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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
4章
103/161

14

 レオが着替えている間、ロベルと話をする。


「魔法騎士団があちこちに張っていますわね」


「うん、三日後の婚約披露会に向けての対策だからね。披露会を行ったら、九月に結婚式をするんだって」


「そうですか…………」


 私が口籠ると、ロベルは私の髪を撫でて微笑む。

 私はロベルを見上げた。



「……悲しい?」


「いえ、大丈夫ですわ」


「リースにはカイル王子様がいるものね!」


「ノエミっ!!」



 私が困って慌てると、ロベルはポンポンと私の肩を叩く。私は余計に顔が熱くなる。


「君が今はカイル王子が好きだって事は、わかっていたよ」


「………………」


「それを知った時、ある意味、君は王家と切っても切れない縁なのかなぁーと思っていたんだけどさ」


「……ただの、偶然ですわ。たまたまカイルだったの。助けてくれたのが、彼だったからーー」



 私は俯いて呟くと、丁度着替え終わったレオが出て来る。レオは想像していたよりも、服が彼にマッチしていて、いつもよりもキリリとしていた。襟が少しだけ長く、特徴的なシャツも丈感はバッチリ。ブラウンのベストとパンツのセットアップも体に合っていた。


「レオ、すごい! ピッタリじゃない」


「ちょうど良い長さだな」


 いつもダボダボパンツに襟がのびたトップスを着ている彼のイメージしかないので、余計に驚いた。以外としっかりした格好は似合っているし、塩顔イケメン俳優みたいだ。


「お兄ちゃんじゃないみたい!」


 ロベルはレオに近づいて、襟やベストの着丈感を確認する。少し手直ししながらも、頷いた。


「うん、これで丁度良い。悪くないね」


「ありがとうございます」


「まぁ、僕は基本的には令嬢相手の仕事なんだけどね、少しはメンズも売っているんだ。君みたいな身長の大きい人に服も着られて、嬉しいと思うよ」



 トントン、とレオをロベルは叩く。レオは嬉し恥ずかしそうな表情をした。


「今まで服なんて着られりゃ良いやと思ってたぜ……」



 ロベルはレオを見てから、私に振り返る。ノエミの手を取って、撫でながら話した。


「ノエミちゃんには、この手袋とネックレスをあげるよ」


 ロベルは指をシュッとひねると、ドレスと同系色のミドルグローブがノエミに渡された。ノエミは手に身につける。ロベルが近づいて、花がついたゴールドネックレスを首にかけてプレゼントした。


「わぁっ!! ありがとうございます!!」


 ノエミはウキウキしながら、言った。ロベルは私のドレスとマント姿を見る。



「お兄様、私これは大切な人が作ってくれた物なの! 変えたくないわ!!」


 これはマロウさんが途中まで作ってくれたドレス、そしてお守りのペンダント。ロベルのセンスには敵わないかもしれないけれど、これは私にとって大切な装いなのだ。


「そっかー……でもまあ、リースがそれでいいなら、そのままで。ブローチだけ、マントに付けさせて」


 ちょん、とロベルは私のデコルテあたりに手を触れる。水色のシンプルな大きな八角形をした宝石が、私のマントに付けられた。


「お兄様、ありがとうございます」



 ロベルはこれでスッキリしたな、という顔をした。



「さて、ご飯だけど、我が家に行こう」


「えっ?! お、お父様は……」


「大丈夫、今はいないよ。この婚約披露会のタイミングで客引きに行ってる。帰りは明日」



 私はホッと胸を撫で下ろすと、離れていたレオがロベルの元へ歩いて近づいて来る。


「こんな騎士団が張っている中で安全な場所と言ったら、我が家しかない。魔法陣で、パアーッと帰っちゃお!」


「わぁ、すごいわ!」


「お兄様、魔法陣の申請をしているのね?」


 私は確認する。ロベルは挑発的に笑って言った。


「してる訳ないじゃん! 無断で使うよ♪」


 その笑顔が本当に可愛くて怖くて、私はゾクゾクとしたが、今はそんな事を言っていられる暇はない。私はロベルに従う事にした。


「僕の魔法陣、こだわっているからリースも気に入ると思うな」


 そう言って、小さく呪文を呟いた。ロベルは胸元に入れておいた懐中時計を出して、蓋を開ける。時計の影が浮き出て来ると、長方形の形が目の前に浮かび上って来て、段々と馴染んでくるように扉として姿を表した。白い扉に赤いハートとスペードとダイヤが描かれている。ーーーーまるで、うさぎが走り回る、あの話みたいに可愛かった。


 ロベルはガチャリと扉を開ける。



「さぁ、帰ろう」


 私に手を伸ばす。私は皆と目を合わせて、お兄様の手を取った。ロベルはしっかりとレディーファーストをして、私とノエミ、それからレオを行かせてから自分も行って扉を閉めた。扉が閉まると、扉自体は消えて、そこはただの空間に戻った。



 扉の中は一面、虹色だった。虹色の周りに目をとられていると、シュン! と、音がした。ロベルは虹色の中から、ドアノブを捻り扉を開ける。すると、ティルト家の玄関が見えて来た。私達は、下りて行く。最後にまた、ロベルがガチャリと扉を閉めると、景色は完全にティルト家になった。



「ティルト家だわ…………!」


 私が茫然としていると、ロベルは笑う。


「ね? 僕の魔法陣は素敵でしょ?」


「お兄様、すごいですわー!」


 私は思わず、感動してロベルの手を握りしめた。

 ロベルは嬉しそうにする。


「すごかったっす!!」


「面白かったわ!」


 ガロ兄弟も興奮していると、ロベルは上を見上げた。


「リース、驚くのはまだ早いよ。これから」


 私はそう言われて、上を向くと、階段の上にティーポットを持ったロゼッタと目が合った。ロゼッタは慌てて、付近にある小テーブルにティーポットを置いて、急いで走って来た。私も走ると、階段の下でロゼッタは私を強く抱きしめた。



「ロゼッタ!!!!!!」


「リースお嬢様!!!!」



 ロゼッタは目に涙をいっぱいにして、泣きながらぎゅうぎゅうに私を抱きしめる。私もロゼッタに会えた事が嬉しくて、幸せな気持ちになった。


「お嬢様、お帰りなさいませっ」


 優しい顔をしているロベルを横目に、レオとノエミは何だろう? という顔をする。


「ロゼッタはリースの小さい頃からの専属侍女なんだ」


 あぁ、なるほど! とノエミが手をポン! と打った。レオも私達を見つめる。


「リース、家に帰って来られて良かったな」


「本当だね」



「ただいま、ロゼッタ!」


 暫くロゼッタとハグが終わると、ロゼッタは私から体を離して、跪いて敬礼のポーズをした。私は焦る。


「今は私、平民だから大丈夫よっ!」


「いえ、お嬢様がどんな立場であれ、私はいつでもお嬢様の侍女ですから」



 私が恥ずかしく、困惑していると、二階の扉が開いた。


「おい、ロベル、戻って来たのか? お前、うるさ…………」


 マークスが私を見て、硬直した。私はロゼッタの元を離れて、階段から下りてくるマークスを向かい入れる。


「マークスお兄様、お久しぶりです!」


 お辞儀をして、マークスの手を握りしめた。マークスはロベルを一瞬、見て、私を再び見つめる。


「誰かと思ったら……リースだったか。よく帰って来られたね」


「彼等が一緒について来てくれましたの」



 マークスはレオとノエミを見る。二人はゆっくりとお辞儀をした。


「店の前でフラフラしていたから、ここに連れて来ちゃったよ」


 ロベルは笑って言った。


「お前にしては、やるな」



 マークスはレオとノエミに近づき、挨拶をする。


「初めまして。私はリースの一番上の兄、マークス・ガルシア・バル・ティルトです。マークス卿とでもお呼び下さい。……あと、恐らく性格的に自己紹介は済んでいないだろうと思うので、かわりに言いますと、そちらのブロンドウサギは、私の弟で、リースの二番目の兄、ロベル・ローレンス・ティルトです。ロベルとでも呼んでやって下さい」



「マークスお兄様ですね! 私はリースの友人、ノエミ・ガロです。宜しくお願いします!」


 ノエミが可愛らしくドレス裾を掴んでお辞儀をして、笑うと、マークスは驚き動揺した。ロベルは、吹き出して、私に言う。


「ね? ノエミちゃん、意外と僕系統の子でしょう? 硬派で普段なびかない筈の兄さんが動揺してるよ」


「本当だわ。ノエミの将来、大丈夫かしら……」



 私が呟くと、レオはノエミに軽くゲンコツをしてマークスに挨拶した。


「生意気な妹ですいません、兄のレオナルド・ガロです。皆にはレオと呼んでもらってます」



「レオ、妹をここまで連れて来てくれて本当にありがとう」


 マークスはレオに感謝の敬礼すると、レオは驚き、手をブンブンと振った。


「いえ!! 俺はボンボ……いや、カイル王子に頼まれただけですからっ!」


「いや、頼まれるよりも連れて来る方は大変だからな。感謝しているよ。ロゼッタ、ガロ卿達にハーブティーを頼む」


 ロゼッタは私の近くにいたが、ハッとして返事をした。


「かしこまりました」


 階段まで上がって、小テーブルに置いておいたティーポットを回収して準備しようとする。ロベルがついでに言った。


「シェフにも料理を作ってもらって。この子達、お腹空いているんだってさ」


「いや、そこまでは悪いっす!」


 レオは謙遜したが、ロベルに両肩を叩かれる。


「業に入ったら業に従えって、よく言うでしょう? レオくん、楽しんでいってよ」


「すいません……」


 レオはお辞儀をした。

 皆はレオの誠実さに少し感心していた。


「こちらにずっとたまっているのもなんですから、別室にご案内致します。こちらへどうぞ」


 ロゼッタは、歩きながら、客人をもてなす部屋へと案内した。


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