プロローグ
春と呼ぶには少しばかり暑さが増し始めた、そんなある日。
俺は自室の屋根裏部屋に置かれた椅子に座り、腕組みをしながら首を捻っていた。
目の前にはボロボロのテーブルに置かれたティーカップが二つ。
片方はこの世界の露店で格安で売っていた安物のティーカップ。
そしてもう片方は、かつて世界に魔物や魔族を放ち混乱に陥れた破壊の魔神であり、現在は俺の女神の祝福である、ヴェルヴィアの神器を変化させたティーカップだ。
この神器。俺がイメージした物に変化させる事が可能らしく、その再現度は傍から見ただけではどちらが本物のティーカップなのか見分けがつかなくなる程である。
材質も変化するのかと思って両方のティーカップを爪弾いてみると、どちらからもキンッという陶器の音が鳴り響いた。
となると、本来の布としての性質は失われているという事だろうか?
そう思って試しにティーカップに注ぐ為に沸かしていた紅茶を準備していると、
「あ~る~じ~。暇なんじゃけど~? あと、そっちが本物でもう片方がわっちのパンツじゃ」
俺のベッドの上でゴロゴロしていたヴェルヴィアが、そんな事を言い出した。
……ん? あれ? そうだっけ?
ヴェルヴィアに指摘されるがままにもう片方のパンツティーカップに紅茶を注ぐ。
それからしばらく観察してみたが、紅茶がティーカップを浸食した様子は見られなかった。
と言う事は、変化させるとパンツとしての性質は失われる、のか……?
と、俺が休憩がてら本物のティーカップに入った紅茶に口を付けたその時。
「クックックック……。引っ掛かったな主! そっちはわっちのパンツで作られたティーカップじゃああああああちゃあああああああああああ!?」
ゲラゲラと指さしながら笑っていたヴェルヴィアの顔に、俺の口から噴出された熱々の紅茶が噴水の如くぶちまけられた。




