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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
4章
95/161

6

 夜になり、マカニ共和国での移動もあと少しとなってきた。私は、久しぶりに二人に夕食とーーデザートを作った。


 パン用の強力粉と薄力粉を合わせて、塩を加える。そこに、水を入れて、練る。ひとまとめにして、とにかくとにかく捏ねる。まぁ、こんなもんかな? と思ったところで、重ねるように畳んで、包丁でカットしていく……。後は普通に茹でれば、おうどんの出来上がり。もちっとするように、強力粉を混ぜたけど、作り方は合ってるかなぁ。



「もっと、玲那だった時に料理を色々やっておけばよかったな……」


 思い返しても時間はもう戻らない。どのみち、死んでると思うから。


 私は、屋台で買った加工肉を別で茹でる。その小鍋に、チャイブというハーブも一緒に入れた。フライパンでオリーブオイルで少し焦がしたニンニクをお肉が茹で上がったところに、入れて。味付けは、シンプルに塩胡椒。うどんを茹でたら、スープにイン。

 あ、オーブンもポーンと鳴ったみたい。オーブンの扉を手前に開くと、バタークッキーのいい香りがした。私はミトンをつけて、クッキーを取る。ダイニングテーブルで少し冷ましてから、お皿に装った。



 私は、レオとノエミに声をかけた。


「レオーノエミーできたわー!」


 ガチャリと、音がして階段からレオとノエミが下りてくる。


「リース、ありがとうー!」


「サンキュー」



「馬車、何処かに止めて、こっちで食べる?」



「いいかもしんねえな」


 レオは私が作ったクッキーを一個食べた。食べた瞬間、顔色が一気に変わる。


「うまっ!!」


「美味しいなら良かったわ」


「うん、やっぱリースのお菓子は最高だな。お前聖女じゃねえの?」


「またそんな事言ってる! 違うわよ」


「お兄ちゃん、いくらリースのお菓子が美味しいからってつまみ食いはダメよ!」


「わーかってるよ、でもうまそうだったんだよ」



 レオは、もう一つクッキーを取ろうとしたけど、ノエミに手を叩かれた。



「私、ちょっと馬車を止めてくるね!」


「わかったわ!」


「おう」


 私は階段を上って行く。馬車の景色は、整備された街並みの場所から、砂地へと移動していた。私は安全そうな場所へと馬車を移動させた。


 再び下に下りて行くと、レオとノエミがダイニングテーブルにうどんを置いておいてくれた。フォークでおうどんをこれから食べる。



「いただきまぁす」


 フォークでうどんを食べるなんて、新鮮だなぁと思いつつ、引っ掛けて食べる。レオは男子なせいか、肉が入っているので感動していた。



「うーわー肉うんめっ! ニンニク最高!」


「ふふ、明日にはニンニクの臭いは消えるかしら?」


「心配だけど、とっても美味しいわ!」



 うん、おうどんは食べにくいけど、モチモチしていて悪くない。美味しいなぁ……と思った。

 生きるって食べる事だな、そんな風に感じた。

 それまでは微妙な関係だとしても、ご飯を食べている間は、皆笑顔になれる。美味しいご飯なら尚更だね。


 私は、おうどんを食べながら、気持ちも暖かくなるのを感じた。



「リースの料理って、なんかすごくあったかくなるわよねぇ」


「そう? 嬉しいわ」


「確かに。なんかめっちゃ元気が出るんだよな。何度も食べたくなるよ」



 二人があまりにも褒めてくれるので、私は恥ずかしくなった。赤面しながら、スープをすする。



「二人とも、褒め過ぎじゃない? 二人のご飯だって美味しいのに」


「お世辞でも社交辞令でもないわ、本当に元気が出るの! ひだまりみたいな感じで……」


「俺は本当の事しか言わねーからな。やっぱ、お前……聖女?!」


「いや、だからそもそも魔法が使えないから聖女じゃないってば!!」



 私はレオに盛大にツッコミポーズを取った。二人が幸せそうな顔をしているのを見ると、本当嬉しい。



「でも……この世界に色々売っていたら、この麺物にはお団子とかに小豆をつけて、ぜんざいにしたかったなぁー……」


「ぜんざい? 何じゃそりゃ?」


「あ、わからないよね。豆なんだけど、それを煮詰めて作るの。売ってもいないだろうし、手に入らないと思うわ……」



 きせきみの世界は、中世ヨーロッパを土台に作られている為、小豆などは普及していない。主食もパンやパスタだしね。そう思うと、日本の文化もかけがえのないものなんだよね。



「豆はサラダに混ぜたりスープに入れたりするイメージだわ。甘い豆は食べた事ないかも。リースって色んな事を知っているのね」


「今の貴族は珍しい物も食べるんだな、すげえや」



 私は、ハッとして誤魔化す。


「あっ! 私も食べた事はないわよ?!」


「なんで食った事がねえ物がコレに合うんだって、わかるんだ?」



 レオの的確な指摘に、私は更に焦りだす。どんな言い訳すればいいか、考える。えーっと、えーっと、えーっと……!



「食べた事ないけど、本で読んだのよー!!」



「そうなんだー! リースも勉強家なのね、すごいわあ!!」


 ノエミが普通に納得してくれたので、にこにこと笑ってやり過ごした。レオは不思議な顔をしていたが、私がにこっと笑いかけると、そっぽを向く。耳が赤くなっているけど、どうしたんだろう?


 たっぷりとご飯タイムを取って、私とレオは上に上がる。ノエミは洗い物をしてくれると言うので、お願いした。



「ノエミ、ありがとう。お願いね〜」


「はいは〜い」


 ノエミは水を出しながら、返事をした。馬車へと戻ると、レオは少し無口になる。


「美味しかったね」


「あぁ、そうだな」



 レオはまた、何かを考え込んでいそうな顔になる。どうしたんだろう? 



「どうしたの?」


「何が?」


 レオは、聞き返すけれど、明らかに動揺してる。私、何かしたかな? ……短剣を取りに行くって言ったからかな?



「……ごめん、その、レオが短剣の事で私にイライラ

 しているなら、謝るわ。でも、やっぱり諦めきれなくて」


「お前、またその話かよ!! いい加減にっ!」


 レオがくわりと、表情を険しくして言う。私の方をぐるっと一気に向いて、だけどそこから私を見つめると動きが止まった。



「…………レオ?」



 ジッと見つめるレオ。真っ直ぐに私を見つめていたと思うと、目が泳いで、晒してくる。


 そっか、そんなに……私が短剣を取りに行くのが嫌だったんだな。



「……何でも……ねえよ」


 ブツブツとレオは呟いていた。



「ごめんね。でも、短剣は取りに行くから。どうしても……自分の為に必要で……」



「今その話をするなよ」



「でも…………」



 私が俯くと、レオはイライラして、そっぽを向いてしまう。私は焦って近づくと、レオは怒ってしまった。



「うるせーな!! 今その話をしたい訳じゃないんだよ!!!!」


 私は焦ってレオの手を掴んだ。


「ごめんね、レオっ! 私、そんなに嫌な思いをさせていたなん…………」



 私は言いかける途中で、レオに手を握られた。私が掴んだ反対の手を上から被せるように、握っている。緊張しているのか、手がぎこちない。

 私はその時はじめて、彼は怒っている訳ではなくて、私と二人きりな事に意識しているんだと気づいた。顔は恥ずかしそうに、私ではなく、何処かを見ている。



「………………」



 私はどうしたらいいのか、わからなかった。



 レオはとてもいい友達で、仲間で、頼れる人で。気のいい近所のお兄ちゃんみたいな感じで。


 こんな風にしてくる事がなかったから。

 私はOLだった頃だって、こんな風に異性にされた事はない。寧ろ、異性の友達はいない。なんて言えばいいんだろう。どうしたら……



「なんか言えよ」



「なっなんかって……」



 急にレオがボサッと話すので、焦ってしまう。手を握られたまま、どうしたらいいのかわからなかった。



「お前がボンボンの事が好きなのは、わかってんだよ」


「…………」



「でも、少しだけ、こうしてえんだ……」



 ガッチガチに固まったまま、何もできないでいる。腕が痺れてきた。わ、私はどうしたらいいの……



「短剣は取りに行くな」



 頭の中がプチパニックで渋滞していたところ、レオは緊張した空間を埋めるように、言った。


「え?」


「お前になんかあったら、ボンボンにも示しがつかねえし、それに……俺も嫌だ」



「レオ、私……それでも、やっぱり…………」




 レオは急に手を離して、また怒った。


「行くなっつてんだろうが!!」


「でも、私、どうしても必要なの。理由は言えないけど、どうしても…………」



「ボンボンはその理由、知ってんのか?」



「…………うん」



「ボンボンは知ってて、俺には言えないのか」


 私は申し訳ない気持ちになる。事情が事情だけに、言えない。ここでカイルを出されると、何にも言えなくなってしまう。



「リースにとっての、俺って、ただ一緒にいるだけの野郎かよ。リースが頼る相手は、いつもあいつ(カイル)だもんな……俺にだって、頼ってくれよ……俺だって、リースを…………リースの事が………………



 レオが言いかけていた時に、取手が開き、ノエミがにこにこで戻って来た。


「洗い物、終わったわよ〜!」


「あ、ありがと……」



 私がノエミに言うと、レオは、馬車の椅子を拳でバフっと叩き、黙ってしまった。


「………………? 何かあった?」



「何でもねえよ」


「うん」


 ノエミは、上機嫌で、私の隣に座る。タイミングはまずかったけれど、ノエミが途中で来てくれてホッとしてしまった。レオは窓の外をずっと見つめて、私を一度も見なかった。




 ……ごめんね。でも、私やっぱり、カイルが好きなんだ。

 この世界に来て、一番彼に助けてもらったの。沢山、助けてもらった。場面も、心も。好きになる事で、苦しみもあるけど、諦めていた自分を、ほんの少し好きになれたんだ。


 ーーーーーーーーだから、レオとは友達でいたい。




 短剣は、取りに行く。どんな形であれ、私に必要なら、私は諦めたくない。


 これ以上、二人を巻き込めない。



 私は、外の景色を見つめた。





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