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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
4章
134/161

45

 カイルは顔をくしゃっとさせて、私を抱き寄せる。彼の胸元に顔が当たった。ほんのりレモンの香りがして、私の鼻先をくすぐった。



「………………前に言った、君がここに来る前に戻って自由にできるとしたら何がしたいかって、聞いたよな」



「うん」


 私はカイルを見つめる。

 藍色の目がキラキラと、輝きを放ってきている、



「俺は…………もし、願いが叶うなら、君に会いたい。生きている君に」


 カイルは感情が昂っている。目がチラ、チラと線香花火みたいに弾けながら、光輝いている。

 私は彼の目を見ながら、とても綺麗だと思った。




「どうするのが、正しい道なのか、わからなかった」



 カイルは抱きしめながら、私を見つめる。


「君が転移者だと最初からわかってた。最初は興味本位で…………でも、困難な状況が続く中でも、もがく君に惹かれていった。……だけど、君は異世界の人間で、もうすぐいなくなってしまうんじゃないかと思って」



「その時まで、一緒にいるよ」



「俺も一緒にいたい。君がどんな世界にいて、どんな人間で、今どうなっていたとしても。俺は君が生きている事を信じるし、傍にいる。…………好きだ。好きだ。レナ。好きだ。……君が…………俺を救ってくれたから」



 カイルは手を離して、私を見つめる。私も上を向いて、ほんの少し背伸びをした。彼が私の腰と頭を支えて、キスをした。私は一度踵をつけて、離れると、カイルは顔を近づけて、もう一度深くキスをする。



 私が生きてきた中で、一番ロマンチックだと思った。




 この先、どうなるかわからない、


 どうなってもいいーーーーこの人を好きになれたから。




 胸の奥に妙に落ち着いた高鳴りと、もう離れたくないとありきたりな事を感じながら、私達は長くキスをした。
















 * * *



 十一月上旬に取り行われた、ダナ様とフィオレの結婚式は本当に素敵だった。



 フィオレは真っ白なサテンの肩が大きく開いて、袖に特徴があるウェディングドレスに、ダナ様は落ち着いた白い光沢のあるタキシード。



 公式でも見た事がある、絵に、私はとても興奮した。ついでにノエミも興奮していた。


 たまたまだけど、フィオレが三日月のリース型のカサブランカのブーケを持っていて…………うっかり、投げられたブーケを私が受け取ってしまった。


 一応元婚約者だし、ひっそりとしているつもりが、リースの容姿もあって目立ってしまった。


 カイルは、私に笑みを見せながら、肩を抱き寄せる。フィオレは絶対に、私に向かってブーケを投げた気がするのよね…………。でも、満面の笑みで、本当に嘘偽りのない幸せそうなフィオレとダナ様の顔を見て……複雑な辛気臭い顔をするのも、違うなと思って、ありがたく受け取っておきます。


 フィオレ、ダナ様、おめでとう。






 ナイトパーティーに向けて、王宮の一室を借りて、ケーキを仕上げた。


 三段のスポンジに、真っ白な生クリームを塗る。ジーニアさんに土台の縁取りをお願いして、出来上がったら……私がひとつひとつ、砂糖でできた花びらを散らしていく。



『ケーキのイメージは、一輪の大きな花をイメージして欲しいのです。花びらが一斉に開いたような』



『わかりました、花ね』


 私が頷くと、フィオレはあの時言ったんだ。




『人生を美しい一輪の花のように生きたいのよ』




 最も美しい言葉だと思った。



 花のように生きて。王家の庭園に咲き誇る白い花のように、凛と気高く美しく。そして____その花を拾いあげて、私が飾ります。貴女の幸せをかき集めて、私が冠にしてあげるわ。


 きせきみの主人公のフィオレ。平民の父と母の一人娘として産まれて、そのカイルと同じ制限のない闇属性の黒髪から強い魔力に優れて、ダナ様と惹かれ合う人。


 正義感がある故に、リースとの約束を守ろうと、自分を悪役にしてまで徹しようとした、誠実な令嬢。



 貴女の未来が公式の情報だけでなく、ただ一人の貴女自身として、幸せでありますように。



 


 私達は三段ケーキに、まるでカサブランカが大きく開いたような飾りを付けた。私個人の考えなのだけど、金箔はダナ様のイメージ。中身は……チョコレートスポンジに、苺やフルーツがいっぱい!! 甘い甘いケーキにした。


 ジーニアさんも何かを理解したように、穏やかな笑顔だった。



「リース嬢、ありがとう」


 そう言って、最後に握手を求めて来た。

 戸惑ったけど私も手を取って、握手した。

 ケーキは喜んでくれたみたい。

 良かった。







 私とカイルは、結婚式の帰りに王宮の国王陛下の邸宅へと足を運んだ。婚姻するか否かの返事をする為だった。



「でからして、答えは決まったか?」


 いつもよりも艶やかなファー付きマントを羽織った国王陛下はダナ様の結婚式なせいか、すごく柔らかい表情をしている。


 私は国王陛下の前に跪き、答えた。



「……はい。カイル公爵殿下と結婚します」



「おぉ!!!! そうか、そうか!!!! ダナに続き、カイルまで!!!! めでたいな!!!!」


 国王陛下は気分良く、高笑いをする。

 カイルは微笑んだ。


「でも……三つ、条件があります」


 カイルの言葉に、国王陛下はサッと冷静にな顔つきになる。


「何だ?」



「ひとつは結婚式は大袈裟にはやらず、二人だけでやります。もう一つは、一年経つまでは、正式な籍は入れません。義兄さんの事もあり、リースは一年後に正式に入れたいと願っています」



 国王陛下は変な顔をする。


「だが、一年は長いのではないか? 貴族同士の婚約破棄などは稀にそれなりにある。ダナを気にしているのならば、気遣いは無用だ」



「いえ、違います。気遣いではなく、これは僕達の愛が本物か勝負でもあります。彼女は一度、義兄さんから婚約破棄されているので、人を疑心してしまいます。彼女の為にも長い時間をかけて、解いてあげていきたいんです」


 カイルは芯の通った声で話した。


 これは、カイルが言う作戦だった。これから先、何があるかわからない私だから、本当のリースの経歴を傷つけても仕方ない。だから、この作戦でいこうと言われた。

 敬意を示すために、私は必死に首を下げた。



「うむ…………仕方ないな。カイル、お前の気持ちも汲んでやろう。で、もう一つの条件とは?」


 きた。


 私はずっとノエミとお茶をした時に考えていたお願いを提案した。



「ガロ兄弟にも名誉と報酬を与えて下さい」



「何?!」


 国王陛下は少しケバ立った声色をする。

 ずっと考えていた。レオもノエミも、私によく尽くしてくれた。


 私は皆のおかげで、貴族に戻れた。だけど、二人は幾らレオが忙しくなって、貴族から仕事をもらっているとはいえ、平民である事に変わりはない。これからも生活苦は続いていくし、毎日を生きていくので精一杯だと思う。

 私が有意義な生活をして、彼等が何も変わらないなんておかしいのだ。



「ガロ兄弟は、私が無実を証明できる為に、何度も何度も骨を折ってくれました。だからこそ、今の私がいるんです。……彼等を除いて、私だけが幸せになるのはおかしいのです。ガロ兄弟にも正式な名誉と報酬………

 …レオに爵位と現金、ノエミを学校に通わせてください」



 私は一瞬だけ、国王陛下の顔を見た。困った表情をしているのが、よくわかった。


「だが、彼等はブーケ国の人間だ…………うーむ」



 国王陛下は上を向いて、大きくため息をつくとカイルは言った。


「お父様の力で、ブーケ国の国王陛下に手紙を書いて頂けませんか? ノエミ嬢は学校に通った事はないので、学校でやっていく必要な学問はノエルに任せます。慣れて来たら、マークス卿の力も借ります」



「お前までなぁ………………よし、わかった」


 私は首を垂れていたが、カイルを見て、笑った。


「だが、我も条件がある。お前達の条件は、とても要求が高すぎるものだ。叶えるには少々、割に合わない」


「じょ条件とは…………」


 カイルは呟いた。

 予想にしていなかった展開だった。



「リース嬢。其方、カイルと一緒にスペラザ王国へと戻って来なさい。それが我からの条件だ」


「へっ」


 気の抜けた失礼とも取れる声が出てしまった」


 国王陛下は変わらずに話し続けた。


「王宮に住んでもいいが、ダナが気になるのならば別宅でも構わない。だが、条件をのむのならば、こちらはそれが条件だ」



 私は…………そんな……と思っていた。マロウさんと一緒だった思い出もある、ブーケ国を出るなんて。


 レオとノエミともお別れになってしまう。


 そんなぁ…………



「諦めるか?」


 いつもだったら、ここでどうすればいいのかあやふやな気持ちのまま、悩んでいたと思う。右も左も選ぶことができない自分を逃避していただろう。

 

 でも、私は答えた。




「はい、承知致しました」



 私は国王陛下へとまた頭を下げた。


 残念だけど、仕方ない。二人の為。

 どうせ思い出は心の中だし、リースは元々スペラザの人だからね。



 国王陛下は納得すると、また高笑いして、魔法でテレポートして行ってしまった。王配陛下に会いに行くのだろう。

 私とカイルは、見つめ合って、笑った。




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