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スキルま!?〜最弱不死とドラゴンのパンツ〜  作者: ほろよいドラゴン
第二章〜乙女の涙と女神の涙〜
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第20話「最弱不死と女神の涙(4)」

「アタイは頭が悪い方だが、これまでアタイを通り過ぎて行った男達の事はよく覚えてる……」


 俺を睨みつけながら、ダリアはいきなりよく分からないことを言い出した。

 どうやらべラドナの幻惑魔法によって、俺の姿はドルジとか言う男に見えてしまっているのだろう。


「自分は王国の次男坊だと大嘘をついていたボブラン。浮気をしてたにも関わらず『それが男の文化』だとか意味が分からない事を言い出したジャック。『お前は俺の言う事だけを聞いてればいいんだ』とか亭主関白を何か勘違いしていたゴールド。『結婚するんだから』の一点張りで狩りも家事もしないどころか、アマゾネスの宝にまで手を出したジェクス……。その他40人を超える男の顔は、今でもよく覚えてる」

『「うわぁ……」』


 あまりのどうしようもない独白に、俺とローレルの声が綺麗にハモった。

 根が純情の極み乙女だからか、どうやらダリアはこれまで、ロクでもない男にばかり引っかかっていたようだ。


「その中でもドルジ。アンタの顔だけは絶対に忘れない」


 その一言と共に、ダリアの眼に殺気が宿る。


「アタイに求婚を迫って来たかと思えば、実はアマゾネス討伐隊のリーダーで妻子持ち。しかも滞在している間に他のアマゾネスを奴隷として他国に売り、最後にはアマゾネスの里に討伐隊を仕向けてアタイを処刑した……クズ野郎のアンタだけは絶対にな!!」


 そう言い放つと、ダリアはゆらりと巨大な戦斧を掲げた。


「コロす! アンタだけは、アタイを殺したアタイがこの手で殺さないと気が済まない! アタイはなぁ、アタイは……。いっそ奴隷としてでもいいからアンタと一緒に居たかったのにいいいいい!!」

「色々な意味で目を覚ませ、ダリア!」


 ダリアがその場から弾けるように俺に突進し、自身の身の丈はある巨大な戦斧を恐ろしい速度で振り下ろした。

 いつもの俺なら、そのまま体が反応できずに切り叩きつけられて死んでいただろう。

 だが、この日は違った。


「うおおおおっ!?」


 振り下ろされた戦斧が俺を捉えるよりも早く、反射的に俺が後ろに飛び退く。

 その直後、俺の立っていた場所にダリアの戦斧が叩きつけられたと同時に、爆音と共に岩肌は真っ二つに裂かれ、粉々になった礫が俺の頬を切った。

 オイオイオイ……。

 明らかに今までと威力が桁違いなんだけど。

 まさかこいつ、森で魔物と戦ってた時は全然本気じゃなかったって事かよ!?

 バケモノか!?

 冷や汗を流す俺を初撃で仕留め損ねた事を理解したダリアが、続けざまに戦斧を縦横無尽(じゅうおうむじん)に振り回す。

 その(ことごと)くを、俺は全て紙一重で回避し続けた。


「チッ。しばらく会わない間に随分と避けるのが上手くなったじゃねーか。そういえばアンタは、アタイが何度いつ結婚してくれるのかを聞いても、その度にのらりくらりと躱し続けてたよなぁ! だから避けるのも得意ってのかい! アァン?」

「んなわけあるか!」


 幻惑魔法の効果なのかダリアがとんちんかんな事を言っているが、もちろんそんな理由で俺がダリアの攻撃を回避できているわけではない。


 自分の体が、眠っていた主人公補正を開花させた主人公かと思うくらい軽いのだ。


 まあ、主人公補正なんてご都合主義的なモノが存在しないのは、この世界に来た時に嫌と言うほど思い知らされているから違うのは分かっている。

 この現象の原因は、どう考えてもあのコイキ〇グ戦法だ。

 リフォレストや旧リフォレストに辿り着くまでの道中に遭遇した魔物達の経験値を吸収していたおかげで、現在の俺は、そこそこ熟練の冒険者を名乗っても不思議ではないくらいの高レベルになっている。

 そのレベルアップに比例して向上したステータスの影響で、俺の身体能力が普段よりも飛躍的に向上しているのだ。

 そこにこの世界に来てから培われた俺の逃走技能。

 フレステとの日々の特訓。

 そしてダリアの戦斧による攻撃が斬馬刀の如くパターンが限定されているという様々な要因が重なり、一撃でも当たれば即死級のダリアの攻撃をなんとか回避することに成功しているのである。


 なんとも格好悪い理由ではあるが、俺らしいと言えば俺らしい。


 とは言え避け続けたところで、俺のスタミナが尽きれば一巻の終わりだ。

 リーディアの残したあの言葉がべラドナの思考を読み取ったものだとすれば、その言葉通り、生半可な方法ではダリアの幻惑魔法は解除できないのだろう。

 だが死ねばレベルが1に戻るというエリ草の性質上、回避のメリットを捨ててまで復活を見せて精神の動揺を狙うのはリスクが高すぎる。

 となると肉体的への強い衝撃を狙ってみるしかないか……?

 いや、いくらレベルアップの恩恵でステータスが向上していると言っても、元がクソ雑魚ステータスの俺がいくら攻撃したところで、反英雄であるダリアには大したダメージにもならないと考えていい。

 そうなると……。


「ッチ。ちょこまかと動いてんじゃないよ!!」


 中々攻撃が当たらない事に苛立ち始めたダリアが、俺との距離を一気に詰めようと一直線に駆け寄って来る。

 俺はアイテムポーチに手を入れてトラップパネルと取り出すと、その進路上に滑り込ませた。

 その瞬間。

 ダリアが踏んだトラップパネルから音が鳴ると同時に、ダリアの体は勢いよく後方に吹き飛ばされ、その体が岩壁に叩きつけられた。

 力が足りないなら、アイテムだろうが何だろうが駆使してその穴を埋めればいい。

 このトラップパネルの威力はメルティナ達やカーバンクル(ライオン)で既に実証済み。

 さすがのダリアでも、あの威力で壁に叩きつけられれば正気に戻るだろう。

 と、俺が乱れていた息を整えていたその時。



 不意に俺の体を僅かな衝撃が襲うと同時に、下腹部からジワリと熱が広がる感覚が広がった。



 恐る恐る視線を下げると、俺の腹には、一本の弓矢が突き刺さっていた。

 まさか、どこかに幻惑魔法に操られた獣人族かエルフ族がいたのか!?

 でもだとしたら、これまで何度も攻撃出来るタイミングはあったはず……。


『リューン!』

「っ!? これくらいなら大丈……」


 ローレルにそう答えようとしたその瞬間。

 俺の体に、これまで経験したことがないような激痛が走った。

 それと同時に、全身がまるで極寒の海にでも叩き落されたかのように震えだし、強烈な嘔吐感と眩暈に膝をつく。


「うっ、ぐぶぉあ!!」

『……これは、まさか毒!? リューン、しっかりして!』


 口から血を吐き出し続ける俺にローレルが駆け寄るが、口からは肺に穴でも開いたかのような空気が漏れるだけで言葉を発する事すらもできない。

 煩いくらいに心臓が鼓動し、やがて急に音が止む。

 それが何度も、何度も繰り返される。

 明滅する意識の中、俺は悟った。



 自分が今、毒に侵されて生と死を繰り返していると。



「へぇ……? 初めて使ってみたが、ホントにアタイの部下が召喚できるんだな。この【女王の号令(クイーンオーダー)】ってギフトスキルは。いいねえ、アタイ好みの力だ。お得意の騎士道がどうたらってのは言いっこなしだよな? 先に姑息な手を使ったのはアンタ自身なんだからさ」


 見上げると、そこには大岩に叩きつけられたにも関わらず大したダメージを追ったようにも見えない様子で俺を見下ろすダリア。

 そしてその周りには、ダリアと同じような服を身に着けた複数人の女の姿があった。

 仲間がいたにも関わらず今まで攻撃されなかったのが不思議だったのが、それも当然。

 始めから、そんな奴は存在しなかったのだ。

 恐らくは吹き飛ばされたあの時にダリアは自分のギフトスキルを発動し、自分の部下を召喚して攻撃させたのだろう。


「ぐっ……!? うがっ、げごぁっ!」

「アッハッハッハ! (やじり)に塗られたアマゾネス特製の毒は効くだろう? なにしろどんなに屈強な男も、最後には赤ん坊みたいに泣きながら死に至る代物だ」


 悶え苦しむ俺の姿を眺めながら、ダリアが愉悦に満ちた笑みを浮かべながら俺の頭を掴んで持ち上げる。


「あんだけカッコいい啖呵を切ったアンタですらも、この通り。無様なもんだな。だがまだ死んでないってのは褒めてやるよ。この程度で死なれちゃ、アタイの恨みは治まらないからなぁ! アァン!?」


 俺の体にダリアの強烈な蹴りが叩き込まれ、俺はグジャリと音を立てて岩壁に吹き飛ばされた。

 死んでいない。

 というのは、もちろんダリアの勘違いだ。

 俺は弓矢が突き刺さってからずっと、死と生を何度も繰り返し続けている。

 だがいくら死んでも体内に残った毒は残り続け、生き返る度に内側から命を蝕み続ける毒による痛みと恐怖は、着実に俺の心を衰弱させた。


 毒は不死である俺にとって天敵。


 走馬燈に映った誰かの言葉が俺の脳裏を過ぎる。

 その言葉の意味が、今なら良く分かる。

 この苦しみが永遠に続くのかと思えば、かつてエリ草を使った奴が毒をその身に受けただけで気が狂ったのも当然だろう。

 ただ命を失い続けるだけの生物に成り果てた俺が戦うのは、もはや不可能だった。

 と、その時。


『……………もう、充分かも……』


 混濁する意識の中。

 ローレルの涙に濡れた声が、俺の頭の中に鮮明に響いた。


『リューン、よく聞いて。今から私の最後の魔力を使って、キミ達をリフォレストに転移させる。今ならまだ、キミもリフォレストの治癒魔法で解毒すれば助かるかも。このままじゃ、ヴェルヴィアにとって大切な存在であるキミが失われてしまう。……あの子をこれ以上、私は悲しませたくない』


 ぐちゃぐちゃになった俺の意識がその言葉の意味を理解するよりも早く、ローレルは言葉を続ける。


『今後、この森には二度と誰も近寄らないよう世界に広めて欲しい。この魔力を使えば、私という存在は完全に消滅してしまう。そうなれば、この森にどんなことが起こるか分からないかも』


 ローレルがフードの奥で涙を滲ませながら微笑むと。


『最後にあの子。ヴェルヴィア=ノヴァ=エンドロールに、謝っておいてほしいかも。迎えに行けなくて、ごめんなさいって。……リューン。かつての英雄のような力を持たない貴方が、我が子達を迫害した種族と同じ人間の貴方が。この森の民の為に、私の願いの為に戦ってくれた事に、深く感謝を……。さあ、手を……』


 そう言って、ローレルは微かに震えるその手を俺に差し伸べてきた。

 普段の俺なら、その手を取ろうとなんてしなかっただろう。

 だが毒によって死と生を繰り返し続ける俺にとって、ローレルの手は正に『救いの手』だった。

 あの手を取れば、この状況から逃げられる。

 この苦しみから助かりたい。

 生きたい。

 朦朧とする意識の中で腕を動かし、その手にあと少しで触れようとした、その時。



『……本当は、断らればわっちだけで去るつもりじゃったが、やはり出来んな』



 不意に。

 そんな少女の言葉が、俺の脳裏に過った。

 熱と激痛に淀むこの頭では、彼女が一体誰なのかはっきりと思い出せない。



『今確信した。貴様を見限り生きるこの世界は、きっと三千年の封印をも超えるような虚無をわっちにもたらすじゃろうと』



 けれども俺は、その少女を知っている気がする。



『そんなのは、生きておっても死んでおるようなものじゃ。そんな生き地獄は、もう沢山じゃ』



 知っている。月に照らされた、天を焼く劫火のような焔色の髪と瞳を。

 知っている。あの鈴の音のように心地よく、けれども力強く響く声を。



『ならば行こう! 立ち塞がる者が何者であれ、それが例え運命であったとしても。破壊の女神として、そして主のギフトスキルとして。全てを破壊し尽くすことを誓おう。故に主よ。共に命尽きるその日まで、見果てぬ明日を生きる為に戦うならば、この手を取るがよい!』



 俺と明日を共に生きたい。

 ただその為だけに、自分が女神に見つかればどうなるかも分からないのに、一緒に戦うと言って震えながら差し出されたあの手を。

 恐怖で震えていた俺に立ち上がる力をくれたあの小さな手を、俺は知っている。

 ここで逃げ出して助かったとして、俺は俺を責めずに生きられるのか?

 ここで逃げ出して助かったとして、俺はあいつ達の隣で笑い合うことができるのか?

 ……そんなもん、考えるまでもない。



 この世界最弱の俺が、そんなこと出来る訳ねえよな。ヴェルヴィア。



「ふんっ、ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ!」


 ローレルに伸ばしかけた手を地面に叩きつけ、立ち上がろうと歯を食いしばった俺の口から、自分でも聞いたことが無いような声が洩れる。

 体中の関節が軋みを上げ、心臓が、脳が、全身が、これ以上動くなと警告してくる。

 それを無理やり抑え込みながら、俺はフラフラと立ち上がってみせた。

 ……まずは、この毒をどうにかする必要があるな。


『っ!? キミ、どうして……』

「勝手に、諦めてんじゃねえよ……。……なあダリア。お前に一つ言いたいことがある。ちょっと耳を貸してくれないか?」

「アァン? 遺言ってやつかい? いいさ、聞いたげるよ」


 立ち上がった俺に驚愕の声を出すローレルを手で制してダリアに呼びかけると、俺にもう抵抗する力なんて残っていないと見抜いているからか、ダリアは俺に耳を近づけてきた。


「さあ、何を聞かせてくれるんだい? 言っておくが、今更アンタがアタイに愛を囁いたところで、アタイは絶対に……」


 何か良く分からない事を言っているダリアの言葉を無視し、俺は残った気力で息を吸い、ハッキリと。



「昔の男の事をどんだけ引きずってんだよ。そんなんだから結婚できねーんだよ。この売れ残りアマゾネス」



 盛大に煽った。


『なっ!?』

「そもそも、その『アァン?』って口癖か? その口癖が許されるのはテヌプリの痕辺様くらいだぞ。昔は仲間がたくさんいたらしーが、今のお前じゃ、キャラソンで人類かどうか疑われまくってるKABAZIさんですら付いてこねーよ。バーカ」


 更に煽りまくる俺にローレルどころか周りのアマゾネス達すらも声にならない悲鳴をあげ、煽られたダリアの額には幾つもの青筋が浮かび上がっている。

 これでいい。


「……何を言ってるかサッパリ分からないけど、アタイを愚弄してるってのは分かった。この場でそんな事が出来るその不屈の心に敬意を示し、アタイ自らの手でその体を肉片に変えてやるよっ!!」


 その言葉と同時にダリアが軽く戦斧を振ると、俺の右腕が勢いよく吹き飛ばされた。

 断面から血が噴水のように噴き出したかと思えば、次に左腕。

 痛みすら感じる間もなく更には両足すらも吹き飛ばされ、辺りが大量の俺の血で染まる。


「じゃあな。来世ではもっとマトモな男に生まれ変わりな」


 ダリアのその言葉と共に、俺の体と頭は叩きつけられた戦斧によって切り離された。

 ――そして僅かばかり視界が暗転し、再び俺の意識が覚醒する。


『何で煽ったかも!? エリ草の効果で蘇ったところで、その体にまだ毒が残ってるんじゃ苦しみが増すだけかも! ヴェルヴィアから何も聞いていないの!?』


 復活した俺にローレルが信じられないとばかりに叫ぶが、そんなことは知っている。

 俺はローレルにニヤリと笑って見せると、


「よっこら、しょっとぉ……!」


 と。

 じじくさい掛け声と共に、フラつきながらも立ち上がった。

 どう見ても猛毒に苦しんでいたさっきよりも元気な俺の姿に、ダリアだけでなくローレルすらも驚いて目を見開く。


「……アァン? 確かに今アタイはトドメを刺したってのに、なんで生きてんだ? ……そうか。それがアンタのギフトなんちゃらの能力か。あの神とか言う奴。随分と厄介な力をアンタに与えたみたいだねえ」


 多少は俺の蘇生で驚くかと思ったのだが、どうやらダリアはギフトスキルの効果と解釈したらしい。

 これで幻惑魔法が解除されるほど動揺してくれれば楽だったんだが、当てが外れたな。


『どういうこと……? 毒に侵された者はエリ草の力でも助からなかったはずなのに、何でキミはピンピンしてるのかも……?』


 それとは対照的に、ローレルの方が幻惑魔法を解除できるくらい驚いていた。

 確かにローレルの言う通り、普通ならエリ草で蘇ったとしても体内に猛毒が残っている状態では、また毒の苦しみに苛まれるだけだ。

 だが……。


「そうだな。でも体に毒が残ってるなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『は、はぁっ!?』


 俺の回答に、ローレルはフードから覗く目を更に丸くした。

 そう。解決方法としては、かなり単純な方法だ。

 よく漫画やラノベなんかで見る毒の対処法の一つに、傷口から血ごと毒を吸い出すという描写がある。

 実際には吸い出す側にも毒が回る危険性もあって間違った行為なのだが、要はそれと同じ理屈である。

 コッココに嬲り殺された時やメルティナにふっ飛ばされて復活した時に感じていたあの貧血から考えて、俺の体は復活したとしても、体外に出た血が完全に戻る訳じゃないと思う。

 復活した場合に新しく血が生成されるのかどうかなんて俺も知らないが、だとすれば、いっそ毒に侵された血を全部出しきってしまえば、今よりはマシになるんじゃないかと考えたのだ。

 とは言っても、吐血程度の出血量で効果が無かったのは身をもって知っている。

 だから俺は出血量を増やす手段としてダリアを挑発し、自分に攻撃させるように仕向けたのだ。


『ありえない……。ありえないかも!! そんな無茶な方法、考えたとしても実行に移そうなんてバカはいないかも! 何度でも生き返るからって、もっと自分の命を大事に……』

「大事にしてるさ」


 ローレルの言葉に、俺は無理やり笑ってみせた。


「大事だから、どんな方法を使ってでも立ち上がって、諦めずに何度だって戦うんだよ。それが例えどんな困難が相手でも、運命だろうがな。俺はまだ聖なる泉の水も、ダリアを救うことも、そしてお前のことも。まだ何一つ諦めちゃいない! だからローレル、あいつに謝りたいなら、自分で言ってくれ。俺が連れて行ってやるからさ」

『……っ!!』

「幻覚との会話は終わったかい?」


 ローレルと会話している姿を憐みすら込めた眼で見ていたダリアの後ろには、俺を取り囲むように配置された弓を構えたアマゾネス達の姿。

 その鏃には、恐らくさっきの猛毒が塗布されているのだろう。


「死なないってのは厄介な異能だが、さっきの苦しみ方からして効かないって訳でもねえんだろ。なら話は簡単だ。アンタがもう立ち上げれないくらい撃ち込めばいいだけだろ。それが最後の会話になるんだ、ゆっくり楽しみな」


 さすがはアマゾネスを率いた歴戦の女王。

 エリ草の特性と弱点をもう看破してやがる。

 一度死んだことでレベルアップのステータスブーストの恩恵はもう無い俺が避けられる訳ないだろうし、もう一度毒抜きをするのは俺の体力的にも精神的にも厳しい。

 何かあの弓矢を防ぐ手段が必要だ。

 ヴェルヴィアのパンツを盾に変化させて防ぐか? ……いや、それじゃ背後からの攻撃に対応しきれない。

 そう考えた俺に、やがて一つの閃きが訪れた。


「幻覚見てるお前に言われたかねーよ、ポンコツアマゾネス」

「……放ちなっ!!」


 ダリアの号令と共にアマゾネス達の弓から矢が放たれる。

 その瞬間。俺は懐からヴェルヴィアのパンツを取り出し、頭に被った。


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