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『どうして?! お願いよ!!!! 誓わないで!!』
リースは階段下から言う。フィオレはリースから離れる為に、階段を登って行く。リースは階段を登って歩いて行った。
『誓わないで!!』
『無理です!!!! 誓わないって、約束しないって、一生出来ませんわ!! リース嬢には申し訳なく思っています。あなたという方がいながら、ダナ王子と親しくして……でも、それとあなたの約束の話とは違う』
『違わないわ!! 私は……ダナ様と約束したの。……ダナ様との約束があれば、これから何があってもやっていける。あなたにはダナ様がいる。だから、いいじゃない。あの日の約束は私だけのモノにーーーーダナ様とフィオレ嬢は、何も約束しないで欲しい』
フィオレはリースの言葉を聞いて、首を振る。リースは、深々と頭を下げた。だけど、フィオレは譲れない。
『ダナ様が私の全てを見ているなんて、嘘ですわ。リース嬢の事もダナ様はちゃんと見ています。向き合えていないかもしれませんが……』
その言葉に触発されたのか、リースは顔色を変える。
『……あなたに何がわかるの?』
『リース嬢』
『ダナ様のお心を引き止める事が出来るあなたに、ダナ様と私の何がわかるのよ!!』
『そんなつもりで言ったのではありません!!』
『あなたは!! あなたなんかっっ!!!!』
リースは、相手に掴みかかって、その人の体を突き飛ばした。リースの細い腕で精一杯の力を出す。
『ーーーー何もあなただって本当の事、何もわかっていないわ!!!!』
突き飛ばされたフィオレは、自分だって! というように、同じように掴みかかってくる。取っ組み合いが始まって、押し合いをして、少し離れた。
『リース嬢は私がダナ様の全てを手にしていると思っているかもしれませんが、私だって……ダナ様とリース嬢のような絆を手に入れたかった!! あなたは魔法が使えないかもしれない。でも、リース嬢には地位がある、名誉がある、高貴な爵位がある……!! それにダナ様がいるじゃありませんか!!!!』
『うるさいわよ!!!!!!』
「堂々巡りだな」
レオは見つめながら、呟いた。
「少ししたら落ちるのね……」
ノエミの言葉に、私は言った。
「違うの……」
「え?」
ノエミやレオ、ダナ様、ノエルとヨクサク……カイルは私を見つめる。
「リースを落としたのは、フィオレ嬢じゃない。……あの時、ラクアティアレントの水面が光って……ラクアティアレントの魔法で中身が入れ替わったの。…………リースがフィオレの中に入って、自分自身を見て……こんな私、どうして生きてるのかしら…………って思って…………彼女が自分で……自分の身体を押したの」
皆は固まって、茫然とする。
『っっっっ!!!!!!!!!!!!』
言葉にならない声をリースはあげる。
本物のリースは、クスリと笑って言った。
「馬鹿よね〜 私、少し突いたつもりだった。気持ち悪い自分を見て……大嫌いな自分を見て……どうして生きているのか、わからなかった。……だから、突き飛ばした。…………だけど、たまたま、手すりが壊れちゃった。…………そのまま入れ替わったまま、だったら良かったのに。……あっさり自分に戻って、ドボーンですわ」
『はっ!!』
『きゃあああああああああああっっ!!!!』
ラクアティアレントにリースが落ちた時、水面の下にピンク色の魂がぽろりと沈んで、浮き上げられた時にーーーーリースの中身は、私、玲那となっていた。
「カイル……私、リースの前世でも何でも無かったの。ただ、自分の生活に絶望して溺水して死んだアラサーオタクだった。リース嬢じゃないんだ。……さっき、記憶が甦って、わかっちゃった」
私は涙を流しながら、言った。カイルは、私を見つめながら、片手で私を抱きしめた。
「辛かったね…………」
「本物のリースじゃなくて、ごめんなさい……」
「リース、貴女が見ていた記憶は、ラクアティアレントに落ちたから見えたものじゃないわ。貴女の入っている、その身体は私の身体なの。記憶を甦らせていたのは、この私。…………だから、水のある近くや水に触れた時に、記憶は甦ったでしょう? 私が魔法で見せていたの」
「君は魔法が使えないノーマルだっただろう?」
ダナ様は本物のリースに言った。リースは笑って、ダナ様の近くへと、身体を寄せて頬に触れる。
「違うんですの、ダナ様。私、使えるようになったんですわ。魔法」
ホラッと、リースは透明の両手をあげてダナ様に金色の光を散らした。ダナ様は、表情をこわばらせたまま、光を見つめる。
「私が全て悪かった。……私の所為だ。リース、元に戻ってくれ。お前は今、ラクアティアレントの魔力に……障りが起きてしまい、翻弄されているだけだ」
「どうしてですの? 喜んで下さい。これなら、王妃など目指さなくても、魔法が使えます。私は自由なんですわ!!」
リースが上に上に上がっていくと、入り口の方から拍手が聞こえる。皆が振り向くと、アントニ侯爵と、マークスお兄様とロベルお兄様が立ち尽くしていた。お兄様二人は、この状況に愕然としていたけれど、アントニ侯爵は微笑みながら感動している。
「アントニ侯爵……」
「最高だよ、リース。それでこそ、私の娘だ」
アントニは笑って、拍手をずっと続けていた。皆が引いている事にも気付かず、うっとりと本物のリースに近づく。
「……私達は止めたんだ。だけど、君をわからせてやると、お父様は……」
マークスお兄様は申し訳なく、アントニの後ろに控えていた。饒舌なロベルも一言だけしか話さない。
「リース、ごめんよ」
私に向かって、ロベルお兄様は言う。
「お兄様、本物のリースはこちらですわ」
ロベルの言葉に、怒ったリースはロベルに向かって焼けた水の爆弾を発射した。サッと避けたロベルは後ろの壁の壊れ具合を見て、固まった。ぼっこりと壁が深くへこんでいる。
「素晴らしい、リース、流石私の娘だ」
アントニ侯爵だけが、一体化したリースに感動している。また拍手して、うっとりと本物のリースを見つめた。
「やばいな……ラクアティアレントと一体化しているから、魔法もかなり強い。僕も勝てない……」
「カイルが勝てないんじゃあ、どうするんだよ?!」
「それに……ここは神殿だからな。魔法を使うのは本来は禁止されているんだ」
ダナ様は言う。神官達は、言った。
「これは緊急事態です。魔法を使う事を私達は許可します。王太子殿下、リース嬢をおさめないと、彼女はずっとあのままです。魔力に魂を食われては、もう普通に生きる事すら出来なくなります。それに、国にとっても、危険です」
「わかっている。だが、どうやって? 彼女は私の幼なじみなんだぞ?」
「そうですね……魂をリース嬢の体に戻す事が出来れば……」
「だが、彼女はどうなる?」
「わかりません」
ダナ様は私を指して、神官に確認したけれど神官もわからなかった。本物が戻るべき場所に魂が戻ったら、人格が二人になる。そうしたら、私はどうなってしまうのだろう? ダナ様も、私を心配してくれている。
「何か他に方法はありませんか?!」
「無いわ」
本物のリースは、私に向かって来た。にこりと笑って、両手で私のーーいや、リースの身体をおさえる。
「ねぇ、〝もう一人の〟リースさん。貴女は、私として過ごして行くうちに、貴女自身が本当に私だと勘違いしていたでしょう? でも、違うの。貴女は私の身体に転移していたから、段々と同化が進んで、貴女が私に根付いていたのよ。本物を無視してね」
「………………」
「ショックだった……? ラクアティアレントの力を使って、貴女の記憶も見させてもらったわ。……貴女って本当につまらない人生を過ごされていたのね。恋すら、土台に乗れていなかった。ダナ様を画面越しに見る生活なんて、つまらなくて、すっごく可哀想ですわ!!!! その身体を使えば、貴女はダナ様ともカイル王子とも話せますものね」
「リース!!」
ダナ様は叫んだ。
「私との事で悩ませていた事は謝る。だが、他の者達を巻き込まないでくれ。これは君と私との問題だろう?」
ダナ様はリースに近づいた。リースも少し体を縮めて、ダナ様に近づく。
「ダナ様……私の事を心配して下さるのですね」
「あぁ」
リースはダナ様の頬に手を触れて、寂しい顔をした。ダナ様もリースを見つめる。
「ダナ様…………でも、そういう貴方が、私は憎らしいんですわ」
ぐぐぐぐっと、手をリースは首にやり、力強くダナ様の首を絞める。ダナ様は抵抗するも、力が強くて、何も出来ない。私は走って、リースに体当たりした。ダナ様からリースは離れたけれど、激痛が、私に走る。
「痛いっ!!」
「貴女、馬鹿なの? 私に何かしようとしても無駄よ。貴女が使っている身体は、私、リース・ベイビーブレス・ティルトのモノ。魂がここにある私に、身体を動かしている貴女が何か攻撃したところで、痛みは私達二人に来るのよ。……だって、私達繋がっているんですもの」
リースは噴水の石囲いに座って言った。
「なんてこった……それじゃあ、あの姉ちゃんを倒すに倒せねえじゃねえか!!」
「どうしたらいいの……?」
「我々は、攻撃を耐えるしか方法がないのか……」
カイルは話す。リースはまた、ニヤアと不気味に笑う。
「そうよ〜 その通りなの〜」
リースはどんどんどんどん、上に上にと上がっていく。くるくると回って、笑った。
「戻って欲しい? でも、私……もう戻らないわ。戻ってしまったら、私はまたノーマルとして生きなくてはいけませんもの。これなら、動ける、この姿なら、魔法が使える。…………だからね、〝もう一人のリースさん〟私、その身体はもういらないの。邪魔なのよ」
私がリースを見つめていると、彼女は、いきなり攻撃を仕掛けて来た。ダナ様は驚いて、私を庇う。私とダナ様は、神殿の端に吹っ飛んだ。
「ダナ様?! 大丈夫ですか? お怪我は……」
「あぁ、大丈夫だ。君は……?」
「ダナ様が庇って下さったので、大丈夫です。すみません」
私はダナ様に頭を下げた。ダナ様は少し複雑な顔をした。
「リースにしては……君は言葉遣いが確かに少しラフで、謙虚だからな。気付いてあげられなかった……。全く、私は何を見て来たんだろうな」
「そんな事ないです!! ダナ様はいつでも気高くて素敵なんですから……!!!!」
「…………君に言われると、調子を崩すよ」
ダナ様は笑うと、急に私を抱き寄せた。私は驚くと、ダナ様は右手を掲げて盾を作る。後ろを振り向くと、リースが私に向かって攻撃を仕掛けて来たのがわかる。
「……リース……」
「貴女はダナ様に近づかないで。カイルが好きとか言いながら、忌々しいわ」
リースは構えていた。私はダナ様にお辞儀をしてから、立ち上がると、リースを見つめる。
「私と繋がっているから、私に攻撃はできないんじゃなかったの?」
「違うわ、貴女は私を消さないけれど、私は魂で動いているの。だからこそ、自分の身体だから貴女を消す事ができるの〜素晴らしいでしょう?」
リースは怪しく笑う。私はジッとただただリースを見つめる。アントニが声高らかに話す。
「素晴らしいっ……!! 最高だ、リース!!!! 君は……それでこそ、私の娘!!!!」
その時、リースからアントニに大きな電流が放たれた。