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月不見月の彼女  作者: 107(ひゃくなな)
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えのしま②

無事メイは生しらす丼を完食し、店を出た。


「ご主人様、ナマシラス丼、美味しかったですね!」


メイはご満悦だ。


「じゃあ次は神社にお参りに行こうか。」


「shrine!日本の宗教にかかわるもので、伝統的な建物ですね。」


国語辞典のような解説だ。


そう思っている間にも、メイは高くそびえたつ階段をぴょんぴょんと上る。軽快な動きに若さを感じる。


だが、先ほどからちらちら見えるものがあった。ふわりと浮かんだスカートから、度々こちらを窺っている。


ふむ、白か。悪くないセンスだ。


何かを感じたのだろうか。メイは急に立ち止まり、スカートを抑えた。


振り返りこちらを見下ろしている。


「み、みました?」


メイは焦った表情をしていた。




「見てないよ。白いパンツなんか。」


「見てるじゃないですか!」


しまった、純白のパンツがドストライクでついつい出てしまった。


フリルなどもついておらず、ただただシンプルだったのも逆に好感がもてる。


「さっきから何を言ってるんですか!?変態さんなんですか!?」


しまった、心の声が出てしまっていたか。


メイは顔も目も真っ赤にしてこちらをにらんでいる。


いや、目は元々赤だったか。


今度はスカートを手で抑えながら、メイは再び階段を上り始めた。










ここは江の島のとある神社。なんでも、財福の神様である弁財天が祀られているらしい。


「これが神社ですか!初めて見ました!」


メイは子供のようにはしゃいでいる。なんとか機嫌は戻ったみたいだ。


「ご主人様、おみくじやりましょう!」


「まあまあ、とりあえず落ち着いて。まずはこっちで手を洗って、それからね。」


メイに手水ちょうずなどの参拝マナーを教えた後、賽銭を入れ拝礼した。


「メイは何かお願いした?」


「えへへ…内緒です!」


メイは子供っぽく笑った。こういう一面も、可愛らしく見える。


そのあと引いたメイのおみくじは凶だったため、所定の場所に結んでおいた。










「次はあのタワーに登ってみようか。」


俺は江の島にあるいびつな形をした塔を指さした。


「そうですね、いい景色が見れそうです!」


料金を払い、エレベーターで展望台まで登った。


エレベーターが開くと、そこには江の島・湘南の景色が一望できる大パノラマが広がっていた。


「うわー海ですよ海!ずっと向こうまで海です!」


メイはまた子供のようにはしゃいでいる。


「そうえいば、メイって何歳なの?」


「え…?よく聞こえませんでした。それよりも、せっかく来たので、2人で写真撮りましょう!」


メイは俺が持っていたスマホを手に取ると、自撮りモードで撮影し始めた。


「ご主人様、もっと近づかないと入りません!」


-パシャ-


メイは必死に体を寄せてくるが、俺はついついぎこちなさが出てしまい、離れてしまう。


仕方がない、女性に免疫がないのだから。許してくれ。


なんとか1枚撮ることができた。


笑顔の美少女と、ひきつった顔の俺。このコントラストが2人の心の距離を物語っているようだ。


とは言え、こんな美少女と一緒に写真を撮れることはそうそうない。うん、家宝にしよう。








「海が見えるカフェがあるから、最後にそこに行こうか。」


「そんなおしゃれな場所が!?」


案内したカフェはオープンテラスで、湘南の景色を一望できる。


なんでも、日本初のフレンチトースト専門店のようで、外はカリカリ、中はトロトロで著名人も虜になっているらしい。


どうでもいいが、メイ曰く、フレンチトーストの"フレンチ"はフランスとは関係ないらしい。


「わぁ、とっても美味しそうですね!」


「そうだね。熱いうちに食べちゃおうか。」


海を見ながらフレンチトーストを食べ、コーヒーを飲む。実に優雅だ。


「イギリスでも海に行ってた?」


「そうですね、サクヤ様によく連れて行ってもらいました。サクヤ様は、海がお好きでしたから。」


メイはどこか遠くを見つめている。


「サクヤって、メイにとってどんな人だった?」


聞いてはいけないことのような気がしたが、聞かずにはいれなかった。


「そうですね…、とても大切な人なんだと思います。サクヤ様にとっては、ただのメイドだったのかも知れませんが。」


「サクヤのこと、好きだったの?」


「…。」


メイは何も言わなかった。










帰りの電車では、メイはうつろうつろしていた。さすがに疲れたのだろう。


幸い最寄り駅から家まで徒歩5分。疲労困憊でもなんとか歩いて帰れる距離だ。


「ご主人様、今日はありがとうございました。とっても楽しかったです!」


「喜んでもらえてよかったよ。いつも家事やってもらってるから、お礼になればいいけど。」


「いえ、家事は仕事ですから。ただ、これからもまた一緒に遊んでもらえると嬉しいです!」


「ああ、またどこか行こうね。」


俺にとっても、美少女と遊べるなんて今までにない貴重な体験だった。


生きていると、こんなに楽しいことがあるのか。


メイが来る前の無気力な自分に教えてやりたい、そう思った。












その日の夜は、どこからかすすり泣く声が聞こえたような気がした。いや、気のせいだろう。

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