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スキルま!?〜最弱不死とドラゴンのパンツ〜  作者: ほろよいドラゴン
第一章~ギブミー、テンプレ異世界生活!?~
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第29話「最弱不死の女神の祝福(5)」

 翌日の昼下がり。

 俺とヴェルヴィアは、アガレリアから離れた場所にある平原に立っていた。

 ナナシとライアーによると、反英雄がどんなルートで侵攻して来たとしても、この平原を通らずにアガレリアに辿り着くのは不可能らしい。

 つまり、足止めをする俺達にとって絶好のポジションであり、最後の砦だ。

 ラッキーな事に、付近の魔物達の姿は今のところ一匹も見当たらない。

 魔物に当てはまるかは分からないが、きっと野生の勘か何かで異常を察知して逃げたのかもしれない。

 巷で流れてた噂も、あながち間違いじゃなかったって事か。

 とはいえ、反英雄を前にした俺達が魔物の相手なんて出来なかっただろうから、これはかなり嬉しい誤算だ。

 それにしても……。


「なぁ、ヴェル。本当にあの作戦で大丈夫なのか?」

「しつこい奴じゃのう。主には女神であるわっちがついておる。そう心配せずとも、大船に乗った気持ちになるがよい」


 隣で腕組みをしているヴェルヴィアが、そう言ってニヤリと笑う。

 あの作戦。というのは、当初から予定していた足止め作戦の事ではない。

 昨日の夜、どうせなら反英雄を倒して女神達に一泡(ひとあわ)吹かせたいとヴェルヴィアが提案してきた作戦の事だ。


『主よ、例のスクロール魔法を発動した後、わっちを連れて反英雄に可能な限り接近するがよい。上手くいくか分からんが、反英雄を倒す秘策がある!』


 ……その作戦と呼んでもいいのか疑問に感じるほどシンプル過ぎる内容も()ることながら、肝心の秘策とやらの内容を聞こうとしても、『それはその時までのお楽しみじゃ』の一点張りなのだから、俺が不安を抱くのは無理もない話だろう。

 とはいえ、逃げ回る以外に策が無かった俺は、渋々ながらイチかバチかでヴェルヴィアの作戦とやらに乗ることにしたのであった。

 困った時の神頼みならぬ、破壊の魔神頼みというやつだ。


「ふむ。どうやらお出ましの様じゃな」


 ヴェルヴィアがそう言うと、やがて遠く離れた場所から微かな地響きと共に、それは現れた。

 ――宇宙世紀に出てきそうな緑のロボット。

 それが俺の最初に抱いた感想だった。

 大きさは人間よりも二回りほどの大きさだろうか。

 ざっと見た限り30体近くはいるであろう版権的にモザイクをかけたくなるようなそのロボット集団は、これまたご丁寧に角を付けた、他よりも一回り大きいピンク色の指揮官機と思わしきロボットに先導されながら、真っ直ぐアガレリアに向かって進んできていた。


「なんと面妖(めんよう)な……。ゴーレム、いや、どちらかと言えば魔導機兵じゃろうか?」

「……なあ、ヴェル。やっぱりさっきの作戦は無しにしないか? 俺の世界でモビ〇スーツ相手に生身で戦えるのは、東方不敗大先生だけって決まってるんだけど」

「この期に及んで何をよく分からん事を言っておる。ほれ、いくぞ。タイミングを見誤るでない」


 俺の提案は即却下され、モビ〇スーツもどき達が十分に近づくまで待ち――。


「今じゃ‼」

「スクロール魔法、発動!」


 ヴェルヴィアの合図と共に、俺は羊皮紙に手をかざしてスクロール魔法を発動させた!

 途端に刻まれた文字が光を放ち、魔法が発動したことを告げる。

 しかし……。


「……のう、主よ。何も起こっておらん気がするんじゃが、わっちの気のせいかや?」

「奇遇だな。俺もそう思う」


 スクロール魔法を発動させたにも関わらず、周囲には何も変化は起きなかった。

 どうなってるんだ……? ライアーの話では、この発動と同時に魔力の障壁が形成されるとの事だったのだが、それらしいものは見当たらない。

 まさか、発動しなかったのか?

 そう思って手に持った羊皮紙を見るも、羊皮紙の文字はちゃんと光っている。

 どうやら問題なく発動はしているらしい。


『あー、あー。マイックテス、マイックテス……。お初にお目にかかりまス、冒険者君。ワタクシの名はドクトール。天っ才科学者でございまス』


 俺達が動揺していると、モビル〇ーツもどきを引き連れていた指揮官機らしき機体から、いかにもマッドなサイエンスが好きそうな素っ頓狂な男の声が放たれた。

 ドクトール。どうやらそれが反英雄の名前らしい。


『どうやらアナタ方はワタクシの発明した新生魔導機兵。サイクロプスの性能実験の邪魔を企んでいたみたいですガ……。一つ、指摘してもいいですカ? ……それ、羊皮紙の向きが上下逆ですヨ?』


 …………は?


「え、逆向きとかあるの? それって、もしかしなくてもマズい?」

『そりゃマズいでショウ。スクロール技術は確かに様々な初級魔法を使うことが出来る便利な魔道具ですが、使用方法が正しくなければまともには発動しませんからネ。ワタクシの天っ才的頭脳によりますと、恐らくは地下に障壁が展開されているでしょうネ。いやはや、この世界の子供でもしない間違いをするとは考え難かったので、気になって声をかけた次第デス』


 …………。


「最悪だああああああああああああ! ここ一番の一番ミスっちゃいけない場面でミスったああああああああああ‼」

「馬鹿じゃろ貴様⁉ どうするんじゃこの状況! あれだけ最終決戦みたいな流れじゃったというのにこんなオチとか、さすがのわっちもどうかと思うんじゃが⁉」

「だっていつも使ってる指輪型の魔道具に向きとかなかったんだもん! というか、お前だって気がついてなかったじゃん! だから、そんな(さげす)んだ目で俺を見ないで! あまりの自分の不甲斐(ふがい)なさに死にたくなってるから!」

『死にたいのでしたら、お手伝いして差し上げましょうカ?』


 ドクトールがそう言うとモビ〇スーツもどき、サイクロプスの一体が銃のような物を取り出し、俺達にその銃口を向けてくる。

 ヤバい……っ!

 そう思った俺が隣にいたヴェルヴィアを全力で突き飛ばした瞬間、俺の体に無数の弾丸の雨が降り注ぎ、俺の体は瞬時に蜂の巣になった。


「リューン!」

『ンン~? ワタクシの実験の邪魔をしに来るくらいですから、てっきりあの神器持ち達と同じくらいの戦闘力があるのかと思ったのですガ、随分とあっけなイ……。これは期待外れデス』

「……誰が期待外れだ……っ」


 僅かな意識と視界の寸断(すんだん)という死を経て、再び立ち上がる。

 一度死んだことによって傷自体は後も残らないほどに回復しているにも関わらず、俺の体には無数の銃弾が肉を(えぐ)った時の痛みが体に鈍く残っていた。

 今までの死因がほとんどオーバーキルだったから気にならなかったが、なるほど。

 たしかにヴェルィアの言う通り、こんな感覚を何度も繰り返してれば気が狂うだろうな。

 すると、死んだはずの俺が立ち上がったのを見て、ドクトールが驚嘆(きょうたん)の声をあげた。


『……驚きましタ。あなた今、確実に生命活動を停止していましたよネ? にも関わらず、再び立ち上がっているどころか傷も治っていル……。面白い、面白いですよアナタ‼ どうでス? ワタクシと取引しませんカ? その体を研究させて頂く事を条件に、あの街での実験は中止しようかなという取引なんですが、どうでショウ?』

「断る。これはわっちの者じゃ。誰にも渡さぬ」


 突き飛ばされたヴェルがサイクロプスを(にら)みながら()える。

 俺としても反英雄と取引だなんてしたくはないが、この状況は非常にマズい。

 当初の作戦であった障壁魔法による妨害は俺がミスしたせいで失敗。

 ヴェルィアの秘策とやらも、敵に近づかなければならないという条件がある。

 サイクロプスが銃なんて飛び道具を持っている以上、このまま近づいたところで、また蜂の巣にされるのがオチだ。

 いっそヴェルのドラゴンブレスを使うか? ……いや、ドクトールに効果が無かった時のデメリットがあまりにも大き過ぎる。

 ……どうする、どうすればいい⁉

 俺が読んでいた漫画や小説の主人公だったら、このピンチをそう切り抜ける⁉

 頭の中で、今まで読んできた物語の場面をいくつも思い浮かべる。

 だが、どれもこれもチート級の力や才能を使った打開策ばかりで。

 漫画や小説の主人公ではない俺に。

 何の力も才能もない凡夫(ぼんぷ)である俺に。

 この状況を打開する策が出てくることはなかった。


『交渉が決裂したのであれば仕方ありませんネ。ワタクシの天っ才的頭脳によりますと、死なないとは言っても痛覚はあるみたいですシ。大人しくなるまで、何度でも殺して差し上げまショウ』


 一目見ただけで俺の不死性の弱点を看破したのであろうドクトールが、再び銃口を向ける。

 その引き金が引かれると思った、正にその時だった。


「「「『ファイヤーボルト』ッ!」」」


 それよりも早く俺達の後方から呪文が聞えると共に、幾つもの炎の矢がドクトールのサイクロプス達に襲い掛かった。

 突然の出来事に驚いて振り向くと、そこには――。


「リューンさん、死んでますか⁉」

「……疑問。そこは生きているかどうかの確認ではないかとナナシは思います」

「だって、リューンさんって基本的に死んでるようなものですし」

「……納得。たしかにリューン様のクエストにおける生存率は、確率にして0.000001%未満ですからね」


 振り向いた先には、剣や杖を装備した何十人もの元冒険者達。

 そして、メルティナとナナシの姿があった。


 俺達に駆け寄って来たメルティナの服をよく見ると、メルティナの真っ白な修道服の膝元が薄っすらと土で汚れている。

 まさかこいつら、俺達を助けようと冒険者達を説得する為に、今まで頭を下げてまわっていたのか……?


「メルティナ、お前……」

「リューンさん、何も言わないで下さい。私は当然の事をしただけです。仲間のピンチの時に駆けつけるという、冒険者にとって当たり前の事を。……それに、あの時私を助けてくれたリューンさん達を放って自分だけ逃げるだなんて、神がお許しになったとしても、きっと私が許せなかったでしょう」


 そう言って微笑むメルティナの姿は、どこからどう見ても聖女と呼ぶに相応しいものだった。

 どうやら俺は、今まで目の前の少女の事を誤解していたらし……。


「……訂正。確かにリューン様達を助けるために街の人を説得しようと提案したのはメルティナ様ですが、実行したのは『機械人形の操り人形』によって分身したナナシ達です」

「え?」

「ちょっ、ナナシちゃん⁉」


 慌てふためくメルティナを無視してナナシが更に続ける。


「……重ねて訂正。メルティナ様が今回した事は、ライアー様にリューン様を一日自由にできる券なるアイテムを叩きつけて、今回の件を高額特務クエストとして発注させたことと、参加を(しぶ)る冒険者に決闘を申し込み、無理やり連れて来た事くらいです。その時メルティナ様は『これでリューンさん達も助けられるし、あわよくばお金も稼げる! 私ってば頭いい!』と言って……」

「ねえ、ナナシちゃん。もしかしてだけど、高級料理で釣ってタダ働きさせちゃったことまだ怒ってる? 一旦喋るのやめよう⁉ ね? ね⁉」

「……受諾。ナナシは本件に関する情報をA級極秘情報と設定。お口にチャックです」

「お口にチャックも何も、ほぼ喋った後じゃろ」


 ……言われてみると、助けに来てくれた冒険者の方々の何人かには、まだ戦闘が始まってもいないにも関わらず、顔や体に青あざができている人がチラホラいる。

 うちのゴリラが、本当にスミマセンッ‼


「さっ、さささささあ! ここからが反撃開始ですよ!」


 俺の冷たい視線を誤魔化そうと、メルティナが高らかに声を上げる。


「メルティナの嬢ちゃんの言う通りだ! 反英雄だかなんだか知らねぇが、この街を。アガレリアを標的に選んだことを後悔させてやるぞ!」

「「「うおおおおおおおおおおお‼」」」


 冒険者の誰かが放ったその一言と共に、反撃の咆哮が戦場に響き渡った。


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