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スキルま!?〜最弱不死とドラゴンのパンツ〜  作者: ほろよいドラゴン
第二章〜乙女の涙と女神の涙〜
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第17話「最弱不死と女神の涙(1)」

『改めて聞いても信じられないかも……』


 次の日。

 日が昇るのを待ってから行動を開始した俺の隣で、幽霊のようにフヨフヨと浮きながら俺とヴェルヴィアとの馴れ初めを聞いたローレルは、絶句した表情でそう呟いた。


『女神であるヴェルヴィアをギフトスキルにするだなんて……。確かにそれならキミの中にヴェルヴィアの魂があるのも頷ける。けどそんな提案する方もする方なら、受け入れる方も受け入れる方かも! エリ草を使ったとしても、下手すれば二人共無事では済まなかったかも!』

「いやでも、放っておけなかったしなあ……」

『限度があるって言いたいかも! と言うか、キミってホントに普通の異世界人? あの凶暴な見た目のヴェルヴィアを相手に平然と手を差し伸べるなんて、どう考えても普通じゃないかも。もしかして、一回世界を救ったりしてるかも?』


 ローレルが(いぶか)しむような目で見てくるが、俺としても非常に残念な事に、そんな素敵な過去は一切ないと言い切れるくらいには普通の一般人だ。

 それに俺だってドラゴン状態のヴェルヴィアにビビらなかった訳ではない。

 ビビった姿を大笑いされて、ビビるのが馬鹿らしくなっただけだ。


「そういえば、ローレルは初めから人間の姿なんだな。ヴェルヴィアはドラゴン状態だったのに」

『そりゃ、私にもあんな感じの姿はあるけど……。女神自身が地上界に降り立って何かをするのは一応禁忌とされていたから、お忍びと森の民を驚かせないって理由もあって、この姿になってるだけかも』


 ばつの悪そうにローレルが言う。

 なるほど。

 もしもローレルが裏切った時には、その事を他の女神にチクってやろう。


「にしても、ヴェルヴィアはローレル達に封印されてたから仕方ないとして、ローレルがエルフ族達に三千年も封印されていた間、他の女神は助けに来なかったのか? もしかして、女神達ってあんまり仲が良くなかったりとかする?」

『仲は良い方だと思うかもだけど、それに関しては私もよく分からないかも。ただ、他の子もヴェルヴィア並みに変わり者だから……』


 そう言うと、ローレルは疲れ切ったような瞳で遠くを見つめた。

 ……もしかして、ローレルって女神の中でも結構マトモな部類に入るのだろうか。


『分からないで思い出したけど、キミが天上界じゃなくて地上界に直接転移したってのもよく分からないかも。言語が分かるって事は、少なくとも適応魔法が施されている筈だから、女神の誰かが召喚したのは間違いないかもとして……。本来なら天上界に転移して、事情とかを説明するのが普通なのに……』

「ああ、いわゆる真っ白い空間みたいなとこで『あなたは死んでしまいました。でもこの世界を救って欲しいので力を貸してください』とか女神から言われる、よくあるイベントか。そんなのは無かったな」

『……その通りなんだけど、何でそんなに詳しいの?』


 と、俺達がそんな会話をしながらヴォルフ達を探して森を彷徨っていたその時。


「兄様!! 大丈夫でしたか!?」

「無事みたいだな。……ん? お前さん一人なのか? 誰かと喋っていたような……」


 俺を探していたのであろうエルマとヴォルフが、草木をかき分けながら姿を現した。

 隣にはローレルが居るのだが、昨日ローレルの言っていた通り、どうやら二人にはローレルの姿が見えていないどころか、声も聞こえていないようだ。


「まあいい。それよりお前さん、ダリア達と一緒じゃなかったのか? 俺達が野営地に戻っても姿が見えないから、てっきりお前さんと一緒なんだとばかり思ってたんだが」

「……その事について、ちょっと二人に話したい事がある」


 俺はそう前置きして、俺はローレルから聞いた情報を―さすがに女神から直接聞いたなんて言ってしまえば信憑性に欠けてしまうだろうから多少の嘘を混ぜて―説明した。


「……ぶっちゃけて言えば、信じられねーってのが感想だな」


 話を聞き終えたヴォルフは、唸るようにそう言った。


「一応言っておくが、お前さんが信用できない訳じゃない。まだ付き合いは浅いが、間違いなくお前さんは良い人間に分類される奴だ。だがいきなりそんな突飛な話を聞かされて、それを素直に信じられるかってのは、また別の問題だろ」


 ヴォルフの言葉に間違いは無い。

 ラノベに出てくる主人公の言うことは絶対みたいな登場人物ならいざ知らず、会って間もない奴から、今までリフォレストを代わりに治めていたべラドナが元凶だなんて根拠も無いに等しい話を聞かされれば、疑うのは当然の反応だ。

 それはエルマも同じなのか、さっきから瞳を閉じたまま一言も発していない。

 だがダリアやべラドナを相手にするとなれば、二人の協力は必須だ。

 どうにかして二人に協力してもらえるよう説得しなければと、俺が口を開きかけたその時だった。


「分かりました。ではべラドナさんを倒し、ダリアさんとマゼンタさん達を救出しに行きましょう」


 それまで口を開かなかったエルマが、ハッキリとそう言い切った。


「エルマ……。お前さん、自分が何を言ってるか分かってるのか? 答えによっては、オレはお前さんに剣を向けなきゃならねえぞ?」


 ギラリと眼光を光らせながら睨むヴォルフの言葉に、エルマが静かに答える。


「確かに信じ難い話ですが、仮にリフォレストを敵に回すようなこの話が嘘だったとして、兄様に何のメリットがあるんでしょうか? 必死に考えてみましたが、ボクには思いつきませんでした」

「…………」


 まだ判断を決めかねているヴォルフに、それに、とエルマが続ける。


「どちらにしても、ボク達の目的地が旧リフォレスト跡地である事に変わりはありません。もし兄様の話が真実なら、べラドナさんがボク達に聖なる泉の水を渡さないように待ち構えている可能性が高い。そうでなければ、兄様の嘘ということになります。真偽の判断は、到着してからでも遅くはないと思います」

「……まあ、初めから与太話に付き合ってるみたいなもんだしな。リューン。エルマの言う通り、お前さんの話が真実かどうかは、旧リフォレスト跡地までお預けだ。行くぞ」


 そう言うと、ヴォルフはずんずんと森の中を進み始めた。

 一応協力してくれるってことだろう。

 はぁ……。協力してくれないなんてことになったらどうしようかと思ったけど、エルマの援護射撃があったお陰で助かった。


「信じてくれてありがとな、エルマ」

「当然です……と言いたかったんですけど。ホントのことを言えば、ボクもヴォルフさんと同じく、半信半疑と言ったところです。だって兄様、明らかにボク達に何かを隠していますよね?」


 エルマの言葉に、俺は押し黙るしかなかった。

 女神であるローレルから話を聞いた。

 なんて言ってしまえば、今度こそ正気か疑われるだろう。


「……だったら、なんでヴォルフの説得を手助けしてくれたんだ?」

「兄様の眼です」


 話題を逸らした俺の言葉に、エルマは即答とも言える速さでそう答えた。


「俺の眼?」

「はい。話をしている時の兄様の眼は、誰かの為に必死になっている……ボクに立ち向かう勇気をくれた、あの英雄の眼でした。ならばボクは兄様の剣として、話の内容ではなく兄様を信じよう。そう思ったんです」


 そう言うと、エルマは俺を見つめながら笑ってみせた。

 まるで輝く剣のように真っ直ぐな瞳で。



 数時間後。

 襲い掛かる魔物をエルマとヴォルフが蹴散らしながら森を進み続け、やがて俺達は、リフォレストよりも少し小さな遺跡のような場所へと辿り着いた。

 朽ちた外壁や瓦礫には大量の(つた)や苔が生え、既にここが誰も生活していない場所であることが一目で分かる。

 だがここが聖なる泉のある旧リフォレスト跡地で間違いないだろう。

 その証拠に――。


「おいおい……。ここはリフォレストの住人でも特に用でもなければ誰も来ないような場所だってのに、いつから旧リフォレストはこんなに賑やかな場所になったってんだ?」


 信じられないとばかりにヴォルフが小さく呟いた言葉通り、茂みから様子を見ていた俺達の視線の先には、街を警備しているかのように巡回する武装したエルフ族や獣人兵の姿があった。

 数にしてざっと20人以上。

 その夢遊病のような足取りから察するに、彼らもべラドナの幻惑魔法とやらの配下なのは明らかだ。


「……ッチ。悪かったな、リューン。どうやらお前さんの言葉を信じるしかねーみてえだ。……べラドナ。オレの不在中に随分と好き勝手してたみたいじゃねーか」

「抑えて下さい、ヴォルフさん。このまま無計画に飛び出せば、マゼンタさん達の身に何が起こるか分かりません」


 毛を逆立てながら殺気と犬歯を剥き出しにするヴォルフをエルマが制す。

 確かにマゼンタとリーディア、そしてダリアと言う人質がいる以上、迂闊(うかつ)な行動は()けたい。


「エルマ、何か手はあるか?」

「……風の精霊の力を借りれば、短時間ですが姿を消して潜入することが出来ると思います。ですが、潜入できるのは一人が限界です。ここは誰かが先行してダリアさん達の元に向かって救出。残ったメンバーで獣人兵達を食い止めて退路の確保をした方が賢明だと思います」

「よし。ならその任はオレが引き受けよう。お前さん達は……」


 そう提案しかけたヴォルフの言葉に、エルマが首を横に振る。


「いえ、潜入するのは……」


 エルマはそう言って、ジッと俺の顔を見つめた。





「今の内に聞いときたいんだが、アイツを行かせて良かったのか?」


 兄様が潜入してからしばらくして。

 隣に立つヴォルフさんは、ボクにそう問いかけてきました。


「そうですね。聖なる泉の場所なら何となく分かると自信満々に仰っていましたが、兄様が本当に辿り着けるのかちょっと心配です」

「いやまあ、それも心配じゃあるんだが……。リューンじゃなくて、オレかお前さんが行った方が良かったんじゃないのかって聞いてんだよ。王都の守護貴族の一人。『精剣のエルマ』よ」


 その言葉に、ボクは少しだけ目を見開いた。


「いつから気が付いていたんですか?」

「少し前からな。オレの剣筋を短時間で覚え、それに対応してみせた卓越した剣技と才能。そして数多の精霊の加護を受けている人間なんて、一人しか知らねーからな。まあ、今はそんな事はどうでもいい」


 ヴォルフさんがそう言って一旦言葉を切る。


「べラドナが知ってか知らずか反英雄であるダリアを手駒にしている以上、ダリアとの戦闘は避けて通れない。だがお世辞にもリューンは戦闘に関してド素人に産毛が生えた程度。そんな奴を向かわせるより、オレかお前さんが行った方が勝算はある。なのに何で奴を潜入役に選んだんだ?」


 ヴォルフさんの疑問はもっともだ。

 その言葉通り、兄様は戦力として見ればとても弱い。

 そんな彼を潜入に選んだ事にヴォルフさんが疑問を感じるのは、当然だと思う。

 例えば――。



 例えばボク達の目的が、べラドナさんとダリアさんを倒し、捕らわれているマゼンタさんとリーディアさんを救出し、聖なる泉の水を入手する。



 それだけが目的なら、兄様ではなくボクかヴォルフさんのどちらかが先行した方が成功率は高い。

 けれども……。


「ヴォルフさんの仰る通り、今回の作戦はボク達が行った方が成功率は高かったでしょう。仮にダリアさんと戦闘になったとしても、兄様よりもボク達の方が勝算はあるのも事実です。けれどヴォルフさん。本気で挑んでくる反英雄に、貴方は手加減が出来ますか?」

「……っ!」


 ボクの言葉に、ヴォルフさんは目を見開くと共に、口を(つぐ)んだ。

 ヴォルフさんは強い。

 その驚異的な身体能力と荒々しくも繊細な剣技は、神器を持たない守護貴族であれば相手にもならないと言い切れるほどに。

 けれどもそんなヴォルフさんでも、本気を出した反英雄を相手に。

 ダリアさんを相手に挑めば、間違いなくどちらかが命を失うだろう。


 ……悔しいけれど、それはボクも同じだ。


 ダリアさんが持っているであろう反英雄のギフトスキル。

 まだ一度も発動していないそれがどのような能力であれ、ボクのご先祖様である三千年前の英雄にも匹敵するとまで言われているその能力を駆使した戦いになれば、ボクにも手加減をするなんて余裕は無いだろう。



 ボク達はダリアさんを殺すことは出来たとしても、救うことは出来ない。



 それは覆しようのない事実だ。

 でも、だからこそボクは、誰が潜入するかを考えた時、頭の中に兄様の姿を思い浮かべ、その任を託したのだろう。

 それは誰よりも弱く、けれども手を伸ばすことを諦めない。

 反英雄から街を救うという絵物語の英雄のような奇跡を成し遂げた彼なら、ダリアさんも救ってくれるのではと思ったから。

 自己評価が妙に低い兄様がその事を知ったら『いやいやいや……』と言いながら否定しそうだけれど。


「そう言えばヴォルフさん。兄様が潜入すると決まった時、不安があるのに何も言いませんでしたね」

「……過去。人間達は獣人族やエルフ族達に、深い傷を残した」


 ヴェルフさんがどこか遠い視線をしながら、静かに言葉を紡ぐ。


「その傷は癒えること無く現代にまで残り続け、その結果、今やリフォレストは深き森に浮かぶ陸の孤島(ことう)と化してしまった。……前にも話したが、オレはそれを変えなければならないと思っている。だが変わる為には、まず傷を癒す必要がある。聖なる泉ですら癒せなかった傷をな」


 ヴォルフさんがくしゃっとボクの頭を撫でた。


「その為にオレ達は、再び種族を超えて手を取り、互いに信頼し、この困難に立ち向かう必要がある。それこそが、かつて我らが先祖を救った女神。エルメラルド・ローレル様でも癒せなかった傷を癒す、唯一の方法だとオレは思っている。……だからオレも信じてみる事にしたんだ。命を失うと分かっていながら、それでもオレ達に頷いて見せた、あの男をな」


 ニッと犬歯を覗かせながらヴォルフさんが笑ったその瞬間。

 ボク達の間を一陣の風が通り抜け、兄様を手伝っていた風の精霊達がボクの耳をくすぐった。

 …………。


「……ヴォルフさん。風の精霊からの報せによると、どうやら兄様は潜入に成功したみたいです」

「ああ、みたいだな。あっちもどうやら勘づいたらしい」


 その言葉に目を向けると、操られている獣人族やエルフ族の方々が、まるで呼ばれているかのように足並みを揃えて何処かへと移動し始めた。

 恐らくは兄様の邪魔をしに行こうとしているのだろう。

 ……そんな事は、絶対にさせない!


「ダリアやオレ程ではないとは言え、操られた獣人族はどれも手強い。エルフ族の補助魔法も曲者だ。……背中は任せたぞ、精剣のエルマ」

「お任せ下さい。このシュバリエ・エルマ。兄様の弟分として恥じぬよう、その信頼以上の働きをすることを約束します!」


 ボクとヴォルフさんは互いに剣を抜き、旧リフォレスト跡地へと駆けた!



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