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スキルま!?〜最弱不死とドラゴンのパンツ〜  作者: ほろよいドラゴン
第二章〜乙女の涙と女神の涙〜
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第11話「最弱不死と乙女の秘密(4)」

「ねえ、フレステ。やっぱりリューンさんにはあの事を言っておいた方がいいんじゃない?」

「前にも話したっすけど、それだけは絶対にダメっす」


 その日の夜。

 相変わらずの暑さに寝苦しさを覚えた俺が、飲み水でも汲んでくるかと屋根裏部屋から降りると、不意に応接間からメルティナとフレステの会話が聞えてきた。

 あのこと……?

 そういえば俺が特賞の旅行券を引き当てた時、意外にもこの二人は微妙そうな顔をしていたな。

 もしかしてそれに関係する事なのだろうか?

 気になった俺は、物陰に隠れて彼女達の会話を盗み聞きすることにした。


「でも……」

「でももかももないっすよ。メルティーだって、あの人がどういう人かよく知ってるっしょ? あの人は、誰かの痛みや悲しみを我が事のように捉えて手を伸ばそうとする。パイセンがこの事を知ったら、必ずまた無茶をするに決まってるっす。それこそ誇張抜きで、自分の命を削ってでも」

「…………」


 フレステの言葉に、メルティナが押し黙る。

 俺をそう評価してくれているのは嬉しいが、俺はそんな聖人(せいじん)君子(くんし)みたいな人間じゃないぞフレステ。

 できれば『いのちをだいじに』のコマンドを常に選択していたいタイプの人間だ。

 だがその言葉にメルティナも納得したのか、やがて諦めたように溜息を一つ吐くと。


「……そうね。分かったわ。でも、旅行先ではどうするつもりなの?」

「あ、あはは……。まあ、背中にこんな大きな傷跡があったんじゃ、あーしは水着を着れそうにないっすからね。その辺は、メルティーにフォローしてもらえればなって思ってるっす」


 背中の大きな傷。

 フレステは今、確かにそう言った。

 恐らく。いや間違いなくその傷は、エルマの姉であるソレーナの攻撃を受けた際に負い、ドクトールの攻撃から俺達を守って開いたあの背中の傷の事だろう。


 この世界の治癒魔法は、漫画やゲームのように万能ではない。


 死者を蘇らせる蘇生魔法なんてものは無いし、あまりにも傷が酷ければ、治癒魔法を使ったとしても完治しないことだってある。

 それでもフレステがこうして完治したのは、英雄譲りの異常なまでに高い体力と防御力によるものだとライアーとメルティナからは聞かされていたのだが……。

 どうやらそれは嘘で、フレステの体には治癒魔法でも完治する事が出来ない大きな傷跡が残ってしまったらしい。

 今にして思えば、この暑い時期にフレステが肌を露出させた服を着ていなかったり、異様に肌を触られたりするのを嫌がっていたのは、そういう理由だったのか。

 と。


「……ごめんなさい、フレステ」


 知り合ってから初めて聞く、すすり泣くメルティナの弱々しい声が、静かな夜に響いた。


「私がもっと、強力な治癒魔法を使えたら……」

「メルティナ・スプリングベル……。そう自分を責めないで欲しい。例えあの時、戦いに(おもむ)けば一生消えない傷跡が体に残ると知っていても、私はあの場に駆けつけただろう。アガレリアの民を、何より大切な仲間を守る為にこの身を盾にしたいと思ったのは、他でもない私自身だ。今でもその選択に後悔はないし、貴女がその事で罪悪感を感じなくてもいい。……だから、ね? あーしには泣いた顔じゃなくて、笑顔を見せて欲しいっす。その為に、あーしは盾になったんっすから」

「……っ。ごめんなさい、フレステ……」


 なおも泣き続けるメルティナの声を背に受けながら俺はその場を後にし、そのまま屋根裏部屋には戻らず、二階にあるヴェルヴィアの部屋へと足を進めた。

 この世界に創世の頃から携わった女神であり、三千年の時を生きたドラゴンなら、何かフレステの傷を治す知識を知っているかもしれないと願いながら。


「……主か。入るがよい。鍵なら開いておる」


 ヴェルヴィアの部屋の前に着くと、足音だけで俺だと分かったのか、扉越しにヴェルヴィアからそう告げられた俺は、言われるがままにヴェルィアの部屋へと入った。

 そこには――。


「フッフッフ……。待っておったぞ我が主よ。昼間にあれだけ淫らな妄想をした主が、今夜あたりわっちにその欲情をぶつけてくるやもしれんというわっちの読みは当たったようじゃな!」


 スケスケの黒いネグリジェのような服を身に纏い、ベッドの上で妖艶な表情を浮かべたヴェルヴィアが、まるで俺を捕食するかのような姿勢で俺を出迎えてきた。

 ……俺は頼る相手を間違えたかもしれない。



「ふ~む、なるほどのう。治癒魔法でも治せんかった傷か……。一応じゃが、それを治すモノが在ると言えば在るかもしれんし、無いかもしれんと言えば無いかもしれん」


 夜這いではなかったことに残念そうな顔をするヴェルヴィアに事情を話すと、そんなはっきりしない返事が返ってきた。


挿絵(By みてみん)

 illustration:おむ烈


「随分と曖昧(あいまい)だな。まさかとは思うけど、それって『エリ草』みたいなトンデモアイテムなのか?」

「まあ、似たようなものではあるかのう。……主よ。わっちが昼に話したエルフ族と獣人族の話は覚えておるかや?」

「そりゃまあ……。迫害を受けたエルフ族が、獣人族と一緒にエルメラルドって女神が作った森の中に逃げたって話だろ?」

「そうじゃ。じゃが、その話には続きがある」

「続き?」


 俺の言葉にヴェルヴィアは頷くと、遠い記憶を遡るかのように、静かに瞳を閉じて語り始めた。


「エルフ族と獣人族は、女神であるエルメラルド・ローレルの創造した森の中にその身を隠した。……じゃが人の生への執念(しゅうねん)か。エルメラルドの森に隠れたエルフ族をなんとしても見つけようと、人間達は森に踏み入った。当然、エルフ族や獣人族も抵抗したが、如何にエルフ族が魔法に、獣人族が肉体で勝っておっても、人間の策略と人海戦術には成す術もなく、中には治癒魔法でも治らぬような傷を負った者もおった。このまま二つの種族は無知なる者共により世界から消えるのだろうと、わっちは思っておった」


 じゃが、とヴェルヴィアが言葉を区切る。


「ある日を(さかい)に、二つの種族と人間との勢力差が逆転した。さらに妙なことに、以前傷を負ったはずの者がピンピンして戦っておった。その者に聞いてみると、女神様が我々に『聖なる泉』を与えて下さり、その泉の水には癒しの力があると言っておった。エルメラルド・ローレルはわっちを封じておった障壁を創った忌々しい奴ではあるが……まあ、そういうことをしそうな奴ではあったし。恐らく真実じゃろうな」


 忌々しい。

 という言葉とは裏腹に、ヴェルヴィアは穏やかな口調でそう語り終えた。


「聖なる泉、か……。つまり、その泉の水ならフレステの傷も?」

「治るじゃろうな。もっとも、それから既に三千年の時が流れておる。その泉とやらが今も存在するのか、それとも涸れ果てておるのか、それはわっちも知らぬ。故に、在るかもしれぬし無いかもしれぬと(にご)したんじゃ。確かめるには、エルメラルドの森に出向かねばならんじゃろうな」


 エルメラルドの森。

 それは自然豊かなこの世界の中でも有数の大森林の名前だ。

 森には未だに効果や生態が判明していない動植物。

 毒沼や底なし沼が多く存在し、更にはそこに住む魔物もこの辺りとは比べ物にならない強さだと聞いたことがある。

 ちょっと確かめる為だけに踏み入るには、あまりにも危険な場所だ。

 それでも――。


「言っておくが、わっちは勧めん。毒沼も多いエルメラルドの森は不死である主にとって最悪の場所と言ってもよいからな。前にも話したが、主は肉体が死んでも死なないだけであって、その精神は別じゃ。あの森で毒にでも侵されれば、その精神は死と再生の摩耗(まもう)の果てに壊れるじゃろう。仮に聖なる泉を苦労して見つけたとしても、枯れておる可能性もある。……まあ、言っても聞かんじゃろうがな」


 言うだけ無駄だと知っているかのようにヴェルヴィアが肩を落とす。

 その姿に、俺は苦笑を返すしかなかった。

 あの二人の涙を止められるなら、俺に行かないと言う選択肢はない。

 それにまあ、せっかくの水着イベントだ。

 フレステの水着姿を見られないなんて、もったいないしな。

 やがてヴェルヴィアは何かを決意したかのように息を吐くと、唐突に自分のパンツに手をかけ、スルスルと脱ぎ始め。


「わっちがあの森に出向けば、エルメラルド・ローレルにわっちの存在が露見するかもしれん。そうなれば、聖なる泉の所在を突き止めるどころではなくなる。故に、今回わっちは同行できん。代わりにコレを持って行くがよい。【壊神の一撃】は放てずとも、何かの役には立つじゃろう。……わっちは他の下着を履くつもりはない。必ず生きて戻り、わっちに返せ」


 そう言って、俺に脱ぎたてのパンツを渡してきた。

 ……こういうシーンってラノベとかでよく見るけど、まさか自分がそのシーンを女性用のパンツを持ってすることになるとは思わなかった。



 さて、ヴェルヴィアからパンツを借りられたのは良いが、それでもエルメラルドの森がかなり危険な場所であることに変わりはない。

 せめてメルティナ達の力を借りられればいいのだが、それはフレステが確実に止めてくるだろう。

 誰かの為に自分が傷つくのは笑っていられるくせに、自分の為に誰かが傷つくことを良しとしない。

 フレステとは、そういう奴だ。

 だが凶暴な魔物が数多く生息するエルメラルドの森を聖なる泉を探しながら進むとなると、圧倒的に戦力が足りない。

 そう考えた俺の脳裏に、この件に協力してくれそうな銀髪の弟分の姿が浮かんだ。


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