第6話「最弱不死と元冒険者の都(1)」
「あ~る~じ~……。暇なんじゃが~……。なんか面白い話でもないんかや~?」
アガレリアへと続く道をひたすら歩き続けている俺の頭を、背中に乗ったヴェルヴィアが退屈そうにぺしぺしと叩く。
今日だけでその言葉を何十回聞いたか、もはや覚えていない。
破壊の魔神。
ヴェルヴィア=ノヴァ=エンドロールと旅を始めてから、はや数日が経とうとしていた頃。
俺は早くも、コイツを自分のギフトスキルにしたことを後悔し始めていた。
というのも、こいつと一緒に行動するとデメリットしか発生しないのである。
まず魔物に襲われる回数が以前とは比べ物にならないほど多くなった。
どうやらヴェルヴィアの魔力には、魔物を引き付けるという最悪の効果があるらしい。
そのせいで一緒に行動している俺は、魔物とエンカウントしまくりの死にまくり。
不死の体になったおかげで命だけは無事だが、既に俺の服もメンタルもボロボロである。
おまけに、やれ『足が疲れたからおんぶしろ』だとか『元とはいえ女神のわっちが雑草とか喰えるか』等々わがまま放題。
戦闘に関しては、接近戦をすればコテンパンに返り討ちにされ、唯一の取り柄と言ってもいいドラゴンブレスを使った後は、封印した神々から壁尻になる呪いでもかけられてるんじゃないだろうかと疑いたくなる頻度で壁尻状態。
その救出に時間を取られた結果、本来なら数週間程度で到着するはずのアガレリアへの旅は、大幅に遅れていたのであった。
これが俺のギフトスキルだと思うと泣けてくる。
この世界にギフトスキルのクーリングオフって無いのだろうか。
「あ~る~じ~。女神であるわっちを無視するとか人としてどうかと思うんじゃが~? そんなんじゃから目が死んだギョギョみたいになるんじゃぞ~?」
なんだよギョギョって。
あと、この目つきは生まれつきだ。
「あのなあ、暇だと思うならちょっとは自分で歩けよ。っていうか、なんで俺がお前を背に乗せなきゃならないんだよ。ドラゴンが人間を背に乗せて飛ぶのがファンタジーの定番だってのに、これじゃ逆だろ⁉」
「そんな定番は初耳なんじゃが……。ふむ。そういえば、わっちって今の状態でも飛べるんかのう? どれ、暇じゃしちーっと試してみるか」
そう言うと、ヴェルヴィアが俺の背中から降り、なにやら小さく呟く。
しばらくすると、ブァサッ! という音と共に、ヴェルヴィアの背中からドラゴン状態だった頃よりも小さな黒いコウモリに似た翼が出現した。
その翼がパタパタと羽ばたくと、ヴェルヴィアの小さな体が少しだけ地面から浮いた。
「うむ。疲れはするがどうやら飛べるっぽいのう。となれば主よ。その定番とやらに則って、今度はわっちが背に乗せてやろう。掴まるがよい」
「ええぇ……」
あの暴走ジェットコースターみたいな空中飛行を思い出すと、正直乗りたくない。
とはいえ、空を移動できるなら一気にアガレリアに行くことができるかもしれないと考えた俺は、ヴェルヴィアの提案に乗ることにした。
「ひゃおおお⁉ あ、主よ。どこ触っとるんじゃ⁉」
「仕方ないだろ。お前の体はドラゴンの時と違ってロリっ子体型なんだから、こうしないと俺が掴まれないんだよ」
色気のない悲鳴をあげるヴェルヴィアを無視して、抱きかかえるようにその体を掴む。
傍から見れば今の俺の姿は、まるで子供をあやす父親か幼女に手を出している変質者のどちらかに見えることだろう。
「むうう……。まあ良い。ではゆくぞ! ふんぎぎぎぎぎぎ‼」
若干顔を赤らめたヴェルヴィアがそう言って、先ほどよりも激しく翼をはばたかせる。
しかし……。
「……なあ、ヴェルヴィア。全っ然飛ぶ気配がないんだけど」
ただ俺達を中心に砂埃が舞い上がるだけで、俺達の体は一切浮くことはなかった。
「ハァ……ハァ……。ど、どうやらわっちだけで飛ぶのであれば問題ないみたいじゃが、誰かと一緒にとなると無理みたいじゃのう……」
結構頑張ったのか、ヴェルヴィアが息を切らせながら答える。
なんて使えないんだろう、俺のギフトスキルは。
「まあそうガッカリした顔をするでない。実はじゃな。わっちも主も飛べる素晴らしいアイディアを思いついたのじゃ。これが上手くいけば、アガレリアまでひとっ飛び出来るじゃろうな」
「え、マジで⁉」
もしそれが本当なら、その手に乗らないわけがない!
「マジもマジ大マジじゃ。では主よ。わっちをアガレリアとは反対の方角に向けるがよい」
「ん? こうか?」
抱きかかえたヴェルヴィアを、アガレリアとは反対の方角に向ける。
一体何をするつもりなんだろうか。
「うむうむ。さて、角度は……まあこんなもんでいいかのう。では主よ。一回死ぬとは思うが、その辺は覚悟しておくがよい」
「…………は?」
俺が間の抜けた声を出すのと同時にヴェルヴィアが詠唱を始め、周囲が紅く煌めき始める。
……おい、待て。
これって、どう見てもアレだよな⁉
「ヴェルヴィア? いやヴェルヴィア様⁉ ちょっと待っ……⁉」
「我が咆哮よ、世界を薙ぎ払え! 《破壊竜の咆哮》‼」
俺の制止する声も空しく、ヴェルヴィアの口からドラゴンブレスが放たれ、俺達の体はその衝撃で空へと吹き飛ばされる。
某怪獣王も同じような飛び方をしてたことがあったなあ……。