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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
4章
101/161

12

 あれから時間が経ち、フワコ国も国境へと近づいていた。一夜を越えて、私達はいよいよスペラザへと向かっている。


 あぁ、レオのご飯はどうだったかって知りたいかしら? うーん、それはねぇ、すごく面白かったわよ。美味しいご飯を作ってやると意気込んでいたレオ。持って来てくれたのは、パン……サンドなんだけど、片方は目玉焼きにベーコンが挟んであるベーコンエッグサンドで、もう一つはピーナッツパンだった。


「どうだ!!」


 レオは持って来ていたらしい、自分のエプロンをつけて、かなりの時間をかけて作って来た。ノエミは頬を膨らませる。


「遅い!!!!」


「え゛ー!! しっかり作ったんだぞ?! これでも……」


 ノエミは指を振って断言した。


「あれからどれだけ時間経っているのかな?! どのくらい美味しい物が出てくるかと思いきや、ただのサンドセットじゃないの!!!! サラダ作るとか、スープ作るとかないの?!」


「何だよーこれでもかなり一生懸命作ったんだかんな!!」


「男性よ、私達女性はそれを毎日こなしているのです!」


 ノエミはビシィッとレオに向かって指差すと、たじろいで何も言えなかった。私は笑ってしまう。


「まぁ、お腹空いたわ。食べましょう」


「そうね、お腹空いたわ、食べましょう!」


「食え食え」


 座席に座って、食べると、ノエミは少し怒る。


「ピーナッツが半分粒なのはどういう事ですか?!」


 私はベーコンエッグを先に食べていたので、気づかなかった。ノエミは、レオに説教垂れた。


「ピーナッツクリームを作ろうと思って砕いていたんだよ。でもなかなか全部砕けねえから、そのまま挟んだ」


「…………流石にそれはガリっとするからキツいわね」


 私の言葉にレオはわかりやすく落胆していた。ハッとして、まずかったな……と思ったけれど遅かった。



「次は……絶対うまいって言わせてやる!!」




 そんなこんなあって、でも味は美味しかったんだよね。レオは不器用だけど、一生懸命作っているのがわかったし。粗いピーナッツはきつかったけど……。




 私は外を眺めた。もうすぐ国境。レオとノエミは髪や身なりを少し整えて、馬車内に戻ってきた。


「リース、準備はどう?」


「えぇ、できているわ」


 私は二人の前で、ファロから貰った短剣を出した。ノエミは驚く。


「それが噂の魔法の短剣?」


「えぇ、これがあればスペラザで魔法で何かされても、どうにかできるわ」


「よく出来てるな」



 レオが短剣に触れると、バチッと火花が散った。


「痛ってっっ!!」


「何?! 何なの?」


「……火花が散ったわ! もしかして、リースしか触れないのかしら?」


「でも、これを作ったファロは触っても問題なかったのよ?」


 私が短剣を持つ。ノエミは顎に指を当てて、考えた。



「わかったわ! 作った人は短剣を作り出しているから触っても平気! でも、これはリースの短剣だから選ばれたリースにしか触れない物なのかも!!!!」



「なるほど!」


「だから……多分、これを私が触ろうとすると……怖いけど……」


 ノエミが短剣に触れようとした。私は、心配になったので、サッとしまい込んで触らせないようにする。


「ノエミ、大丈夫。わかったから」



 ノエミはホッとした表情を見せる。レオはなるほどと言った。


「当人だけにしか使えない短剣な、すげえや。大切にした方がいいぜ」


「うん」



 私はジィッと短剣を見つめた。もうすぐ、スペラザに着く…………やっと……自分の無実は証明する。私は自分で決めたんだ。負けられない。それに、何があったのか、知りたいから。


 私はエプロンワンピースのポケットから、四枚の護符を出す。二枚をレオとノエミにそれぞれに渡し、残りは自分で持った。


「あーえっと、こうだったよな? 服にこの護符を当てる。で、二回、胸の真ん中を叩く。すっと……おわっ!!!!」


 レオは実況しながらやっていたので、いきなりバフンと音を立てた。レオが気付くと、服は既に変わっていた。レオの傍に魔法で畳んで置かれている。……うわぁー便利な魔法だ〜っと思ってしまった。


「すっげえ…………変わったわ」


「寝坊した時に便利そうね!」


 ノエミのツッコミどころはどうしてだか、ズレている気がする。レオの白シャツにグレージュベストをノエミが確認している。


「お兄ちゃん、やっぱり少しだけ肩キツそうね。お父さんの若い時よりも背丈が違うのよね……」



「しゃーねえよ、何でだか俺デカいし。親父が結婚したのは俺より一つ若い時だったらしいしな。その年代よりも俺のがデカいんだよな……」


 とろーんとした生地のシャツは緩めに出来ているが、筋肉質のレオにはキツそうだ。ブーケ国でパンツは直したものの、仕事の調整をして働いていたのでガタイが良くなってしまったのかな。

 ベストと同系色のパンツの裾はチェックの折り返し風の継ぎ足しがされていた。大きいのも大変だねー。



「私は身長が伸びないんだけどなぁ、同じ兄弟なのに……」


「お前もまだわかんねえだろ、後数年したら俺よりデカいかもしれねえ!」


「えーそれは嫌だな〜」



 貴族との出会いの妄想をしていたのか? ノエミがぽわわーんと目を輝かせて、どこか違うところを見つめていた。レオはお団子をムギュリと握りつぶし、ノエミを落ち着かせる。



「キャーッ!!」


「いいから、お前も着替えろ。早くしないとスペラザに入っちまう」


「……わかったわよ!」



 ノエミは渋々、自分の胸に護符を当てて、真ん中を手で二回叩く。またもやボワンと音が鳴り、ふんわりとしたマーメイドグリーンのお花たっぷりなドレスに切り替わった。


「私はピッタリ!」


 エヘーン! とノエミが言うと、レオはにやりと笑う。


「孫にも衣装だな」


 レオは、ノエミからのポカポカ攻撃に、にこにこしていた。



「よし、次は私ね」


 私の護符は二枚ある。一つは洋服を着替える物。もう一つは、目の色を金に変えてしまうもの。私は深呼吸をして、胸の真ん中に護符を当てて、二回手を叩いた。ボワーンと長く変な音がしたかと思うと、私は水色のドレスに変わる。ハット付きマントも着用されていた。私は、畳まれていた服の上に置いてあったネックレスを丁寧に首からさげた。フード付きマントの下に、大きな大振りなマロウさんのネックレスが、見えた。


「マロウさんのだな」


「うん。こっちが本当の意味でのお守りね」



 私は笑った。マロウさんの作ってくれたドレスは、ラメ入りのカーテン生地に、端が金色の布処理がされている。デコルテも少し出ていて、爽やかな仕上がり。このドレスやネックレスを付けているだけで、私はマロウさんと一体になった気持ちになれる。勇気が湧いてくる。


 私はもう一枚の護符を目の前に差し出した。カイルに言われていた言葉を思い出し、口にした。



「〝我の目を金色(こんじき)に直せ〟」




 私の目が金色に変わった。















 * * *





「リースがフワコ国では大変な思いをしたみたいだね」


 カイルは移動しながら、ノエルに話す。

 ノエルは動揺して確認した。


「リース嬢はご無事でしたか?! フワコ国は危険です。お伝えした筈なのに何故……」



「大丈夫、レオとノエミが頑張ってくれたみたいだよ。それよりも、君は占い師アリアラを知っているかい?」



「…………アリアラ。あの、スペラザの歴史書の一冊に書かれていた伝説の占い師ですか?」



「そう。あの、スペラザが独立国として成立した時、国王陛下と一緒に神殿に支えた神官の末裔だ。その神官は、普通の神官よりも違う予知力を持っていると言われていた。手紙に書かれた名前を読んで、すぐに気づいたよ。リースは神殿に関する書物は読まないだろうから、気づかなかったけどね」


 いつものアクアブルーの馬車へと二人は移動し、乗り込んだ。ノエルは不思議な表情で話す。



「……ですが、その占い師アリアラは確か噂によると、数十年に数回しか表舞台には姿を見せず、占いも透視をするだけで、何も言わず、本当に救わなければいけない人間にしか力を発揮しないと」


 カイルは、椅子に座って手を組んで言う。



「そうなんだよ、君の言う通りなんだ。その占い師アリアラが()()()()マカニ共和国で、旅先で、リースにだけ、声をかけた。……どう思う?」



 ノエルは言葉に詰まる。

 カイルは笑った。



「意地悪している訳じゃないんだ」


「わかりません。どうしてでしょうか?」



 カイルはノエルに完全に体を向けて、また笑う。ノエルは何の事かわからずに、戸惑っていた。



「ラクアティアレントにリースが落ちた事は、ほんの事故として済まされているけれど、本当は…………義兄さんや周りが思っているほど、甘い話じゃないって事だよ。現神官達が、リースの事を、調べても調べても、魔法具の水晶が次々と割れてしまうくらいにね」



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