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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
4章
121/161

32

 彼女は哀しそうに何処か違う場所を見る。虚空を眺めるその姿が、私はとてもいたたまれなくなった。


 決まっているシナリオでも、リースにとっては大切な思い出の一ページだった。ダナ様とした約束が、どれほど魔法が使えなかったリースにとって、支えだったのだろう。支えだった人から、距離を置かれて嫌悪されて断罪されるーーーーそして彼が選んだのは、魔力を強く持った元々は平民だったフィオレ。



『ダナ様が覚えてくれたら良かったわね』



 私は呟くと、彼女は仕方ないと言う表情をする。


『元々、私の片想いでしたもの。あの約束も私だけの物ですわ』


 ニコッとリースは笑った。私はそっと近づいて、リースを包み込む。リースはぱっちり二重の可愛らしい目から、沢山の涙を流した。浮いている私達と同じように、涙はふわりふわりと空中に浮かんでは消えていく。



『…………でも、大切でしたの。あの言葉があったから、生きてこられた』


『うん』


『ダナ様にはほんの一握りの記憶でも、私にとっては……大切な記憶……希望だったんです』



『うん』


 少しの間……リースとして生きて、その想いが本物で、いかに強い想いなのかも知っている。なのに……全てがチグハグになってしまった。私がこの世界に来てしまったから。



『リースに身体を返す事は出来るかな?』


 私は少し離れて、リースに伝える。

 彼女は、涙をまだ少しぽろりと流しながらも不思議な顔をして私を見た。



『レナ……これでいいんですの?』



『何が?』


 知っていて、わざと私は聞き返してしまう。リースもわかっているのか、ハッキリと言って来た。


『カイル様との事ですわ』


『いいの。生きてる世界が元々違うんだもん』


 私はふわりと、浮かんで両手を広げる。無意識の中なせいか自由にできるようで、フッと力を込めれば私の両手からキラキラした花びらが舞う。リースはつかさず綺麗にキャッチして、空間に放り投げる。



『…………最初は、会社の人に似てるなぁって思って……それで気になるのかもって思ってた。だけど、いつも真摯に向き合ってくれて……何だか、好きになっちゃったみたい』


『レナ…………』


『リースはまだ幸せかもよ?! 私と違って、同じ世界で暮らしてる』



 こくん、とリースは頷いた。


『そうですわね。酷だわ、と思うけれど、貴女は違う世界なんですものね……』


 リースが近くに来る。私の手を握って、言った。


『なのに、自分が消えてしまうような事をして』


 どうして、身体に短剣を刺したんだ、と言いたいのだろうと思う。もしかしたら、私はそのまま逝って目が覚めたら、目の前に今いるリースに戻っているかもしれない可能性すらあった。だけど、私にはそれ以外は選べなかった。リースの魂を刺して、自分が違う人生を得る事なんて…………出来なかった。



『勝手だけど……守りたかった』


『本当に勝手よ。私も痛かったんですわよ!!』



『ごめん。でも、これ以上、リースには傷ついて欲しくなかった』


『余計な事を』



 リースは違う場所を見て、顔を晒す。

 私は身体をピシッと伸ばした。


『ごめん……』




『…………感謝していますわ。ラクアティアレントと一体化となっていた時は……とても心が凍りつきながら、燃えてしまいそうで…………消えて無くなりそうな気持ちでしたもの』


『そう……』


 私は言うと、リースは近づいて来て肩に両手を触れる。私は顔をあげて、リースの顔を見た。



『ねぇ、レナ。貴女にあと少しだけ……私の身体を貸してあげる。貴女がこの世界でやりたい事を達成できるまで、私はここにいるわ』



『え?! そんな事ができるの?』



『わからないですわ。…………でも、私はそうしたいと思っていますわ。これは、ラクアティアレントから私を剥がして魂を戻してくれた貴女へのお礼。借りは返さないと』



 彼女は、ニコリと貴族の笑みを浮かべる。私は、言葉に詰まってしまう。


『やるの? やらないの? どちらにしますの?』



『でも………………』



『あ、もちろん、私の要望も聞いてもらいますわよ。出来る限りでいいので、今まで私が傷つけた人に私の代わりに謝ってもらう事、それからーーーー』



 リースはお父様に貴女が作ったお菓子を食べさせてあげてね、と言う事と他頼まれる。



『交換条件がレベルの高い話ばかりじゃない?!』



 私はしかめっ面をすると、意気揚々と彼女は、公式でよく見るお決まりなポーズした。



『タダでは貸してあげませんのよ! 私は悪役令嬢ですからっ』


 ふふん♪ と、リースは私に近づいて言った。小指を立てる。


『貴女が、納得いくまで私の身体を使って生き切り、そしてその後…………もし、貴女が生まれ変わったとしても、自分の人生を諦めないで幸せにする事……。約束して下さい』



『えっ…………貴女と約束するの、なんか守らなかった時を考えるとすっごい怖いんですけど!!』



『そんな事はございませんわー!! 私は半年以上、他人の貴女に身体を貸せる心優しい悪役令嬢ですわー!!!!』


 にこりとリースは微笑む。小指をピン、ピンと震えさせて、どうするの? と聞いて来た。私は仕方ないと思い、小指を絡める。



『わかったわ。でも、リース、貴女も。この先の貴女の人生も絶対に幸せにするのよ。何があっても』



 ギュッと強くリースは指切りをして、指を離した。私が小指の刺激に少し痛がっていると、リースは笑う。



『約束、ですわよ。お互いに生き直す。破ったら、貴女を殺しに行きますわ』


『怖い、怖いから!! これは負けられないわね』



 私は笑う。リースは私の目をじっと見つめていた。




『さぁっ!! そうと決まれば、準備ですわ!!!! 貴女の命のお迎えが来る前までに、貴女を私の身体に見送らないと!!』


『えっ?! えっ?!』



 私はリースに背中を押される。驚いて、私は後ろのリースに顔だけ向けながら言う。



『貴女のお迎えが来る前には、私が必ず知らせに行きますわね!! そこが身体をチェンジする時です。それまで、どうぞ自由に宜しく使って下さいましっ!!』


 グイグイとリースは私の背中を押した。

 私は戸惑いながら、言う。



『ちょっちょっちょっと、リース!!!!』



『レナ、ありがとう』


 彼女はドン!!!! と背中を押すと、目の前が真っ白になって…………私は思わず目を閉じた。ふわぁっと身体が温かく……少し浮いてから着地する雰囲気を感じると、下に下に落ちていく感覚になった。重力を全体に受け止め、それまで感じなかった、においや音が身体中に染み渡る気がした。爽やかな風がふわりと羽のように、鼻先をくすぐった気がして、目を開ける。


 ゆっくりと目を開けると、白くて薄い天蓋が見えた。




 ここは…………?



 リースに押されて戻って来たんだな、と思うと、すぐ傍から声がした。


「リース!! 目が覚めたのか!!」


 目を開けると、ダナ様が傍で血相を変えて私を見ている。私は自分の手を確認した。…………リースの手だ。じゃあ、やっぱり……私はリースに押されて、無意識から戻って来たんだ。ダナ様は心配して言う。



「リース!! ……君は……どっちのリースだ?」


「私……身体を支配していた方のリースです」


「そうか……」


 ダナ様は複雑な表情をして、私を見た。そして、ヨクサクに申し付ける。


「ヨクサク! カイルに知らせて来るんだ。リースが目を覚ましたと」


「ハッ! 承知いたしました!」


 ヨクサクはベッドから少し離れた場所で返事をして、出かけていく。私は起き上がろうとすると、まだ傷が痛んだ。



「痛っ」


「無理には起き上がらない方がいい。一週間以上、君は眠り続けていたんだ」



「一週間も……」


 私は呟くと、ダナ様はホッとしているみたいだった。


「目が覚めてくれて良かった」


「リースが私のお迎えが来るまで、身体を貸してくれると夢の中で言ってたんです……それで彼女に背中を押されて……」


「…………そうか……」



「ダナ様? 神殿は? フィオレ嬢は? アントニ侯爵は?」


 私は少し身体を起こして、ダナ様に聞く。

 ダナ様は真剣な顔になって話し出す。



「君が倒れて……私とカイルとアントニ侯爵が治癒魔法をかけたんだ。だが、君の損傷は酷く、力の強いカイルを含めても出血が止まらなかった。君は覚えていないだろうが、意識がなく、見るからに危険だった。そこに、シン・ダーク卿とフィオレが現れたんだ」



「えぇ」


「フィオレは君に逃されたものの、暫くは迷って……それから神殿に戻って来たんだ。戻って来たら、君は血を流して倒れ、神殿はめちゃくちゃ、私達は必死で蘇生に当たっていて…………驚きつつも、必死に二人も治癒魔法を流してくれたんだ」



『リース嬢!! こんなところで逝くなどと、私に対して失礼ですわよ!!!!』


 フィオレはそう叫びながら、力強い魔法を流して蘇生に加わった。シン・ダーク卿も、何も言わずに力を流してくれた。



「その後、ヨクサクが医者を連れて来て……君は一命を取り留めた訳だが、ずっと目を覚まさなかった。神殿は浄化の為に立ち入り禁止。私とフィオレの婚約披露会は急遽延期。カイルは王宮に引きこもって、出て来ない。君の友人、レオとノエミにはこちらで宿泊部屋を用意したよ」



 考えてはいたものの、派手にやらかしてしまった。私が暗い顔をしていると、ダナ様は私の肩を優しく叩く。



「そんな顔をするな。神官達とは口裏を合わせて、神殿で水の霊が出た事にしておいた。折角爵位を取り戻したのに、魂が暴走したと聞いたら、また元通りだからな」


「だっ大丈夫なんですか?! 私が悪いのに……」



「いや、君は悪くない。……全ての原因は私にある」


 ダナ様は呟いた。


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