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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
4章
115/161

26

 神殿に戻ると、噴水の近くにダナ王太子が座って、近くに皆が集まっていた。何故だか仲良さそうに話している。


「リース」


 ノエミが戻って来た私に声をかけた。レオはダナ王太子の隣に座っていて、ノエルとカイルとヨクサクがいる。


「ただいま……どういう事?」


「なぁに、作戦会議だ」


 ダナ王太子は何でもない、というような感じで言った。私は不思議な顔をしていると、カイルは笑う。


「仲良く話していただけだよ。それよりも、どうだった?」



「うーん……とりあえず、鍵を開けて来たわ。逃げられるように」



「は?! お前、何やってんだよ?!」


 レオが立ち上がって、目の前に来る。ダナ王太子は、やれやれという顔をした。


「……フィオレ嬢は悪くないの。見た目には彼女が落としたように見えたけど……その前に、皆に話さないといけないわ」



「? お前が前に片付いたら俺達に話すって言っていた事と関係があるのか?」


 レオは私を見た。私は、頷いた。ダナ王太子も、チラッと私を見る。カイルは、私の話す事が、わかっていた。



「……最初に、ラクアティアレントに落ちて目が覚めた時に気づけば良かったのよね。でも、私も……何も覚えていなかったから…………自分が何者なんだか、分からなかったの」


 私にノエミは近寄って、腕を掴む。

 私はノエミに笑いかけた。


「何者って……貴女は、リースでしょう?」


 ノエミは混じり気のない表情で、私を見た。ダナ王太子も、レオもノエルもヨクサクも、私を見る。私はカイルに言った。




「最初から、カイルは気付いていたんでしょう? ……私が……生きていない存在だって」



 カイルは何も言わなかった。けれど、全てを理解している顔をしていた。皆は、各々驚いている。



「……何だと?」


「しっ……死んでるって?」


「何冗談言うんだよ」


「ちゃんとお話をして下さい」


「嘘ですよね?」



 ダナ様、ノエミ、レオ、ノエル、ヨクサクがそれぞれ話す。カイルは話して来た。



「僕はどうして君が、神官に占ってもらっても水晶玉が割れてしまうのか、何度も考えていたんだ」


「えぇ」


「それは多分、君が……この世界の人間じゃないからだって言う事が、わかっ…………



 皆がカイルの話に注目していた時ーーーー何処で恐れていた事が起こった。ダナ様の後ろから…………〝もう一人の私〟が……現れたのだ。ダナ様は振り向いて、茫然とする。ノエミの叫び声が、神殿中に響き渡った。神官達は、ノエミの叫び声に驚き、出て来た。神官達は、〝もう一人のリース〟を見ると……衝撃で言葉を失った。




「リース…………」


 ダナ様が呟く。






 ーーーーーーーーラクアティアレントの噴水から、〝本物の〟リース・ベイビーブレス・ティルトが現れた。






 彼女は透明な身体をしていた。私達よりも大きな体となり、聖水ラクアティアレントと一体化していた。


 皆は驚いて言葉を無くしている。


 〝本物の〟リースはそんな私達を見て、ニヤアっと笑った。ぞくりとする程、怖い。彼女は水となった体を、私の方に寄せて、フフン、と見つめる。



「びっくりされたかしら?」


 リースは、私の鼻先で、にこりとまた笑った。


「だって、貴女に何度も忠告したのよ? なのに、出て行ってくれないから…………」


 リースは、私の顎に指を触れて、大きな目を私に向ける。ダナ様が混乱している。


「…………どうして……リースが二人いるんだ?」



 本物のリースは、ダナ様に向かって、にこりとまた笑う。

 私をチラリと見てから、噴水に戻って言った。



「ダナ様……今まで……お気づきになられなかったですの?」


「何……を……」


 リースは笑って再び、体を大きくして、浮き上がると皆を高く上から見下ろした。



「リース。ようやく気づいてくれて、本当に良かったと思っているわ。……貴女は神官に、私の転生者か転移者と言われていたみたいね」


 リースの一言に、ダナ様は振り向いて私を見る。私は、ここまでなんだな……と思った。


「どういう事なんだ?」


 ダナ様は言った。



「私は本物のリース。あっちは、偽者のリース。……彼女は、〝異世界で亡くなったただの亡霊〟。私の身体に勝手に転移していた三十二歳の女性よね?」



 私にカイル以外のメンバーが私を見つめる。私は俯くしか無かった。ダナ様は……信じられない、と茫然としている。



「リース……嘘でしょう?」


「そんな、まさか…………」


 ノエミ、レオは立ち尽くす。私は首を振った。ダナ様は、じっと私を見ていた。



「皆、信じられない、って顔をされているわね!! でも、本当の事よ。……あの日、フィオレ嬢が私をあそこから突き落とした時ーーーー私はうっかり、ラクアティアレントに落ちてしまったのですわ。…………私は、そのまま体から魂が剥がれて、このラクアティアレントに沈みました。ですが………………どうしてかしら? 私自身の魂は、私の身体から剥がれたのに、救い出された私の身体は……私を置いて動き出していたのです」



 ぐるりと、ラクアティアレントの全体がリースとして動く。透明なリースの身体の真ん中に、マゼンダ色の光輝く物が見えた。……あれが、リースの魂だと思った。



「リース、君はどうして今まで姿を現さなかったんだ」


 カイルは私の目の前に、庇うようにして立つ。リースは、またぐるりと回って、カイルの元へと体を伸ばして近づいた。



「カイル〜 貴方には感謝しなくっちゃね。私がラクアティアレントに落ちて、身体から魂が剥がれた。……だけど、何故か、分離した筈の私の身体がその後も動き始めた。……中身は私じゃない、別の人格が私として生き始めていた。カイルが爵位を私にと尽力してくれなかったら、こうして私は〝もう一人の私〟と出会えなかったですわ」



「………………」


 カイルは黙っていた。


「どうして……? どうして、私が貴女の身体に転移したの? 私は……違う世界の人間なのに」


 リースは大きく高笑いをして、上へ上へとラクアティアレントと一体化した姿を登らせていく。



「…………えぇ。貴女は違う世界で生きていた。だけど、私がラクアティアレントに落ちて、わかったの。スペラザに住むリース・ベイビーブレス・ティルトと異世界のリース・ベイビーブレス・ティルトが〝同じ思い〟を抱えて生きていた。貴女が温泉で溺水した時ーーーー丁度私もこちらで、ラクアティアレントに落ちた。異なる世界で生きるリース嬢が、同じタイミングで水に触れたーーーーーーーーだから……時空が開かれて、貴女が私となった」



 きせきみのリースは、日本で言えば私ーー玲那? 同じ思い……それは……


 リースは指を回して魔法を使う。

 ラクアティアレントにリースが落ちた時の再現が始まった。


 リースとフィオレの幻が現れる。




『こんな所に来るなんて、どうしましたの?』


 私がさっき見たラクアティアレントの記憶が、リースによって再現される。



『貴女、ダナ様の周りをウロウロとしつこいですわ』


『だから、テキストをわざわざ捨てたんですの?』



『あら、知ってたの?』


 リースはクスリと鼻で笑い、フィオレに体を向ける。


『知っているも何も、リース嬢が仕向けた事ですわよね? 調べてもらっていますわ』



『流石だわ……貴方、本当にダナ様に取り入るのが上手ね』


 リースはフィオレに近づいて、顔を近づけて嫌味を言う。フィオレは、キッと睨んだ。



『どうしてそんな事するんですの?! 文句があるのでしたら、直接言って下さればよろしいでしょう!!』



『貴女に直接言えば、ダナ様の心は手に入るのかしら?!』



 リースはフィオレを真っ直ぐ見つめる。フィオレは不思議な顔をして、リースを見返した。



『貴女はずるいわ……貴女には、その黒髪から来る強い魔力で、魔法が使えるじゃありませんか。…………私には、ダナ様しかいないのですわ。この国でしっかりと生きていきたいと思っていても、ノーマルの私には貢献する事ができないんですの!! でも……貴女には力がある。魔法がある』




『だから、私に嫌がらせをして来たの?』



『そうですわ』



『……仕方ない人ですわね。でも、決めるのはダナ様ですわ。それに、今はリース嬢が婚約者です。私はただ……あのお方を勝手に好いているだけなのです』



『ダナ様は……貴女に気持ちが向いているのよ。私は……何をしても……そのうち婚約破棄されるわ』


『そんなの、わからないじゃないですか。リース嬢はノーマルかもしれませんが、私なんかよりもずっと優秀でしょう』




『わかるのよ…………ダナ様とは幼い頃からのお付き合いですもの。彼の考えている事なんか、わかるわ。暫くしたら、貴女を選ぶ筈よ……』



 フィオレは何も言わなかった。婚約破棄されたら、ざまあないと思うくらいだった。でも。



『ダナ様が選ぶ人なら、仕方ないのかもと何度も思ったのよ。でも……貴女には魔法が使えて、私には何もないの。…………でも、いずれはダナ様は貴女を選ぶ。……だったら、せめてお願いよ。約束して欲しいの』



 リースは正面を向いて、フィオレに言った。



『貴女にダナ様はあげる。だから、お願い。ダナ様との約束だけは、諦めて欲しいの』



 フィオレは不思議な顔をした。

 だが、リースは真剣だった。



『貴女には魔法があるでしょう? だから、そんなものが無くても生きていける。でも、私には何も縋るものがダナ様以外にないのですわ!! だからお願い。ダナ様との約束は諦めて!!!!』



『そんなに? 大切なのですか?』


 フィオレは不思議な顔をしたまま、冷静に確認した。リースは、頷く。



『何度も…………由緒正しいこの場所に来ては、私はいつもそれを願っていたわ。たったひとつ、私にとって光り輝くものだったから。だから、私から奪い取るのなら、ダナ様との約束した事は諦めると、約束して欲しいの!!!!!!』



 涙ながらに、リースはフィオレの肩を掴んで、お願いした。そのままフィオレに頭を下げて、じっとしていた。



『…………出来ません』


 フィオレは言う。リースは頭を上げて、目を潤ませた。


『……どうしてですの?』



『貴女はわかっていないわ。ダナ王子は、私だけを見ている訳じゃない。リース嬢との絆も、見ているわ。そこだけは、私には敵わないのよ』



『そんな事ないわ!!』


『いいえ、あるわ。私にはわかるわ。だって、貴女とダナ様とカイル第二王子には、私にはわからない何かがあるもの!!!! 何にも変えられない絆が!!!!』


 フィオレは言った。リースはジッと顔を見つめては、思い返して、すぐに食ってかかる。



『ねぇ……諦めてよ! ねえお願い』



 リースがフィオレの腕を掴んだ。フィオレは必死に手で払いのけ、リースから離れる。リースは諦めずに、フィオレを追う。フィオレは階段を登って、歩いて行く。



『出来ませんわ』



『この噴水に誓って、お願いよ』



『いくらリース嬢からのお願いでも、出来ません』








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