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スキルま!?〜最弱不死とドラゴンのパンツ〜  作者: ほろよいドラゴン
第二章〜乙女の涙と女神の涙〜
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第8話「最弱不死と乙女の秘密(1)」

 それは、アルケミーダンジョン攻略から数日が経ったある夜のこと。


「武器が欲しいんじゃっ!」


 いつもの如く勝手に屋根裏部屋に侵入し、勝手に酒盛りをしていたヴェルヴィアは、酒瓶を片手に持ちながら突然そんな事を言い出した。


「いきなりなに言い出してんの?」

「ほれ。前にダンジョンの探索に行った時、わっちだけランタン係じゃったじゃろ? あの時からずっと考えておったんじゃ。わっちに武器があれば留守番を言い渡されず、主達と共に戦えたであろうとな」


 なるほど。

 どうやら以前のアルケミーダンジョン探索の際にランタン係に任命したのが、未だに尾を引いているようだ。


「なー、いいじゃろ? ちゃんと皿洗いもするしトイレの掃除当番も暇じゃったら交代してやるから、な? な~?」


 酔っぱらったヴェルヴィアがそう言いながら俺にしなだれかかる。

 一応お前は元女神なんだから、そんな玩具をせがむ子供のような感覚で武器をねだるなと言いたいところだが、ダル絡みしてくるヴェルヴィアの言うことも一理ある。



 今のところ、ヴェルヴィアの攻撃手段は桁違いの破壊力を誇りながらも壁尻になるデメリットを(あわ)せ持った、通称『自滅のバーストストリーム』くらいしかない。



 そのデメリットと威力のせいで使いどころは限られ、場合によっては前回のダンジョン攻略のようにお荷物になることも少なくない。

 だが仮にヴェルヴィアが武器を使えるようになったとすれば、戦術の幅はかなり広がるだろう。


「つってもお前、接近戦のセンス皆無なのに武器なんて使えるのか? 前にステッペンウルフに絡まれた時は噛みつかれまくって涙目になってたじゃん」

「うぐっ……。ま、まあ。確かにわっちも武器の振り方なんぞ一つも知らんのじゃけど……。じゃが、それは主とて同じじゃったじゃろ? 剣の握り方すらも知らなんだ主も、鍛錬(たんれん)を積み、今では盾娘からマシにはなったと評価されるまでになったではないか!」


 ……笑われるのが嫌で俺とフレステの早朝鍛錬は皆に内緒でやってたのに、いつの間について来たんだコイツは。


「ならば、今は使えずともいずれは使えるようになるやもしれん。であれば、早いうちから武器を持って鍛錬に(はげ)んだ方がよいじゃろ? な? な?」


 ヴェルヴィアがそう言いながら、酔いに(とろ)けた顔をずいっと近づけてくる。

 まあ、確かに鍛錬を始めるなら早い方が良いのは事実だし、今はこの前の特務クエストの報酬で(ふところ)も温かい。

 本当にこいつが鍛錬するかどうかはともかくとして、これもいい機会だし、ヴェルヴィアの武器を買ってみるのもいいかもしれない。


 翌日。

 俺とヴェルヴィアは冒険者ギルドに併設されている武具ショップへと足を運んだ。


「ラッシャイ! ……ん? ルーキーにヴェルちゃんじゃねーか。ここに来るなんて珍しいな。いつもはブッグオフで買い物してるって聞いたぜ?」


 来店した俺達に、部下に撃たれてやるじゃないって言いながら殺されてそうな見た目をしたスキンヘッドの店主が気さくに話しかけてきた。

 普段俺達はフレステのアルバイト先の一つである、アガレリアで三千年前から続く老舗(しにせ)中の老舗の武具ショップ。

『ブッグオフ』と呼ばれる武器とかよりも古本を取り扱っていそうな武具店をよく利用している。

 初めは俺もそっちで買い物をしようと思ったのだが……。


「ちょっとヴェルヴィアの武器と俺の装備を探しに来たんだよ。ほら、ブッグオフは安いけど品揃(しなぞろ)えはあんまりだろ?」

「なるほどな。確かにあの店の商品の価格は安いが、置いてるのは駆け出しの冒険者用の武具ばかりで、特務冒険者のお前達には合わない。あの店に行く奴は、冒険者になって日が浅い奴か、クエストに行く前にフレステちゃんから元気をもらいに寄ってる奴らくらいだしな」


 その気持ちはめっちゃ分かる。


「そういうことなら任せろ。前々からお前らは特務冒険者なんてとんでもなく危険なクエストをする割には、装備が貧相だと思ってたんだ。それにルーキー、お前は運がいいぜ? 丁度今朝、お前にもぴったりの最新の防具を入荷したばかりだからな!」


 そう言うと、オヤジはカウンターの下から木箱を取り出し、それを開封して見せた。

 その中に入っていた最新の武具とやらは――。


「……ふむ? わっちの知識が正しければ、これはアレじゃな。『ビキニアーマー』と呼ばれる類のものではないかや?」


 中身を覗き込むヴェルヴィアの言う通り、木箱の中に入っていたのは、どこからどう見てもビキニアーマーにしか見えない代物だった。

 しかも最悪なことに、ただでさえ少ない鎧の部分がメッシュ状になっている。

 これを? 俺に? 装備しろと?


「詳しく……説明してくれ。今、俺は冷静さを欠こうとしている」

「ヘッ、その気持ちはよく分かるぜ。ここまでの業物は、中々お目にかかれないだろうからな」

「多分じゃけど、ちょびっとも主の気持ちを分かっておらんと思うぞ?」


 店主が説明するにはこうだ。

 三千年前。英雄達の知識より、この世界にビキニアーマーが誕生した。

 しかしメインターゲットである女性冒険者達から『こんな恥ずかしい防具を装備できるか』と反発を受け、ビキニアーマーは長らく歴史の闇に葬られてしまっていたらしい。

 しかしある一人の男性冒険者が興味本位で装備してみたところ、その機動性と急所を守ることのみを追求した防御性の高さに着目され、何故か男冒険者達の間で人気に、息を吹き返したビキニアーマーは晴れて一部の男性用防具としてこの世界に広まったのだそうだ。

 三千年前の英雄達がその事実を知ったら、さぞ苦笑いしただろう。


「で、これがその最新作ってわけだ。どうだ? ビキニアーマーの蒸れるというという問題点を改善する為に編み出された網目状(あみめじょう)にするというこの(たくみ)の技。しかもこれで従来(じゅうらい)のビキニアーマーと防御力は変わらねーってんだから驚きだろ?」

「そうだな、もうなんか色々な意味で驚いたよ」


 もしかしてこの世界の男性冒険者達は、もれなくこのビキニアーマーを装備しているのだろうか。

 今更だが、俺はとんでもない異世界に転移してしまったのかもしれない。


「とりあえず、ビキニアーマーは一旦置いておくとして……。もっとこう、俺が着てる服みたいな防具はないのか?」

「服系の防具か……。そりゃ無理だな。エルフ族の知り合いでもいるなら別だろうが」


 俺の注文に、店主は手をひらひらとさせながらそう答えた。

 数多の異世界ファンタジーにエルフ族が存在するように、この世界にもエルフ族は存在する。

 (ひたい)に小さな宝石がある以外、見た目は俺も知っている一般的なエルフのイメージ通りらしく、魔法を扱うのに長けた種族らしい。

 そういえば、この世界に来てからもう結構な月日が経つにも関わらず、まだ一度もエルフ族には会ったことないな。


「エルフ族の知り合いはいないけど。でも、それがなんで服系の防具と関係があるんだ?」

「そりゃ関係あるに決まってるだろ。なにしろ服の繊維に防御魔法を織り込むなんて繊細な芸当は、エルフ族にしかできないからな。人間の技術じゃ、今お前が着てる程度の防御魔法を織り込むのが精一杯だ。……もっとも、エルフ族の知り合いがいたとしても、長年人間と断交しているあの種族が協力してくれるかどうかは分からねーけどな」

「断交じゃと……? そうか。三千年前のアレは、まだ続いておるのか……」


 店主の言葉に何かを悟ったのか、ヴェルヴィアが目を伏せる。


「どういうことだ?」

「……きっかけは、ある一つの噂話じゃった」


 俺の疑問に、ヴェルヴィアが噛みしめるようにそう言葉を紡いだ。


「かつて、この世界の住人が魔族という脅威に怯えていた頃。ある一つの噂が流れた。『エルフ族の額にある宝石は高い魔力を有しており、それを手にすれば魔族にも対抗できる』という、根拠もないデタラメな噂がな。じゃが恐怖に我を忘れた民衆……。特に当時ギフトスキルを持っておらなんだ人間は、その宝石を得ようとあの手この手でエルフを虐殺したんじゃ」


 静かに。まるで自らの罪を独白する罪人のようにヴェルヴィアが言葉を続ける。


「そして生活圏が似通っておった当時の獣人族は、隣族を守らんと同盟を組み、共に人間達の手が伸びぬ地へと逃げ続けた。そのことを知った創世の女神の一人。深緑の女神ことエルメラルド・ローレルは、この世界に深い森を創りその手から守ったんじゃ」

「まあ、最後の女神云々(うんぬん)に関しては作り話かもしれねーが……。その悲劇があってエルフ族と獣人族が人間と断交してるいのは事実だ。だから、協力してくれるかどうかは分からねーってことさ」


 店主がヴェルヴィアの言葉を引き継いでそう話すが、きっと作り話ではないのだろう。

 何故なら今それを語ったのが、三千年前に魔族をこの世界に解き放ってしまった破壊の魔神であるヴェルヴィア本人なのだから。


「っと、湿っぽくなっちまったな。お望みの防具はそういう理由で無いんだが……。武器ならいいのを見繕(みつくろ)ってやるよ。ちょっと待ってな」


 そう言って、店主は店の奥へと消えた。

 それからしばらくして。


「……軽蔑したか、主よ」


 ポツリと、震える声でヴェルヴィアが呟いた。


「お前が手を差し伸べた奴は、このような悲劇を幾万(いくまん)と生み出してきた元凶。そんな相手に差し伸べたことを、後悔して……」

「やかましい。かまってちゃんかお前は」

「ぬああああああああああああああああああああ!? なにごとじゃあああああああああああ!?」


 突然乱暴に頭をグシャグシャと撫でまわされたヴェルヴィアが奇妙な悲鳴を上げる。

 俺はその姿に軽くため息をつくと、


「いいか? 一度しか言わないからよーく聞け。俺はお前に助けられて、俺もお前を助けたいから助けた。過去に色々あるだろうなんてのは、とっくの昔に承知してんだよ。それを今更一つ知った程度で後悔するわけねーだろ。だから、お前は俺の隣にずっと居ろ」

「………………主がデレた、じゃと……?」


 自分でも恥ずかしいセリフを言ったと思ったのに、出てきた言葉がそれかよ。


「なあなあ! もう一回! もう一回言うて! ワンモアセッ!!」

「ええい、やかましい! 一回しか言わないって言ったろ……ワンモアセッ!?」

「お? なんだか分らんが、いい雰囲気だったのを邪魔しちまったかな?」


 店の奥から戻ってきた店主が、からかう様にそう言いながら大きな木箱を二つカウンターに置いた。


「さて、ヴェルヴィアちゃんの武器だが……こういうのはどうだ? 銘は『ドラゴンサイズ』。かの魔神ヴェルヴィアの翼を模して作ったとされる大鎌だ。名前が偶然同じだからか、どうもこの武器を使ってるヴェルヴィアちゃんのイメージが浮かんでな」


 店主が箱の一つを開けると、中には赤と黒を基調とした大きな鎌が入っていた。

 言われてみれば、鎌の刃の形がなんとなくドラゴン状態だった頃のヴェルヴィアの翼に見えないこともないかもしれない。


「おおおっ! これじゃこれじゃ! こういうのが欲しかったんじゃ! わっちコレ! コレが欲しいっ! 買ってくれるまでわっちはここを動かんからな!」


 よほど気に入ったのか、興奮したヴェルヴィアがピョンピョンと跳ねる姿を店主が満足げに眺めながら、


「それで、こっちはルーキーの武器だ。銘は『ライトニングソード』。ライトニングと銘打ってはいるが、別に光るわけじゃないからな? だがこいつは守護騎士団の標準武装として最終候補まで残ったほどの高い耐久性と攻撃力を兼ね備えている。少々値は張るが、俺の見立てでは堅実な武装をルーキーは好むだろうと思ってな。どうだ?」


 もう一つの箱に入っていた剣を見せると、店主が俺を見てニヤリと笑った。

 俺達の好みを見抜いてすぐさま売りつけてくるとは……。

 伊達にアガレリアで(あきな)いを営んでいるというわけではないみたいだ。

 幸いにも金額的に買えないわけではないし、これにするかと俺がアイテムポーチから財布を出そうとしたその時。


「ふんぎぎぎ……っ! お、重っ! この鎌、めっちゃ重いんじゃけど!?」


 早くも箱から大鎌を取り出そうとしたヴェルヴィアが、そんな声を出した。

 それを見た店主が苦笑しながら、



「おいおいヴェルヴィアちゃん、これは中級レベル以上の武器だぞ? その細腕で持ち上げようとするなんて無茶が過ぎるぜ。まずは魔力を通さねーと無理に決まってるだろ?」



 と、さも当然のように言ってきた。

 …………。


「えっとじゃな。聞いてみるんじゃけど、武器って魔力を通さんと持ち上げられんのか?」

「そりゃそうだろ。今ルーキーが使ってる装備は駆け出しの冒険者が使っているものだから重量は気にならないだろうが、この二つは中級レベル以上の冒険者が愛用する武具だからな」

「何か違うのか?」

「大型の魔物の相手をすることが多い特務冒険者や中級レベル以上の冒険者用の武具ともなれば、より高い攻撃力や防御力を兼ね備えた武器や鎧が求められ、重量も比例して重くなる。だがそんな重い物を振り回したりしてれば、いくら中級レベル以上の冒険者とは言えスタミナがすぐに尽きちまうだろ?」


 そりゃまあ、確かに。


「そこで開発されたのが、アシストって技術だ。アイアンゴーレムって魔物の一部を武具に使用することで、魔力を少し通すだけで武器や防具の重みを最小限にできるってもんでな。こういう中級レベル以上が使う武具なんかには、この技術が必ず施されているんだ。常識だぞ? ほら、お前も魔力を通して手に取ってみろよ。なんなら、試し斬りしてもいいぜ? それとも値段か? 今なら安くしとくが……」


 俺達が手を伸ばさない様子を見て店主が勘違いしているが、別に俺達は値段が高いから手を伸ばさないわけではない。

 魔力が存在しない俺には、この武器が使えないと分かったからだ。

 確かにフレステとかあんなに重そうな大盾を振り回したりしている割にはあんまり筋肉があるようには見えないなとは思っていたが、そんなカラクリがあったとは……。

 隣で店主の話を聞いて真っ白になっているヴェルヴィアは、俺と違って魔力を持っているが、その魔力には触れた者をぶっ壊すという特性がある。

 つまり、俺達は二人共この武器を使えないということだ。

 俺は出しかけていた財布を静かにアイテムポーチの中に入れ直すと、ヴェルヴィアと共に店主に適当な理由を言って武具ショップから退出し。


「……せっかくだし、帰りにブッグオフにでも寄って帰るか」

「そうじゃな……」


 俺達は互いに肩を落としながら、トボトボと武具ショップを後にした。


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