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スキルま!?〜最弱不死とドラゴンのパンツ〜  作者: ほろよいドラゴン
第一章~ギブミー、テンプレ異世界生活!?~
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第10話「最弱不死と元冒険者の都(5)」

 深夜。

 コンコンッ。

 と、俺の部屋にノックの音が響いたのは、まだ月が街を静かに照らしている時間の事だった。

 ライアーの(はか)らいによって無料で宿泊施設に泊る事になった俺は、久々の柔らかなベッドの感触にウトウトしていた所に響いたその音に身を起こす。

 こんな時間に一体誰だろう? ヴェルヴィアか?

 ……いや、それはないな。

 あいつに部屋に入る前はノックをするなんて一般常識があるとは思えない。

 となると、もしや……。

 俺の頭の中に、バラを咥えた全裸のライアーが手招きしている姿が浮かび上がる。

 まさか……だが、そうだとしたら非常にマズい。

 一度は俺をおホモ達にしようとする魔の手からなんとか逃れる事が出来たが、部屋の中まで入って来られれば逃げ場はない。

 何か……。何か俺に武器を……!


「……ど、どちらさまでしょうか?」


 扉に近づき、緊張した声でノックをした相手にそう返す。

 手に持った対ライアー用の酒瓶を持つ手に、自然と力が入った。

 ()ってやる……。

 ヤられるくらいなら、いっそのこと殺ってやる……!


「夜分遅くにすみません……。私です。メルティナです」

「め、メルティナさん⁉」


 あまりにも予想外だった訪問者の声に、思わず声が上擦(うわず)る。

 そう言えば、自宅である教会が崩壊してしまった彼女も、この宿泊施設に泊っていたんだっけ。

 とりあえず、急いで酒瓶は元あった場所に戻しておこう。

 それにしても、こんな深夜に何故メルティナさんみたいな美少女が俺の部屋に……?

 そんな事を考えていた俺の脳裏に、俺がまだ小さい頃に死んでしまったおじいちゃんとの会話が蘇った。


『いいか龍介。もしもお前がファンタジーな世界に行った時、深夜に部屋を訪ねてくる女がおったら、それは十中八九夜這いじゃ。これだけは、将来の為に覚えておくんじゃぞ』

『おじいちゃん、状況がえらく限定的過ぎるよ。なんで将来の為に教えないといけない大切な事の中からそれをチョイスしちゃったの? そんな事ばっかり言ってたから、おばあちゃんに逃げられたんだよ』

『違うんじゃ龍介! 奴は闇の刺客に惑わされて儂の元を去ってしまっただけなんじゃ! そもそも闇の刺客というのはじゃな……』


 懐かしい会話だ。

 思えば俺がファンタジー系作品を好きになったのきっかけは、生涯(しょうがい)現役(げんえき)で中二病だった、おじいちゃんの影響もあったのかもしれない。

 あの時は、98歳にもなって何言ってんだこの人。と思っていたが、まさか自分が本当にそんな状況になってしまうとは思いもしなかった。

 ちなみにだが、そのおじいちゃんが死に際に放った『ちょっとラグナロクを止めに神と戦ってくる』は、今でも家族内で迷言として語り継がれている。


「あの……。リューンさん?」

「あ、ああ! すみません。どうぞ入ってください。今鍵を開けますから」


 メルティナさんの声にハッと我に返った俺は、急いで扉の鍵を開けた。


「えっと……。失礼します」


 遠慮がちに扉がそっと開けられると共に、メルティナさんが俺の部屋に入る。

 祝え! 俺が人生で初めて女の子を部屋に入れた瞬間である。

 風呂上りなのか、その艶やかな薄桃色の長い髪はしっとりと湿り気を帯び、ほんのりと赤く上気した頬とメルティナさんから柔らかく香る甘い匂いが、否応なしに俺の心を高鳴らせた。

 ……落ち着け、落ち着くんだ!


 震えるなハート! 燃え尽きるほど興奮してるのは分かってるから!

 それにまだじいちゃんが言っていたように、夜這いだと決まった訳じゃ……。


「すみません、こんな夜分(やぶん)遅くに。どうしても、リューンさんと二人っきりで話がしたくて」


 そう言うと、メルティナさんはふわりと微笑み、後ろ手で静かに部屋の鍵を閉めた。

 ……おじいちゃん。どうやら貴方の言葉は、正しかったようです。

 俺は、この異世界で真の男になります!

 と、俺がこれから突入する桃色トキメキ空間への期待と興奮に胸をときめかせていた時だった。


「さてと、もういいわよね……。ちょっと、女の子がわざわざ部屋まで来たってのにお茶の一つも出さないの? そんな間抜け面して突っ立ってないで、それくらいのサービスしなさいよ」


 …………誰?


「えっと……。メルティナさん、です……よね……?」

「当り前でしょ? 目の前に居るのは正真(しょうしん)正銘(しょうめい)、メルティナさんよ。雰囲気が違って見えるなら、それはちょっと素に戻しただけだから。気にしないで」


 いやいや、無茶言うな。

 清楚で優しそうな女の子が、いきなりヤンキーみたいな口調になれば誰でも驚くわ!


「え? 猫被ってたってことか?」

「そっ。これでも私、巷では『薄幸(はっこう)聖女(せいじょ)』って呼ばれて、街の人から良くしてもらってるの。おかげで良い子から素に戻るタイミング見失っちゃったけど……」


 そう言いながら面倒くさそうに頭を掻きながらため息をつくメルティナさんの姿からは、部屋に入る前までの優しそうな雰囲気が微塵(みじん)も感じられない。

 俺の中で、優しくて清楚な聖職者のイメージが、ガラガラと音を立てて崩れていった。


挿絵(By みてみん)

illustration:おむ烈


「じゃあ、二人っきりで話したかったって言うのは、夜這いじゃなくて……」

「他の人に私の素を誰かに見られたくなかったからに決まってるじゃない。って言うか、私の教会を壊した元凶その1であるリューンさんに、私が夜這いなんかするわけないでしょ?」


 いやまあ、たしかにそうなんだけどさ。

 俺が命懸けで助けたことによってフラグが立ったとか夢見たっていいじゃん。


「その節は、うちの馬鹿が本当にスミマセン!」

「別に、そのことはもういいのよ。いや良くはないんだけど。リューンさん達に助けられなかったら、今頃私は酷い目に()ってただろうし……。ここに来たのは、その事を責めに来たわけじゃない。リューンさんに腹を割って話したいことがあって来たの。ホラ、これを見て」


 そう言うと、メルティナさんは首から下げていたアクセサリーを俺に見せてきた。

 俺の世界で言うドッグタグに似たそのアクセサリーには、よく見ると様々な文字や数字、そしてメルティナさんの名前が刻まれている。


「なにこれ?」

「『プルーヴタグ』も知らないの? これは所持者が冒険者であることを証明する魔道具よ。冒険者になった人は、身元証明の為にこれを必ず身に付けておかなくてはいけないの。リューンさん達も、明日になったらライアーさんから渡されるんじゃないかしら?」


 言われてみれば、ライアーが去り際に冒険者ギルドで渡すものがあるとか言ってたな。


「あれ? でも、何でそれをメルティナさんが?」

「冒険者になったからに決まってるじゃない。そこでお願いなんだけど、私をアンタのパーティーに入れて!」


 …………へ?


「俺のパーティーに? 何で?」

「誰かさん達が壊したせいで、私には教会を建て直す為の資金が必要なの。それこそ、普通の仕事やクエストじゃ何年もかかるほどの。でも特務クエストを専任で請け負うリューンさんのパーティーに入れば、手っ取り早く稼げるでしょ?」

「まぁ、そりゃなぁ……」


 特務クエストの報酬は普通のクエスト報酬よりもかなり多いらしいし、メルティナがそれに惹かれてパーティーに入りたいだなんて言い出したのも頷ける。


「でも、特務クエストは他の冒険者でもやりたがらない危険なクエストだろ? そんな危険なことするよりは、何十年かかろうが安全な仕事をした方が……」

「大丈夫よ。私、こう見えて『女神の寵愛(レアギフトスキル)』持ちだし」


 平気だと言わんばかりにメルティナが手をヒラヒラさせる。

 レアギフトスキル……?

 聞き慣れない言葉に顔を(しか)めていると、メルティナがあきれた顔で説明する。


「まさか、それも知らないの? レアギフトスキルっていうのは、数千人に一人しか存在しないって言われている、他よりも強力なギフトスキルの事よ。今までは無暗に力を振るってはいけないと自重していたけど……。教会を建て直す為なら、きっと神もお許しになるわ!」


 メルティナがそう言いながら、神に祈を捧げるように胸の前で手を組む。

 その教会を破壊したのは、メルティナが祈っているであろう神様の一人なんだけどな。

 話がこじれるから絶対に言わないけど。


「それで? もちろん、許可してくれるでしょ? 美少女で優しくて清楚。そしてレアギフトスキル持ちでもある私をパーティーに迎えられるなんて、リューンさんは運がいいわよ?」


 答えは分かっているとばかりにメルティナが不敵に笑う。

 …………。


「お断りします」

「へ?」


 (ほう)けた返事をするメルティナの首根っこを引っ掴むと、俺は扉の鍵を開け、メルティナを部屋の外に放り出した。

 レアギフトスキルというのがどれくらい凄いのか分からないが、やはり今日まで一般人だった彼女を危険なクエストに巻き込むのは気が引ける。

 そしてなによりメルティナからは、俺が異世界に来てから鍛え上げられたヤバい奴センサーがビンビンに反応しているしな。

 きっと仲間にしたら、ロクでもない事になるに違いない。

 さて、まだ深夜だし寝直すか……。


 ドンドンドンドン‼


「ちょっ、開けてよ! ライアーさんに特務冒険者として認定されたリューンさんが許可してくれないと、私パーティーに入れないんだけど! 分かった、じゃあ特別に譲歩してあげる! 本当は報酬の80%くらいを私の取り分にしようと思ってたんだけど、特別に79%にしてあげるから‼ ね⁉ ね⁉」


 ようやく我に返ったのであろうメルティナが俺の部屋の扉を叩く。

 なにが『ね⁉』だ。たった1%しか下がってねーじゃねーか、舐めんな!

 まぁいい、無視無視……。

 と、俺がベッドに戻って布団を被り直すと共に、扉を叩く音とメルティナの声が止んだ。

 どうやら諦めてくれたらしい。

 まあ、教会の修繕費に関しては俺達にも責任はあるし、特務クエストの報酬が入ったら、地道に渡そうと俺が心に決めたその時だった。


「そう……。じゃあいいわ。今から『さっき釈放(しゃくほう)された露出狂(ろしゅつきょう)に部屋に連れ込まれて襲われた』って街中に言いふらしてやるから。街の人は清楚で優しい人柄で知られる薄幸の聖女である私の言葉と、捕縛歴のあるリューンさんの言葉。どっちを信じるかしらね……」

「俺のパーティーにようこそメルティナ様! 心強い仲間が出来て俺は本当に運がいいよ。だからそういうの止めようか! 止めてくださいお願いします‼」


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