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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
4章
100/161

11

 私達は暫くして、入れ替わりで下に下りた。私は桜色のエプロンワンピースを脱いで、洗い桶へと入れる。ノエミがいいよと言ったのに、ジャバジャバと洗ってくれた。


「ありがとう」


「ううん、私が吐いちゃったし」


「でも……ノエミのおかげで助かった」


「それなら良かったのかな」



 私は新しく自分の水色のエプロンワンピースを着た。くるりと回って確認していると、ノエミが言う。


「着替えたのね。先に上がっていてくれる? すぐに行くわ」


「わかったわ」


 私はラベンダーティーを淹れて、上に上がって行った。ガチャリと取手を開けると、レオがティーセットを受け取ってくれた。下から持ってきた木箱の上に、ティーセットを置いた。



「まぁ、飲めよ」


 レオがラベンダーティーをティーカップに注いで、渡してくれる。あまりにも珍しい光景なので、笑ってしまいそうになった。


「ありがとう」


 私はレオのも淹れようかと思っていたら、彼はさくさくと注いでしまう。ずずーっと足を組んで飲む。笑ってしまった。


「何だよ」


「いや、変わらないなぁって」


「あ゛? お前なぁ、朝起きていないと思った時、マジで焦ったんだかんな!! ハーブティーぐらい優雅に飲ませろや」


「あははっ! ごめん、そうだよね。ごめんね」


「いいよ、俺も……悪かったし」


「レオの期待には応えられないけど…………私は友達以上だと思っているからね」


「またそんな期待させんじゃねえよ〜」



 レオはハアーっとため息を大きく吐いた。



「そういう意味じゃなくてさぁ」



 私が焦って言うと、レオは、ふふっと余裕の表情をする。


「わかってるよ」


「…………うん」


「だから、リースも誰とも結婚しないとか、もう言うなよ! この一件が終わって、モヤモヤしてたら俺お前の事タダじゃおかねえからな!! いいか?!」


 レオはラベンダーティーを飲んだ。私は、レオの優しさに安堵する。


「うん、わかった」


 私もラベンダーティーを数口飲んだ。


 ぐうううううっと、お腹が鳴る。………………私が恥ずかしくて下を向いていると、ぷっとレオが笑った。



「ちょっとおおお!! 笑わないでよー!! 朝から何も食べてなかったんだから!!!!」



「いや、説得力ねえなあって!!」


 レオは笑う。つい何日か前まで悩んでた顔は何処かに行っていた。


「ホッとして、お腹空いちゃったんだもの仕方ないでしょ!!」


「…………そうだな、生きてりゃ腹も減るよ。飯作るか」


「うん」


 ノエミが戻って来た。

 にこりと笑って、私に言う。


「リースのエプロンワンピース、絞ってダイニングに干しておいたわ」


「ありがとう。あのね、二人集まったから話したいんだけど……」



 レオとノエミは不思議な顔をする。私は深呼吸をして、話し始めた。


「私の話なんだけど……どうしようか迷ったの。でも、スペラザに行って爵位の件が片付いたら、話したいと思っているわ」



「無理しなくていいのよ、リースだって色々あるでしょう?」


 ノエミは馬車の椅子に座って聞く。

 レオは黙っていた。


「ううん、私も話さないのも間違ってたかなって思って……。でも、まだどうしても話せないの。本当にこの一件が終わったら、話すから、それまで待っていてもらえないかしら?」



 レオとノエミに私は自分の話をしようと決めた。この二人にどう思われるか……そんな事を考えていたけれど、二人はとても大切な人だから…………

 でも、今伝えると自分が気が緩んでしまう気がする。だから、スペラザに行った後に話そうと決めた。



「良いよ、構わない」


「私も……大丈夫!」


 二人は笑った。ホッとする。

 大切な私の友達。



「ありがとう……。はぁ……お腹すいて耐えられないわ。何か作ろう?」


「そうね、三人で作ろうか?」


「いや、馬車内には誰かいないといけないからな。

 俺が作ってやる! お前ら待ってろ!!」



 レオはドヤァと自信満々の顔をした。瞬時にノエミが抗議する。


「いやあ! お兄ちゃんのご飯、雑なんだもん!!」



「何だと?! ノエミ、俺の飯が不味いってのか!!」


「大味なのよ、お兄ちゃんにそっくり」


「ちょっ!? おまっ!!!! ダー! 絶対食わす!!!! 今から飯当番、俺な!! 絶対美味い飯作るからな!!」


「えー嫌だぁあああっ」



 レオは勢いよく取手を開けて、下に下りて行った。

 ノエミは頭を抱えている。私は本当いつもの二人のやり取りだ……と思って、微笑んだ。ノエミがそんな私を見て、にこっと笑う。


「……良かった」


 ノエミが一言呟いた。

 ギューッと私にハグをする。


「うん。……それで、やっぱりすごく大味なの?」



 私はノエミに確認した。












 * * *




「もうすぐ婚約披露会だな」


 ダナ王太子は、フィオレ邸の一室で、二人でソファーに寛ぎながら話していた。ダナ王太子は、フィオレに腕を伸ばし、抱き抱える形で二人は座っている。


「えぇ、あっという間ですね」


 ちらりとダナ王太子はフィオレを見つめた。フィオレはこちらを見ないが、変わらず凛としていて美しいなと思った。


「皆、君のドレス姿を楽しみにしている。もちろん本番は結婚式ではあるが、婚約披露会も立派な行事だからな」



 ポッと頬を染めて、フィオレは下を向いた。ダナ王太子はフィオレが下を向かないように、手で顎を上げる。そのまま自分へと顔を向かせて、口付けをした。

 フィオレは益々うっとりとした表情に変わる。



「……私も楽しみですわ」


「あぁ」


 フィオレはダナ王太子に寄りかかる。幸せだと、二人は思った。


「フィオレ、約束するよ。君を守る。全ての悪から私が君を守る」


 ダナ王太子は、フィオレを見つめる。フィオレは、目をそらして言った。


「……守られなくても充分ですわ。約束よりも、こうしている事が幸せですから」



 少ししてから、フィオレはダナ王太子を見つめた。ダナ王太子は、不穏に思ったが、気にしないようにしようとした。ふと、フィオレに確認してみる。



「フィオレ、この間はお菓子をありがとう」


「えぇ、どうでしたか? お口に合いました?」



 上目遣いでフィオレは見つめてくる。ダナ王太子はその可愛さに見惚れてしまうようだった。


「すごく美味しかったよ。お菓子作りに精を出しているとは知らなかった。いつから始めたんだ?」


「……少し前にシェフにお願いして教わりながら、作ったんですわ。喜んでくれたのなら、本当に良かったです」



「驚いたよ。君があんな斬新なお菓子を作るとは……。しかし、程よく甘くて美味しかった」



「シュークリームと言いますの。書物にも載っていますわ」



 彼女は、にこりと笑った。ダナ王太子は、その笑顔に不自然さを感じる。…………彼女が嘘をついている事はわかっていた。あのお菓子の味は、ダナ王太子がこっそり食べたリースのクッキーや、カメリア学園にリースが忍び込んで来た時に持って来た、クレオールというケーキと同じかなと思っていた。作り手の手風が同じ気がした。しかも、あのビジュアル…………。この後に及んで、フィオレが不安になる要因のリースについては、考えてはいけない、とダナ王太子は思った。


 だが、ダナ王太子は考え込む。

 菓子の味は偽れないのではと。


 どうして、君は嘘をつくんだ? と言いたかった。言いたかったが、言えなかった。まだ、確信が持てない。何かの間違いだとしたい。彼女は、この世で一番心根が綺麗なのだから。



 ラクアティアレントに落ちて、聖水を汚したリースとは違う。


 そう思った。





 ………………




「そう言えば、カイルが密かに動いているのを知っているか? 何か企んでいるようだ。兄弟とは言え、義弟だからな、用心しておこう」



「まぁ……。カイル王子は、何を企んでいるのでしょうか?」


「元婚約者が関係しているかもしれない。大丈夫だ、君に迷惑はかけないから」



 あえて、フィオレに元婚約者と言った。リースとは言わずに。彼女は明らかに瞳の瞳孔が泳いで、笑う。




「そうですか。でも、大丈夫ですわ。きっと何も出来ませんわ」




「…………。どうしてそう思う?」



「沢山魔法騎士団の皆様がいますもの。それに…………」


 フィオレは言いかける。ダナ王太子は、ん? とフィオレを見つめた。フィオレは笑って、ダナ王太子に再び寄り添った。




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