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War of the ボッチ   作者: 前田 隆裕
第二章
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研修オリエンテーション①-1

 どれだけ寝ていただろうか。気が付けば電車は止まっていた。どうせ目的地は終点だから寝過ごすなんてことはない。逆に折り返しでまた戻ってしまうことはあるが、まさか・・・・・・。 

 

 少し不安になって車窓を見ると見慣れた目的駅のホームだ。ほっとして眠気眼で荷物をまとめて電車を降りる。田舎である地元にしては百貨店もある大きな駅なのだがやはり誰も人がいない。ほんとに夜行バスが来るのかますます不安になりながらホームを出ると、目に飛び込んできたのは見知った風景ではなく、中世ヨーロッパにありそうな広場だった。これだけイレギュラーなことが起こればもう驚く気力も失せる。


 「はぁ、今度は何なんだ・・・」


 広場の中央には何やら壮麗な像があり、噴水の水しぶきに光が乱反射して幻想的な様子を醸し出している。そしてまた月明かりが最高にロマンチックだ。その上、今まで人一人見てこなかったのにもかかわらず、この広場には無数の人がいた。数えきれない。まあ、がやがやして慌てているところを見るに、彼ら彼女らも自分と同じように何もわからないままここに来たのだろう。もう何かの祭りのようにしか見えない。


 とりあえず集団の中に入っていった。こういう赤の他人同士の最初の会話なら楽だ。ありきたりの事を話すだけで会話の場が持つ。学生の頃の入学時が良い例だ。

 大学生なら「出身はどこ?」とか「ゼミはどうする?」など、高校生なら「部活何する?」とか「何組だった?」とかである。

 しかし時間が過ぎると、というかあっという間に、気の合う者同士が「グループ」を形成し、一つ国ができる。文化も違えば言語も異なるといえば大げさだが、他の者は容易に立ち入れなくなる。いままで「ありきたりのこと」という共通言語で話せていたのが、それを失えば全く会話ができなくなる。


 私はアニメを見たり漫画を読んだりはするがそのことについて誰かと共有したいと思ったことはない。世にいうオタクと呼ばれる者ほど熱中していないからだ。

 勉強はやることがないから消去法でやっていただけだし基本的に自己満足、親の機嫌取り材料にすぎない。

 スポーツをやればチームの足を引っ張るので、白い目で見られる苦痛から即フェードアウトする。チームではないスポーツ、テニスや卓球などはいつも対戦相手となるペアがおらず、壁とお友達だった。時々先生が相手をしてくれたが、もうそれが気遣いとしか感じられない。その優しさが胸にぐさりときたのを覚えている。あの時周囲はどんな目で自分を見ていたのか想像したくない。


 今はなにもないクリーンな関係だから「共通言語」も通じる。まだグループの一員でなさそうでやさしそうな男子を見つけ、声をかけてみる。若干私よりも若そうだ。いや人は見かけによらぬもの。私なんか社会人になっても大学生、ひどい場合は高校生に見間違えられる時もあるくらいだからな。因みに床屋で年齢クイズを出せば今までの初回誤答率は百パーセントだ。


 「すみません。ここはどこなんですか」

 「いや、わかりません。僕が知りたいくらいです。僕もてんぱってるとこなんです。なんか朝起きたらだれもいなくなってるし、なんか変な生き物?に襲われるし、散々な目にあわされましたよ。それで逃げ回っていたら・・・・・・」


と、ここで不意に広場を照らしていた幻想的な光が一斉に消えた。どよめきが起きる。テーマパークならここで花火があがり歓声が沸くのだが、ここはそんな場所ではない。いやむしろ「そんな場所」であってほしかった。


 だがまた一斉にあの「何か」に襲われる可能性がある。皆も同様だろう。

 広場は緊張感に包まれた。



 しかしその緊張感は一瞬だった。


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