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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
1章
5/161

1 彼女は悪役令嬢

「あ……大丈夫です……すみませ……


 私は呟くと、途中で止まって、自分の手を見た。おかしい…………自分の手ではない。こんな白くて綺麗な手をしていない。ふっと冷静になって、自分の姿を見る。マキシ丈の抑えめネイビードレス、フリルの付いた白襟にチェック柄リボン……これは……見覚えがある。


 私の好きな乙女ゲーム、きせきみの世界にある、カメリア学園の制服。しかも自分は水浸し。



「どっ……どっ……どういう事なの?!」



 (だって、さっきまで私……旅館でお風呂に入っていたはず………)



 私は頭を抱える。どうしてだろう?露天風呂でどうなった?……確か頭を打って、その衝撃でお風呂の中にダイブしたはず……



「リース嬢? お身体は大丈夫ですか…?」



 声をかけられた。玲那はパッと見ると、きせきみの登場人物、ノエルが心配して跪いている。



「えっあっ……えぇ、ええ。大丈夫……」


 反射的に私は答える。頭を打った衝撃で、温泉の中で、うとうとし始めたのかな、私。何が起きているの……?これは……夢? 夢にしてはとても再現度の高い夢だよね。

 あぁ、ノエルは低身長だけれど、天使のように可愛いらしい見た目の従者キャラだったよね。癖っ毛の金髪に青い瞳……。さすがだよ。可愛いね。って、違う! って。私は頭がぼやーっとしたまま、立ち上がった。



「リース嬢、ラクアティアレントに落ちてしまった様なのです。カイル様が魔法で助け出しましたが、怪我などはございませんか?」



 ラクアティアレントーーーースペラザ王国の大切にしている水ーー

 カメリア学園の校内に設置されている、この国の王家が引き継ぎ、大切にしている聖水。ラクアティアレントに落ちたって言うことは、ここは神殿? それとも王宮? リースがラクアティアレントに落ちた? ーーーーあ、でも、落ちた……ということは、王宮ではなく、神殿の二階のエントランスからでも落ちたのかな? ……………………ん? んんん?? ん? んんんんんん????




 ーーーーん? リース?


「リースっ??!!」



 私は叫ぶ。大理石の床にクリスタルとムーンストーンと木で出来た壁に、私の声がとても響く。



「リース嬢!!? お気を確かに!!」


 ノエルはおろおろと焦っていた。


 何かがおかしいーー私は急いで噴水に近づいて、水面を覗き込む。これ、私じゃないーーーーーーーーリース・ベイビーブレス・ティルト。私が大好きな、きせきみに登場人物として出てくる、悪役令嬢。そう、つい昨日私がデータをゴミ箱に捨てた、あの令嬢。

 私は自分の頬を両手で抱え、水浸しのままで顔が青ざめていく。きせきみの世界に、私はいるの?! 



「リース、大丈夫か?」


 ふいに声をかけられた。ノエルの後ろにいた男性。

 ……ーーーーカイルだ。きせきみの登場人物で、ダナ様の弟ーー白い肌に、髪が光に照らされて、ロイヤルブルーのキューティクルができていた。闇の属性とも言われる、漆黒の髪は、強い魔力を持つ証ーー王家に伝わる藍色の瞳を持つ人ーーーー。私はカイルの方を向いた。だけど、カイルの顔は、私が知るカイルじゃなかった。



「…………っ!……西嶋…さん……?」



 彼の顔は、私が密かに好意を寄せていた、職場の西嶋さんに似ていた。髪の毛の色や瞳や肌色や背格好は物語のカイル王子。


「………リース?」


 カイルは、玲那(わたし)の顔ーー正しくはリースの顔の前で、おーいと手を振る。




「…………どういう事????」


 あのー……頭が追いつかないんですけど。



「……何だか本当に具合が悪そうだね。……ノエル、救護室に連れて行った方が良さそうだ」



「かしこまりました。では救護の部屋の者に申し付けてきます。リース嬢、とても顔色が悪いですから」ノエルは走って行く。



「……大丈夫でしたか?!」


 そこに……一人の女性が駆けつけて来た。この物語の主人公、フィオレ嬢。


 奥の間から、神官様……(この世界で神主や巫女のような役割をする人)を連れて来た。



 ラクアティアレントは、この国の王家に伝わる高貴な水。(歴代の王から受け継ぐ小さな海を所有しているーーーー)学園内の象徴として、噴水が置かれていて、ここは本来生徒は立ち入り禁止。それほど高貴な水な為、この噴水には魔法の力がある。噴水に落ちたなら、何か身体的変化、精神的変化があるかもしれないーーフィオレ嬢はとても正義感の強い女性。リースを心配して連れて来てくれたのかも。



「……何があったのです?」


 神官は、フィオレ嬢に急いで手を引かれて来たのか、状況が理解できないでいた。



「ラクアティアレントにリース嬢が落ちたのです。救護室に連れて行きます。服が濡れたままでは連れて行けないーー乾かさないと」


「……ラクアティアレントに落ちた?! 大変だ、何か異常はありませんか?」



 神官は不安そうな表情で私を見た。うん……わかるよ、言いたい事……。だけど、今、私はそれどころじゃないんですよ!



「え、えぇ、とりあえず、私は大丈夫です。……あの、皆さん、少しお時間を下さい……」



 ちょっと待ってと、手を前に押し出して、皆に背を向けて、深呼吸をした。ーーで? こんな時は、私はどうすればいいんだっけ?!



 カイルは、私の返事を待たずにーー指を向けて上下させ、小さく呟く。魔法が私に放たれて、身体全体が乾いた状況に戻った。綺麗に乾いたなぁと私が思うと、カイルが抱き上げる。



「ぎゃあっ……なっ! 何をするの?!」



「救護室に連れて行く」



「自分で歩けますっ…!!」



 私は赤面しながら、精一杯の抵抗をしようと、ジタバタする。顔が西嶋さん似なのだ。カイル王子を見ることができない。


 それよりも、お姫様抱っこじゃないですか! これは!!


 てか、どうなってるんですか?! なんでリースなんですか?? ここ何処ですか???? 私、どうしちゃったのー?!っ



「何があったか知らないが、あの水に派手に触ったなら、無理しない方がいい。このまま救護室に連れて行く。神官様ーー学長に頼んで、明日リース嬢に異常なかったか診てもらえるように頼んで下さい。それから…フィオレ様は、他の生徒達があまり騒がぬように配慮お願いします。宜しくお願いします」



「…………わかりました。気にしないように皆に伝えます。リース嬢、ご無理なさらないでくださいね……」



 私はどうしていいかわからず、赤面したまま、俯いた。お姫様抱っこをされながら救護室に向かうルートなんてあった? 何故カイル王子は西嶋さんに似た顔になっているのか? 混乱しながら、うっすら目をあけて、少しカイルを見る。やっぱり西嶋さんに似てる。他人の空似? こんな所で? 救護室に向かうまで、他の生徒にジロジロと見つめられて目立ってしまっている。

 もうっ……!! 恥ずかしさを隠せずに、私は下を向いた。



 救護室に着くと、カイルはゆっくりとベッドに下ろしてくれた。


 先に来ていたノエルも心配そうに見ている。



「ゆっくり休んだ方がいい。でも、どうしてあの場所にいたんだ?」



「…あー……えーっと、それがわからなくて……」


 目が覚めましたら、こんな所にいました。なんて言える訳がない。



「……?」


 カイルは不思議な顔をする。



「私が何をどうしていたのか、わからなくて……気がついたら、水の中にいたの」


「覚えてないってこと?」



 こくん、こくんと私は頷いた。カイルはノエルと目を合わせると、私にそっと近づく。


「?」


「…………」



 カイルは何も言わずに、私の顔を見つめた。

 ……何? 何でしょうか??


 私が戸惑っていると、カイルは何も言わない。

 あれ? こんなキャラだったかなぁ?



「まぁ、少し休めば何か思い出すかもしれない。明日、神官に診てもらえばいいさ」



「では、僕達は戻りますね」


 ノエルはにっこりと笑う。



「…色々とありがとうございました」



 私は去っていく二人に声をかけた。

 ぴたりと二人は立ち止まり、驚いた顔をして、私を振り返って見た。



「……何……か?」



 私は首を傾げる。こいつはどうしたんだみたいな表情を二人はしている。



「いや、なんでもない……」


「あ、そう言えば、今日は何日?」


「今日?今日は十月十五日ですよ」



「まぁ、少し休んでから自宅に戻るといいさ」



「わかったわ」



 カイルは扉を開ける。

 爽やかに二人は部屋から出て行く。



「何なんだ、急に」


 カイル王子は呟く。リースの感謝の言葉など、幼なじみとして過ごしてきて、今までほんの数えるだけ。

 貴族として、いつも当たり前と思っていた筈……。



「聖水を浴びて混乱しているのかもしれません」



「だとしたって……別人のような受け答えじゃないか。まともなら感謝なんて今まで聞いたことないよ。聖水に浸かって脳みそまで浄化されたのか?」



「まさか。それはないと思いますが…….」


「また厄介ごとが増えなきゃいいな……」



 カイル王子は頭を抱える。

 ノエルは同情の眼差しで彼を見た。カイルは苦笑いし、二人はそのまま歩いて行った。


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