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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
4章
109/161

20

「貴女の命でも、それは出来ません。リース嬢。ダナ王太子の元婚約者でも、国への不法侵入、暴力は目をつぶれないんです」


 ヨクサクは近づいて来る。ヨクサクの魔法は繊細で、なかなか解けない、とカイルが作戦会議の時に言っていた。私は短剣を必死に振り回す。ダメだ、ビクともしない。木壁がどんどん私達を囲っていく。



「嫌!! ヨクサク様、捕まる訳にはいかないの!!!!」


 私はぶんぶん短剣を振り回す。もう、ここまでか……と思った。ヨクサクの足音が近くなるのを感じ、泣きそうになっていた時、目の前の木壁がバァンッと壊された。私はハッとして、見つめると、カイルとノエルが立っていた。



「カイル!!」


 私よりもレオが先に叫んだ。私は、涙を潤ませながら、立ち尽くす。



「カイル……」



「王子様の登場ねっ!!!!」


 ノエミがキャッキャと笑う。ノエミの近くに、ノエルが付く。カイルは騎士団に言う。


「国王陛下と神殿で、リース嬢の無罪について説明すると伝えてあるんだ。これは、歓迎の証なのかな?」



 騎士団を全員一気にギロリと睨みつけると、カイルは止まる。


「ですが、リース嬢は断罪された身……。国内へと無断で侵入したのです!!!!」


「僕がそうさせた。直接神殿に一緒にいた方のが、説明しやすいと思ってね……」



「そんなっ!!」


 騎士団達は狼狽えながら、困惑している。それでも、戦うモードは変わらなかった。


「例え、第二王子のカイル様でも……私達の使命は国の秩序を守る事! リース・ベイビーブレスは国の秩序を乱します!! いくら国王陛下の命だとしても、許せません!! 捕まえて、僕達が国王陛下に説明します!!!!」



 一人の貴族が言うと、カイルはわざとらしく息を吐いて笑った。


「じゃあ、僕も戦わせてもらう。僕の願いは真実を明かす事だからね」



 カイルは、魔法でバンバンバンと、長い刀を出して投げ、騎士団達のマントに刀を刺した。一瞬身動きが取れなくなった騎士団達は、刀から急いでマントを引っ張る。

 カイルはヨクサクを見つめる。



「君と戦う羽目になるとは……残念だよ、ヨクサク」


 ヨクサクも視線を一直線にカイルへと向けると、言った。


「ダナ王太子を守らねばいけません」



 だけど、そのヨクサクの前に、ダナ王太子が魔法陣でシュンとワープして来て、立ちはだかった。


「ダナ王太子!」


「ヨクサク、下がっていろ」


「しかし…………」


「あいつの相手はこの私だ」




 ダナ王太子は、カイルを見て、走って来る。カイルは大きな声で叫んだ。


「リース!!!! 行くんだ!!」


「わかった!!!!」



 私とレオ、ノエミは走り出す。ノエルはレオとノエミの護衛と、騎士団のやっつけを始めた。カイルはダナ王太子が走って来るのに合わせて、走る。ダナ王太子が大きく飛んだ時、カイルも大きく飛ぶ。ダナ王太子が火を手から出し、カイルも氷の盾を手から出した。ヨクサクは、私を追った。



「お前の事は、一度倒さなくてはいかん」


 藍色の目を光輝かせながら、ダナ王太子は言う。カイルはダナ王太子の攻撃を受けながらも、リースを追うヨクサクからリースを守る為に、防御をかける。


「他を見るな、集中しろ」


「リースは渡さない」



 カイルは氷の盾を必死に引き伸ばす。いくら制限のない魔力……闇属性の黒髪を持つカイルでも、ダナ王太子の強い魔法とリースに気を取られるのとでは、限界が来ていた。氷が段々と溶けていく。



「リースは元々は私の物だ。お前は後から出てきた。フィオレが好きだった癖に……」


「それは義兄さんだろう。手放した瞬間、傍からいなくなったリースを、義兄さんは惜しくなったんだ」


「そんな口を叩けるのは、いつまでかな」



 ギリギリと、ダナ王太子の火がカイルの氷を溶かして行く。私はヨクサクから必死で逃げる。ヨクサクは木壁を沢山出して来たけれど、私は何とか逃げたりカイルの遠方からの魔法で逃れたりしていた。



 カイルの真ん中の氷が溶けた。ガチャン! と氷が崩れると、カイルは床で体をぐるりと回して、立ち膝になり、体勢を整えた。そして水の魔法で剣を作り、ダナ王太子に飛び付き、食ってかかった。ダナ王太子も炎の剣を出して、二人はぶつかり合う。



 そんな時に、つかつかと足音が聞こえて来た。



「皆様、どうしましたの?」



 皆が驚いて、見つめると、薄黄色のドレスを身に纏って傘をさしていたフィオレが、平静のまま、にこりと微笑した。その表情は今まで皆が見て来た、どんなフィオレ嬢よりも怪しく恐ろしい笑顔だった。



「婚約披露会まで三日前だと言いますのに、騒いでいたら国王陛下に怒られますわよ?」









 * * *



「お父様…………」


 マークスとロベルは硬直したまま、動けなかった。アントニは、表情を変えないで立っている。


「帰宅は明日では……?」


 ロベルが口を開く。

 アントニは不機嫌に答えた。


「王太子殿下の婚約披露会で混み合うのを避ける為に早めた」


「そうでしたか……」


 マークスはさりげなく、タペストリーを隠そうとした。が、アントニは早足で近付き、タペストリーをマークスから奪い取る。



「お父様っ!……」


「何だ」


「いえ」


 マークスは口籠る。アントニはタペストリーを徐ろに開いて眺めた。そのまま、床に捨てる。マークスもロベルも無言で見つめていた。


「こんな物を見つけおって」


 アントニは言う。

 マークスは、思い切って口を開いた。


「外の様子は如何でしたか?」


「あぁ、随分と賑やかだったな」


「…………」


 マークスは父親の横顔を見つめて、息を呑む。暫くの間、沈黙が続くと、アントニは言った。



「魔法騎士団が必死になって、追っていたよ。リース・ベイビーブレスとその友人を」


 アントニは振り向き、二人に怒りに満ちた顔を見せた。


「余計な事を…………」



 風の魔法を飛ばして、客間にあった窓ガラスが割れる。目が据わっていた。そして、アントニは笑う。マークスとロベルは、身震いする。



「出来損ないが、何をしにやって来たと言うのか。見つけたら、国に差し出してやるのに」


「お父様……リースは家族ではありませんか……」



 マークスはつい本音を口にした。アントニはまた笑って、タペストリーのリースという名前をグリグリと靴で踏みつけた。


「家族? ……あの出来損ないが? リースはもう家族ではない。魔法も使えない欠陥品が、国に戻って来るなどと、どの立場で戻って来たんだ……!!」


 アントニは叫び、ロベルは慌てて立ち上がり、話した。


「お父様! リースはラクアティアレントに落ちてはいません!! 無罪を主張する為に、カメリアの神殿にて国王陛下に説明する事になっていたのです!!」



「黙れっ……!!」


 アントニは足に力を入れて、魔法で床に穴を開けた。その様子を見て、ロベルは座って、黙り込む。


「今更何だと言うのだ? あの子の断罪で、私達ティルト家の信用は下がっていった。リースには、王太子妃になる為に厳しく育ててやったのに……魔法も使えないのに、家に泥を塗ったんだ」



「お父様! 調べたところ、リースはノーマルではありません!! リースは最少種族カデーレです!! 特質が違うだけで、決して欠陥品ではないのです!!」


 マークスは立ち上がり、説明する。アントニが、少しずつマークスの元へと近づいて来た。目をギョロリとさせて、瞬きせずにこちらを見つめる。



「…………知っている」



「知っていたのですか……」



 マークスとロベルは父親を見つめる。

 アントニは笑って言った。


「あぁ、知っていたよ」



「何故ですか?! お父様はリースにカデーレだと言ってあげなかったのですか?! リースに君はカデーレだから魔法が使えないと言ってあげていたら……こんな事にはならなかったのではありませんか?!」



 アントニはマークスの胸ぐらを掴んだ。マークスは恐怖を感じながらも、引かなかった。


「あの子に、お前は魔法の変わりに料理や植物を育てる事が得意なのだと言えば良かったのか? 貴族が料理や植物などを作ったり育てたりして何になる?」


「ですが、リースは救われた筈です! カデーレの情報は書物を探すにも極端に少なくて、ほんの少ししか得られませんでしたから……!」



 マークスは話した。アントニは勢いよくマークスを振り払う。ロベルはマークスを見て、大丈夫か? とアイコンタクトを取った。だが、アントニは衝撃的な一言を言う。


「漏れたか」


「?」


「カデーレの書物が少ない理由を知りたいか? ……カデーレについての全ての本は、燃やしたんだ。この私がな」


「………………!!!!」


 二人は驚愕して言葉を失った。アントニは更に笑う。父親が全て燃やしたから、書物は見つからなかった。たまたま残っていた書物をマークスは手にする事が出来たのだろう。



「華麗なるティルト家に、余計な血など要らないんだ。何故、有能な私達一族が、カデーレなど訳の分からない存在の為に、能力を下げなければいけない? カデーレの血は遺伝する? 何処までだ? いつ出てくる? そんなものに怯えながら、私達が生きていかなければいけないのだ? 私達はこんなにも素晴らしい一族なのに!!!!!!」



「お父様……」


 ロベルは呟いた。

 アントニは、そのまま部屋を出る。


「お父様?! どちらへ?!」


 マークスは身を乗り出し、アントニを追いかける。ロベルもそれに続いた。アントニに素早く歩いて行く。



「……リースを捕まえる。国王に差し出し、ティルト家の流れを変えるのだ」


 アントニは階段を下りる。二人は慌てて後を追いかけた。マークスは必死にアントニに言った。



「お父様!! おやめ下さい!!!! リースはティルト家の娘なのです!!!!」


 アントニは無視する。ロベルも説得を懸命にする。


「リースは確かに魔法が使えず、お父様から見れば出来損ないかもしれません!! ですが、私達には大切な妹なんです!!!! お心を抑えて下さい!!」



「ロゼッター!!!!」


 アントニは怒鳴った。ロゼッタは名前を呼ばれたので、慌ててアントニの元へと歩いて行く。


「はいっ!! ご主人様」



「私は、カメリアに行く。夕食は要らない。リース・ベイビーブレスをこの手で捕まえる」



「はっはい、かしこまりました!!」


 ロゼッタは敬礼してお辞儀をするしかなかった。マークスとロベルは玄関を出て行くアントニを見つめた。



「マズイぞ、お父様に無駄に出て行かれたら、爵位どころじゃなくなるっ」


「僕達も後を追いかけよう!! ロゼッタ、ここは君に任せる!!!!」



 ロゼッタは、再び敬礼して言う。


「かしこまりました! ……マークス様、ロベル様、どうか……お嬢様を宜しく頼みます」



 二人は、敬礼して、アントニの後を追いかけた。

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