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むつかしい日々

 率直に言って、こんなにむつかしい言葉、いるの? って思っています。単に、再会して、別れた、いや、振られただけでしょう?

 もっと素直に振られればいいのにって思わなくもないけど、そのころは一大事だったのかな――ー。

  「魂の行く先」


美しい夢が咲く花の蕾が膨らんだ

学生たちの夕焼けの下の語らいに似て

なににも負けない、鉄の友情なのだろうか


しかし、花園の蝶は飛び去り

シュトラウスのダンスホールは塵にまみれ

ペンキの剥げた花嫁の像はひとり

ショーウインドウに飾られた蝋のショートケーキ達

白い小さな家が子供たちの夢になり

キラキラ輝くガラスのお城には誰もいない


挿絵(By みてみん)


強い夏の太陽に似た視線で

背中を知らないうちに焼いてしまった

気が付けばロボットの

グロテスクな千鳥足に似た歩み


太平洋を一人彷徨う魚になるか

珊瑚礁を孤独な魚と泳ごうか

山気の中に沈もうか

気球に乗って遠い空に溶けようか

残月に懺悔して空に舞おうか


鼻の赤い探検家は鼻をこすりながら言ったものだ

遠い山の木立の中

夜の明けきらぬ霧の中で舞っていた


お腹の出た考古学者は言ったものだ

インカの廃墟に群れがいた


挿絵(By みてみん)


登山家は言ったものだ

チベットの深い峡谷にひっそりとしていたと


おんぼろ船の船長は

南太平洋のスコールの中雨粒となって

昨日も降っていたって言うし・・・




  「夕立に想う」


 雷のささやきは心の呟きを誘い

 心の呟きはさらに雷を誘う


雷の囁きは

寂しい積乱雲の子供たちを揺り起こす

悲しい不安の目覚め

十七歳の自覚

空を見つめる眼を雨がたたく

雷の叫びは雨とともに心臓を握りつぶす


挿絵(By みてみん)


水晶の古城は闇に隠れている

小鳥の囀りは

片隅に追われ、声を潜めている

苦い闇は広がる


空腹に迫られて

フェイントをかけつつ蜻蛉を追う

アカガエルに似ているのか

目を潤ませて雌犬を求めて嗅ぎまわる

あわれ、芸術家の生涯に似て


雷鳴は強く鳴り響く中

輝く子供の眼の中の太陽を捜している

あくなき天涯万里の漂泊を促され

儚く花の散るのを支えよと叫ぶ


体が柘榴のように裂けるほどの

雷の叫びに涙する

臆病な幼い魂は耳をふさぎ

布団にもぐり震えることしかできそうもない


挿絵(By みてみん)


ごった煮に似た精神が

宇宙の真理を感じ

眼を輝かせ、アリコール中毒の神経で

心を見つめる時

稲妻の美は輝き渡るのだろうか


濁った闇の空気が澄み渡り

清浄な雨がほほを撫で

荒々しい雷はやがてつぶやく

海を越えて太陽の涙が降り

白い行雲が虹を引き回すのを見る




  「霧の朝」


怠惰な日々に嫌気がさした

そんな夢を見ていた

自己嫌悪に苦悩しながら眠ったはずなのに

一夜明ければ外は霧


小鳥も鋭く、いつもと違う囀りを交わす

閑寂な予感を匂わせるように

不気味な犬どもの足音、息使い

ビーズ玉の天使も色を失って

蜘蛛の巣に逃げ込んだようだ


挿絵(By みてみん)


幾枚ものセロファンの衣を

着せられていくような

霧を吸い、重く、静かに縮んでいく

黄色い粉に似た力でもって

求めるお前の首根っこを押さえつける時

甘く、悲しい糖蜜の匂いに満ちた

眠りに、静かに誘われる




  「六月の快晴と祭り」


潜水服に似た世界や

時代物の骨と皮でできた世界に

閉じ込められている

苦しくて黒い声を上げて

畑のジャガイモや

銀の砂上の野菜が土に還る


挿絵(By みてみん)


それでも水はなくならない


或る日、黄昏、空が火事

真っ赤になって、あたりが真っ赤になって

紫色の中に炎が燃えて

お空の消防車の大出動

次の日、水が涸れた


太陽が出ると

世のすべての者どもが

顔を輝かせ、明るく笑いだす

まず、赤く興奮気味に

そして、落ち着いて喜びを

隠し切れない明るい顔

土の中に潜っていたミミズなんぞも

外に出て

太陽がよほど嬉しいのか

ギクシャク転げまわっている


挿絵(By みてみん)


歓喜のどよめきと、お祭りの摩擦で

ぐんぐん熱気が積もる


芸術で装飾された影と

熱気を避けて、お祭り見物をする

冷ややかな乾いた真砂と

どんな隙間にも入っていく

冷たいそよ風と

ここにはいつもあればいい




  「梅雨明けをひかえた今日」


透明な容器に入った

透き徹るような心臓が

針金に縛られ、時に刻まれ

血を流している


空は梅雨明けの青さが拡がり

太陽の熱い視線が渦巻く


挿絵(By みてみん)


真空の淵に立たされて

虚無な空気に息が詰まりそう

ふらつく足を突っ張って

中を覗きこもうとする芸術家の正体


青い血の一滴の落ちていった

すべてを吸い込む淵の蒼さが

今日の空の色に繋がる


アマリリスが一輪咲いている




  「変身 なのかな?」


二十四番目の私は

八番目の私に向かって囁いた

つまらないだろう、代わってあげるよ


九番目の私は

一番最初の私に向かって呟いた

うっとうしいだろう、代わってあげよう


挿絵(By みてみん)


私は私と代わって

そして、私は私と代わるんだ

私は私になって、私になる





ひとまず、梅雨もおわりますかねーー・・・

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