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スキルま!?〜最弱不死とドラゴンのパンツ〜  作者: ほろよいドラゴン
第二章〜乙女の涙と女神の涙〜
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第15話「最弱不死とエルメラルドの森(4)」

「さて、状況を確認しよう。時刻は夜。女性陣は温泉生成魔道具とやらで絶賛のんびりと入浴中。だがいくらダリアが馬鹿みたいに強いとはいえ、魔物が蔓延(はびこ)るこの森で無防備に入浴するのはとても危険だ。そう思うだろう? ヴォルフ君」


 俺の言葉に、ヴォルフが真剣な顔で頷く。


「当然だな。故にオレ達は彼女達が安全に入浴できるように護衛をしなければならない。それも何があっても駆けつけられるよう、もしかしたら偶然入浴している姿が見えてしまうくらいの距離でだ」

「異議なし!」


 俺とヴォルフは燃え盛る焚き木の前で熱い握手を交わした。

 もしかすると俺は、今この世界で初めてまともな親友を得たのかもしれない。


「よし。そうと決まればさっそく……」

「どこに行こうとしているんですか!? お二人共、つい数十分前まではあんなにシリアスだったのに!」


 声のした方向を見ると、そこには女性陣達に連れていかれたはずのエルマが顔を真っ赤にして立っていた。

 確かにさっきはちょっとシリアスだったが、この世界のシリアスさんは三分間だけ戦ってくれる宇宙人並みの速さで定時退社するのを、俺は嫌と言うほど知っている。


「エルマ、お前マゼンタ達に連れていかれた筈じゃ……?」

「リーディアさんに『あの変態が良からぬことを考えている気がする』と言われて帰されました」


 おのれリーディアめ、余計な事を……。


「と言うかヴォルフさん、貴方には許嫁さんがいらっしゃるんでしょう!? 覗きなんてしたら、許嫁さんが悲しみますよ?」


 エルマの正論に、顔を明後日の方向に向けたヴォルフの口からすひゅーすひゅーと空気が漏れた。

 もしかしなくても口笛だろうが、狼の口で口笛を吹こうとするのは無理があるだろ。


「いや、オレ達は警備をしに行くだけだし? ……それにな、エルマ嬢ちゃん。リスクを恐れて足を踏み出さないんじゃ、その先にある宝は永遠に手に入れられないんだぜ?」

「そうだな。そこに夢がある限り一歩を踏み出す。それが冒険者ってやつだ」

「良い事言ってる風にしたって、ボクは誤魔化されませんよ?」


 チッ、駄目か。

 いつもなら『さすがです、兄様!』って全肯定してくれるのに、今日のエルマは(かたく)なに(ゆず)らない。

 ……まさかっ!!


「ヴォルフ。エルマを説得するのは無駄だ。今のエルマは、マゼンタの【色欲の従者(アモンバレッド)】の能力で操られているのかもしれない。そうでなきゃ、あの俺を尊敬して止まないエルマが、あんなに冷たい目で俺を見るはずない!」

「お言葉ですけど兄様。自分の尊敬している人が覗きをしようとしたら、普通止めるに決まってますよ!?」

「マジかよ。魔物との戦闘の時にはあんなに頼もしかったギフトスキルをそんな事に使うとは……」

「ボクの話を聞いてましたか!? ……ともかく。兄様の弟分として、そして人として! ここから先へは通しません! どうしてもと言うのなら……」


 そう言うと、エルマは俺達に剣を向けてきた。

 どうやら力ずくでも止めるつもりらしい。


「……面白い。一目見た時からエルマの嬢ちゃんからはダリアと同じ強者の匂いがしてたんだ。その実力、どれほどのものか試させてもらうぜ」


 戦闘態勢に入ったのであろうヴォルフが背中から大剣を抜き、それを口に咥えて姿勢を低くする。

 その姿はまるで、一匹の巨大な狼の様だった。


「兄様もボクに挑んでみますか? 一応言っておきますが、ボクは兄様達へのハンデとして、ギフトスキルを一切使いません。剣技のみでお相手しましょう」


 エルマがそう言いながら不敵な笑みを浮かべる。

 俺とヴォルフを同時に相手しても絶対に負けることは無いと確信している顔だ。

 覗きに行こうとしているのがバレた時点でもう挽回不可能なくらい兄としての尊厳は地に落ちているが、それでも舐めらたままなのは(しゃく)だ。

 俺はアイテムポーチからこっそりヴェルヴィアのパンツを取り出し、それを剣に変化させた。


「それでは、いつでもどうぞ」


 エルマの言葉を皮切りに、ヴォルフが動いた。

 まるで獰猛な獣が獲物に喰らい付くかの如くエルマに急接近し、その剣を振り下ろす。


「っ!!」


 (かろ)うじてそれ反応したエルマがヴォルフの剣をなんとか止めるが、次々に繰り出される猛攻に、エルマは防戦を強いられていた。

 ――速い!

 ナナシ程ではないが、ヴォルフの攻撃は人間に出せるスピードを優に超えている。

 そう言えば、アガレリアで獣人族やエルフ族について調べている時に、ギフトスキルは人間にしか与えられていないって話を聞いたことがあるな。

 強靭な肉体を持つ獣人族。

 大量の魔力を保有するエルフ族。

 そして元々特殊な力を持っていた亜人族と違って、人間が何の力も持っていなかったのが理由らしいのだが、確かにコレなら女神達にギフトスキルが要らないだろうと判断されたのも頷ける。

 と。


「……なるほど。これが獣人族の剣技。実際に目の当たりにしたのは初めてなので驚きました。ですがっ!」


 その言葉と共に、防戦一方だったエルマに変化が訪れた。

 これまで辛うじて防いでいたヴォルフの攻撃に呼吸を合わせ、それを的確に捌き、時に剣の柄でカウンターを入れていく。

 それはまるで、ヴォルフの剣筋が見えているとでも言うかのような鮮やかさだった。

 やがて何発目かのカウンターを喰らったヴォルフが口から剣を落とぢ、その場に力なく崩れ落ちる。


「ハァ……ハァ……どういうこった。エルマの嬢ちゃん。お前さんまさか、オレの剣を覚えたってのか!? この短時間で……!」

「はい。覚えるのに少し時間はかかりましたけどね。見事な剣技でした」


 ヴォルフを称えると、エルマはそう言ってにっこりと笑った。

 俺の体感的にはまだ五分も経っていないと思うのだが、エルマ的には時間がかかった方らしい。

 さすがは天才と称されるだけの事はある。


「さて、次は兄様ですね。こんな理由で兄様と対立することになるだなんて思いませんでしたが、憧れの兄様と剣を交えられるかと思うと、それもそれで悪くは……」

「アーティファクトマジック《スリップローション》ッ!」

「「え?」」


 余裕そうな態度で何かを言っていたエルマに、俺のローション魔法が炸裂した。

 もしもの時の為に、いつもの超強力ローション粉とスクロールが刻み込まれた指輪を持って来ておいて正解だったな。

 超強力ローションまみれになってしまったその手では、しばらくまともに剣を振るう事は出来ないだろう。


「エルマ。兄様からのありがたい一言だ。如何に自分にとって有利な状況だったとしても、油断だけはするな。俺はそれで28回死んだことがある」

「いやいやいや、なに偉そうにしてんのお前さん!? この流れで魔法使うとか空気読めないってレベルじゃねーぞ!? ほら見ろ! エルマの嬢ちゃんも怒りで体が震えて……」

「さすがです、兄様! その卑怯で乱雑で小賢しい戦い方。それでこそ兄様です! 御見逸れ致しました!」

「……お前さん達、ホントどういう関係なんだ?」


 と、俺達の戦いに決着がついたその時だった。



『グゥルルルル……』



 どこからか、そんな猛獣のような低い(うな)り声が暗闇の中から聞こえてきた気がした。


「……ヴォルフ。お前、今なにか言った?」


 俺の問いかけに、ヴォルフが無言で首を横に振る。

 じゃあ、今の唸り声って……。

 やがてガサガサと葉を揺らす音と共に、その声の主は現れた。

 焚き木に照らされた金色の体毛に、特徴的な(たてがみ)

 百獣の王と言えば子供でも知っているその姿は、どこからどう見ても――。


「ラ、ライオ……」

「「カーバンクル!?」」

「ン! え? 今何って言った? カーバンクル? あのライオンが? 嘘だろ!?」

「オレだって嘘であって欲しいっての! ともかく逃げるぞ! 背中に乗れ、エルマの嬢ちゃん!!」

 ヴォルフがエルマを引っ掴んで背に乗せると同時に、俺達は迫りくるカーバンクル(ライオン)から逃げ出した!



「フフ……。何だか騒がしい気がするけど、魔物でも出たのかしら? それで話の続きだけど、ダリアさんはどんな人がタイプなの?」

「アァン? そりゃ強さは言わずもがな、包容力があるタイプに決まってんだろ? しかも生半可な包容力じゃない。アタイの全力を受け止められるくらいの包容力がないと駄目だね! アタイの世界にはそんな奴は居なかったけど、この世界ならきっとどこかにいるはずだろう? ……まあ、諦めかけてるけどな」

「……ウチも年収とか容姿とか色々な条件を言う人を見てきましたけど、ここまで無理じゃないかと思う条件も珍しいですね」


 涙目になって俺達がカーバンクル(ライオン)から逃げる最中。

 通り過ぎた浴場から、そんな賑やかな女子トークが聞えた気がした。



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