表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
2章
44/161

21

 一月も半ばになっていた頃。寒いけれど、私は薔薇の花の植木を何種類か買い始めた。増やして売るため。寒い時期だけれど、薔薇の花は比較的、冬でも咲く。薔薇の小物もアレンジがききそうだもんねぇ。と思ったのだ。


 今日もまた、ジョウロに水を入れて、花達に水をあげた。日光浴をさせる為に外に出ると、マロウさんに言われた。


「何だか元気のない顔をしているね」



 マロウさんは道を渡って歩いてくる。何でこの人には何も隠せないのかなぁ。私はマロウさんの方を見た。


「そうですか?」


「何かあったのかい?」



 マロウさんが言うのも仕方ないのかもしれない。実際、元気がないのだから。


 原因は、あの日ーーーーロゼッタへの手紙を出しに行った日に遡る。


 〝リースの記憶〟は、いつもよりも長く激しいモノだった。

 誰かと言い争っていて、誰と話しているのかわからなかった。







『あなたは!! あなたなんかっっ!!!!』



 リースは、相手に掴みかかって、その人の体を突き飛ばした。リースの細い腕で精一杯の力を出す。いつもリースは感情的だけど、今回はいつも以上に、怒っているようだった。




『ーーーー何もあなただって本当の事、何もわかっていないわ!!!!』



 突き飛ばされた相手は、自分だって! というように、同じように掴みかかってくる。取っ組み合いが始まって、押し合いをして、少し離れた。また何か言い争いをするのかなと、思った。だけど、瞬間。その人は下を向いて、何も言わずに突き飛ばして来た。




『っっっっ!!!!!!!!!!!!』


 言葉にならない声をリースはあげる。

 一瞬、時が止まる。



『はっ!!』



 その人は、ぼーっとそのまま立ち尽くす。どんな表情をしているかまでは見えない。だけど、手を前に差し出したまま、立ち止まっていた。


 やり取りが、よくわからないまま、気づくと、リースが宙を舞っていた。スローモーションのように流れていくなぁと思っていたら、急に速度が普通に戻る。




『きゃあああああああああああっっ!!!!』



 リースの叫び声と同時に、彼女はラクアティアレントに落ちて行った。








 イメージはそこで終わってしまった。相手の顔は真っ白で見えない。けれど、あの声とあの姿は、間違いなく、フィオレだと思う。


 彼女に恐らく、突き落とされた…………。



「マロウさん、本当はやらないだろうなと思う相手が自分に対して、敵意剥き出しで、攻撃していたとしたらどう思う?」


 私はマロウさんに聞く。私は体育座りをして、薔薇の植木鉢を眺める。マロウさんは、畑の方から、まわって、低いところから、底上げされている家の玄関に座る私に向かって言った。


「そうだねぇ、自分じゃあ、気づいてはいなかったけれど、相手に本当はそういう一面があったんだと思うかもね」


 マロウさんは、私の畑に生えている雑草を三つ四つ引っこ抜く。畑の脇にそれを置くと、手を叩いて土を落とした。



「でもね、本当にその人はするような人じゃないの。でも…………」


 私は言葉に詰まる。確かにリースは、性格は悪いし、根性も悪い。綺麗なのは顔だけ。ーーーーだから、仕返しされても文句は言えない。表面では彼女を慕っているふりをしていても、根底で恨んでいる人は何人もいると思う。だけど、だけど。だけど、フィオレはそんなタイプじゃない。もちろん、私がやっていた、きせきみの世界でのフィオレへの印象。でも、こちらに来てからでも、彼女はそんな事する人じゃないと思う。ましてや身分の低い貴族を親に持っていたとしても、彼女は知識がない訳じゃない。分別は弁えている。ーーーーーーーーなのに…………。


 ショックを隠せない。何かの嘘だと思いたい。



「考えてもわからないことは、しばらく考えない方がいいよ。一旦忘れるんだ」

 マロウさんは言った。


 そうかもしれない。私はやっとブーケ国に慣れて来たんだ。今はもう、思い出したくないのに、どうしてラクアティアレントの魔力はリースの記憶を私に見せてくるの? どうして、忘れるな、と言う様に見せてくるんだろう?



「ですよね。お菓子を用意して、市場に行く準備しないと」


「そうだよ。その調子だよ。綺麗な顔しているんだから、笑った方がいいよ」


 マロウさんは玄関前にある階段を登って来て、言う。


 そうだなぁ。考えても仕方ないなと思って、準備する事にした。



「今日は午後から行くんですよね?」私はマロウさんに確認する。


「あぁ、そうだね。冬の時期は皆寒がりだから午後からのがお客さんは来るからね」


「わかりました、準備します!」



 私は家の中に入って、必要なラッピング材料を持って、マロウさんの所へ向かった。二人でマロウさんの家に行って、お菓子のラッピングをした。全てのお菓子を飾り付け、バスケットにお菓子を全て入れてマロウ宅を出る。そこに、丁度レオが通りかかった。



「あ、レオ!」


「よう」


「おはよう、レオ」


「おはよう、マロウさん」


 レオは爽やかに挨拶する。あちこちまわっているのかな? と思うと、彼が言った。


「なぁ、リース、薪そろそろなくなるだろ?」


「あー……! まだあるけど、まぁもう少しだわね」


 私は言う。


「タイミングかなと思って、薪割りに来たよ」



「リースの薪はレオが用意していたのかい」


 マロウさんが言ったので、私は補足するように言った。

「自分でもやろうと思っていたんだけど、いつも手伝ってくれるのよ。忙しいのに力仕事で申し訳ないわ」



「気にしてねぇって! 俺ん家のも用意するついでにリースんところにも来てるからさ」彼は言った。


「ありがとう。でも、今日はこのままラッテ市場に出店しに行こうと思っていたのよ」


「そっか、タイミング悪かったな」


「冬場は午後からのが客入りがいいんだよ」マロウさんは言う。


「だよなぁ、どうするかなぁ」


「ラッテ市場に出店が終わったら、すぐ帰ってくるわ。そしたら、お願いしてもいいかな?」


 私は言った。


「オッケー、何とか時間作って調整して来るわ」


 レオが言った。



 さて、市場に向かおうと話していると、緩やかな丘の下から、一台の馬車がこちらに向かって来る。

 私はハッとした。アクアブルーを全体の色に、金縁の装飾。扉の前に描かれていた、紋章。私が水をあげている薔薇の植木鉢に描かれた物と、全く同じ物。




 手紙を出したのに、どうしてーーーーーーーーと思った。思ったけれど、どうしてか、違う感情も湧き上がる。私、知ってるーーーーーーこの馬車。あの時、乗せてくれたものね。



「なんだ?あれ」レオは言った。



 私が立ち尽くしていると、レオとマロウさんは何かを理解して、黙っていた。馬車が私の家の前に止まると、扉が空いた。ノエルが外出用の防御機能も含めた服装をして、上からポンチョデザインに近い形をしたコートを羽織っていた。その後に、ゆっくりと馬車から降りてくる人。間違いない。



「ミス・ハナノワ…………いや、リース・ベイビーブレス・ティルト令嬢のご自宅はこちらですか?」



 カイルは、帽子に手を添えていたが、しなやかな動きで、脱帽する。相変わらずのその顔は、綺麗で、私は懐かしくなる。…………彼と随分会っていない日々が嘘の様に思えた。



「えぇ、こちらですわ」と私は言う。


 すると彼は、微笑をして言った。全てわかりきった顔をして、私に言った。





「……久しぶり、リース。元気かい?」



 懐かしい彼の黒髪と藍色の瞳が、輝いて見えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ