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悪役令嬢の私を探して  作者: アトリエユッコ
1章
10/161

6

 大会議場に入ると、生徒達が沢山集まっていた。

 ここに集まった生徒は魔法が使える、特別な人たち。


 スペラザ王国では、魔法を使えることが重要視されている。なぜならば、魔法は繁栄をもたらす切り札のようなものとされていて、国を動かす大切な戦力となる。水の都と呼ばれるスペラザ王国で、魔法が自由に使えるということは、水を支配するという意味もある。水は魔法と繋がる、全てを生み出すものーーーーーーーーーー本来、リースはこの実践授業を受けることは不可能だった。



 リースは魔法が使えない。両親も兄二人も魔法が使えるのに、どうしてか使えないノーマル設定になっている。つまり普通の人なのだ。


 カメリア学園の実践授業を受けられることは、貴族の間でも一種のステイタスとなっていて、リースの二人の兄も卒業している。リースの父親が、魔法が使えないリースを口利きで、無理矢理、王子と同じ授業を受けさせたのだ。


 ここに集まっている生徒達は、皆、レベルがとても高くて、選ばれた人間だ。階級が低い貴族も、実践授業を受けられることで、一目置かれる存在になれる。

 中でも、ダナ王子、フィオレ嬢は最優秀のバッジをもらっている。抜きん出た、特待生というわけ。


 ダナ様が真ん中の席に座っているのが見えた。隣にはフィオレが座っている。私は向かっていった。



「席、隣に座ってもいいかしら?」


 ダナ様の隣に座りたいところだけど、推しの隣に座るのは、尊すぎて恐れ多いと思ったので、フィオレ嬢の隣に座ろうかと思った。

 フィオレは、少し驚いた様子でこちらを見ている。


「リース嬢。どうぞ、大丈夫ですわ」



「…………」


 ダナ様は私(本当はリースに対してだと思う)をじっと睨みつけた。

 どんだけ嫌われているんだ、リース。


「ありがとう」


 私は椅子を引いて、フィオレの隣に座った。


「…………………。」



 フィオレは不思議な顔をする。変な視線を感じるなぁと思った。


「……? 何かしら?」


「……いえ。少し驚いただけですわ」


 フィオレは微笑んだ。



「何を狙っているのかは知らないが、ついこの前、君が彼女にした事を忘れたのか」


 ダナ様はぴしゃりと冷たく言い放つ。


 あ、忘れてた。リースはこの頃、フィオレのテキストを捨てさせたのよね。それはそうか、自分を虐めている人からありがとうなんて言われたら、何かあるんじゃないかって驚くよね。私はにこやかに笑って誤魔化した。



「ダナ王子、リース嬢がしたかどうかもわからないことですから」


「君はどこまで寛大なんだ、リースが指示したことは裏が取れているんだぞ」


「それでも、(わたくし)に何か理由あってのことかもしれませんし。今ここで話すことではありませんわ」


 フィオレは毅然として動じない。

 すごいなあ、スペラザ王国の次期王太子殿下で、ゆくゆくは次期国王候補だと言われている、ダナ様に意見することができるなんて。

 さすがヒロイン。そしてリースに比べて、人間性もマトモだわ。私は勝ち目あるのかな、と思った。



「ありがとうございます、フィオレ様」


「彼女に感謝するんだな」


 ダナ様はふん、とため息混じりに言った。


 しばらく沈黙が続いた。

 好感度を上げる為にも、ダナ様に何か話しかけようか、と迷っていると、遅れてカイル王子とノエルがやって来た。


「やあ、みんなお揃いだな」


「カイル……」


 珍しいわね。

 カイルがダナ様と二人が一緒にいるなんて。

 普段は席も一緒に座ったり顔を合わせたりしないのに。私はふと思う。


 それもその筈。ダナ様とカイルは同じ母親ではない。ダナ様は国王様と王妃様のお子。でも、カイルは国王様の子ではあるものの、母親は平民の女性だとされている。スペラザの王位継承権は基本的に年功序列、産まれた順だと決まっているから、王太子は長男のダナ様と決まっているのだけど、この頃の二人には溝があるーーーーゲームでは、フィオレを取り合いというか、彼女を巡っての駆け引きがあったわよねぇ。



 従者ノエルも私に、ペコリとお辞儀をした。



「ごきげんよう、カイル様」


 フィオレは私に笑いかけた時よりも、もっと自然にカイルに挨拶する。カイルも応えるように返した。



「ごきげんよう」



「遅かったな」


「そう?」


 ダナ様に対してカイルが少しわざとらしく笑う。

 カイルは、何故かリースの隣に座った。



「ごきげんよう、リース」



「ご、ごきげんよう……」


 私はほんの少しだけ、カイルを見てから、ふいと正面に視線をうつした。お礼を改めて言わなければと思った。でも、言えない……。意識してはいけないと思ったけれど、やっぱり顔が西嶋さん似……少し違うのは、この国の人だから……色白の肌に黒髪でも、瞳は藍色だし、髪の毛に光が当たるとロイヤルブルーに輝いてる。でも、目は優しくて綺麗な二重で、高めの鼻に薄い唇ーーーーどう見ても、西嶋さんに似てる。一体どうして? 元々この人どんな顔だったかな? 何度考えても思い出せないんだよね。



「ん?」


 カイルは私を見た。


 ドキッと緊張する。

 いけない、盗み見したこと、バレた?

 昨日のお礼もなんて言えば自然になるかな?

 いい訳を考えていると、フィオレが私を呼んだ。



「リース嬢」


「はいっ! 何ですの?!」


 私は勢いよく聞く。フィオレは、その勢いに、少し驚いた雰囲気を見せる。



「昨日、大変でしたわね」



 ラクアティアレントに落ちたことを言っているのだろう。ダナ様はまた不機嫌になって、顔を曇らせる。

 フィオレ嬢……! 今、その話題はヤバいって……!!


「ええ」


 私は苦笑いする。


「お身体は大丈夫ですの?」


「ええ、特に変わりはないわ」



「心配する事はない。彼女(リース)がしたことだ」


 ダナ王子がフィオレ嬢に向けて言う。


 私は表情が完全に凍りつく。



 いや……私からフィオレ嬢に心変わりしているのはわかっているけどさ、少しは婚約者を心配するとか、ないのかい! 私は君のこと、推しているんだよ!?


 私は何も言えない。




「ダナ王子、それは行けませんわ。言い方に刺がありますわよ」


「……そうか。まぁ……そうだな。君は優しいな」


 ダナ王子はほんの少し、柔らかな顔をした。



「………………」


 やってられない。このデレ王子め。ああ、でもデレてるダナ様も可愛いっ……! 私は机に顔を俯けて、開いた手をギューッと押しつけた。



「本当に何にもなかった?」


 カイルは私の顔を覗き込む。

 心配そうに確認して来た。


「え、ええ?特には何もないわ?」


「ラクアティアレントに落ちて、平気なのが不思議だよ、障りがあってもおかしくないと思うけど」



「障り……?」


 私は聞き返す。


「聖水には強力な魔力があるから、気安く触れると障りがあると言われている」


 ダナ様が声色を変えて言う。


「あれは、スプレンティダ家が代々継承している物だからね。それだけ力も強いんだ」



「私……水浸しになったわ……」


 私が呟くと、

 ダナ様が、はぁーっとため息をついた。


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