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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
4章
120/161

31

 カイルは短剣に手を触れる。バチバチッと激しい火花が散る。でも、短剣を離さなかった。更にバチバチッと火花がカイルの手に絡みつくように起き上がる。


「カイル、大丈夫か? 無理をするな」


 バチバチッバチバチッと火花がずっと起きていた。ダナ様はカイルの顔を伺いながら治癒魔法を続ける。カイルは根をあげる事はなかった。


「大丈夫だよ、リースのが痛いだろ!!」



 握りしめている時間が長いからか、火花は電流に変わる。

 ゔっと、カイルは顔を歪めた。



「カイル!! やめろ!! それ以上やるな」


「カイル!! そうだよ、兄ちゃんの言う通りだ!! お前がどうにかなっちまう!!」




「諦めない!!!! この子を守らなきゃいけないんだ!!!!」



 カイルは大声を出して、手を止めずに、顔を歪めながら短剣を引き抜いた。ぶわっと血が溢れて来て、カイルは自分のハンカチを出して血が溢れる刺し傷に押さえつけた。



「義兄さん!!!! もっと治癒魔法を送ってくれ!!!! 血が止まらない!!!!」



「送っている!!!! 出血が酷いんだ、あと数人、魔法が使える者がいないと……」


 二人は手を真っ赤にして、言っている。ノエミは涙を流しながら手を組み合わせて、ただただ傍にいる。レオが彼女の後頭部に手を触れながら、励ましていた。

 その手も震えている。



「ダメだ!!!! 死ぬな!!!! リース!!!! こんな死に方しなくていいだろ!!!!」


 カイルは大粒の涙を流しながら、真っ赤な手で一生懸命、光を当てて治癒魔法を流していた。ダナ様は苛立つ。


「医者はまだか!!!! 早く来てくれ……!!」



「リース!!!! 死ぬな!!!!!! …………死なないでくれ!!!! もし……元の生活に戻れたら……恋愛がしてみたいって、言ってたじゃないか!!!! こんな所で諦めていいのか?! …………こんな事で終わらすなよ…………!!!! 死ぬなよ!! …………死ぬな!!!! 死ぬな、リース!!」



 カイルは涙が止まらない。冷静沈着な余裕のあるキャラクターのカイルは、珍しく取り乱していた。


「カイル…………」



「死ぬな…………!! 君は生きてる……絶対、生きてる!!!! 異世界のリースはまだ生きてる……!! 俺は絶対そう思っているし、信じてる!!!! だから、ここで諦めるな、踏ん張るんだ!!!! ………………もう一度、君自身の人生をやり直すんだ!!!!!!」



 カイルは呼びかけ続けながら、泣き続けながら、血を止める為に押さえつける。ノエミは走り出して、寝ているマークスを揺さぶる。レオも一緒になって、ロベルを起こす為に頰を叩いた。


「リースのお兄様!!!!」


「ロベルさん、起きてくれ!!!!」



 二人は必死にリースの兄達を起こそうとする。マークスとロベルがかけられた眠りの魔法は、なかなか強力で、ビクともしない。二人は続けて声をかける。



「リース!!!! 死ぬな……!!!! 生きろよ!! 生きてくれ…………頼む……俺を置いて逝かないでくれ……もうこれ以上…………いなくならないでくれ!!!!!!!!」



 カイルは私の頬を叩く。真っ赤に染まっている手で叩かれた私の頬は真っ赤な痕が付いた。洋服に大粒のカイルの涙が落ちる。カイルはしくしくと両手を押さえていると、片方の手を取られた。目を向けると、アントニ侯爵がカイルの手を取っていた。



「焦り過ぎですよ、第二王子」


「………………」


 カイルはポカンとしていると、アントニも手を触れて治癒魔法を送った。



「アントニ侯爵……」


 ダナ様は呟いた。アントニ侯爵は、ため息をついた。



「これは偽者の為ではありません。私の娘の為だ。……死なれては困る。娘は一人しかいない」



 また黙り込んで、治癒魔法をかけた。ダナ様とカイルはお互い見つめ合って、また治癒魔法をかけた。だけど、私はどんどん意識が遠のいていく。



「リース!!!! 戻って来い!!!! リース!! リース!!!!」



 皆が同じように、私を呼んだ。治癒魔法は体力をかなり消耗するので、皆もかなり辛い筈。だけど、諦めなかった。



「リース!!!! リース!!!! 戻って来い!!」




 カイル達は叫び続ける。





 私は皆の呼ぶ声が遠くに遠くに聞こえた。



 特別何もない、つまらない人生だったけれどーーーー最後に異世界で……楽しい生活が出来て良かった。



 皆…………ありがとう…………




 私は…………とても幸せだったよ…………








 私は人生を振り返って、新しく踏み出す事にした。

 ありがとう、本当にありがとう、

 これでスッキリと逝ける…………………………






















『ちょっと!! 勝手に人の身体で人生終わらせるのやめて下さいます?!』




 私がパッと目をあけると、隣りにはリースが立っていた。



『え????』



 私は、辺りを見回す。景色は……真っ白い明るい景色がどこまでも続き、正方形の真っ白な床が何メートルも並んでいる。リースは真っ白な丸襟とスカート裾にフリルがついたワンピースを着て、浮いている。

 私は自分の姿を見ると、本来の自分ーーーー玲那の姿で、これまたシンプルな白い丸襟にスカートにレースが付いたワンピースを着ている。



 手を確認していると、リースが一言言った。


『ここは私の身体の中…………無意識の中ですわ』



『じゃ……じゃあ、まだ私達生きてる?!』


『もちろん』



 私はふわりと浮き上がり、リースへと向かう。手を取って喜ぶと、リースは納得いかない顔をした。


『ちょっと!! 貴女、いくら私を止めたいからって、私の身体を傷つける事ないんじゃありません事?! 私の許可なしに!!』



『あぁっごめんね、リース! どうしても止めたくて』



『……貴女が止めたかったのは、お父様や私ではなく、カイル様でしょう。彼に死なれたら困るから』


『す……すみません』



『全く、おかげで私は魔法がまた使えなくなって、貴女と無意識の中で生きている…………ティルト家の侯爵令嬢が……情け無い……』


 リースはハァーっとため息を吐く。

 私は申し訳ない気持ちになった。


『ごめんね……』


 私が言うと、リースは表情を穏やかにして微笑んだ。



『いいえ、構いません』




『ところで……どうして、私達こうなってるの?』



 私はリースに確認すると、リースは人差し指をピシッと立てて言う。


『貴女が私の身体を傷つけた結果……出血が止まらず、私達は身体が回復するまで、ここにしかいられないようですわ』



『えっ』


 私はのけぞると、リースは慣れた雰囲気を出した。


『まぁ、生きていますのでご安心ください』



『生きてるのね…………良かった』




『まぁ私の身体の回復次第では、天に召される事もあるかもしれませんが』


 私はリースの言葉でギョッとしてしまう。

 そうか……死ぬ事もあるのか…………

 暗い顔をしているのを見て、何か思ったのかリースは言う。



『大丈夫ですわ、ダナ様とカイル様とお父様達が応急処置で治癒魔法をかけて下さいましたから』



『そう……良かった』


 私を胸を撫で下ろすと、リースは微笑む。


『どうして……私達、こうなってしまったのかしらね』


 寂しそうな、でも微笑みながら、リースは私を見た。私も考えるポーズを取りながら、言ってみる。


『うーん…………そうよね……私達、本来だったら出逢う事はなかったわね』



『貴女、断罪されるなんて聞いていませんわよ!! どうして、上手い事かわしてくださらなかったの?!』



『えっ?! 私のせい?? 私だって頑張ったのよ!! でも、貴女の積み重ねが招いてこうなったんでしょう?! 私が既に貴女になっていた時にはもう話が終わってたから!!』


 私はハッキリとリースに言ってやると、リースは思いの外落ち込んでしまった。私は何だか申し訳なくなる。



『…………そうですわね』



『ごめん』



『良いんですわ。……決まっていた事ですもの。ラクアティアレントと一体化した時……時空の自由を得て、貴女の世界での貴女を見た時知ったわ。……私は悪役令嬢ですもの』


『それは…………っ!!』


 違う、とは言ってあげられなかった。リースはきせきみの悪役令嬢で……ダナ様から断罪される。決まっているから。



 またリースは落胆してしまう。


『悔しいのが……私に転移した貴女をダナ様が恋していたという事』


『え? 嘘でしょ? だってダナ様はフィオレ一筋でしょう??』



 リースは顔を歪めて、険しくする。私は何の事だか分からなかった。


『貴女っっっって、本当に馬鹿なの?! 鈍感にも程がありますわ!! いいこと?! そんな事では素敵な恋愛なんて一生……いえ、半世紀かけても出来ませんわ!!!!』



『そんなハッキリと…………半世紀って、何回私生き直したらいいのよ……』



『ダナ様は貴女の事が好きだったんですわ、よく知っているから……わかります』



 リースはまた落胆した。息を大きく吐いて、浮きながら下を向く。


 ダナ様が……? 私を?? 信じられない。だって、あんなに嫌われてたのに。



『でも……それは、リースとの記憶がベースにあると思う』



『どうかしら』



『そう思うわ。だって、姿は貴女だったのよ?』


 私はリースに近づいた。手を握ると、彼女は複雑そうな顔をした。


『…………で、でも……約束をダナ様は忘れていましたのよ?』





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