えのしま②
無事メイは生しらす丼を完食し、店を出た。
「ご主人様、ナマシラス丼、美味しかったですね!」
メイはご満悦だ。
「じゃあ次は神社にお参りに行こうか。」
「shrine!日本の宗教にかかわるもので、伝統的な建物ですね。」
国語辞典のような解説だ。
そう思っている間にも、メイは高くそびえたつ階段をぴょんぴょんと上る。軽快な動きに若さを感じる。
だが、先ほどからちらちら見えるものがあった。ふわりと浮かんだスカートから、度々こちらを窺っている。
ふむ、白か。悪くないセンスだ。
何かを感じたのだろうか。メイは急に立ち止まり、スカートを抑えた。
振り返りこちらを見下ろしている。
「み、みました?」
メイは焦った表情をしていた。
「見てないよ。白いパンツなんか。」
「見てるじゃないですか!」
しまった、純白のパンツがドストライクでついつい出てしまった。
フリルなどもついておらず、ただただシンプルだったのも逆に好感がもてる。
「さっきから何を言ってるんですか!?変態さんなんですか!?」
しまった、心の声が出てしまっていたか。
メイは顔も目も真っ赤にしてこちらをにらんでいる。
いや、目は元々赤だったか。
今度はスカートを手で抑えながら、メイは再び階段を上り始めた。
ここは江の島のとある神社。なんでも、財福の神様である弁財天が祀られているらしい。
「これが神社ですか!初めて見ました!」
メイは子供のようにはしゃいでいる。なんとか機嫌は戻ったみたいだ。
「ご主人様、おみくじやりましょう!」
「まあまあ、とりあえず落ち着いて。まずはこっちで手を洗って、それからね。」
メイに手水ちょうずなどの参拝マナーを教えた後、賽銭を入れ拝礼した。
「メイは何かお願いした?」
「えへへ…内緒です!」
メイは子供っぽく笑った。こういう一面も、可愛らしく見える。
そのあと引いたメイのおみくじは凶だったため、所定の場所に結んでおいた。
「次はあのタワーに登ってみようか。」
俺は江の島にあるいびつな形をした塔を指さした。
「そうですね、いい景色が見れそうです!」
料金を払い、エレベーターで展望台まで登った。
エレベーターが開くと、そこには江の島・湘南の景色が一望できる大パノラマが広がっていた。
「うわー海ですよ海!ずっと向こうまで海です!」
メイはまた子供のようにはしゃいでいる。
「そうえいば、メイって何歳なの?」
「え…?よく聞こえませんでした。それよりも、せっかく来たので、2人で写真撮りましょう!」
メイは俺が持っていたスマホを手に取ると、自撮りモードで撮影し始めた。
「ご主人様、もっと近づかないと入りません!」
-パシャ-
メイは必死に体を寄せてくるが、俺はついついぎこちなさが出てしまい、離れてしまう。
仕方がない、女性に免疫がないのだから。許してくれ。
なんとか1枚撮ることができた。
笑顔の美少女と、ひきつった顔の俺。このコントラストが2人の心の距離を物語っているようだ。
とは言え、こんな美少女と一緒に写真を撮れることはそうそうない。うん、家宝にしよう。
「海が見えるカフェがあるから、最後にそこに行こうか。」
「そんなおしゃれな場所が!?」
案内したカフェはオープンテラスで、湘南の景色を一望できる。
なんでも、日本初のフレンチトースト専門店のようで、外はカリカリ、中はトロトロで著名人も虜になっているらしい。
どうでもいいが、メイ曰く、フレンチトーストの"フレンチ"はフランスとは関係ないらしい。
「わぁ、とっても美味しそうですね!」
「そうだね。熱いうちに食べちゃおうか。」
海を見ながらフレンチトーストを食べ、コーヒーを飲む。実に優雅だ。
「イギリスでも海に行ってた?」
「そうですね、サクヤ様によく連れて行ってもらいました。サクヤ様は、海がお好きでしたから。」
メイはどこか遠くを見つめている。
「サクヤって、メイにとってどんな人だった?」
聞いてはいけないことのような気がしたが、聞かずにはいれなかった。
「そうですね…、とても大切な人なんだと思います。サクヤ様にとっては、ただのメイドだったのかも知れませんが。」
「サクヤのこと、好きだったの?」
「…。」
メイは何も言わなかった。
帰りの電車では、メイはうつろうつろしていた。さすがに疲れたのだろう。
幸い最寄り駅から家まで徒歩5分。疲労困憊でもなんとか歩いて帰れる距離だ。
「ご主人様、今日はありがとうございました。とっても楽しかったです!」
「喜んでもらえてよかったよ。いつも家事やってもらってるから、お礼になればいいけど。」
「いえ、家事は仕事ですから。ただ、これからもまた一緒に遊んでもらえると嬉しいです!」
「ああ、またどこか行こうね。」
俺にとっても、美少女と遊べるなんて今までにない貴重な体験だった。
生きていると、こんなに楽しいことがあるのか。
メイが来る前の無気力な自分に教えてやりたい、そう思った。
その日の夜は、どこからかすすり泣く声が聞こえたような気がした。いや、気のせいだろう。