち悪い
さっきまで威勢よく剣の束に手を掛けていたマクリーン公爵家の五男坊は悪魔の姿を瞳に捉えると額に冷や汗を浮かべながら一歩、そしてまた一歩と後退していった。
「あっ、アレン殿。こっ、ここは下位の貴殿に見せ場を譲ろうではないか」
ローランドは震える声でそう声を掛けた。
「ひっ」
一方、指名されたダンパー侯爵家の四男は顔面蒼白。息も荒くなり呼吸は既に乱れている。
何とか剣を抜こうと剣の束に手を掛けているがその手はプルプルと震えて剣を抜けそうもない。
そんな二人の高位貴族の子弟をあざわらうかのようにこの国において『コードG』と呼ばれる悪魔はカサカサと二人に近づいていく。
「くっ、くるなっ!」
ローランドは震えながらも剣を抜き悪魔と対峙する。
アレンに至っては未だ剣を抜くことすらできていない。
そんな二人の様子をガイルは冷めた目で見ていた。
ガイルは辺りを見回して何か使えるモノがないかを探す。
そしてある物を手に取ると誰もが『コードG』の動向に注目する中、元の場所へと戻った。
「ぞっ、賊めっ! マクリーン公爵家が五男ローランドが相手だっ、来るならこいっ!」
Gのプレッシャーに押されてかそれに負けじと精一杯そう声を張り上げた。
その刹那――
――ぶ~ん
人々は世界の終焉を見た。
この国において『コードG』と呼ばれる最悪の悪魔はその最終形態を衆目に晒した。
薄茶色の羽を大きく広げ、そして飛んだのだ。
「うわあぁぁぁ~」
ローランドはその瞬間、手に持っていた剣を落とし、情けなくも尻もちをついた。
「ひぃぃっ!」
アレンに至っては第一王女の後ろへと逃げ回り、あろうことか守らなければならないはずの第一王女を盾にするという暴挙を犯した。
「だっ、誰かっ……」
思わず盾にされてしまった第一王女シルヴィアも顔面は蒼白。
尻もちを着かなかったのは次期女王としての気概だろうか。
しかしそんなやんごとなきその身も今や向かってくる一匹の悪魔によって蹂躙されようとしていた。
誰もがやられると思ったそのとき――
「えいっ」
気の抜けそうな声とともに突如シルヴィアの前に現れたのは大した仕立てではない礼装を身に纏った一人の男。
その男はシルヴィアに迫る悪魔の前へとその身を滑り込ませると手に持った紙を丸めた筒状のもので飛んできた悪魔を叩いて床に落とした。
――べちょっ
聞いただけで発狂しそうな鈍い音がする。
その音に遠巻きに眺めていた者たちも目と耳を塞ぐと思わずその場から一歩後ずさる。
しかし『コードG』は不死身の悪魔と呼ばれる対人類最終兵器。
たった一度の攻撃では倒すに及ばない。
――カサカサカサカサ
今度は床を這い、高速で第一王女の足元へと向かう。
「ひっ……」
第一王女は目の前の誰とも知らない男の背中に隠れるようにその身を逃した。
「こらっ、逃げるなっ!」
ガイルはそんな周りの様子を気にすることもなく、手にもった筒状のもので足元に迫る悪魔に狙いを定める。
そして
――ばしっ
ガイルの攻撃は悪魔に命中し、悪魔はその一撃で動きを完全に止めた。
この悪魔を一撃で倒すということは中々に難しい。
それにも拘らずそれをいともたやすくこなしたということはガイルにはかなりの腕前があることを如実に示していた。
空気の凍ったパーティー会場で唯一動けるガイルは貴族の嗜みとして常に携帯しているちり紙を取り出すとその悪魔の亡骸を手早く包む。
そしてそれを持って足早にパーティー会場の外へと向かった。
元々Gが奥へと入ってくるのに合わせて人垣が左右に割れていたのでガイルは悠々と外に出ることができた。
ガイルはパーティー会場の外にある茂みの奥の地面に軽く穴を掘り、その中にGの死骸を埋めた。
「これで良し」
ガイルは田舎育ちのため虫に耐性があった。
この程度にいちいち大騒ぎしていたらとてもではないが田舎に住めない。
ガイルは特に気にすることなくパーティー会場へと戻った。
「勇者だ」
「彼は誰だ? どこの家の者だ」
「……素敵」
ガイルが再びシャンデリアの光の照らす表舞台へと戻ってくると状況は一変していた。
誰も彼もがそれまで路傍の石としか見ていなかった男に熱い視線を送っている。
「?」
それを不思議に思い、首を傾げるガイル。
そんな彼の元に一人の女性が近づいてきた。
「貴方、さっきの婚約の話、考え直してあげてもよくってよ」
真っ赤のドレスに身を包んだマッティーニ男爵家の長女にして時期男爵であるケイトだった。
「えっ?」
突然そう言われて考えが追い付かないガイル。
「お待ちなさいっ!」
しかし、そんな二人の間に割って入った女性がもう1人。
「殿下?」
それはさきほどガイルに守られたシルヴィア第一王女だった。
「彼はわたしと婚約するのです。貴女は下がっていなさい」
「はっ?」
突然の事態に混乱するガイル。
「殿下、この男は男爵家の三男です。身分がつり合いませんわ」
「そうです殿下。殿下にふさわしいのはこの僕です」
ケイトに続いてシルヴィアの後をついてきたローランドもそうシルヴィアを諌めた。
「お黙りなさい。我が国は武門を重んじる国。然るべき力を持つ者には然るべき立場が与えられるべきです。そこに身分の違いなどは微々たるものです」
「しかし……」
「くどいですよローランド。それよりもさっきのあのザマは何ですか? あれでわたしを守れるとでも?」
「ぐっ……」
そう言われてはぐうの音も出ないローランド。
「え~っと……」
ようやく事態が呑み込めたガイルは目の前の王女に向かってこう言った。
「それではお世話になります」
「はいっ、旦那様♡」
シルヴィアはにこりと微笑んでそう言った。
そんな二人を茫然とした表情で見ているケイト。
そんな彼女にガイルはさっきの告白の答えを返すことにした。
「王女殿下と婚約したのでもう遅いです」
こうしてガイルは第一王女であったシルヴィアと婚姻し、その後サレナ王国の王位を継承して女王となったシルヴィアの王配として末永く幸せに暮らした。
二人の間には一人の男の子と二人の女の子が生まれたがガイルはシルヴィアと話し合って三人を子供の頃から田舎の野山で遊ばせた。
そうして三人の子供たちは『コードG』を目の前にしても怯まない強い人間に育ち、サレナ王国は後世の歴史家から黄金時代と呼ばれる繁栄を迎えることになるのだがそれはまた別のお話。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
自分では自分の作品の良し悪しがわかりませんので ↓ の☆を★に変えて評価をいただけますと今後の参考になりますのでよろしくお願いします(良い評価をいただけると今後の作品作りの励みになります)。
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