第11話「最弱不死と元冒険者の都(6)」
「じゃあ、今回の特務クエストの内容について説明するぞ? 今回の標的は、ライアーと呼ばれるド変態だ。強敵とは思うが、俺達が力を合わせれば確実に殺れると思っている。世の為人の為。そしてなにより俺の為に、力を貸してほしい」
「主よ。わっちら冒険者になったんじゃよな? いつから暗殺集団になったんじゃ?」
冒険者ギルドに併設されている酒場の片隅。
俺は朝食を摂るヴェルヴィアとメルティナに、真剣な顔でそう提案していた。
「大方、さっきギルドマスター室へプルーヴタグを受け取りに行った時に何かあったんでしょ?」
目の前に座るメルティナが興味なさげにパンを齧りながら聞いてくる。
「ああ。実はさっきな……」
「これが、リューン君とヴェルヴィア君の『プルーヴタグ』だ。知っているだろうけど、これは冒険者の証。僕だと思って、肌身離さず持ち歩くようにね。それと、このプルーヴタグは持ち主のステータスを確認することができるから、あとで見ておくといい」
ライアーがそう言うと、机に俺とヴェルヴィアのプルーヴタグを置いた。
「それと、君達のプルーヴタグは必要な時以外はあまり見せびらかさないようにして欲しい」
「……? 身分証なのにか?」
「君達の冒険者登録は特例中の特例だからね。リューン君達が無能者であることがバレれば、僕も君達もタダでは済まない。一応僕が認識阻害魔法をかけて普通のプルーヴタグと遜色ないように見せてはいるけど、それだって万能ではないからね。その辺は注意してくれ」
そう言って、ライアーがウィンクしてくる。
その認識阻害魔法とやらを、今すぐ俺の目にもかけて欲しい。
「さて。それじゃあ早速だけど、今回の特務クエストについて説明しよう。今回の討伐対象は、スライムと呼ばれる魔物だ。スライムが大陸全土に広く分布する、もっともポピュラーな魔物の一種なのは知っているね?」
「……ああ」
初めて知ったけど、話が進まないからとりあえず頷く。
「知っての通り、スライムは通常個体であればレベルの低い冒険者でも倒すことは容易だ。でも、今回の対象である特異スライムは妙な特性を持っているらしくてね。詳しくはこの資料に目を通しておいて欲しい。君達にはさっき渡した支度金で装備が整い次第、この特異スライムの調査と討伐を頼みたい。……何か聞きたいことはあるかな?」
そう言って、ライアーがニコニコしながら足を組み替える。
何か聞きたいことはあるかだと?
なら俺がさっきからずっっっと聞きたくて仕方が無かった事を聞いてやる!
「……じゃあ聞くけど。ライアー。何でお前ローブの下が全裸なんだよ! なんか真面目な雰囲気だったから言い出せなかったけど、お前が動く度に隙間からなんかブラブラ見えちゃってうっとおしいんだよ‼」
「はっはっは。そんなに見られていたかと思うと、興奮してきちゃうなぁ。答えは簡単だよ。どうせ脱ぐことになるんだから、こっちの方が効率的だからに決まってるじゃないか! 男同士、密室、そして裸ローブの僕。何も起きないはずがなく……」
「何も起きる訳ねぇだろおおお⁉ むしろお前への殺意でこっちは殺人事件起こしそうだよ! とりあえず服を着ろやああああ‼」
「という事があってな……」
「ほれ、わっちの肉団子やるから、元気出すがよい。……それにしても、本来食用として創った訳でもない魔物を調理という技術を用いて食べ物にまで昇華してしまうとは、人の食への探求心は底が知れんものじゃのう」
手や口の周りをソースでベッタベタにしたヴェルヴィアが、スパゲッティーに乗っていたミートボールを俺の皿に乗せてくる。
食べるの下手くそか。
「心中察するけど、そんなことしても返り討ちにあうだけよ? ライアーさん、昔は最高ランクの冒険者として活躍していたそうだし。そうでなくても、リューンさんはステータスがアレなんだから……」
「アレって言うな。俺だって地味にショック受けてるんだよ」
テーブルに置かれた俺のプルーヴタグを見つめるメルティナの言葉に、軽くため息をつく。
アレ。というのは、俺のプルーヴタグに刻まれているステータスの数値の事だ。
一般的な駆け出しの冒険者であれば、筋力や魔力といった各パラメーターに最低でも5とかその辺の数値が刻まれているらしい。
しかし俺のステータス欄には1と0しか刻まれていない。
いわゆる、クソステータスというやつだ。
なによりも一番ショックだったのは……。
「はぁ……。にしても、魔力が0ってどういうことだよ。こういうのって、初心者向けの魔法が使える程度の魔力はあるのが常識だろ」
どうやら俺は、魔法が使えないらしい。
せっかくの異世界。その代名詞ともいえる魔法を人生で一度は使ってみたかったのだが、どうもこの世界はそれすらも叶えてくれないみたいだ。
というか、後衛職として必須と言ってもいい魔法を使えないとなると、必然的にパーティーにおける俺の役割は前衛という事になる。
このクソステで前衛……。
今からまた何度も死ぬのかと思うと、気が滅入ってくる。
「まぁ、魔法が使えないからと言ってそう気を落とすでない。主にはわっちがおるのじゃからな! どんどん頼って、どんどん褒めるがよい!」
わっちに任せておけと言わんばかりにぺったんこの胸を張りドヤ顔するヴェルヴィア。
魔法を撃った後に空の彼方へ吹っ飛んだり、物理的に壁の中にいる的な状態になったりとロクな目にあっていないにも関わらず、その自信は一体何処から来るのだろうか。
「まあ、嘆いたところで仕方ないか。とりあえず、まずは俺達の装備を整えておかないとな。それと、できればもう一人くらい前衛が欲しい。さすがに後衛二人に前衛が俺一人じゃ俺の負担がデカすぎる」
「じゃが他の冒険者を勧誘したところで、望みは薄そうじゃのう。皆特務クエストを受けたがらんから、ライアーの小僧がわっち達を冒険者にしたんじゃと言っておったし」
そう言いながら、スパゲッティーを全て平らげたヴェルヴィアが、ゴシゴシと自分の服で口と手を拭く。
この行儀の悪さ、本当にこいつは女神なんだろうか。
とはいえヴェルヴィアの言う通り、そうすんなり特務クエストを受けてくれるような冒険者が見つかれば、苦労しない……。
「……それなんだけど、私に一人心当たりがあるかも」
「「マジで(か)⁉」」
メルティナからの思いもよらぬ発言に、俺とヴェルィアの声が綺麗にハモる。
「うん。私の知り合いなんだけど、家計が苦しいからってすごい数のバイトをしてる子がいるの。もしかしたら、あの子ならバイトの延長みたいな感覚で手伝ってくれるかも……。丁度今日は武具ショップでバイトしてるって聞いたから、試しに行ってみる?」
メルティナの言葉に即座に頷き、支払いを済ませた俺達はアガレリアの武具ショップへと向かった。




