第一話 「明日に向けて」
ここは第五宇宙にある、人類の文明がまだ発達してない地球。
一面に広がっている広大な草原。
ヒューと風が吹くと、マーチングのように同じ方向に一面の草が靡いている。
風はそれを指示する指揮者のように。
そこには、ぽつんと一つ家が建っている。
さほど大きくはない家だが、その代わり装飾は見事なまでに施されて、家の周りには、鶏や豚、しっかり手入れされた畑などが備わっている。
しかし、そこに一人、この情景にそぐわない格好をした少年が空を見上げていた。
少年の名前はルキシナ。
「なあセシル、やはりさっきの違和感は……」
「うん。調べてみたら案の定異変が感知された……。一刻も早く___」
「ああ、わかっている。だが準備は厳かにするな。出発は明日の明朝」
「うん。わかった」
そう答えたのは、家から出てきた少女。
不健康なまでに白い顔とは裏腹に、機動性に優れていて戦いというものを知っている。
大人が十人襲い掛かってきても、パワーではなく、技術で圧倒するその強さ。
AIにおける知識も科学者以上に携わっている。
「俺たちの目標はAIによって支配されたウォースを取り戻すこと。そのために各宇宙でAIによって支配されそうな惑星を守り、その実行犯から情報を搾取すること。そして一番重要なのは戦闘ができるあるいは知識が豊富な人員の確保」
ウォースというのは、彼らが元住んでいた第二宇宙の惑星。
そこも人類の文明が発達していて、現代風いうならば地球で差し支えない。
地球とは、第一宇宙特有の呼び方であって、各宇宙ごとに呼び方が異なる。
第二宇宙なら『ウォース』と言ったように。
ここ、第五宇宙は人類が生息していないので、呼び方はない。
そして、ウォースはとある組織のAIによって支配された。
今は皆殺されてるか、組織を除き奴隷として活動してるかは定かではない。
そして彼らは第二宇宙、つまりAIによって支配されたウォースから、今ここにいる第五宇宙まで逃げてきたのだ。
唯一その二人だけ。
そして今、第一宇宙にある地球がAIによって支配され始めている。
それを止めるべく彼らはそこに向かい、AIを制御プログラムで止めるか、力ずくで破壊する。
前者の方が情報が盗めるからそっち優先で、厳しくなったら破壊。
それよりもこの計画で一番重要なのは、有力な人員を確保すること。
ウォースで得たセシルのAI知識はもうほとんどカンストに近いが、もし仮にその地球が、彼女の知識より上回る場所であるならその情報を搾取するのに越したことはないが、その情報搾取よりも大事なのが人員確保なのだ。
なんにせよ、たった二人だけでAIによって支配されたウォースを取り戻すのは不可能に近い。
だからといって、明日向かう第一宇宙の地球を二人でどうにかなるかはわからないが……。
セシルは俯き、明日の計画が不安なのか、本当に成功するのか、顔に覇気がなかった。
それを見たルキシナは、セシルに歩み寄り優しく声をかける。
「大丈夫だ。俺の指示に従えば絶対に生きて帰って来れる」
「うん……!」
するとみるみるうちに笑顔になり、セシルまるで太陽のような表情をルキシナに向ける。