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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
4章
137/161

48

「ねぇ、カイル、私思うの」


「ん?」


 彼は少し振り向いて、私を見たけれどハーブティーに合わせる私が作ったメレンゲクッキーを缶から出そうと必死だった。蓋が硬いみたい。あれ、そんなに勢いよく閉めたかなー?



「リースと私が欲しかったもの、望むものって、きっと誰かに愛されたかったんじゃないかな」



「誰かに?」


 カイルは缶の蓋を開ける。


「うーん…………愛されたかっただろうし、自分も愛したかったんじゃないかな。ベタだけど、相思相愛ってやつね。ーーーー私、オタクだったから、縁がなかった」



 カイルは手元を止めて、私の方に振り向く。

 いつになく、真剣な顔をして聞いてくれていた。


「タイミングもあるんじゃないかな? 君がこれまではタイミングが悪かっただけかもしれないだろ?」



「うん、私もそう思う、今では。でも昔は思えなかった。平気なフリしても、周りが羨ましくて逃げてたんだよね」



「うん」


「でも…………今はこの縁を信じたい。…………今度は……どんな世界に住んで生きていたとしても、貴方に逢いたいな」



 カイルは少し口を開けたまま、黙っていた。

 何か堪え切れなくなって、また私に背を向けてしまった。肩を震わせながら、小皿にメレンゲクッキーを少しずつ、乗せる。手で顔をゴシゴシと擦っていた。



「リース……」




「カイル、ありがとう。私を好きになってくれて。…………恋させてくれて、ありがとう」


 多分、どのくらい時間があるのかわからないから、本音を伝えた。

 カイルはもう一度、振り向こうとした。だけど、やっぱり出来なくて、背中を見せたまま呟く。



「リース。俺は……本当は…………






 その時ーーふと、頭上から私を呼ぶ声がした。



『レナ』



 私は上を見上げた。リースがフチに白いフリルがついたあの日と同じワンピースを着て、浮かんでいる。



 私は、あぁ……もう来てしまったんだ、と思った。




 ー一緒に、写真も撮れなくてごめんねーー




『もう一人の私、レナ』



「リース」


 私はリースを呼んだけど、カイルには聞こえていないみたいだった。この瞬間だけ、時が止まったような、流れの違う感覚を体感しながら、状況を掴む。



 ーーーーそうか、もうお迎えか。



『レナ、ありがとう』


「ありがとうはこっちの台詞よ。長く身体を借りちゃったわ」



『でもーー……貴女が、私の代わりにしてくれた事は、私にとって感謝しかない』


 ふわりと床に足をつけて、私の元へとリースは近づいた。



『貴女のおかげで、生き直せた。私がしたかった事を貴女がやり遂げたのよ』



「ごめんね」


 私は彼女の幸せを奪ってしまったのではと思う。頭を下げると、リースは首を左右に振った。


『違うのよ。……何も変えられなかった私ですけれど、可能性を信じる事が出来たわ。…………これからは本当の私として生きて、本当の私で幸せになりますわ』



「うん、私も……私も応援してる!! だって、私リース推しだから!!!! 大好きだから!!」


 にこりと、美しい顔で私に彼女は微笑んだ。

 あまりにも美しいので女の私でも、ドキッとしてしまう。

 彼女は、小指を差し出した。



『貴女も…………次に生まれ変わっても、本当の自分で幸せになる事を諦めないで下さいね。……私が幸せになって勝つか、レナが幸せになって勝つか、勝負ですわ。幸せにならなかったら、許さないから』



「こわっ! …………本当に貴女との約束は怖くてやぶれないわ。呪われそうで」


 指切りをすると、リースは笑ってまた浮かび上がる。


『だって、私は悪役令嬢、リース・ベイビーブレス・ティルトですわよ?! 人を怖がらせる事など朝飯前ですわっ』



「そうだね」


『レナ、幸せに』



「うん。リースも。絶対幸せにね」



 笑顔でリースを見つめると、同じように笑顔で返してくれた。


 背中のカイルに、届かなくても声をかける。



「カイル……大好きだよ。ありがとう」




 時がゆっくりとしたまま、リースの身体が光り出して、やがて私自身が身体から引き剥がされる。とてつもなく沢山集まった光の豆粒が、私自身から放たれて、優しく私は浮かんでいく。


「ごめんね……ごめん…………」



 光り輝く涙を流しながら、私はどんどん導かれるように、浮かんで離れていった。カイルの背中に手を伸ばす。光の豆粒は煌々と輝きながら、私の身体を消していく。


 悲しみながらも、この世界で私は幸せだったと感じながらーーーー意識がーー……徐々に……切れていった。








「リース、俺は……俺は…………!」


 言葉を言い終えたカイルは、キッチン台に手をしがみついていた。



「俺は…………何ですの……?」


 本物のリースが、いつもの言い回しで話しかける。カイルはハッとして、急いで振り向くと、公式のキャラクター、リース・ベイビーブレス・ティルトの表情で、本人が座っている。

 カイルはその顔で全てを把握して、目を瞑った。目は潤んだけれど、涙は流さなかった。いや、流さないようにした。


 暫くしてから、リースへと近づいて跪く。



「やぁ、リース。久しぶりだね」



「お久しぶりですわ」


「君に…………話したい事があるよ。何から話そうか……」



 くしゃくしゃの顔で、彼はもう一人のリースとの出来事を話し始めた。



















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