はじめてのおでかけ
メイは掃除を終えるとまた手持無沙汰になってしまった。
「ご主人様、他に私ができることはございますか?」
「ん~そうだね。お腹が減ってるから、何か作ってもらえると嬉しいけど」
「わかりました、お任せください!」
メイは笑顔で答えると、冷蔵庫を開け中身を確認した。
「今すぐ作れるものだと、野菜炒めでしょうか…。何か食べたいものはありますか?」
「女の子の手料理だとハンバーグが嬉しいけど。じゃあ、一緒に食材を買いに行こうか?」
「いえ、買い物なら私一人で大丈夫ですので、ご主人様は家でおくつろぎください。」
メイは一人で出かける準備をし始めた。
だが、メイのことをもっと知るためにも、一緒に出掛けたい。
「でも来たばっかりだから、このあたりのことまだわからないよね?いろいろお店とか紹介したかったし。荷物持ちも必要でしょ?」
「ありがとうございます。では、一緒にお買い物、行きましょうか♪」
何とか二人で出かける口実を作ることに成功した。
-商店街-
都内ではあるが古くからの戸建も多い。人情味がある下町の商店街だ。
家から徒歩5分程と近いが、まさか…
「わー、いろんなお店がありますね!」
この少女は、メイド服のままだ。というかこの服で歩いて家に来たのか。
「うわ、すごい格好の人が歩いている」
「髪の毛赤いし、何かのコスプレ?」
周りの人は、この少女がコスプレをして街を歩いていると思っているらしい。
確かに、普通は赤い髪の毛のメイドがこの下町に、この日本にいるとは思わないよな。
メイもその様子に気付いたのか、少しうつむき始めた。
「あの…私の服装…何か変でしょうか?」
「メイドとしてはおかしくはないんだろうけど…、日本では目立つ、かな。」
「そうですか…。次からは、違う服装にしますね…。」
少し元気がなくなってしまった。
ここは何とか励まして、元気になってもらいたい。
「今の服装でいいんじゃないかな。似合ってると思うし。」
「ほ、本当ですか?似合ってますか?変じゃないですか?」
「変じゃないし、似合ってるよ。ちょっと目立つかもしれないけど、別に変える必要はないんじゃないかな。」
「ありがとうございます!ご主人様に『似合ってる』っておっしゃっていただけるの、とっても嬉しいです!」
メイは暗い表情から一転、満面の笑みに変わった。
女の子はやはり笑顔のほうがいい。改めてその良さを確認し、自分も思わずにやついてしまった。
「えっと、ハンバーグを作るのって、何が必要なんだっけ?」
「そうですね、まずはお肉でしょうか。」
お肉屋さんといえば、行きつけのお店があった。
夫婦で営んでいる肉屋で、口上手で気前のいい店主の旦那さんと、美人でおしとやかな奥さんの明るい雰囲気のお店だ。
お店に着くと、いつも通り店主が話しかけてきた。
「どうも!あれ、今日は女の子と一緒なのか、珍しいな!ははは!」
「え、ああ。そうそう。ちょっと知り合いの子で。」
「なーんだ、彼女じゃないのか!かなりのべっぴんさんだから、君にはハードル高いか!」
しれっと失礼なことを言うな。でもメイは、なぜかまんざらでもない顔だ。
「初めまして。雨宮と申します。今日からこのあたりに住み始めましたので、これからよろしくお願いしますね!」
「お、そうかいそうかい!じゃあ、かわいい子にはおまけしちゃおうかな!」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
店主はデレデレと鼻の下を伸ばしていた。メイの可愛さを前にそうなってしまうのは仕方がないことだが、奥にいる奥さんの目線は冷ややかだった。