ユーカリの花言葉
「須藤さんの彼って小説家って本当?」
玲那がアレンジメントにビニールを被せて、ホチキスで両端を止めてリボンをつけようとしていると、何気なく上司が聞いてくる。
この間従業員さんと仲良く話をしたけれど、あぁもうそんな話が出回ったのね、と玲那は思いつつも正直に答えた。
「はい。そうなんです。ライトノベル作家で……」
「物語作ってるなんてすごいじゃない! そういう相手と何がきっかけで付き合う事になったの? どういう所で出会うわけ?」
上司は箒で床を履きながら、聞いて来る。
玲那は真っ直ぐに話す。
「きっかけは、異世界なんですよね」
玲那の返事に対して、上司のおばさんは顔を上げて言った。
「ん? 作品の話?」
「えぇ、そうです。私は彼が書いた作品の大ファンで、サイン会兼握手会に行ったのが始まりです」
その後、簡単に話を聞かれた後に上司は若いって良いわね〜と、箒でまた床を履きながら言っていた。玲那は微笑む。
自転車を漕いで玲那は帰って来た。
仕事を終えて、家に帰宅する。
玄関先にはマゼンダカラーのマロウブルーの鉢植えが置いてあった。
「ただいま〜」
玲那は廊下を歩いて、洗面所で手を洗う。タオルで手を拭き取ってから、歩いて台所をチラッと覗いた。
葵が鍋をかき混ぜながら、背を向けている。
「ただいま」
葵は玲那の言葉に気付いて、後ろを振り向く。にこっと微笑むとコンロの火を止めた。
「おかえり、玲那さん。今日シチュー作った」
「葵さん、ありがとう。楽しみだなぁ」
同棲を始めた二人は、料理を交代制で作る事に決めた。今日は葵の当番で、そこまでしっかり料理をしない葵は簡単なシチューやカレーが多い。でも、玲那は嬉しいと思っていた。
「それどうしたの?」
葵が玲那の持っている物を指差した。
玲那は、そうだ、と思う。
「仕事先でユーカリのリースをもらったんだ。すごく可愛くない?」
葵は近づいて来て、リースを見ると、またにこりと笑う。玲那は葵を見て、少しドキッとした。
「本当だ、可愛い。しかもリースだし。どこに飾る?」
「パッと目立つ所がいいよね、やっぱり葵さんの書斎かな?」
「あそこは日当たり悪いしなぁーどうしようかー」
「あ、でもこれプリザーブドフラワーだから日当たりは関係ないね」
玲那が言うと、葵は場所を確認するためにバタバタと廊下を歩いて、書斎へと歩いて行く。玲那はその後をついて行った。
書斎を開けて、葵の作品が置かれている本棚の上に、新しく飾り棚が出来た。カイルとリースのぬいぐるみバッジが並んで飾られている。
隣にフォトフレームがひとつ置いてあり、白い総レースのワンピースを着た玲那とネイビーのタキシードを着た葵の写真が写っていた。
「仕方ない、この部屋が一番いいかな」
「プリザーブドフラワーだし、枯れないから大丈夫よ」
飾り棚にリースを置くと、葵は満足する。玲那が彼を横から見ていると、暫くしてから葵はふいに言った。
「玲那」
「ん?」
「結婚指輪、買いに行く日はいつにする?」
玲那は少し驚いて、葵に聞いてしまう。
「……あれ、葵さん、そういうの苦手って話していなかった?」
「いや…………あの時は形に残さなかったから、今は形に残る物をどんどん増やしてもいいんじゃないかと思ってさ」
玲那は黙って、微笑む。
葵の手をサッと握った。
「……今度、天気の良い日に行こうか」
葵が玲那を見て、笑った。
fin.
『悪役令嬢の私を探して』はこれで終わりになります。
初めての小説、語彙力にもひとつも自信もなく、書いていくのはとても大変でした。でも、書き切らねばスタート位置に立たないなと思い、更新していきました。
転生作品がものすごく増えてきて、とても人気で好きだなーと思っていました。でも、自分ならばあえて一人の女性が生き直すような作品を書きたいと思いました。
とりあえずは形に出来たこと、ホッとしています。
また、個人的にこの話をサカナクションさんの『忘れられないの』を聞いて浮かびました。勝手ながら、テーマにしつつ書いていました( ˙꒳˙ )
こんなまだまだでも、誰かの心に届いてくれていたらいいなと思います。
これから、文章の手直し、自分で挿し絵を描く、スピンオフ作品の創作など……をした後に完結とさせていただきたいと思います。
色々な意見があるとは思いますが、心優しい感想など頂けましたら励みになります。
また、まだまだな部分がありつつも次作では後少し進化した作品を書けるように精進して参ります。
最後までお読み下さいました読者様、ありがとうございました。
アトリエユッコ