第24話「最弱不死と聖盾の騎士(8)」
「待つがいい。そこの悪しき守護騎士共よ」
「ん? 何者だ、貴様達! ……いやホントに何者だお前ら⁉」
守護騎士達が背後から呼びかけた俺達に向き直り、驚愕の声を上げる。
ちなみに、今の俺の服装は認識阻害魔法が付与されたタキシードな仮面様が付けてそうなマスクに黒いマント。
ヴェルヴィアは得意の鱗変化で同じようなマスクにお団子ツインテール、そしてセーラー服っぽい服装だ。
そりゃ突然こんなコスプレ集団に声かけられれば誰でもビビるわ。
illustration:おむ烈
「我が名は義賊。え~っと……名はPP仮面! 冒険者を騙してその命を奪おうとした不届き者は、このPP仮面が許さない!」
「わっちは愛と破壊の美少女魔神! 人呼んでセーラー・ドラゴン! 女神に変わって、お仕置きじゃ!」
お仕置きのレベルが半端じゃなさそうだな、セーラードラゴン。
(……ヴェルヴィア、お前絶対に俺の世界の文化知ってるだろ。っていうかお前が女神じゃん)
(前に本のアーティファクトに書いてあったのをちょこっとだけ知っておるだけじゃ。というか、主こそなんじゃPP仮面って。お腹痛い奴みたいじゃぞ?)
俺達がそう名乗りを上げながら決めポーズをとっていると、
「ふざけた奴らめ。守護騎士を敵にするとどうなるか思い知らせてやる!」
激昂した守護騎士達が剣を抜いて俺達に近づいてくる。
その守護騎士達に向かって俺は手を構え。
「スクロール発動! 《ウォーターブラスト》! 《ガルウィンド》!」
その声と共にスクロールが発動し、俺の掌に出現したいくつもの水の塊が守護騎士達に向かって放たれた!
しかし守護騎士達は放たれたそれを避ける素振りも見せず、あえて水の塊をその身で受け止めてみせる。
守護騎士達も知っているのだろう。
この魔法。《ウォーターブラスト》が、普通なら大気中の水分を集めて敵に放つだけの、殺傷能力が一切ない初歩魔法だということを。
「……フン。何かと思えば、ただの《ウォーターブラスト》か。そんな初級魔法で守護騎士を相手にしようなど、片腹痛い。そんなものをいくら撃ち込んでも我々にダメージは……たわばっ⁉」
嘲笑いながら近づいてきた守護騎士の一人が、その場で派手に転倒する。
「な、なんだ! どうしたっおおっ⁉ すっ、滑る! 何だこれは⁉」
「分からん! だがこいつの《ウォーターブラスト》。普通じゃないぞ! よく分からないが、やたらヌルヌルする‼」
守護騎士達の慌てふためく声を聞きながら、俺は唇をニヤリと歪めた。
そう。守護騎士の言う通り、俺が使った《ウォーターブラスト》は普通のものではない。
つむじ風を起こす《ガルウィンド》という魔法によって、仕込んでいた超強力ローションパウダーこれでもかと配合した言わば新魔法。
アーティファクトマジック《スリップ・ローション》である。
特異スライムと対峙した時にも思ったが、やはりこの特性は対人戦にかなり有効らしい。
なにしろあれだけ余裕ぶっていた守護騎士達が、武器を手に取る事も出来ず、まるで生まれたての小鹿のように立つことすら儘ならないといった様子なのだから。
「ぶっひゃっひゃひゃひゃ! 無様な姿じゃのう守護騎士よ。いつもの威張り散らした態度はどうしたんじゃ? そんな情けない姿を見せれば、民に笑いものにされるぞ?」
汚い笑い声をあげながら守護騎士達を煽るセーラー戦士もどき。
突然現れたコスプレ集団に手も足も出せないその姿は、まさに面目丸潰れといった所だろう。
(よし。ヴェルヴィア、そろそろ撤退するぞ。仲間とか呼ばれたら面倒だからな)
(うむ。わっちも満足したし、そろそろ帰るかのう)
俺の言葉にヴェルヴィアが頷くと、あらかじめ俺が渡しておいたもう一つの指輪。
《スモーキング》のスクロールを発動させた。
その途端、ヴェルヴィアの魔力によって指輪が砕け、周囲に黒い煙が出現して俺達の姿を隠す。
「くっ……。《スモーキング》とは、さては逃げる気か! ……PP仮面にセーラー・ドラゴン! 貴様らの名前は覚えたからな‼」
覚えなくていいです。
「「ふはははは、ふはははははは、ふはははは! アデュー!」」
俺達は去り際にそんな言葉を残し、互いにハイタッチしてその場を駆け抜けた。
あれから数時間経ち、陽もすっかりと落ちた頃。
骨折り損の死に儲けをした俺達は、ようやく帰路へとついていた。
「ぬっはっはっは! にしても今思い出してもあの守護騎士共の情けない姿は笑えるのう! こんなにスッキリしたのは久方振りじゃ。しかし初期魔法をアーティファクトで魔改造するとは、やはり主はおもしろい奴じゃな!」
肩車されたヴェルヴィアが、未だに興奮冷めやらぬといった様子でペシペシと俺の頭を叩く。
振り落としてやろうか、こいつ。
まあ、守護騎士を相手にあんな大立ち回りをした後なのだから、ハイになる気持ちも分からなくはない。
今回の件でフレステに多少迷惑がかかるかもしれないが、先に手を出してきたのはあの守護騎士達だ。
理由をフレステに言えば、あいつならきっと許してくれるだろう。
そんな事を考えながら店に戻った俺が玄関の扉を開けたその時だった。
「……帰還。お帰りなさいませ、リューン様。ヴェルヴィア様」
灯りのついていない玄関で、先に戻っていたのであろうナナシが俺達を出迎えた。
「おう、ただいま。メルティナはまだ戻ってないのか?」
「……否定。メルティナ様はナナシと同時刻にここに戻りましたが、すぐに冒険者ギルドに行きました。ナナシがここに残っているのは、リューン様とヴェルヴィア様が戻られた際にメルティナ様からの伝言をお伝えする為です」
「伝言じゃと? なんじゃ?」
ヴェルヴィアの言葉に、ナナシが頷き口を開いた。
いつもと変わらない平坦な口調で。
「……伝言。フレステ様が重傷。急ぎ冒険者ギルドへ、とのことです」




