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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
1章
17/161

13

 




『……覚えて、いらっしゃらないの……?』


 リースは、顔が固くなる。


『覚えているよ、三人で交わした、ずっと仲良しでいるっていうものだろう?』


 笑顔でダナ王子は言った。




『いえ、そっちではなく…………』リースが言うと、ダナ王子は他の従者に名前を呼ばれた。


『あっ! 呼ばれている! リース嬢、ごめん、また今度話そう!』


 ダナ王子はそのまま、廊下の奥へと走って行ってしまった。




 リースは置き去りになる。


( ーーーー いいよ! 将来、リースを僕のお嫁さんにしてあげる!!


 ……………………魔法が使えても、使えなくても、お嫁さんにしてくれると言ってくれたのに。忘れてしまったの?)






 場面が変わり、学園に入学してから一年後の学校内にイメージが切り替わる。

 静止画のように、ぱら、ぱら、とイメージが入ってくる。



 笑顔でまわりに笑いかけるリース。どこか張り付いた笑顔。無理して笑顔を作っている。


 ダナ王子とはあまり話をしなくなった。

 カイル王子とも話をしなくなった。


 二人だけの約束も三人の誓いも成長と共に忘れ去られていく。



 リースには魔法の目覚めがずっと来なかった。

 いつかやってくると思った。十三歳までに目覚めなかった者は魔法が使えないーーと世間では言われていたが、信じなかった。が、その日はやって来なかった。優秀な家族達に疑念の目を持たれたが、負けじと、勉強やスポーツ、ダンス、作法や習い事は常に完璧にした。頑張れば頑張るほど、周りはリースのことを褒める。成長するごとに、美しさも母親のジューリアに似てきて、どんどん可憐になっていった。自然とダナ王子との婚約が決まった。

 リースは、ダナ王子が忘れていても、あの日の約束を忘れていなかった。相応しくなるため、努力を怠らなかった。



 でも、魔法だけが使えなかった。



 魔法だけが、彼女が持てないものだった。






 他に不得意な分野があるのに、魔法だけ得意な生徒を見ると、リースは毛嫌いするようになる。自分を慕ってくれるとりまきを使って、相手を囲い、調子に乗るなと、貴方など貴族の隅にも置けないと。そうする事で、リースの胸の内はすっきりした。彼女を恐れる者は少しずつ増えていく。美しいけれど、目に止まると危険なお嬢様。リースは止まらなくなる。自分が一番なのだ、ダナ王子に相応しいのは、自分なのだと、一人になると自分に言い聞かせた。



 家の中でも孤独。自分だけが特別なものを持てない。他のことを死ぬ気で頑張っても、学園内で上に上がれても、家族の中では親、兄弟を越えることができなかった。何をやっても両親と兄達のが優秀。ロゼッタに髪をブラシにかけてもらっている時だけが、無心になれた。




 少しずつ歪んでいく自分を、このままで守って行きたいと思っていた。あと何年かすれば、ダナ王子との正式な婚約が決まり、卒業後には成婚することができる。



 と、思っていた。



 フィオレが現れるまではーーーー。













 バッとベッドの天井に世界が戻っていく。

 私は、そういうことだったのか……と、しばらくはずっと一点を見つめていた。



 リースはずっと劣等感を隠して、生きてきたんだ。

 魔法が使いたかったけど、使えなかったから。スペラザ王国では魔法が使える貴族は一人前みたいなところがある。由緒正しいティルト公爵家の人間として、成長したかったんだ。でも、叶わなかった。辛かっただろうな。だからこそ、ダナ様との幼い頃の約束、大切にしたかったんだ。


 あの約束を希望にして、いつか叶う日を夢見ていた。



 でも、運命でフィオレ嬢とダナ王子は出逢ってしまった。

 よりによって、魔法がとてもずば抜けて優秀な天性からの才能の持ち主、きせきみの主人公、フィオレ嬢に。


 何度も、何度も阻止しようとした。自分の手を使わずに、フィオレに不用意に王子に近づくなと脅しをかけた。でも、フィオレは諦めなかった。それは王子が決めることだから、あなた達には関係ない。他の者ならばすぐに諦めたが、フィオレは折れなかった。自分は編入してきたばかりで、王子からいろんなことを教えてもらっているだけだと言った。リースは悔しくて、テキストを捨てさせた。他にもたくさん嫌がらせをした。だが、色んなことをやればやるほど、フィオレとダナ王子の絆は深まるばかりだった。




「勝ち目は……あるのかな………………」


 私は、一言言って、眠りについた。






 ーーーーあれから数日。私は思い切って、ダメ元で、ダナ様攻略をしようと目論んでいた。


「普通でダメなら、胃袋で勝負よね!」


 私は、ロゼッタからシェフに頼んで、キッチンの一部を借りる事になった。



「上流貴族であるリースお嬢様が、台所で作業だなんて……私共が当主に見つかったら、処罰されてしまいますっ」


 シェフやその他お手伝いさん達は、涙ながらに私に話したけれど私の決意はかたかった。



「これは、ダナ王子の心を掴むためなの! それが理由なら、貴方達も処罰されないし、私も咎められないわ!」


 私の発言に、致し方ない……という表情をシェフはする。さてと……と私は彼に尋ねた。



「シェフ、あのね。ガレットを作りたいの。ダナ王子のりんごのコンポートを添えたいんだけど……教えてくれないかしら?」


「ガレットですね。コンポートだけで付属は大丈夫ですか?」


 シェフは冷静な一人の料理人として、私に尋ねた。この世界は中世時代を多少モデルとしている。だから、時代的にクレープの事も混ぜて、ガレットと言うらしい。



「コンポート以外にも、生クリームや苺やチョコレートをつけたいの。お願いします!」


「わかりました。ガレットは少々焼くのが難しいです。厳しくいきますが大丈夫ですか?」


「もちろんよ!」



 私は、シェフやキッチンお手伝いさん達に教えてもらいながら、クレープを作った。

 料理なんて久しぶり……。シェフは丁寧に教えて、すぐ出来る私にとても感心していた。

 いや、自炊少しはやってましたから、包丁くらいは握れます……そんな事を思いつつも作業を進めた。

 まず、りんごをさいの目切りにして、砂糖と煮詰める。いい感じにできたら、苺を切ったりチョコレートを適度なサイズに手で割る。

 生クリームを泡立て器で泡立てて……電動泡立て器がないから、凄く大変だった……生クリームを仕上げて。小麦粉と卵と牛乳を混ぜ合わせて、皮を焼く。これが全然できなくて。何度もやっても、皮に穴が空いたりぼろぼろになったりしてしまった。



「難しいわ……」


 私は汗だくになって、嘆く。フリフリエプロンが、もう粉だらけ溶いた液だらけだった。

 私は不器用過ぎる自分を恨んだ……。



「……リースお嬢様。これ以上は、やめて私がお作りします。でないと、お嬢様が疲労困憊してしまいます」


 シェフは優しく言う。けれど、私は何だかどうしても諦め切れなくて、無理をお願いした。



「お願い!! 後少しだけ挑戦してだめだったら、諦めるから!! お願い……!! ダナ王子の心がかかっているの!」



「………………仕方ありませんねぇ……。私共はあくまでも、リースお嬢様の命にて、働きます。いいですね?」



「いいわよ、もちろん、その通りですもの!」


 私は笑顔で答えた。シェフは物すごく不思議な顔をして、暫く私を見ていた。が、私が再開を促したので急いで準備してくれた。



「……何とかできたわー……」


 不器用ながらにも、十枚クレープを焼いた。明日にでも、これをダナ様に渡そう。私は嬉しくなる。



「シェフ、ありがとう」



「いえ。リースお嬢様が努力されたからです。殿下もお喜びになられるでしょう」


 シェフは満足げに笑っていた。



 私はウキウキして、次の日カメリアに出かけた。

 蓋つきのバスケットに、お皿とクレープとコンポート等を入れた。お昼時に、誘ってみよう! と私は意気込む。


「……なんかすごい元気だね」


 後ろからカイルが話しかけてきた。もちろん、ノエルも一緒だった。


「わ! びっくりしたわぁっ!」


「声かけただけなんだけど……」


 カイルはキョトンとする。

 いや、貴方に話しかけられるのあまり慣れていないのよ……!



「うん。今日はとっておきの物を作ってきたのよ!」


 笑顔で言うと、バスケットをカイルはふうんと見つめる。


「これ?」


「ええ! 私、頑張ってガレット作ったの! もちろん、ダナ様が大好きなりんごのコンポートも作ったわ」


「君がねえー……自分で?」


「もちろんよ! 昨日、シェフに頼んで教えてもらったの。やり慣れていないから、不恰好だけど……」


 カイルは私を見つめる。私が顔を赤らめると、ふぅんと一言言う。馬鹿にされたのかと思うと、廊下を先に歩いて行く。


「良いじゃん。頑張りなよ」


 私はすごく嬉しくなった。よーし!! 昼休みにダナ様の部屋に突入よー!!!! と思っていた。



 待ちに待ったお昼がやって来ると、私はクラスの貴族達に華麗に、それでは! と挨拶すると、ダッシュでダナ様の王族部屋へと行った。ダナ様はカメリアの公務も少し手伝っている。だから、王族だけに専用部屋があり、きっと部屋にいるに違いないと思った。


 部屋の近くまで来ると、近くにカイルがいた。私は頑張れとジェスチャーするカイルを、盛大にすっ飛ばして、奥に見かけたダナ様に声をかける。



「ダナ様…………!!」



 だけど、やっぱり……ダナ様は私に対して、蔑んだ目を向ける。

 その目にまた、激しい緊張感を覚えて、私は必死に堪えて早口で言い続けた。


「あの……! お昼を一緒に食べませんか? ダナ様の好きなりんごのコンポートを作ってきたんです……」


 私はバスケットの取手がこれ以上千切れるのではと思うくらい、握りしめていた。緊張で口から胃が出そう。


「……ガレットにしたんですけど……甘いお昼は……嫌ですかね……?」


「………………」


 ダナ様は、何も言わずに、私を睨みつけるように見つめている。


「要らない」


「えっ……」


「君の手作りじゃないだろう? ……君は料理をやらない人だ。何か持ってくる時も、シェフに頼んで持って来ていた。悪いが、コンポートは好きだが、今日は甘い気分じゃないんだ」


 ダナ様は去って行く。ヨクサクが後ろから、歩いて行く。私は、負けじとダナ様についてお願いした。



「本当に、自分で作ったんです!! ……形は悪いんですけど、味は良いと思います! せめてもらって下さい!!!!」


「要らないと言っているだろう!!」


 ダナ様が、肘を掴んでいた私を振り払う。衝撃で、私は転んでしまった。



「痛っ…………」


「リース……。気をつけろ。怪我されても困る」


 ダナ様は、一瞬、転んだ私に驚いた気もしたけれど、冷たく言って歩いて行く。ヨクサクが心配して言った。


「リース嬢、大丈夫ですか?」


「えぇ。少しドジをしましたね。……ヨクサク様は、ガレット、いかがですか?」


「申し訳ありません……私、甘い物は苦手でして……。殿下だって、また別の日でしたら、大丈夫ですよ」


 ヨクサクは、お辞儀をして去って行く。

 私は一人、廊下に立ち尽くした。


りんごのコンポート…


ジャムとコンポートの違いは、砂糖量。

ジャムは大量の砂糖と煮詰めるに対して、コンポートは砂糖を薄めた水で煮詰める。砂糖が少ないんですね。

ここで出てくるりんごのコンポートは、サイの目に切って少量砂糖と煮詰めて作った物。なので、水分じゃばじゃばではなくて、煮詰めたサイコロのりんごをクレープに乗せて食べるイメージです。


生クリームとチョコレートと苺とりんごのコンポート。りんごのコンポートと生クリーム合わせて食べたら、美味しそうじゃないですか? 私は生クリーム嫌いですが(笑)



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