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冒険者ケビンの裏切り

作者: 灯台



「……ケビン、話を聞かせてくれ。内容次第だが、僕は君をパーティーから追放しなければならないかもしれない」


 酒場の席につくなり、そう切り出してきたのは俺が所属する冒険者パーティーのリーダーであるアレンだった。

 燃えるような赤い髪に青い瞳、物語の王子様かと思うほどに整った顔立ち。この世界に住む者のすべてが十歳になった時に神様から与えられるジョブも、百年にひとりと言われる伝説のジョブ『勇者』と、神様とやらの依怙贔屓を受けまくったおとぎ話の主人公みたいなやつである。


 俺も顔なら、そこそこ張り合えるイケメン……だと自分では思っているが、ジョブの方は『支援魔導士』という不人気なやつなので、戦闘力ではまるで歯が立たない。

 支援魔導士も役立つジョブだと思うんだけど、神様のいやがらせなのか攻撃魔法が一切覚えられないというデメリットがあるため、冒険者ギルドの中でも人気は低い。

 ……そういえば、支援魔導士が役立たずだと言われて所属パーティーを追放されるなんて話も聞いたことがあるような……。


「どういうことだ、アレン? 支援魔導士の俺は、役立たずだとかそういう話か?」


 俺たちのパーティーは最高位であるSランクなわけだし、アレンに欲が出てきた可能性もある。だが、支援魔導士を追放するのは悪手というものだろう。

 確かに支援魔導士は、派手な活躍はしないが……。


「うん? 役立たず? なにを言ってるんだ、ケビン。君は優秀な支援魔導士だ。激しい戦いの最中に、メンバーそれぞれの役割に応じた支援魔法を使い分けて行使するのは大変な手間だろうし、君の支援魔法があるからこそ、僕たちは実力以上の力を発揮できているんだ。いつも本当に助かってるし、頼りにしてる」

「……あっ、うん。いいってことよ」


 うん、言いたかったことは大体全部アレンが言ってくれた。そうだよな、そうなるよな……アレンってたしかにイケメンで、超強い勇者ってジョブも持ってるけど、全然それを鼻にかけたりしない。その上、気配りもできる精神的にもイケメンな奴だ。

 そんなアレンが周囲の評判だけで支援魔導士を軽んじたりしないことは、分かっていたけど……じゃあ、さっきの話はなんなんだ?


「……じゃあ、なんで俺を追放するとかの話になってるんだ?」

「いや、だから内容次第だと言っただろう……まぁ、早い話が……いつものやつだ」

「あぁ、なるほど……」


 アレンの言葉で大体の意味は察することができた。先ほども言った通り俺たちのパーティーは最高位であるSランク……そのレベルになると、くだらない嫉妬による嫌がらせなんかも起きてくるものだ。

 リーダーであるアレンにメンバーの悪評を吹き込むなんてのも、まぁ、よくあるとまではいわないが……いままでも何度かあったことだった。

 だから他のパーティーメンバーは気にせず、夕食の注文してたのか……。

  あと不思議なことではあるが、その手の嘘の悪評を流される対象は大抵俺である……これも支援魔導士軽視の弊害なのか、それともお調子者の俺は狙いやすい対象なのか……なんとも解せぬ話である。


「はぁ、それで? 今回はどんな話?」

「あぁ、ケビンがパーティーメンバーにセクハラをしているという内容だ」

「それはまた、今回はリアリティがある話ですね」

「……リタ、てめぇ……」


 俺とアレンの話に反応したのは、同じテーブルについていたパーティーメンバーのひとりで、『賢者』のジョブを持つパーティーのメイン火力、ハーフエルフのリタである。

 銀色のセミショートヘアに美少女といっていい顔立ちだが、子供と間違えそうなほど小柄で……ローブで分かりにくいが胸はぺったんこである。

 ちなみに、俺とリタは魔法学校時代からの付き合いで、彼女は俺に対しては割と容赦ない。


「あ~たしかに、いままでの中じゃ一番ありえそうだね~」

「……」

「い、いえ、いくらケビンさんと言えども……節度は弁えているのでは?」


 そして残りのパーティーメンバーも話に参加してきた。

 明るい口調でリタの発言に同意するのは、栗色のショートヘアの猫の獣人であり『野伏(レンジャー)』のジョブを持つ、パーティーの斥候、ニーニャ。

 斥候ゆえに動きやすい恰好をしており、なかなかセクシーな外見の美女である。胸のサイズは平均的だが、形が良く美乳ではないかと、個人的には予想している。


 無言で頷くのは、『重戦士』のジョブを持つ肌黒の美丈夫ライナスだ。

 圧倒的な防御力でモンスターを食い止めるパーティーの壁役で、特に俺のような後衛職にとっては、最高に頼りになる仲間といえる。

 ただ非常に口下手であり、滅多にしゃべらない……まぁ、なんかクールでミステリアスと言われており、結構女性人気は高いみたいだ。羨ましい限りである。


 最後に控えめに俺をフォローしてくれたのは、『高位司祭』のジョブを持つカトリーヌ。まぁ、発言ひとつで分かるように、パーティーの良心と言えるほどぶっちぎりに性格のいい美女である。

 波打つような長い金髪に、化粧なんかしていなくても一目で美女とわかる顔立ち……さらには服の胸元を押し上げる、圧倒的な巨乳……まさに絶世の美女である。

 ちなみにカトリーヌはアレンの幼馴染であり、傍目に見てもわかるほどアレンに好意を抱いている。まぁ、アレンの方は気付いてないみたいだが……もげろ、アレン。


「あぁ、カトリーヌの言う通り僕もそんな話は信じちゃいないさ。ただ、一応確認だけはしておくべきだと思ってね」

「なんというか、真面目だよな~アレンは……まぁ、一応聞いておくけど、セクハラの内容はどんなんだ?」


 アレンは真面目な好青年という言葉を地で行くやつなので、嘘だとは分かっていても念のために確認しようとしたらしい。

 まぁ、それを冗談っぽく切り出してくるあたり、初めて会ったときの堅物具合からはかなり軟化している。


「なんでも、ケビンがリタの胸を無理やり揉んでいるところを目撃したらしい」

「え~なにそれ、突っ込みどころが多すぎる」


 アレンが告げた内容を聞き、俺は大きなため息を吐いた。嘘の悪評にしても、もう少しマシなものはなかったのかと……。

 まず第一に、支援魔導士である俺がゴリッゴリのメイン火力であるリタに無理やりセクハラなど、不可能である。やろうとしたら、まず間違いなく無詠唱魔法で消し炭にされるだろう。

 だが、それよりなによりも、この話は嘘であると、あまりにも分かりやすく決定的な事がある。


「……アレン、よく見ろリタの胸を……なだらかな丘とか、そういうレベルじゃないぞ? 荒野だ、荒野! いいか、断言する! リタに揉むほど胸はねぇよ!」

「……おいこら」


 いくら胸好きを自称する俺でも、無いものを揉むのは不可能である。その事実を理解してもらいたくて告げたのだが……直後に聞こえてきた低い声から察するに、どうやら俺は夕食を食べる前にステーキになりそうだ。


「……なるほど、一理ある」

「ねぇですよ!」


 アレンはとても真面目で、ちょっと天然はいってる子なので……時々こうやって、意図せず相手の怒りを煽ることがある。

 ただし、この場合においては……俺の被害が増大する結果にしかならない。

 先にも述べたように、基本的に俺に対するリタの当たりは強い。そしてアレンはキラキライケメン属性持ちで、なおかつ長い付き合いのリタもアレンの言葉に悪気が無いのは理解しているだろう。


 となるとどうなるか……不思議なことに彼女という賢者の皮を被ったバーサーカーは、俺への怒りを増大させるのだ。これが二枚目キャラと三枚目キャラの間にある格差……世の中は理不尽である。

 いままでの経験上、先ほどの俺の景観についての感想だけなら、顔面パンチ一発で済んだはずだ。だが、アレンの追加攻撃により、彼女の怒りはそろそろ『魔法使っちゃおうかな?』レベルに高まっているはずだ。魔法を使うバーサーカーとか勘弁してほしい。


「ケビン、ちょっとこっちに来るです!」

「……拒否権は?」

「あると思ってるですか?」

「……はい」


 悲しいほどに予想通り、リタはおおよそ美少女がしていいとは思えない顔をして、据わっていた俺の襟首を掴み、そのまま連行していく。

 賢者ってバリバリの後衛職だよね? なんでこの子は、一般的な成人男性の平均ほどの身長と体重がある俺を当たり前のように引きずっていけるの? やっぱジョブ誤魔化してるんじゃないかな?


「ちょっとしばらく空けるです。皆は、そのままご飯食べててください」

「は~い。いってらっしゃ~い」


 なお、俺がちょっとした失言によりリタにボッコボコにされるのは、いつも通りのことであり、親愛なるパーティーメンバーたちにとっては見慣れた光景である。

 よって、誰も俺を助けようとはしない。カトリーヌがちょっとだけ戸惑ってるけど、止めてはくれなかった。






****




 リタがケビンを連れて酒場から出て行って二時間ほどが経過し、アレンたちパーティーメンバーも少し心配そうな表情を浮かべ始めていた。


「……今日は、ずいぶん遅いねぇ」


 尻尾を揺らしながらニーニャが呟いた言葉に、他の面々も頷く。ケビンがああしてリタに叱られるのはいつものことだが、いつも大抵三十分程度で戻ってきていた。

 それが今回は二時間と、あまりにも長いためなにかがあったのかと心配になるのも無理はない。


「もしかしたら、なにかあったのかもしれないね。僕が探しに……」


 アレンが二人を探しに行くと言いかけたタイミングで、リタとケビンは戻ってきた。しかし、なにやら様子がおかしい。

 いつもなら戻ってくる頃には怒りも収まっているリタが、顔を赤くし……いままさに怒っているような表情を浮かべており、その少し後ろに申し訳なさそうな表情を浮かべたケビンが歩いてきていた。


 アレンたちが首をかしげる中、リタはアレンたちの居るテーブルの席に座る。すると、ケビンが素早く酒場の店員に話しかけ、黒い表紙の冊子……酒場のメニューを受け取った。

 そしてケビンはリタの座っている椅子の近くまで移動し、席に着くのではなく床に両膝を付けて座り、頭を下げながら両手でメニューを差し出した。

 ケビンからメニューを受け取ったリタは、パラパラとそれを捲ったあとで告げる。


「……ドラゴンステーキと、一番高いワイン」

「……はい」


 そのやり取りを見て、アレンたちは驚愕の表情を浮かべた。リタが注文したドラゴンステーキは……この酒場で一番高い商品。元冒険者である店主の趣味でメニューに加わってはいるが、他の品とは桁違いの値段の品である。

 無論アレンたちは、世界でも有数の冒険者パーティーなので、ドラゴンステーキも食べようと思えば普通に食べることはできる。

 しかし、記念日でもなければ少し躊躇する……それぐらいにお高い品である。


「……注文してきました」

「……十枚は覚悟しろです」

「……はい」


 そしてもっと驚いたのが、やり取りから推察するに奢る側であろうケビンが、文句のひとつも言わずにそれを受け入れていること……。

 アレンたちの知るケビンは、失礼な発言のお詫びだとか、そんな理由でドラゴンステーキを奢るような殊勝な性格はしていない。

 だからこそ驚愕しており、少ししてふたりのやり取りが終わり、ケビンが再び床に座って頭を下げたタイミングで、アレンが戸惑いがちに声をかけた。


「ケ、ケビン? いったい、どうしたんだ?」

「……アレン、すまない……俺は……お前たちを『裏切って』しまった……」


 アレンに声をかけられたケビンは、普段の彼からは想像もできないほど弱弱しい表情で懺悔するように呟いた。


「は? な、なにを言ってるんだ……あんな嘘の悪評、いつものことだろ?」

「違う、そうじゃないんだ」

「ケビン、落ち着いて話してくれ。僕には君がなにを言っているか……」

「あぁ、ちゃんと説明する。だがその前にひとつ宣言させてくれ……俺は、今日をもって『巨乳派を脱退する』」


 小さくともハッキリ聞き取れる声でケビンが告げた言葉を聞き、アレンの表情が再び驚愕に染まる。


「なんだって!? い、いや、巨乳派云々は、君がいつも勝手に言ってるだけで、僕もライナスもそんなものに所属した覚えはないから、脱退でもなんでも好きにしてくれればいいけど……だが、普段から巨乳好きだと公言してはばからない君が……なぜ?」

「……俺はちっぱいの魅力に気付いてしまった……いや、もう『ちっぱいでなければ満足できない体』になってしまったんだ」

「満足できない体――まさかっ!?」


 遠い昔を懐かしむように目を細め、虚空を見つめながら呟いたケビンの言葉で、アレンの脳裏には嫌な予感が浮かぶ。

 先ほどの言葉、そして裏切ったという言葉の意味……だが、それを信じたくはなかった。


「馬鹿な……嘘だろ? だって君は、常々僕やライナスに『抜け駆けは許さない』って言いまくっていたじゃないか!? そんな君が……」

「……すまない」

「嘘だろう、ケビン! 嘘だと言ってくれ!!」

「……俺はもう、お前やライナスとは『違うステージ』に、たどり着いてしまったんだ」

「ケビィィィィン!!」


 アレンは激昂した。思わずケビンの胸倉を掴んだのも致し方ないことだろう。

 アレン、ライナス、ケビン……パーティー内の男三人が交わした絆は、共に夜空を見上げながら笑い合った『童貞』という固い絆は、いま断ち切られてしまった。

 さんざんアレンとライナスに、抜け駆けするなと牽制しまくっていたケビンによって……。ライナスも無言ながら、その瞳には怒気が見て取れる。

 そんな身を焦がすような怒りに晒されながらも、それでもアレンはギリギリでそれを堪え……低い声でケビンに告げる。


「……ケビン、財布を出せ」

「え? なんで、いきなりダイナミックかつあげ?」

「いいから、出せ」

「あっ、はい」


 胸倉を締め上げたまま告げるアレンの気迫に押され、ケビンは懐から財布を取り出す。それを受け取ったアレンは一度頷いてから手を放し、その財布をリタの前に置いた。


「……リタ、追加の注文にはこれを使ってくれ。僕とライナスは、ケビンに大事な話がある」

「分かったです」

「え? ちょっ、待って……そろそろ装備新調しようと、結構な額を――って、ライナス!? なに担ぎ上げてるの!?」


 ケビンは抗議も空しくライナスによって担ぎ上げられ、連行されていく。そしてそれに続くようにアレンも出ていった。





****





 連れてこられた宿屋の一室で、俺は床に座らされていた。目の前には腕を組んだアレンとライナス。威圧感はすさまじいものがある。


「さて……ケビン、話を聞かせてくれ。内容次第だが、僕は君の顔面に全力で拳を叩き込まなければならないかもしれない」


 どこかで聞いたような言い回しだが、前に聞いた時より危険度が跳ね上がっていらっしゃる!? いやいや、後衛の俺が、ゴリッゴリの前衛ふたりに殴られたら、マジ死んじゃうよ?


「お、落ち着いてくれ、アレン……」

「落ち着いているさ、僕もライナスも……さぁ、キリキリと吐け」

「……」


 落ち着いていると言いながら、完全に据わった目でこちらを見ているケビンを、青筋を浮かべながらも無言で頷くライナス……どうやら俺は、再び命の危機に瀕しているみたいだ。

 言葉の選択を間違えれば、待つのは裏切りの代償という名の暴力……なんとかこの窮地を乗り切るしかない! 考えろ、考えるんだ……最善の言葉を。


「……俺もふたりには悪いことをしたと思っている。だが、どうにもならないこともあるんだ……アレは、決して避けられるようなものじゃなかった!」

「……どういう、ことだ?」


 繰り返しになるがアレンは真面目で、ついでに割とノリもいいので……なんだかんだでこっちの話には乗っかってくれる。

 とりあえず、聞くという体勢になってくれたことに安堵しつつ、俺は言葉を続けていく。


「……酒場から連れ出されたあと、俺はリタに宿屋に連行された。それ自体は普段の流れだ。長い説教か、魔法による傷の残らない折檻か……まぁ、そのあたりだろうと予想していた」

「それで?」

「だが、今日のリタはいつもとは違った。俺に殴りかかってくるわけでもなく、魔法をぶっ放してくるわけでもなく、こう言ってきたんだ……『ほ、本当に揉めないかどうか、確かめてみるです』と……」

「「ッ!?」」


 俺の言葉を聞いたふたりは、衝撃を受けたように後ずさる。無理もないだろう、俺だって言われた時はハンマーで頭を殴られたみたいな衝撃だった。


「顔を真っ赤にしながら、少し涙目で……身長差から必然的に上目遣い。そして、いつも着てるローブを脱いで、上着もはだけて、おさわりの許可を出してくれたんだ……無理だろ?」

「あぁ、無理だ。それは勇者である僕にも、重戦士であるライナスにも耐えられない。完全に防御不可能の攻撃だ」

「……うむ」


 アレンとライナスが、深く頷く。そう、アレは決して童貞が抗えるようなものでは無い……つい、秘めたるビーストモードが発動してしまうのも仕方がないことだろう。


「まぁ、それで俺は秘めたる野生を開放してしまったわけだ。しかし、ここで重要なのは俺が童貞であるということ……いざ、最後の一線を超える段階になって、情けない話だが俺はヘタれてしまった」

「……それは仕方のないことだ。言ってみれば童貞とは、新兵のようなもの……初の実戦に尻込みするのはあたりまえだ」


 アレンの優しい言葉が身に染みる、さすが少し前まで同士だっただけはあり、圧倒的な懐の深さを見せてくれる。本当にいい男だぜ……。


「あぁ、だから俺は、その瞬間になって聞いてしまったんだ『本当にいいのか?』って……」

「……」

「すると、リタは耳まで真っ赤にしながら顔を逸らして、『……優しくしてください』って返してきた……無理だろ?」

「あぁ、無理だ! すまない、君を疑ってしまった。それに耐えられるやつはいない。それに耐えられるやつがいたら、たぶんそいつがおとぎ話にある魔王だろう!」


 力強く肯定してくれるアレンに、深く頷くライナス……謝るべきは俺の方だというのに、なんて温かい親友たちだ。

 だが、それでもまだ俺の気持ちは上向きにならない。なぜなら……。


「ありがとう……だが、これだけじゃないんだ。俺はまだお前たちに大きな裏切りを……」

「なにを言ってるんだケビン……ほら、顔を上げて」

「……アレン」


 懺悔しようとする俺の肩を軽く叩き、アレンはいっそ眩しいとさえ感じられる笑顔を浮かべる。まるで、お前のすべてを許すとでも言いたげな瞳には、確かな友情が宿っていた。


「僕もライナスも、君を心から親友だと思っている。大抵のことぐらい、笑って聞き流せる程度の懐はあるつもりだ。君ひとりで抱え込む必要はない、なんだろうと……安心して話してくれ」

「……うむ」

「ふたりとも……すまない。じゃあ、話すよ」


 まったく、本当に俺は素晴らしい友を持った。いったいなにを恐れていたんだろうか……躊躇う必要など無かったというのに。


「……アレン、覚えているか? 以前カトリーヌがプライベートでお前を買い物に誘ってきた時……お前は俺に相談してきたよな? 『もしかして脈あり』なんじゃないかって」

「あぁ、覚えているよ。あの時君が『単純に幼馴染だから誘いやすかったんだろう。深読みすると嫌われるぞ』と言ってくれたおかげで、僕は勘違い野郎にならなくてすんだ。それ以外にもカトリーヌとの件ではいろいろ相談に乗ってもらっていたし……本当に感謝しているよ」

「ごめ~んアレ、お前に先越されたくなくてついた嘘。カトリーヌどこからどう見ても、お前に気があるわ」

「ケビィィィィィン!!!!」

「ひぃっ!?」


 俺の言葉を聞いた直後、アレンは憤怒の表情で剣を抜いた。どうやら、大抵のことは笑って許してくれる懐の深さを持った大親友にとって、この一件は許すか許さないかでいうと……『ぶっ殺す』になるらしい。


「お、おお、落ち着け、アレン」

「ああ、落ち着いているさ。いまの僕は最高にクールだ。おかげで分かったよ……なぜ僕が勇者というジョブを持って生まれたか、その意味が! それはケビン! 貴様という巨悪を討つためだ!!」

「ま、待って、俺の話を聞いてくれ!」

「……遺言なら聞いてやる」


 自らが生まれた意味を知ったアレンは、勇者というよりは魔王という表現がしっくりくるような目で俺を見つめながら静かに告げた。どうやら俺の死刑へのカウントダウンは遺言を言い終えるまではストップしてくれるみたいだ。

 あと関係ない余談ではあるが、別に勇者のジョブなんて無くても支援魔導士の俺なんて簡単に倒せる。


「い、いや、これを聞いたらお前はきっと俺を許してくれる! これには仕方のない事情があったんだ!!」

「……そうなのか? むっ……では一応、話だけは最後まで聞くよ」


 繰り返しになるがアレンは素直でいい奴である。出まかせでもこうして一度剣を鞘に戻して聞く姿勢になってくれている。

 さぁ、考えろ! 生き延びるための話を……。


「……その前に、確認させてくれ。カトリーヌって美人だよな?」

「あ、あぁ、幼馴染としての贔屓目を抜きにしても、僕は彼女ほど整った顔立ちの女性は見たことがない」

「性格も、いいよな?」

「ああ、穏やかで優しくいだけじゃなく、心の強さも併せ持っているといっていい」

「回復魔法も、超一流だよな?」

「うん。彼女の回復魔法にはいつも助けられている。彼女がいなければ、僕たちはどこかで死んでいただろう」

「料理も上手い」

「その通りだ。本当に彼女の料理は素晴らしい。たまに作ってくれる弁当は、僕のひそかな楽しみだよ」


 アレンがだんだんと俺の話に乗ってきたのを確認しつつ、俺は真剣な表情で言葉を続けていく。


「……プロポーションも抜群だ」

「なんてことだ。彼女には欠点というものが存在しないのか?」

「そして、ここからが本題だ! そんな満点の美女であるカトリーヌが、お前に好意を抱いている! 気のせいとかじゃない、絶対だ!!」

「ッ!? そ、そうなのか……ケ、ケビンが言うならきっとそうなんだろう。そうか、カトリーヌが僕を……」

「そんな圧倒的な美女から好意を寄せられるお前なら感じるはずだ! 自分の纏う穏やかな余裕を!!」

「……な、なんだこの、言いようのない全能感は……」


 本当にノリがよくて騙しやすい……もとい素直なやつである。ここまでくれば、俺が死刑を回避できるのも決まったようなものだ。

 内心でほくそ笑みながら、俺は畳みかける。


「分かるか? それがモテる男……『モテ男』の纏う余裕だ!!」

「なんだと……ぼ、僕がモテ男だと……」

「あぁ、お前は気付かないうちに辿り着いていたのさ、モテ男という領域に」

「……そこまでの高みに至ってしまっていたのか」

「その通りだ。そして、モテ男のお前に対して、モテない俺が嫉妬から些細な嫌がらせをしてしまうなんて、よくあることだ。お前はすでにソレを受け入れるだけの器量があるはずだ!」

「……そうだ、すまなかったケビン。変に熱くなりすぎてしまっていたみたいだ」


 うむ、チョロい。もう完全に許してくれる流れに入ったよ。


「いや、こちらこそ悪かった。だけど、もう安心してくれ……俺は嫉妬から解き放たれた。これからは、お前とカトリーヌの仲を全力で応援するさ!」

「ありがとう、ケビン……なんて心強い。万の増援を得た気分だ」


 よし、これでひとつめの死亡フラグは回避成功だ。だが残念ながら、もうひとつ残ってるんだよなぁ。

 そんなことを考えつつ、笑顔を浮かべるアレンから視線を外して、今度はライナスの方を向く。


「だが、もうひとつ……ライナスにも言わなければならないことがあるんだ」

「……ふむ……謎だ」


 ライナスは無口な上に口下手である。いまの発言は『俺にもなにかあるみたいだが、お前に謝られるような心当たりはないぞ?』という意味である。

 長い付き合いの俺はライナス語検定一級を保持しているので、その程度は余裕で理解できる。もちろん準一級を持つアレンも同じく、いまの言葉の意味は理解しているだろう。


「だが、それを言う前に確認させてくれ……ライナス、お前はパーティー内でニーニャが好みなんだよな?」

「……ああ、一番だ……口下手でも話してくれる」


 ちなみに今の発言は『お前の言う通り、口下手な俺にもよく話しかけてくれるニーニャが一番気になっている』という内容だ。


「いまさらなにを言っているんだ、ケビン? 僕たち三人は『好きな相手は被っていない』、それはいままで何度も確認したことじゃないか?」

「……うむ」

「あぁ、まぁそうなんだが、一応な……ここからが本題だ」


 話に入ってきたアレンに頷きつつも、俺はいよいよ本題を切り出した。


「覚えてるか? ライナス……人と話すのが苦手なのをお前が俺に相談してきた時、俺は『まず壁や木相手に話す練習をしてみろ』って言ったよな?」

「……ああ……感謝している……改善はしていない」


 アドバイスをもらったことには感謝しているが、いまだに成果は表れていないというライナス。まぁ、そこは別に大した問題ではない。


「いや、それはいいんだ。一朝一夕で解決するものじゃない……けどな、よく聞け」

「……む?」

「実はニーニャは以前、ライナスのことを寡黙でカッコいいと言っていたんだ」

「なっ!?」


 俺の言葉を聞いて、ライナスは身を乗り出してくる。いつも無表情なその顔は、心なしか嬉しそうにも見えた。


「まぁ、その後俺がこっそり……お前が壁に話しかけてるところをニーニャに見せちゃった。若干引いてたよ」

「……死ね!」

「うぉぉぉぉ!? あぶなっ!?」


 直後にものすごい勢いで拳が迫ってきたので、それを回避して距離をとる。静かな怒り……それでいてシンプルな殺意、顔も相まってアレンの時より怖い。

 ついでに言えば重戦士であるライナスは実にパワフルな肉体をしている。俺程度の貧弱野郎を、その鍛え上げた拳でミンチにすることなど造作もないだろう。

 

「お、おお、落ち着けライナス! 俺の話を聞くんだ!?」

「……遺言なら……聞いてやる」


 アレンと言いライナスといい、切れてても一応話は聞いてくれるんだよなぁ。


「いいか、その件に関してはワザとやったんだ! すべてはお前とニーニャのため……そう、この状況をむしろ狙い通りなんだ!」

「……なん……だと?」

「たしかに、ニーニャは若干引いてはいたが、それは気持ち悪いとかそういう嫌悪感じゃなくて『なにをしてるんだろう?』という疑問が強い! そして、ニーニャは恋心まではいかないもののお前を憎からず思っている……ならばそこでお前が彼女に、『ニーニャともっと話がしたくて練習していた。だけどいまいち上手くいかない』と話せばどうなる!」

「ッ!?!?」


 ライナスは衝撃を受けたような表情を浮かべて後ずさった。そう、彼も分かっているパーティーのムードメイカーでもあり、面倒見もいいニーニャがそうなったらどういう行動をとるかを……。


「ニーニャはお前の力になろうとするだろう。その手段はなんだ? いままでよりもっと多くライナスに話しかけて会話慣れさせることだ! するとどうだ? お前の口下手は解消されていなくても、ニーニャとの会話が増えるという結果に繋がるんだ!!」

「……天才……なんて……恐ろしい」


 ライナスは驚愕している『ケビンという稀代の天才は、いったい何処まで読んでいるのだろうか? なんて恐ろしい、コイツが敵でなくてよかった』と……無論『今適当にこじつけた』だけで、実際はモテるライナスに腹が立ってしたいやがらせ以外の何物でもなかった。

 だけどまぁ、実際ニーニャの性格を考えてみると悪くない手だとも思う。


「まぁ、任せろお前とニーニャが仲良くなれるように、俺も全力でサポートする。アレンだってきっと力を貸してくれるさ……そうだろ?」

「あぁ、もちろんだ。できる限り力になる」

「……感謝する……俺は……いい友を……持った」


 誰からでもなく手を差し出し、俺たちは互いに握手を交わす。これまでも、これからも、変わらぬ友情を誓い合って……よし、上手いこと流れてくれた。

 あっ、いや、もちろん今後はふたりの手助けはするつもりではあるが、ひとまず命の危機は回避したと言っていいだろう。

 そんなことを考えていると、アレンが首に付けていたネックレスが点滅するような光を放った。


「おや? すまない、少し待ってくれ……」


 あのネックレスは通信用のマジックアイテムだ。かなり希少な品なので、うちのパーティーでも二つしか手に入らなかった。そのためメンバーで相談した結果、アレンとカトリーヌが連絡用に所持している。


「……なるほど、わかったよ。あぁ、それじゃあ気を付けて」


 少し離れて通信をしていた内容まではわからなかったが、通信を終えたアレンは俺たちの方を向き口を開いた。


「どうも向こうは食事が終わって、長居するのも店に迷惑だから宿屋に戻って来るらしい。ただ、ケビンだけはリタを迎えに酒場に行くようにとのことだ」

「え? ここ宿屋だよ? ここから酒場に行って、また宿屋に戻ってくる? なにその二度手間?」


 なお夜道だから危険などという発想はない。リタは魔法職ではあるが、最上位の冒険者となれば普通に肉弾戦も強い。少なくとも前衛を抜けてきた魔物を単独で対処できるぐらいの実力は持っている。

さらに言えば、アイツはその気になれば小さな山程度なら、無詠唱魔法で消し飛ばせるほどの火力がある。

不意打ちしようがなにをしようが、リタと戦闘になって勝てる奴なんて世界単位で見ても数えるほどだろう。

 むしろ比べるなら俺の方が襲われたら危険である。まぁ、俺もその辺のチンピラに後れを取るような鍛え方はしていないが……。


「ちなみに、早く来ないと『財布の命』は保証しないそうだ」

「……すぐ向かう」


 人質とってきやがった!? やめろ! あの財布には新装備を買うための大金が入ってるんだぞ!!

 アレンから話を聞いた俺は、大慌てで宿屋を飛び出して酒場へと向かった。





****





 ダッシュして酒場の前に辿り着くと、どこか不機嫌そうな表情で腕を組むリタの姿が見えた。


「……遅いです」

「いやいや、可能な限り急いだんだけど……それで、俺の財布は?」

「どうぞ」

「……あの、リタさん? これ、中身空っぽなんですが?」

「お釣りは皆で分けたです」

「お釣りとかそういうのねぇよ!?」


 悪魔だ、悪魔が居る。いや、たしかに元の原因は俺にあるが、これはあんまりではないだろうか? 具体的にはここ一ヶ月分ぐらいの稼ぎがパーに……。


「……冗談ですよ」


 肩を落としかける俺の耳にそんな言葉が届き、リタがパチンと指を弾くと、急に手に乗っていた財布が重たくなった。

 あ~なるほど、幻覚魔法か……重さまで誤認させるとは、流石である。いや、本当によかった。


「……うん? でも、今度はドラゴンステーキ十枚食べたにしては、減りが少ない気も?」

「馬鹿ですね。本当に十枚なんて食べられるわけないです」

「あ~まぁ、言われてみれば確かに……」

「ほら、さっさと行くですよ」


 そう言ってスタスタと歩き出すリアを追い、隣に並ぶようにして歩きながら俺は首を傾げた。う~ん、機嫌がいいんだか悪いんだか、よく分からない感じだな。ただ、怒っているというわけではなさそうだ。

 そんなことを考えながら、しばらく人通りの少ない夜の道を歩いていると……ふいにリタが呟くように俺の名を呼んだ。


「……ケビン」

「うん?」

「明日は、休みですよね?」

「あぁ、いつも通りな」


 疲労というのは溜めるのは簡単だが、抜くのには時間がかかる。だからこそ、優れた冒険者ほど休息はしっかりと多めに取る。

 俺たちのパーティーも一度依頼を受けたら、最低三日は休むようにしている。ちょうど今日依頼を終えたばかりなので、明日は休みである。


「じゃあ、明日。ギルドに預けてるお金、根こそぎ下ろしてもってこいです」

「……そんなエクストリームかつあげってある?」


 お、おかしいな? 長い付き合いの俺から見て、リタは怒っていないはずだ……なのになんで俺はいきなり、破産の危機に瀕しているのだろうか?

 死亡フラグを回避したと思ったら、破滅フラグが待ち受けてたってか? ははは、笑えねぇよ……。


「明日一日、私の買い物に付き合うです。そして、全部ケビンの奢り……それで、全部許すです」

「俺に破産しろとおっしゃるか」

「……ならひとつ、いやふたつだけでいいです。ソレさえちゃんと買うなら、全部奢りは無しでもいいです」

「うん? なにか高価なマジックアイテムか?」


 さすがにリタもそこまで血も涙もないあくまでは無かったようで、条件を引き下げてくれた。しかし必ず買わないといけないものはあるらしい。

 う、う~ん……あんまり高価じゃないものがいいなぁ。新装備の予算が……。


「……指輪……です」

「……はい?」

「だから、指輪! 私が気に入るデザインで、お揃いの指輪買えって言ってるです!!」

「……え? あっと、それは……」


 さすがにこの場面で言われる指輪がマジックアイテムなどではなく、特別な意味を持つものであることぐらい理解できる。

 しかし、まさかというか……なんか、意外な展開になってきた気がする。


「わ、私に、あんなことしたです。だから……責任とれって……言ってるです」

「……というかその……責任とってもいいのか?」

「私が要求してるです。ケビンにとっては残念かもしれませんけどね。私はケビンの好きな巨乳じゃありませんし、背も低いちんちくりんですからね!」

「あっ、いや、それは……」


 顔を真っ赤にして、どこかやけくそ気味に叫ぶリタを見て、俺は顔が熱くなるのを実感しながら頭をかいた。

 そして少し沈黙してから、ゆっくりと口を開く……いくら俺がお調子者だからといって、ここではぐらかすようなことはできない。


「……その、な……なにをいまさらと思うかもしれないけど……俺、実は、魔法学校にいた頃から……お前のこと、その……好きだったんだ」

「ッ!?」


 嘘ではない。始まりだってしっかり覚えている。思えば一目惚れだったのだろう。

入学式の日、遅刻して遅くまで説教を喰らった帰り道に、気まぐれで覗いた訓練場。新入生の証であるバッジを胸に付け、入学式の日だというのに遅くまでひとりで訓練をしていた少女。

 気づけば目を奪われていた。綺麗だと、カッコイイと感じた。そして同時に焦るような表情を浮かべるその子の、笑顔が見てみたいと……そう思ったんだ。


「う、嘘です! だ、だって、ケビンはいつも私のことからかって……」

「それに関しては言い訳のしようもない。本当にすまなかった。その、なんていうか、こう見えて結構ヘタレなんだよ、俺……恋愛感情がない相手には、いくらでも可愛いだとか綺麗だとか言えたんだけど……本命を前にすると、どうしても素直になれなくてな」


 自分で言ってて恥ずかしくてたまらない。好きな子にいたずらをしてしまう子供そのものである。

 もうリタの顔をまともに見れなくて、思わず顔を背けるた直後……俺よりずっと小さな手が、俺の手を握った。


「……文句、言えないです。素直になれなかったのは私も同じです。私も……ずっと前から、ケビンのことが好きでした」

「え? マ、マジで?」

「マジです。じゃなきゃ、宮廷魔導士だとか魔術院だとかの勧誘を蹴ってまで、一緒に冒険者になったりしないです」


 その言葉を聞いて初めに浮かんだのは、なんとも遠回りしたものだという感想だった。いまの話を聞く限り、どうやらリタも少なくとも魔法学校を卒業する時にはすでに俺のことを好きでいてくれていた。

 ずっと前から両思いだったわけだ。なんというか、ままならないものだ。


「……遠回りしちゃったな」

「ですね。でも、もういいです……いま、嬉しいですから」

「あぁ、俺もだよ」


 もっと早く思いを伝えていたらという後悔がないわけではないが、それ以上にいまこうして互いの気持ちが通じ合ったのが嬉しい。どうやらリタも、同じ気持ちでいてくれるみたいだ。


「だけど、今後はもう少し素直になってほしいです。私も素直になれるように頑張るですから……もう、巨乳がどうだとか、言わないでくださいね?」

「……約束する」

「なら、よしです!」


 そう言って心の底から幸せそうに笑うリタの顔は……間違いなく、あの日、初めて彼女に恋した時――見たいと願った顔だった。





****





 隣を歩く銀髪の男性……ケビンの顔を見上げながら、リタは昔のことを思い出していた。

 彼女の種族であるハーフエルフはかつて『悪魔の子』として迫害されていた。いまでこそ迫害は無くなったが、それでもすべてが消えたというわけではない。

 そしてハーフエルフは必ず『銀色の髪』で生まれるため、すぐに判別ができてしまう。実際に彼女も己の種族には苦しめられてきた。


 なまじリタには大きな才能が有り、彼女自身も努力家だった。魔法学校への入学試験でも主席、その後の試験でも一度たりともトップから陥落することなく卒業した。

 そんな優秀な才能を持つ彼女に対し、嫉妬した周囲が投げかける言葉は決まって「ハーフエルフの癖に」である。

 しかし、ただ昔迫害されていたハーフエルフとして生まれたというだけで、強い風当たりを受けた。それは理不尽で辛いものだった。もしかしたら、どこかで彼女の心は折れてしまっていたかもしれない……そう、ケビンが居なければ……。

 彼女が首位を取るたび、ハーフエルフの癖にという言葉は少なくとも一度は聞こえてきた。しかし彼女がソレに反論するよりも早く、いつもその場に割って入るものが居た。



――また、アイツかよ。ハーフエルフの癖にちょっといいジョブを持って生まれたからってなまい……。

――いや~悪いねぇ、才能あふれるハーフエルフで、ははは、もっと嫉妬したまえ。

――テメェじゃねぇよ、ポンコツ魔導士!

――誰がポンコツだ! その喧嘩買った!!



 そう、リタが貶されるたびにどこからともなく、これ見よがしに銀色の髪を靡かせながらケビンが割って入り、彼女への非難はうやむやになるという展開がとても多かった。

 ケビンはいつも明るく、お調子者ではあるが周囲のことをしっかりとみており……いつでも、リタのことを助けてくれた。戦闘能力は低くとも、リタにとってのケビンはヒーローのような存在だ。

 そんなケビンに恋をするのには、それほど長い時間はかからなかった。


「……ケビン」

「どうした?」

「……いえ、すみません。なんでもないです」

「うん?」


 首をかしげるケビン……そのセミロングの銀髪の根本に、本当にすぐ傍から注意深く見上げないと気付けないほど微かに見えている『金色の髪』を見て、リタは幸せそうに微笑みながら手の握る力を少しだけ強くした。


(……ずっと前から、知ってるですよ。ケビンが本当は『純血のエルフ』で、私のためにハーフエルフだって嘘を付いて髪を染めてること……素直じゃない貴方も――大好きですよ)






・ケビン(支援魔導士)

 お調子者の三枚目にして、本作の主人公。支援魔導士としての腕は超一流で、なんだかんだでパーティーメンバーのことをよく見ているムードメーカー。

 魔法学校時代にリタに一目惚れし、卒業後一緒に冒険者になった。本命以外には調子よく振舞えるが、本命を前にするとヘタレるタイプ。純血のエルフだが、髪を染めてハーフエルフと偽っている。

 今回リタと思いが通じたので、今後はバカップルになるんじゃないかな?


・リタ(賢者)

 本作のヒロイン。小柄なハーフエルフの少女にして魔法のエキスパート。胸は絶壁。ハーフエルフなのでとっくに成人しているが見た目は若いまま。特徴のあるですます口調で話す。

 魔法学校時代からの付き合いであり、なんだかんだで自分を気にかけてくれるケビンに惹かれていたが、ケビンの好みの女性は巨乳だと思っていたため、告白する勇気がずっと出てこなかった。

 ちなみにカトリーヌはニーニャは本人から聞いてリタの気持ちを知っており、ずっとその思いが報われることを願っていた。

 今回の件でケビンと両思いであることが分かり、今後は素直になる……いちゃつくようになる。

 なんでメインヒロインが銀髪合法ロリかというと、作者の性癖以外の答えはない。


・アレン(勇者)

 パーティーのリーダーにして希少な勇者のジョブを持つ性格のいいイケメン。でも別に魔王とかはいない。

非常に真面目で堅物といえる青年だったが、パーティーメンバー(主にケビン)に毒されて、割と天然気味な冗談も通じるタイプになった。

 カトリーヌとは同じ孤児院で育った幼馴染同しであり、互いに意識していた。とはいえどちらも奥手な上に、アレンは自己評価が低い所があるので、ケビンが邪魔しなくてもデートは上手くいかなかった可能性が高い。

 ケビンのことを公私ともに頼りにしており、今後は彼のバックアップを受けてカトリーヌにアプローチしていくと思われる。そうなれば元々両思いなのでくっ付くのは早い。

 

・カトリーヌ(高位司祭)

 性格、能力、プロポーションと非の打ち所がないケビン曰く『満点の美女』。強いて欠点を上げるなら控えめな性格で奥手なことぐらい。家事全般と治癒魔法が得意なパーティーの良心。

 アレンとは同じ孤児院で育った。幼いころからアレンに恋をしており、ずっと一途に思い続けているが……鈍感なアレンに、いままで精一杯のアプローチをことごとくスルーされてきた。

 しかしなぜか先日の一件以降、アレンの方からアクションを起こしてくることが多くなり、ドキドキしながら内心とても喜んでいる。カップルになる日は近いかと思われる。


・ライナス(重戦士)

 パーティーの盾を務めるいぶし銀な男。別におっさんとかではなく若いが、老け顔なので実年齢に見られることはほぼない。無口というか口下手、口下手というかコミュ障。

 その口下手のせいで固定パーティーに巡り合えないでいたが、ケビンに勧誘される形でアレンのパーティーに参加した。なぜか分からないがケビンには口下手な言葉が正しく伝わるみたいで、そのおかげもあってパーティーに馴染むことができたので、ケビンのことをとても信頼しているし天才だと思ってる。

 自分とは正反対に明るくコミュ力の高いニーニャに惹かれているが、当然上手くはいっていなかった。

 しかし今回の件のあと、ケビンに言われたことを実践してみたら……なんかめっちゃ仲良くなれたので、ケビンに対する評価が更に爆上げとなった。


・ニーニャ(野伏)

 猫の獣人であり、実はパーティーメンバー最年長だったりもする。明るくお姉さん気質で、ケビンを男性メンバーのムードメイカーとするなら、彼女は女性メンバーのムードメイカー。パーティーにはケビンに勧誘される形で参加した。

 別に恋愛とかは考えておらず、カトリーヌとリタの恋を応援する側だった。しかし、今回の件のあとでライナスがケビンに与えられた策を実行した際……強面なライナスが不安そうにたどたどしく仲良くたいと伝えてきた様子が母性にクリティカルヒットした。

 まさか自分の好みドストライクな男性がこんなに身近にいたとは、このトラップマスター・ニーニャの目をしても見抜けなかった。




Q、なんでこの作品書いたの?

A、ケビィィィィィンってやりたかった


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― 新着の感想 ―
[一言] めっちゃ好きw
[一言] 作者の性癖含めていろいろひどい。(笑
[良い点] ネタよし、ノリよし、文よし、ストーリーよし 完璧かな? [一言] ニヤニヤしながら読んでました 作者とはいい酒が飲めそうだ(性癖的な面で)
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