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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
最終章
144/161

7

 少しすれば良い、時間が解決してくれると思っていた。

 なのに、何だか何故だかやるせなくて、酒の量が増えた。自分でも気づかないうちに、飲む量が増えて記憶がないのも多々あった。



 友達に心配して来てくれる奴もいたけれど、俺は共有出来なかったんだ。他人にこの辛い思いを吐き出せなかった。

 皆、それもわかっていたけどーーーーーーーー吐き出したら、もう戻れなくなりそうで話せなかったんだ。




 食事もろくに取れず、酒ばかりで胃の痛みにあまり気づいていなかった。


 ある日血を吐いた。


 俺はさすがに病院に行って、ストレス性の胃潰瘍だと診断された。少し入院して、療養を続けた。




 俺は少し思った。これが酷くなれば、いつでも祖母や母の所へ行けると。


 馬鹿だけど、本気で思っていた。



 本当に俺は退院したのに、怠薬をしてまた同じ事を繰り返した。一度退院したけど、何度ももまた胃を痛めて出血した。厳重注意されてしまいーー違う消化器官に病気が見つかってーーーー…………今度はアルコール依存症の治療も併用して受けるため、少し入院生活は長くなってしまった。




 医者にしか自分の気持ちは話せなかった。

 友達は沢山いても、どうしても頼れなかったんだ。

 心配かけたくはなかったし、一緒にいる時くらいは忘れたかった。



 思えば、俺は産まれた時から今まで病院にすごく縁がある。

 いつもいつも病院ばかり行っている。


 何でだ。



 まぁ、どうでもいいか。



 この世は不条理で溢れてる。個人の孤独なんて誰にも埋められない。

 俺を皆置いて行く。



 それは当たり前の事なのに、この頃は本当に耐えられなかった。




 何でもいい、この思いから助け出してくれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









『カイル王子! 起きてください、学園に行かないといけません。起きないと遅れますよ』




 急に来たんだ。



 気がつくと、俺は自分が書いた物語の世界でカイル第二王子として生きていた。


 最初は変な夢だな、と思っていた。


 でも、眠った後に必ずカイルになっていて、次の日に眠ると昨日見た夢は続いていた。

 何日も何日も同じ。眠ると繋がる。



 寝ると異世界にいる。ーー多分、死に近づいているからだと思う。

 冷静に考えれば、俺は目が覚めるとまた現実が始まって…………つまらない療養生活。俺はきっと……半分だけ、死へと浸かっているんだ。ある意味、地獄だな。三次元でしっかりと生きているのに、いつこっちに溺れてもおかしくないだろう。




 でも、すごく楽しいと思った。

 ーーーーここは俺が書いた小説・ゲーム・アニメの世界。だが、不思議な事に、俺が決めた設定ではない物事も人間もこの世界には出来ていた。

 俺はリースとダナ王子が幼なじみにした記憶はあったけど、カイルとも幼なじみにしたかは定かじゃない。



 ……………面白い。





 起きれば地獄だ。

 なら、寝た後には充分に異世界で楽しませてもらおう!! 大丈夫だ、ここは俺が作った世界だからな。

 幸いカイルの性格は俺に似た性格にしてある。原作者だから帳尻はいくらでも合わせられる。

 良いじゃないか。

 魔法も制限なく使えるし。




 元々本は好きだけど、異世界の本はたくさん読んだ。



 おかげで魔法にも幅が出てきて、益々楽しくなる。


 現在より物語の世界だよな、

 本当……いい年して寂しくて参っている馬鹿はいないしな。






 と思っていたある日、カメリア学園の神殿にあるラクアティアレントにリースが落ちた。



 スペラザ王国を水の国にしたかったから、海ーーラクアティアレントは国の象徴と設定した。そのラクアティアレントに落ちるなんて、あの悪役令嬢は何してるんだ?

 作り出した俺が言うのも難だが、アイツはめちゃくちゃ性格が悪い。心根が腐っていると思う。

 まぁもうすぐ断罪される運命だろうしな、適当に心配して助けた振りでもするか………………



 筈だった。



 が。






『…………っ!……西嶋…さん……?』







 あぁっ?! お前、リースじゃない!! 


 誰なんだ?!








 気になるので、俺はリースに親切な雰囲気を出して接近していた。……もしかして、こいつも俺と同じか? でも、コイツが生きているのか死んでいるのか、わからない。

 鬼の毒だが、断罪される運命だ。

 話の筋は変えてはいけない。

 変なタイミングでリースになっちゃったね。



 思っていた。楽しく過ごす。

 俺はこの世界の創造主であり、シナリオもキャラクターの特徴も全て把握しているから。

 自由だな。

 ……あの子には申し訳ないけど、介入したくないしな。




 でも…………あの子はあの子なりに頑張っていた。



 あの子は多分俺の作品のファンでダナ推しっぽいけれど、悪役令嬢だからい相手にされない。



 ある日、彼女は頑張ってコンポートを作って来たらしい。

 クレープを一緒に食べたくて、作って来たようだ。


 そんな事しても、無駄じゃないかな。





 断罪される訳だし。


 ーーーー普通なら、さっさと自分から婚約破棄して、違う男で手をうつべきじゃないか?



 案の定、突き飛ばされて尻もちついてるし。


 お皿が割れて食べられないじゃんか。




 泣いているあの子を見て、さすがに良心が痛んだ。



 そうだよな、俺は現実が嫌でここを楽しめている。

 ……でも、この子は違うかもしれない。

 この子が生きているか死んでるかはわからないし、リースの転生かもしれない場合もある。



 俺はーーーーストーリーを知っておきながら、迷い込んだ子を見捨てるのか?


 この世界では彼女は孤独な筈なのに。




 ダナ王子に注意しておいた。

 でも、あいつはあんなので理解できるようなキャラクターじゃない。そもそも決められた相手はフィオレだしな。


 俺はノエルと一緒に犯人を探して、リースを心配している風を出していた。

 あの子は断罪まで、何とかしようと思っているみたいだった。でも……当然ながら、悪役令嬢だからうまくいかなかった。

 ごめんな、知らない誰か。

 俺の作った話で、俺が作ったキャラクター設定のせいで君が苦しむ羽目になって。






 結局、悩んだまま、俺は断罪される運命を見送った。




 彼女は綺麗だった。


 最後の去り際に、ダナ王子に感謝を伝えられるなんて良い子だよ。

 ごめんな、助けられなくて。



 せめてもの思いで、俺は馬車で送り届けた。



 それで済ますつもりだった。




 でも…………うっかり、出来心で彼女にキスしてしまった。





 何をやっているんだ、俺はーっ!!!!!!


 表面では余裕ぶってみたが、俺は焦りに焦った。


 ………………やってしまった。



 だけど、あの子は気にせずに俺から去って行った。






 ノエルに調べさせて、あの子はブーケ国に行ったとわかった。



 ブーケ国なんて、平野だから何にもないじゃないか、大丈夫なのか? と思った。





 …………気になる。




 俺はもうすぐ旅に出る設定になっている。旅に出たら、三ヶ月に一度は王家に顔を出して、任された仕事をこなさなければいけない。


 旅に出てから、あの子を助けるのも有りだろうか。



 断罪は無事にされたけど、リースがラクアティアレントに落ちたのは本当に本人なんだろうか?


 俺はノエルと一緒に本格的な調査を続けるうちに、フィオレが事件に関わっていると気付いた。



 はぁ、なるほどな。

 突き落としたのはフィオレだな。



 益々楽しくなった俺は、リースの姿をした、あの子を助けに行く事にした。

 その気にさせて、好きにさせておいて信用させよう。


 そうすれば、あの子を助けるのが簡単になる。


 何とかなる、俺は第二王子なのだから。





 物語を書いた責任として、俺はノエルと一緒にブーケ国へと向かった。



 そして、平民となったリースに再会した。思っていたよりも元気そうな姿に心底安心した。



 いきなり綺麗な髪をばっさり切った姿には驚いたけれど、貴族の時よりも丁寧に生きるリースはナチュラルライフを楽しんでいるように見えた。

 俺は心配する必要は無かったかな、と思っていた。元気そうだし、まぁいいかと思ってリースと夕食を共にする事になった。

 カルボナーラとスープ。俺もカルボナーラくらいなら動画を見て作った事があるから作れるし、彼女も特段特別な味付けはしていなかった。




 でも、ひと口食べた時に………………何だろうか。


 涙が出そうになった。


 彼女が借りていたリースの身体にカデーレという力が備わっていたからかもしれない。








 でも…………それだけじゃないと思う。





 暖かい手の込んだ料理が…………特にお菓子が……ホッとさせる。


 祖母のおにぎりを思い出す。

 大変だったのに……綺麗な手で作られた綺麗な形じゃなくても、いつも……嬉しかったんだ。



『ばあちゃん、もう少しおにぎり小さくしてくれないかな? クラスの奴にからかわれるんだよ』



『わかった、小さくするからね』



 そう言いつつも、いつも大きかった。逞しく育て、という事なんだろう。


 忘れていた気がする。



 パスタは自分で捏ねたらしい。スープもタルトも、いや……特にタルトかな。すごく美味しかった。

 心の綻びが繕われていくような気がした。


 言葉通り俺は餌付けされたんだと思うんだよな。





 この子は本当に死んでいるのか?


 祖母や母と同じ世界に逝く人なのか?






 いや、生きてる。

 リースはきっと……生きている。

 まだ、わからないじゃないか。


 …………生きていて欲しい。





 こんな風に暖かい食べ物を作る人を失くしたくない。




 でも、本当に…………召される運命だったら?


 もう誰も失いたくない。


 どうか…………生きていてくれ。

 頼む。


 リースは神官に言われたそうだ。どの道、貴女は消えてしまうかもしれないと。…………違う。俺は君が生きている事を信じてる。



 望むモノを手に入れる事が逸脱する条件ならば、俺がリースに爵位を戻させて、ダナ王子と婚姻させればきっと彼女は元の世界へと戻れる筈だ。







 だけど予想外だったのはーーーー自分が思っていた以上にリースに惹かれてしまった。






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