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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
最終章
143/161

6

 彼女が本物のリースではない事は最初からわかっていた。

 俺と同じだーーーーと思ったからだ。




 俺は幼い頃から、家族運がない。そう自覚したのは小学校低学年の頃だった。都内で暮らしていた俺は父と母の子供として生まれた。太陽に向かって明るく成長するようにと、昭和生まれの名前には珍しくあおいと付けられた。

 家は一軒家で、父と母と一緒に暮らしていた。母方の祖父と祖母は他県に暮らしており、祖父は俺が小学校就学前に亡くなった。



 低学年までは普通の生活をしていた。楽しく、友達も割と多い方だった。

 でもある日ーーーーーーーー父親が家を出て蒸発してしまった。行方は何処にいるかわからなかった。多額の借金を残して出ていかれてしまい、母親と俺は家を引き払って母の実家へと引っ越す事になった。


 母親は工場で正社員として働き始め、まだパートタイム働いていた祖母が長い時間、俺を見てくれた。




 それでも友達には恵まれて沢山出来たし、勉強も出来た方だと思う。


 借金返済と生活の為に働く母親は毎日明るく元気だった。はつらつとしていて、まるで生活に余裕のない人間が持つオーラではなかった。母親のそういうところが俺は好きだった。

 だから、小学校でも中学校でも、母親といる時間が短いだろうが、何不自由のないクラスメイトが羨ましかろうが、気にしなかった。


 世の中は平等ではないし、時として世界は優しくはないから。与えられているものが多い奴がいて、哀しい程恵まれていない奴もいる。不条理だから。



 でも、さすがに母親が病気で亡くなった時には辛かった。

 腹痛などは前からあったみたいだ。働く方を優先していたし、借金の返済を優先していた。貯金を崩せばいくらでも返済する方法はあった。でも母親は俺の将来のお金として残しておいたんだ。



 そんな事しなくて良かった、あんなに明るい母親が卵巣癌で亡くなるくらいなら。




 中学三年の時に母親は亡くなった。



 お腹の痛みはさすがに我慢出来なくて、何度も病院には行っていたらしい。でも、見つかりにくい部分らしいんだよな。


 棺桶に、母親の好きな薔薇の花を入れてやった。




 何があっても、あんなに明るく元気な母親がどうして亡くならなければいけないんだろう。



 家を出たのはクズの父親なのに、どうして一生懸命だった母親が旅立たなくてはいけないんだろう。




 この世は不条理に溢れてる。



 悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて、俺は何度も泣いたし、挫けそうになった。


 でも、祖母がいてくれたから…………俺は曲がる事なく生きて来られたと思う。





 母親が亡くなって、降りた保険で借金を返済した。まぁ祖母は葬儀代や墓代を貯金から出したので、大変だったが。



 母親が亡くなってから、祖母と二人きりの生活だった。小さい頃から長く祖母とは一緒にいたから、年寄りの気難しさもあって喧嘩する事も多々あったけど、俺を大切にしてくれた。


 お弁当が必要な時に馬鹿でかいおにぎりと、卵焼きとウインナーと煮物を作って渡してくれた。高校でクラスの奴に、おにぎりが大き過ぎると馬鹿にされたけど俺にとっては食えれば良かった。高いコンビニ飯食っても満たされないからな。



 楽しかった。高校でも、要領は良いみたいで友達もしっかりいた。時々ゲームや漫画が大好きな友達の家に集まって、色んな漫画や小説を読み込む事があった。ライトノベルと出逢ったのも、この頃だ。


 軽い気持ちで、本を読んでいると賞金が百万円と書いてあった。俺はこれに応募して、祖母を喜ばせようと思った。




 どんな物が良いか? ベタが良いに決まってるだろう。世界観は十七世紀から十九世紀の上旬あたりまでの緩やかな時代設定にする。主人公は平民の少女。才能に溢れていて、魔法がかなり使える。

 相手はもちろん、王子が良いな。結構キザででも良い奴。義理の弟がいるといいだろう。俺っぽい誰とでも仲良くなれる奴を出しておこう。



 そして、ライバルの悪役令嬢はコテコテの奴が良いな。主人公が魔法に長けているのなら、ライバルは全く使えない奴。愛されているようで、誰にも愛されていない奴だ。顔と身体はかなり良くて、性格は最悪で髪の毛はくるっと…………あー、ここはベタ過ぎるから、ふんわりパーマだな。目はピンクにしておこう。



 主人公を虐めて、追放されてしまうのが良いだろう。


 うまく盛り上がって、最終的に王子と主人公がくっ付けば完璧だ。



 友達が面白いって言ってた。俺も挑戦するからお前もゲーム作る奴になれよ! って言ったら、本当に挑戦し始めた。コイツとは長い付き合いになるとは本当に知らなかったな。




 俺はお試しに小説を送ってみたら、見事グランプリを取ってしまった。


 ありがたい事に、アニメ化もされた。グッズも販売して、売れた。俺は印税で大学にも行けたし、免許も取って車も買えたんだ。祖母は喜んで、のんびりと農作業に勤しんでいた。



 大学を卒業する頃に、友達がしっかりとゲームを作るようになった。お前の作品を乙女ゲームにさせてくれと奴は言った。やるなら、俺も関わらせろと言われて共同制作がスタートした。


 友達は無駄にこだわりが強い奴だったから、ひとつのエピソードに十のクオリティを求める傾向があった。

 これは? これは? と色々と言ってくる奴と組むのは本当に楽しかったし、今でも感謝してる。



 この乙女ゲームが異常なほど売れたから、驚いた。祖母を旅行にあちこち連れて行けたし、美味しい食べ物もご馳走する事が出来た。ま、でも、稼げるようになったとしても、いつも祖母が作るデカいおにぎりには叶う物は無かったけれど。


 俺はライトノベル作家としてプチ成功して、その道でやって行く事にした。顔出しとかは苦手だから、ひたすら断ったけど、他にも色んな作品書いたよ。案外、これも要領良くやれるらしく、結果も出た。





 そんな時。




 祖母が倒れた。三十の時だった。心配する俺をよそに、祖母は変わらず気丈だった。



 俺は、どうしてか不安で不安で仕方なかった。



 祖母も歳を取ってきた。


 仕方ないかもしれない。



 でも…………亡くなった後、俺は一人残されるんだと思うと、当てのない恐怖に襲われる。



 母は一人っ子だったし、親戚とは付き合いがない。





 今笑っている祖母が亡くなったらーーーー俺の家族はもういないんだ。





 ネガティブに考え過ぎだと思った。俺は何考えているんだよ、当たり前に来るモノじゃないかーーーー。そう思ったけど、俺は不安や恐怖に耐えられなくなって、書けなくなった。




 三十四の時、祖母は亡くなった。多臓器不全だった。胃や肝臓にも腫瘍があったけど、案外、もってくれたんじゃないかな。最後は入院していたけれど、激しく痛みを訴えていても手の施しようがなくてミトンで縛り付けられて、管ばっかり刺されて…………本当に可哀想だった。



 あんなに俺に優しくて、でかいおにぎり握ってくれていた祖母がどうして最後はこんな風に縛り付けられて我慢しなくちゃいけないのだろうと思ったよ。



 金はあっても何にも出来ない俺、どうにもならない祖母。

 握った手が熱を持っていて、暑そうで可哀想だった。



 祖母が元気じゃないと、俺も元気が出ないよ。



 いつでも二人でいただろう?








 でも、亡くなってしまった。




 結果、俺はひとりぼっちになってしまった。











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