表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
4章
102/161

13

 国境を越えると、スペラザの海が見えて来た。国外追放をされた時には、この海を渡ってマカニ共和国を通って来た。けれど、今回はフワコ国から来たので、陸地周りで到着する。


 いよいよだ。


 私はポケットの中から、もう一枚の護符を出す。トランクを開けて、端に閉まっておいた小さな台車を取り出す。私は台車に入っている更に小さな箱を取り出した。それを護符の上に置くて呪文を唱えると、あっという間に大きな両手におさまらないサイズの箱に変わる。



「どう?」


 ノエミは私に言う。箱を開けると、手作りのリースや花達は問題なく存在していてくれた。


「うん、大丈夫みたいね」


 仕掛けはこう。庭で育てているいくつかの植物を鉢植えに植えかえた。それを部屋の中に置いておく。リースは昨日作った物。

 鉢植えを元々ある箱の中に入れる。リースも入れる。護符を当てて呪文を唱える。サイズがかなり小さくなる。これを使いたい時は、また元のサイズに呪文を唱えて戻すだけ。


 この植物達は、私達のスペラザに訪れる理由に使う。頼まれた花の納品。そういう理由で、パスして向かう。これを上手い事越えられれば、何とかなる。



「私の名前はまたハナにしましょう」



「わかったわ」


「ハナな、了解」


 私達は、馬車でスペラザの入国管理所へと向かった。スペラザの管理所には、人が次々と並んでいた。明らかに異国から来たんだな、という雰囲気の人もいれば、スペラザの人なのか何なのか、わからない人もいる。沢山の人だかりに、こんなに、ダナ様とフィオレの婚約を喜んでいる人達がいるんだ、と思った。



 レオが馬車に指令する。馬車はゆっくり、ゆっくりと管理所へと進んで行く。小さな建物の窓から担当の貴族が、顔を出して、一人一人確認している。私は胸がドキドキした。顔にベールをかけて、目だけ見えるようにした。


 馬車を近づけると、コンコンと担当者が扉をあけるように促した。



「はい」


 レオが扉を開けて答えた。担当者は、スペラザには珍しいシルバーヘアに黒い瞳の貴族だった。名札に、リーフと書いてある。リーフ家は確か子爵だったわよね……? あまり絡みはなかったと思うけど………ここを貴族で固めるなんて、油断出来ないわ。



「こんにちは。スペラザにはどういった理由で入国されますか?」


 レオは、カイルに言われていた理由を定型文を述べるように伝える。


「俺達、仕事で花の納品する為に来ました。花屋なんです」


「そうですか。花屋の名前を教えて下さい」


「〝ハナノワガーデン〟です」


「了解しました。納品先のお家を教えて下さい」


「クラウン家です」



 レオは淡々とリーフ卿と会話を繰り返す。リーフ子爵は、ちらりとノエミと私を見た。


「人数は三人、ですね」


「はい」


「皆さま、兄弟ですか?」



 レオは少し間をあけてしまったので、ノエミがフォローして答える。


「そうです! 兄と私は母に似ていますが、姉は父似です」


「…………そうですか。お姉さんは瞳が金色で、髪も明るいですが、お父さん似ですか?」


 私はこくりと頷いた。ノエミも、ハイ! そうなんです! と元気よく答えた。

 リーフ卿は、暫く黙ってから言った。


「はい、大丈夫ですよ。お進みください」


「どうも」


 扉を閉めて、レオとノエミはガッツポーズした。レオは馬車に指令を出して、馬車は無事に関門を越えてスペラザへと入った。


「やったわね」


「良かった……目と髪色を言われたらどうしようかと思ったわ……」


 私はハーっと息を吐く。馬車はカタコトと歩みを進めていた。外の様子を、窓から覗くと、武装した魔法騎士団の人間があちらこちらにウロウロしている。


「魔法騎士団がそこら中に張ってるわね……」



「リース、これからどうするんだ?」


「どうしましょうね、騎士団が張ってるし、このままでも仕方ないし……」


「リース、お腹空いちゃったわ」


 ノエミは、お腹に手を当てて言う。レオが、呆れた。


「はぁーっ…………お前なぁ! スペラザに来て、それかよ?! この状況で、どうやって買い物や食事するんだよ!! 騎士が沢山いるのによ!!」


「ごめんなさい!! 我慢するわ……」



 私はどうしようか、考え込んだ。安易に外に出てしまうと、騎士団に怪しまれてしまう。部屋に残っている物は、小麦粉くらいしかない……。



「そうね、お腹空いてしまうわよね。……とりあえず、何処かで下りましょう。座れる場所で考えて……」


「大丈夫かよ?」


「うん、多分大丈夫」



 私はレオにお願いして、馬車を南通りへと運んでもらった。人が比較的多い通りなら、バレないだろうと思った。

 馬車から下に降りる。近くにテーブルと椅子が並んでいるブースの前を私達は歩いた。何もせずに歩くのもと思い、私は植物の入った箱を持ち歩いた。



 歩いていて、思った。

 あ、ここって………………




「ハナ、どうするの?」


「そうねえ……」


 私が歩いていると、ふいに後ろから手で口元を隠された。


「!!」



 私は焦り、ジタバタと手を外そうと動き回る。レオとノエミが相手から私を助けようとすると、その相手が慌てて言った。



「僕だよ! 僕!!」


 私は動き回っていたけれど、止まった。声の主が手を離して私を見る。ハニーブロンドヘアと童顔なのに挑発的な赤い目……


「ロベルお兄様!!!!」


 二番目の兄だ!! と思い、私は口元のベールを広げる。レオとノエミは驚いた顔をした。



「リースの兄ちゃん?!」


「シッ」


 レオにロベルは口に手を当てて、静かにするように合図する。レオは、緊張して体をピシッと硬直させた。

 ロベルはレオを上から下まで、ジーッと眺める。



「リース、久しぶり。とりあえず、こっちにおいで」



 ロベルは小声で話し、馬車を指で動かして小さくした。ただのおもちゃに馬車は戻ると、ロベルは手で拾い上げる。私達はロベルの後ろをついて行く。ロベルは真っ直ぐ歩いて、ブティックへと入って行った。ここはーーーーロベルの経営するブティックだ。



 中に入って行くと、一人の女性が仕立てられたドレスを抱えている。


「休憩終わったよ、ジェニファー」


「店長、戻ってくるの早くありませんこと?」


「あぁ。君の顔を見たくて、すぐに戻って来てしまったよ。君も少し疲れ顔だね、休んだ方が良い。休憩して来なよ」


 ジェニファーはロベルの歯が浮くような言葉にピクリともせず、言う。



「私が休憩入っても大丈夫ですの?」


「あぁ、休んでおいで」


「わかりましたー! それでは、少し出かけて来ます!!」



 ジェニファーは目を輝かせて、ドレスをカウンターに置いて出かけて行った。ロベルは生暖かい目で彼女を見送った。店の扉が完全に閉まると、彼は指をシュッと動かし、クローズドの立て札をかけた。

 後ろを振り向いて、彼は言う。



「驚いたよ、どうしてあんな目立つ場所にいたの?」



 ロベルはふぅと安堵した表情を見せる。私はベールを取り、フードを取った。


「お兄様!! お元気そうですわ!!」


 激しく勢いにあまって、ギューっとロベルに私が抱きつくと、ロベルは少々困惑しつつも、嬉しそうに抱きしめる。



「変装していたのにな」


「どうしてわかったの?!」



 レオとノエミが優しい顔で私とロベルを見つめた。ロベルは、ノエミを見ると、満面の笑みを見せる。


「目の色が変わっていても、僕の妹だって事はわかるよ」


 ロベルは私から体を離して、ノエミの手を取って手にキスをした。ノエミはテンションが上がって喜び、それを見たレオは、わざわざノエミとロベルの間を通って、遮断する。


「流石リースのお兄様ね! お店に入れてくれて、ありがとう!!」


 ノエミがにっこーっと笑うと、ロベルはふうむと顎に手をやる。


「以外と君も僕系統の人だね、面白いな」


「手をとりあえず離しませんか」


 レオは言った。ロベルは、仕方ないなぁと手を離した。



「そんなに、私ってわかりますか?」


「うん、(リース)は唯一無二の美少女だからね。遠くにいても、分かるよ」


 ロベルは私の髪の毛を撫でる。

 赤い目を細めた。


「髪が少し短くなったんだね。悪くないよ」


「ありがとうございます」



 レオとノエミは嬉しそうに、私とロベルを見守った。



「ロベルお兄様、お腹が空いてしまったのだけれど、何処か食べ物を取れる場所はありませんか?」


「そうか、お腹空いているんだね。大丈夫、良い場所があるよ」



「本当ですか?!」


「でも、その前に…………」



 ロベルは、店の中にある洋服を魔法で自分の元へと引き寄せた。男性用と女性用のドレスがロベルのまわりに広がっていく。



「彼の服装が少し気になって気持ち悪いんだ」


「あ、俺っすか? すいません、デカ過ぎて丈が短くて……」


 レオは苦笑いすると、ロベルは何てことはないといった雰囲気をする。


「いや、今もそれほど悪くはないんだけれどね。君は背が高いから、もっとしっかりした服を着た方が様になると思ってね」


 指をパチンと弾くと、ロベルは襟がしっかりした白いシャツに、濃いブラウンのベストとパンツのセットアップを用意する。


「あ……でも、俺、お金がないっす」


「大丈夫だよ、僕が出してあげるよ。君は妹をここまで連れて来てくれたんだからね。そちらの妹さんにもアイテムを合わせるよ」


「わぁ! ありがとうございます! ロベルお兄様!」


 ノエミはギュッと手を握る。ロベルは満更でもないという顔をした。レオは複雑な顔をする。

 ロベルはレオに近づいて服を渡した。



「この服をそこの試着室で着替えて来ておいで」



 レオはロベルが相手なのか、気を遣っている様子だった。そのまま静かに歩いて行き、試着室へと入ってカーテンを閉めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ