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夜になり、マカニ共和国での移動もあと少しとなってきた。私は、久しぶりに二人に夕食とーーデザートを作った。
パン用の強力粉と薄力粉を合わせて、塩を加える。そこに、水を入れて、練る。ひとまとめにして、とにかくとにかく捏ねる。まぁ、こんなもんかな? と思ったところで、重ねるように畳んで、包丁でカットしていく……。後は普通に茹でれば、おうどんの出来上がり。もちっとするように、強力粉を混ぜたけど、作り方は合ってるかなぁ。
「もっと、玲那だった時に料理を色々やっておけばよかったな……」
思い返しても時間はもう戻らない。どのみち、死んでると思うから。
私は、屋台で買った加工肉を別で茹でる。その小鍋に、チャイブというハーブも一緒に入れた。フライパンでオリーブオイルで少し焦がしたニンニクをお肉が茹で上がったところに、入れて。味付けは、シンプルに塩胡椒。うどんを茹でたら、スープにイン。
あ、オーブンもポーンと鳴ったみたい。オーブンの扉を手前に開くと、バタークッキーのいい香りがした。私はミトンをつけて、クッキーを取る。ダイニングテーブルで少し冷ましてから、お皿に装った。
私は、レオとノエミに声をかけた。
「レオーノエミーできたわー!」
ガチャリと、音がして階段からレオとノエミが下りてくる。
「リース、ありがとうー!」
「サンキュー」
「馬車、何処かに止めて、こっちで食べる?」
「いいかもしんねえな」
レオは私が作ったクッキーを一個食べた。食べた瞬間、顔色が一気に変わる。
「うまっ!!」
「美味しいなら良かったわ」
「うん、やっぱリースのお菓子は最高だな。お前聖女じゃねえの?」
「またそんな事言ってる! 違うわよ」
「お兄ちゃん、いくらリースのお菓子が美味しいからってつまみ食いはダメよ!」
「わーかってるよ、でもうまそうだったんだよ」
レオは、もう一つクッキーを取ろうとしたけど、ノエミに手を叩かれた。
「私、ちょっと馬車を止めてくるね!」
「わかったわ!」
「おう」
私は階段を上って行く。馬車の景色は、整備された街並みの場所から、砂地へと移動していた。私は安全そうな場所へと馬車を移動させた。
再び下に下りて行くと、レオとノエミがダイニングテーブルにうどんを置いておいてくれた。フォークでおうどんをこれから食べる。
「いただきまぁす」
フォークでうどんを食べるなんて、新鮮だなぁと思いつつ、引っ掛けて食べる。レオは男子なせいか、肉が入っているので感動していた。
「うーわー肉うんめっ! ニンニク最高!」
「ふふ、明日にはニンニクの臭いは消えるかしら?」
「心配だけど、とっても美味しいわ!」
うん、おうどんは食べにくいけど、モチモチしていて悪くない。美味しいなぁ……と思った。
生きるって食べる事だな、そんな風に感じた。
それまでは微妙な関係だとしても、ご飯を食べている間は、皆笑顔になれる。美味しいご飯なら尚更だね。
私は、おうどんを食べながら、気持ちも暖かくなるのを感じた。
「リースの料理って、なんかすごくあったかくなるわよねぇ」
「そう? 嬉しいわ」
「確かに。なんかめっちゃ元気が出るんだよな。何度も食べたくなるよ」
二人があまりにも褒めてくれるので、私は恥ずかしくなった。赤面しながら、スープをすする。
「二人とも、褒め過ぎじゃない? 二人のご飯だって美味しいのに」
「お世辞でも社交辞令でもないわ、本当に元気が出るの! ひだまりみたいな感じで……」
「俺は本当の事しか言わねーからな。やっぱ、お前……聖女?!」
「いや、だからそもそも魔法が使えないから聖女じゃないってば!!」
私はレオに盛大にツッコミポーズを取った。二人が幸せそうな顔をしているのを見ると、本当嬉しい。
「でも……この世界に色々売っていたら、この麺物にはお団子とかに小豆をつけて、ぜんざいにしたかったなぁー……」
「ぜんざい? 何じゃそりゃ?」
「あ、わからないよね。豆なんだけど、それを煮詰めて作るの。売ってもいないだろうし、手に入らないと思うわ……」
きせきみの世界は、中世ヨーロッパを土台に作られている為、小豆などは普及していない。主食もパンやパスタだしね。そう思うと、日本の文化もかけがえのないものなんだよね。
「豆はサラダに混ぜたりスープに入れたりするイメージだわ。甘い豆は食べた事ないかも。リースって色んな事を知っているのね」
「今の貴族は珍しい物も食べるんだな、すげえや」
私は、ハッとして誤魔化す。
「あっ! 私も食べた事はないわよ?!」
「なんで食った事がねえ物がコレに合うんだって、わかるんだ?」
レオの的確な指摘に、私は更に焦りだす。どんな言い訳すればいいか、考える。えーっと、えーっと、えーっと……!
「食べた事ないけど、本で読んだのよー!!」
「そうなんだー! リースも勉強家なのね、すごいわあ!!」
ノエミが普通に納得してくれたので、にこにこと笑ってやり過ごした。レオは不思議な顔をしていたが、私がにこっと笑いかけると、そっぽを向く。耳が赤くなっているけど、どうしたんだろう?
たっぷりとご飯タイムを取って、私とレオは上に上がる。ノエミは洗い物をしてくれると言うので、お願いした。
「ノエミ、ありがとう。お願いね〜」
「はいは〜い」
ノエミは水を出しながら、返事をした。馬車へと戻ると、レオは少し無口になる。
「美味しかったね」
「あぁ、そうだな」
レオはまた、何かを考え込んでいそうな顔になる。どうしたんだろう?
「どうしたの?」
「何が?」
レオは、聞き返すけれど、明らかに動揺してる。私、何かしたかな? ……短剣を取りに行くって言ったからかな?
「……ごめん、その、レオが短剣の事で私にイライラ
しているなら、謝るわ。でも、やっぱり諦めきれなくて」
「お前、またその話かよ!! いい加減にっ!」
レオがくわりと、表情を険しくして言う。私の方をぐるっと一気に向いて、だけどそこから私を見つめると動きが止まった。
「…………レオ?」
ジッと見つめるレオ。真っ直ぐに私を見つめていたと思うと、目が泳いで、晒してくる。
そっか、そんなに……私が短剣を取りに行くのが嫌だったんだな。
「……何でも……ねえよ」
ブツブツとレオは呟いていた。
「ごめんね。でも、短剣は取りに行くから。どうしても……自分の為に必要で……」
「今その話をするなよ」
「でも…………」
私が俯くと、レオはイライラして、そっぽを向いてしまう。私は焦って近づくと、レオは怒ってしまった。
「うるせーな!! 今その話をしたい訳じゃないんだよ!!!!」
私は焦ってレオの手を掴んだ。
「ごめんね、レオっ! 私、そんなに嫌な思いをさせていたなん…………」
私は言いかける途中で、レオに手を握られた。私が掴んだ反対の手を上から被せるように、握っている。緊張しているのか、手がぎこちない。
私はその時はじめて、彼は怒っている訳ではなくて、私と二人きりな事に意識しているんだと気づいた。顔は恥ずかしそうに、私ではなく、何処かを見ている。
「………………」
私はどうしたらいいのか、わからなかった。
レオはとてもいい友達で、仲間で、頼れる人で。気のいい近所のお兄ちゃんみたいな感じで。
こんな風にしてくる事がなかったから。
私はOLだった頃だって、こんな風に異性にされた事はない。寧ろ、異性の友達はいない。なんて言えばいいんだろう。どうしたら……
「なんか言えよ」
「なっなんかって……」
急にレオがボサッと話すので、焦ってしまう。手を握られたまま、どうしたらいいのかわからなかった。
「お前がボンボンの事が好きなのは、わかってんだよ」
「…………」
「でも、少しだけ、こうしてえんだ……」
ガッチガチに固まったまま、何もできないでいる。腕が痺れてきた。わ、私はどうしたらいいの……
「短剣は取りに行くな」
頭の中がプチパニックで渋滞していたところ、レオは緊張した空間を埋めるように、言った。
「え?」
「お前になんかあったら、ボンボンにも示しがつかねえし、それに……俺も嫌だ」
「レオ、私……それでも、やっぱり…………」
レオは急に手を離して、また怒った。
「行くなっつてんだろうが!!」
「でも、私、どうしても必要なの。理由は言えないけど、どうしても…………」
「ボンボンはその理由、知ってんのか?」
「…………うん」
「ボンボンは知ってて、俺には言えないのか」
私は申し訳ない気持ちになる。事情が事情だけに、言えない。ここでカイルを出されると、何にも言えなくなってしまう。
「リースにとっての、俺って、ただ一緒にいるだけの野郎かよ。リースが頼る相手は、いつもあいつだもんな……俺にだって、頼ってくれよ……俺だって、リースを…………リースの事が………………
レオが言いかけていた時に、取手が開き、ノエミがにこにこで戻って来た。
「洗い物、終わったわよ〜!」
「あ、ありがと……」
私がノエミに言うと、レオは、馬車の椅子を拳でバフっと叩き、黙ってしまった。
「………………? 何かあった?」
「何でもねえよ」
「うん」
ノエミは、上機嫌で、私の隣に座る。タイミングはまずかったけれど、ノエミが途中で来てくれてホッとしてしまった。レオは窓の外をずっと見つめて、私を一度も見なかった。
……ごめんね。でも、私やっぱり、カイルが好きなんだ。
この世界に来て、一番彼に助けてもらったの。沢山、助けてもらった。場面も、心も。好きになる事で、苦しみもあるけど、諦めていた自分を、ほんの少し好きになれたんだ。
ーーーーーーーーだから、レオとは友達でいたい。
短剣は、取りに行く。どんな形であれ、私に必要なら、私は諦めたくない。
これ以上、二人を巻き込めない。
私は、外の景色を見つめた。




