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「好きな人かぁー」玲那は呟いた。
ふと、西嶋さんを思い出す。
爽やかで明るくて、普通にイケメンで、仕事もできる先輩。
「いや、彼女いるし」
玲那はパシン! と湯を手で叩く。
職場のお疲れ様会に行った時、知ってしまった。
西嶋さんに彼女がいること。
「お前、みんなに見せるなよ」と西嶋さんは同期の男性社員に言った。スマートフォンを男性社員は見て、
「西嶋の彼女! 可愛いじゃん!」とみんなに茶化すように見せ回った。
男性社員のえげつない行動に引いたが、西嶋さんの彼女さんがどんな人なのか、気になった。
きっと綺麗なのかな、美人さんとか。
知りたいような、知りたくないような想いで、ふっとまわってきたスマホを覗き込む。
その時に見た、彼女の可愛さと言ったら。
肌が白くて、目がぱっちりしていて、身長も小さくて、アイドルみたいに可愛い。想像以上。
同じ土俵に立つ、なんておこがましいけれど、私とはまるで真逆。玲那は落胆する気持ちを必死に隠した。
「かっこいい人には可愛い彼女。なんの問題もないよ……」玲那は言う。
ちゃぽん、と鼻まで湯に浸かる。
あぁいう子って、ルームウェアとかも可愛いの着てそう。モコモコのふわふわで淡いニ色の可愛いやつ。コスメにも敏感で、私みたいに、とりあえず適当にメイクはしていなさそう。西嶋さんとデートする時も、花柄ワンピとか着そうだなぁ!
玲那は頭の中で二人が出かけている姿を想像した。
玲那の妄想内でも、二人はとてもお似合いだった。
はぁあー。つまんないや。
私はー……チラリと、風呂桶に視線を向ける。
少したってから、暑くなって、身体を出す。
「やっぱり私にはダナ様しかいない!」と言うと、アメニティが入った桶の中から、ジップロックに入れたポストカードを出した。
「私の推しは紙面上や画面上にいる!」
玲那は叫ぶと、ざばんと勢いよく露天風呂から出る。
「そうだ!私にはダナ様がいる!!」落ち込んでなどいられない!!
玲那はガッツポーズで叫んだ。
聖地巡礼、ここに来た時にダナ様とも一緒に来たかったんだ。
玲那はポストカードをうっとり見つめる。
ダナ様がリアルにいてくれたら、頑張るんだけどな……と玲那は思う。
「そんなのあるわけないよね」玲那は呟く。
もう一度、お湯に浸かろうとした。
くるりと向きを変えて、湯船に向かった。だが、足元に置いた石鹸の存在を忘れて、思い切り踏んでしまう。
「ひゃっ!!」
つるん、と石鹸は滑った。ついでに玲那もつるん、と滑る。
手元からポストカードが離れ、露天風呂に浸かる。ジップロックにはしているものの、中にお湯が入ってしまう!
ーーーーまずい!!
そう思ったのも束の間。玲那はつるんと滑った後、派手に近くにあった石垣に頭を強打して、そのまま身体ごと露天風呂の湯船にダイブした。必死にポストカードを探そうとしたが、頭を強打した衝撃が強かったのか、意識が段々と遠退いていく。起き上がらなければと必死で手を伸ばした。
ーーーーだめ、だめっ! ポストカードが!!
ーーーーーーーー私のダナ様が!!
ぶくぶくぶくと鼻や口から泡が出る。
起き上がらなければ、と思った。が、どんどん意識は遠退いていったーーーー。
「大丈夫かーーーー?!!!!!」
あぁ、私こんな真っ裸で救出されるか…………情けないというか、恥ずかしいな……
しかも限定ポストカードは、きっともう、ふやけているだろうし……何やってるのよ、私……。
しかし、露天風呂って、こんなに深かったのね。もう溺れちゃったよ……
ーーーーそう玲那が思った時、手が伸びた気がした。
男性の自分を助けようとする手が見えた気がすると、次の瞬間、玲那の身体ごと救い出された。
あぁ、良かった…………!! 死ぬかと思った……。
だが、救い出された後、玲那は驚愕する。
「大丈夫でしたか?! リース様??!!」
「……は??」玲那は言った。